大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・145『閃きの二転三転』

2020-05-12 15:25:09 | ノベル

せやさかい・145

『閃きの二転三転』         

 

 

 アイデアはええねんけどなあ

 

 60インチのモニターを前にテイ兄ちゃんは腕組みをする。

 モニターは18のコマに分割されてて、一つ一つに名前が入ってる。

 如来寺の婦人会15人分と文芸部の3人。

「ここに、映像を入れるとやなあ……」

 右上の『酒井さくら』のコマにうちの顔が映る。

「ちゃんと見えてるけど」

「そら60インチやからや、こっち見てみ」

 例のタブレットを差し出すテイ兄ちゃん。

「ちっこーー!」

「せやろ」

 18コマに分割された8インチのタブレット、一つ一つはスマホの画面ほどもない。いやはや、とてもバーチャル女子会はでけへん。

 

 テイ兄ちゃんが構築した『寺テレワーク』を利用して、お寺と文芸部の拡大女子会をやろうと思った。

 

 参加者全員が同じタブレットを持って、あたかも本堂で集まってるみたいな気分でお喋り出来たらええと思た。

 同じタブレットやったら、相性もええし、操作もいしょやから「ここを押して、こっちを指で繰って……」という具合にやりやすい。

 何かにつけて、いっしょにお茶を飲んだりミカンの皮を剥いたり、世代の壁を超えて女子会をやってきた。

 幽閉同然に領事館で缶詰めになってる頼子さんには、またとないバーチャル女子会になると閃いたんやけどね。

 画面分割を忘れてた。

 たとえ、頼子さんが「これでもいいよ」と言ってくれても、お婆ちゃんたちに配られたタブレットでは、お婆ちゃんらには見えへん。

「文芸部だけでやったらどうや?」

「それやったら、いつもやってるスカイプと変われへん」

「そうか」

「どないかなれへんやろか?」

「「うーーーーーん」」

 イトコ同士で唸ってしまう。

 ニャーー

 ダミアも「やっぱりあかんのん?」いう顔して寄ってきよる。

「頼子さんと話しはでけへんのんか?」

「話して、どないすんのん?」

「お寺は広いやろ」

「あ、まあ……」

 たしかに本堂の外陣だけでも36畳ほどもある、境内は200坪ほどもあるけども。

「もう段階的な自粛解除も言われてるさかいに、いっそ、うちの本堂に来てもらうわけにはいかへんやろかなあ」

「あ……ひょっとして、テイ兄ちゃんがリアル頼子さんに会いたいんちゃうん(ー_ー)!」

「え、いや、あくまで文芸部のことをやなあ(;^_^A」

「あ、でも……」

 当たって砕けろいう言葉が浮かんだ!

 

「……という方法はあかんやろか?」

 

 画面の頼子さんは、いっしゅん嬉しそうな顔をしたけど、すぐにため息をついた。

「嬉しいけど、わたしには立場がある……ヤマセンブルグの人たちは、今でも自宅に籠って自粛の真っ最中でしょ、日本も全面解除ってわけでもないし、わたしだけそっちに行くわけにはいかないわ」

 頼子さんは、チラリと画面の外に視線を送って、小さく頷く。

「えと、誰かいっしょに居てるのん?」

『え、ああ……いっしょに入って』

 頼子さんの後ろに、二人の見覚えのある人物。

「あ、ソフィアさん! ジョン・スミス!」

 やあ、久しぶりという感じで手を挙げるジョン・スミス、表情は硬いけど嬉しそうなソフィアさん。

「あ、お久しぶりです、お二人とも。えと、こっちも紹介します、わたしの従兄のテイ兄ちゃんです」

『あ、正式なお名前は?』

「あ、酒井諦一と申します。今はジャージですけど、普段は坊主やっております」

 坊主らしく合掌の挨拶をすると、ソフィアさんはメイドの見本みたいに頭を下げ、ジョン・スミスは小さく敬礼、頼子さんは美しく微笑む。

『ちょっとカメラを回していただけますか』

 ジョン・スミスが人差し指を回して、テイ兄ちゃんはリモコンを操作する。向こうの画面には、本堂の内部が広角でグルーっとパンしてる。

『「あ、そうか!」』

 テイ兄ちゃんとジョン・スミスの声が重なった。

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・128「福引・1」

2020-05-12 12:18:40 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

128『福引・1』   

 

 

 旧校舎の解体がストップしている。

 

 なんでも非常に珍しい工法で作られていて調査に時間がかかるのと、旧校舎の下に秀吉時代の大坂城の遺構が発見されたためらしい。

 こんなとこに大坂城!?

 いまの大阪城の外堀から二キロ以上離れているが、校名にもある通り、秀吉の時代には総堀と呼ばれた空堀があったのだ。当然空堀に沿って、屋敷や陣地などがあったわけで、場所によっては文化財級の発見になるらしい。

 二階の角部屋に部室が移ったのが文化祭の前、当初はタコ部屋の部室よりも広々したことと、眺めがよくなったことにワクワクしたが、ちょっと冷めてきた。タコ部屋の部室ではミリーが両足首ねん座で半月ほど車いすだった、元々車いすの千歳と二台の車いすになって、そのうえ交換留学生のミッキーまで入部してきたので鬼狭かった。

 ま、その不自由さもあって引っ越しできたわけなんだがな……ちょいとアンニュイだ。

 かさばるミッキーがアメリカに帰っちまって、ミリーも捻挫が直って車いすを止めた。

 思えば、あの不自由さが楽しかったのかもしれない。

 ちょっとお茶を淹れるにしても、ゴミを捨てるにしても、お互いの前や後ろや、時には跨いでいかなければならなかった。車いすの方向転換でスカートが引っかかって千歳の太ももが露わになったり、後通る時に須磨先輩の胸の谷間が覗いたり……あ、いやいや、その、なんだ……お互い肌感覚で……いや、胸襟を開いてというか、ひざを突き合わせてというか、そういう近さで部活やるのがな、いまの高校教育に欠けて……。

「なに、赤い顔してんのよ、啓介」

「ゲ、先輩」

 ヤマシイわけじゃないが、虚を突かれてアタフタする(^_^;)ぜ。松井先輩は、なぜかテーブルの斜め向かいに腰掛ける。揃えた膝の上に鞄載せるし。

「たまたまね、こっちに座ってみたい気分なのよ」

「あ、そすか……あ、なんで、こんなに早いんすか」

「図書室にもタコ部屋にも飽きたしね……ていうか、みんな揃うまでに、これ行ってきて」

 先輩は、やおら制服の胸に手を突っ込んで茶封筒を取り出した。

「な、なんなんですか、それ?」

「まあ、中を見て」

 手に取った茶封筒は、ほのかに熱を帯びていて、なんかやらしい。

「温もりを楽しんでるんじゃないわよ、さっさと中を見る」

「ひゃ、ひゃい!」

 焦りながら中のものを引き出した。それは、五十枚はあろうかと思われる空堀商店街の福引券だ。

「五枚で一回くじが引けるの、十回ひけるから、一等賞を当ててきなさい」

「え、一等賞!?」

「近場だけど、温泉ご優待。四人いけるわ」

「四人?」

「うちのクラブにピッタリでしょ、さ、商店街にひとっ走り!」

「あ、でも当たるかどうか……」

「胸に抱いて願いを込めといたから当たるわ」

 なんか、先輩の目、マヂすぎるんですけど……。

「万一、当たらなかったら」

「その時は、わたしの奴隷になりなさい……わたしが卒業するまでね」

 

 そんなご無体な……。

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新・ここは世田谷豪徳寺・8《あたし学生なんですけど》

2020-05-12 06:14:06 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・8(さつき編)
≪あたし学生なんですけど≫
       


 

 あたし学生なんですけど。

 思わず口ごたえしてしまった。
 原稿は、いつもパソコンで送るんだけど、月に二度ほど映画のチケをもらうのとギャラをもらうために出版社に顔を出す。ギャラは本来振込なんだけど、以前二度ほど振込を忘れられて危うくノーギャラで仕事をするところだったので、それからは手渡しにしてもらってる。で、なんで今さら学生であることを強調しなきゃならないかというと。

「さつき君、しばらく車で仕事してくれない?」と、編集長に言われたから。

 車を使えってのは、評論のゴーストライターの仕事以外に取材とかの仕事が入るということで、ほとんど本業の記者と同じ仕事をしろと言われていることと同じだ。怖さ半分、興味半分だったけど、一番の問題はギャラだ。仕事だけ増えてギャラが変わらなきゃタダ働きになってしまう。見透かしたように編集長が続けた。
「ギャラは、上限5万として出来高払い。もち経費は別。ただし常識の範囲でね」
 少しときめいた。まさか毎回5万くれるわけじゃないだろうけど、均して3万。月に3本で9万……これはおいしい。

「でも、あたしほとんどペーパードライバーですけど」
「ちょうどいい車を用意してある……」

 というわけで、車とは名ばかりのお母さんと同年配のホンダN360Zの慣らし運転をやっている。

 全長3メートルを切る車体は、今の軽自動車よりも二回り近く小さく、まるでチョロキュー。行き交う車のウンちゃんが珍しそうに見ていく。前から見た姿はホンダのいいセンスを感じるけど、後ろがちょん切ったようにない。水中眼鏡と言われたハッチバックのすぐ下はバンパー。まあ苦手な車庫入れや縦列駐車はやりやすそうなのでヨシとする。

 青山通りを西に走っていると、学校帰りのさくらを見つける。

「なにこの狭さ! なんで、今時二人乗りなのよ!?」
 姉妹のよしみで、つい声を掛けたのが間違いだった。ま、今時の女子高生に、この車のよさを……いつの間にか、車を気に入りかけている自分に驚く。
「米井さんとはうまくいったの?」
 顔色から解決したと思っていたけど、車のケチから姉妹げんかにならないように話題を変えた。
「実は……というわけで、二人は実の兄妹だったんだ。で、佐伯君は……あ、今の内緒ね」
「いいよ。大体わかる。あたしボランティアで、ときどきホスピスに行くの。さくらも知ってるでしょ?」
「うん……あ、ひょっとして!?」
「そう、見たことあると思ってたら、ホスピスで何度か話もした子だったんでびっくりした」
「なんで言ってくれなかったのよ!」
「さくらも、自分で解決した方がいいと思ったから。どう、上手くいったんでしょ?」
「うん、心に何枚かバンソーコー貼ることになったけどね」
「あとは米井さんが、どう乗り越えていくかだね……つかず離れず、見守ってあげなよ」
「うん……」
「しかし、あのチェ-ンメールは不思議だよね。一回限りしか転送できなくて、問題が解決したら消去されるんだろ?」
「こんなメール、誰が回し始めたんだろ……とても高度なスマホとかのテクニックないとできないよ」
「さくらのメアドをハッキングして、そこから回し始めて、結局知ったのは、米井さんのことをある程度には知ってる子たちなんだもんね」
「ひょっとしたら、神様……」
「アハハ……かもね」
 気楽に返事して、交差点を通過しようとしたら、猛然と信号無視の車が愛車の真後ろを走り抜けていった。その後ろをパトカーがサイレン鳴らしながら走り抜けていく。
「この車、もうちょっと後ろが長かったら跳ね飛ばされてるとこだったよ!」
 さくらが、バックミラーを見ながらしみじみと言った。

 あたし学生なんですけど……そう言いたくなるような事件の前兆であった。

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乙女と栞と小姫山・43『美玲の連休』

2020-05-12 06:02:01 | 小説6
乙女小姫山・43
『美玲の連休』        
    


 

 

「そんな立派なのいいです(^_^;)」

 美玲は遠慮のしっぱなしである。この連休は美玲の部屋の調度を整えるのに、亭主の正一も乙女さんも、熱中のしっぱなしでなのだ。
 初日にベッド、机、本箱を買った。いずれも贅沢なものではなかったが、気品と堅牢さを兼ね備えた国産の木製のものが選ばれた。本箱などは、親の経験が前面に出て、二段スライド式で、文庫なども含めると五百冊は入るだろうというものが二つ用意された。
「これに全部入るだけの本読んでたら、わたしお婆ちゃんにになってしまう……!」
 思わず、成り立ての母は笑ってしまった。
「ミレは今まで、図書館の本で済ましてたやろ」
「はい、自分の本置いとくスペースもなかったから、机の上の教科書以外は図書館でした」
「月に何冊くらい借りてた?」
「そんなに……八冊くらいです」
「ハハハ、それに12掛けてみい」
「96冊です」
「で、十年で、ほとんど千冊になる」
「そんなん、図書館で借りますよってに」
「本はな、年齢と共に倍に増えていく。ウチの経験でも旦那の経験でも。むろん図書館で借りるいう姿勢は、ええこっちゃ。そやけど、中には自分のもんにして何回も読まなあかん本もギョウサンあるからな。うちらは、若い頃、お金と場所の問題で、自分のもんにせんと済ました本がギョウサンある。あんたには読んでもらいたい。あんた……そこで何してんのん?」
「本箱に合うカーテン探してんねん!」
 教師の地声は大きい。少し恥ずかしくなった美玲であった。

 三日目の今日は、仕上げの電化製品である。とりあえず美玲専用のテレビとパソコンを買った。思春期に入った美玲のために、将来を見据えて、独立した空間を提供してやることで、このにわか父母は懸命であった。そして三日前には、ただの空き部屋でしかなかった七畳半ほどの空間に揃い始めた家具たちは、あきらかに、にわか父母の期待と愛情をあらわしていた。

「せや、スマホ買うたげなあかんわ!」

 量販店の出口で、乙女さんが叫んだ。半径十メートルの人たちが振り返るような声で、美玲は嬉しいよりも恥ずかしく、恥ずかしい以上にびっくりした。
「アホやな、それが一番最初やろが!」
 亭主も負けない大きな声で答えた。
「携帯は、高校になってからでええて……」
「美子さんが言うてたんやな」
「は……はい」
「その判断は間違うてない。そやけどミレちゃんは大阪に来たばっかりや。うちら……お母さんも、お父さんも仕事で手えいっぱいや。万一の連絡手段のために持っとき。な……」
「は、はい……」
 美玲はハンカチを出して、涙を拭った。
「あほやな、こんなことで泣かれたら、うちまで……お嫁にやるとき泣きようがないやないの」

「続きは家でやってくれるか!」
 これも、必要以上に大きな地声で亭主が叫んだ……。

 美玲が、風呂上がり、リビングにも来ないで、狭い庭に行った。長風呂だったので湯当たりでもしたのかと思っていたが、いささか長いので、乙女さんはそっと覗いてみた。
 美玲は、何かを手に持ったまま、背中を向けて立っていた。

「ミレちゃん」

 美玲はギクっとして、手にしていたものを背中に隠して、こちらを向いた。
「ご、ごめんなさい。なんでもないんです!」
 そう言うと、美玲は、そのまま自分の部屋に閉じこもってしまった。庭の片隅には小さな穴とスコップが残されていた。
「ミレちゃん、どないしたん……?」
 乙女さんは、静かにドアの外で聞いてみた。
「すみません。今夜は一人にしてください……ごめんなさい……お母さん」
 もう一言言おうとした乙女さんの肩に亭主の手が置かれた。
「明日の転入試験は、オレが付いていくわ……」
 亭主の語尾には、それまで、そっとしてやってくれという意思が籠められていた。
 もう二十年近い夫婦である。明日は任せてみようと、乙女さんは思った……。
 
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