大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・153『地下神殿の霊魔・3』

2020-05-17 13:29:01 | 小説

魔法少女マヂカ・153

『地下神殿の霊魔・3』語り手:マヂカ     

 

 

 二頭の銀龍は消滅していたが、赤白龍(せきはくりゅう)は狂ったように地下神殿の中をのたうち回っている。

 

 断末魔……いや、配下の銀龍が訳もなく消滅したのでたけり狂っているのだ。

 シロも、赤白龍だけなら凌げるのだろう。

―― でも、そんなにはもたないです(;^_^A ――

 将棋盤に例えると3・六のあたりから想念が届いたが、目を向けた時に気配は無い。渾身の高速移動で居場所をくらませているのだ。

―― わたしが引き受ける! ――

 想念を送ると赤白龍の後方から急迫して風切丸を一閃!

 シュキーーン!

 硬質な金属音が響いて赤白龍の角の先が吹き飛んだ。

「魔法少女マヂカが相手だ、かかってこい赤白龍!!」

 ウオーーーーン!

 赤白龍は一旦とぐろを巻いた。

 解く力で勢いをつけ突進するための準備行動だ、その昔、都の上空で青龍と戦った記憶が蘇る。

 

 セイ!

 

 赤白龍のとぐろが解ける寸前に跳躍して、放水口を抜けて上空に占位する。高度を取って、上昇してくる赤白龍を瞬間の反向戦に持ち込むのだ。彼我の合成速度で突っ込めば急所である赤白龍の眉間を貫ける。上手くいけば瞬間に勝負はつくだろう。

 ウワッ!

 予想を破って赤白龍は赤い口を広げて足元まで迫ってきていた。

 逃げるしかない!

 それでも春日部の市域から抜けることは無い。完全に抜けてしまえば、矛先はシロたちに戻ってしまう。

 どうやっても、引き付けて隙を突くしかない。

 マッハ3を超える速度で円形に飛ぶ!

 赤白龍も同じ速度で追随して来るが、質量の違いからだろう、しだいに外に膨らんで、わたしの軌道の外側にはみ出してしまう。

 狙っているな……。

 わたしの未来位置を測って、直線で飛び込んでくる。

 セイ! セイ! セイ!

 わたしも頻繁に進路を変えて読まれないようにする。

 

 これは体力勝負か……いささかゲンナリしながらも、敵の軌道をトレースする。

 

 どこかに、銀龍のそれのように本体があるはずだ……しかし、見当たらない。

 奴の飛行範囲の中に大型の送電鉄塔など見当たらないのだ。

 ズビーーーーーーン!

 とっさに風切丸で庇うが、かなり正確に進路を読まれてしまい、奴の爪が魔法少女のコスを切り裂く。

 念ずれば、すぐにでもリペアできるのだが、その分注意力が落ちてしまう。

 いくら丈夫なコスとはいえ、超音速で風をはらんでしまっては持たない。

 ビリ ビリビリ

 裂け目が広がって左肩から下の素肌がが斜めに露出してしまう。

 いかん、空気抵抗が!

 露出した左胸が抵抗になって、方向が左に寄れる。

 仕方がない、右も露出するか……両方を露出してしまえば抵抗が同じになり直進できる。

 戦闘中に胸を顕わにするなど屈辱だが……コスの右肩に手を掛ける。

 

 ギャオーーーーン!

 

 金属質の叫び声がしたかと思うと、次の瞬間、赤白龍の姿は霧消した!

 

 コスの破れを気にしながら地上に降りると、シロとツンに挟まれて友里が立っている。

 

「マヂカが戦っている隙に、シロとツンが本体を探ったのよ!」

 嬉しさのあまり、ピョンピョン跳ねながら友里が応える。

『本体は、そこに転がってます』

 シロがさししめしたのは、バラバラになったアマチュア無線のアンテナであった。

「こいつが正体?」

『今は使われてませんが、持ち主は誇りだったんでしょうね、東京タワーに似せて赤白に塗り分けてました』

 使われなくなって二三十年はたつのだろう、赤白のペンキはほとんど剥げ落ちて、赤茶色に錆び果てている。むろん、アマチュア無線のアンテナなので、背丈は十メートルもない。

 巨大な鉄塔という先入観念が邪魔して見つけられなかったのだ。

「ひょっとしたら……」

 友里の思い付きは、わたしも閃かせた。

「ボスの正体も鉄塔なのかもな!」

 思わずガッツポーズになる。

 

 プツン

 

 残っていたコスの生地が弾けて、わたしの上半身が露出してしまった(;^_^A

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・13《四ノ宮青年の正体》

2020-05-17 06:08:34 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・13(さくら編)
≪四ノ宮青年の正体≫    



 

 ヘルメットを脱いだ顔に驚いた。

 それは渡辺謙を若くして、少しバタ臭くしたハーフっぽいイケメンなのだ。
「ああ、お袋アメリカ人だから。ちょっととっつきにくいかもしれないけどよろしく」
 なんで、こんなイケメンが、水道工事のガードマンやら測量助手をやっているのか、わけが分からなかった。声もテノールでイケてるし、背も高くてかっこいい。その気になればモデルだってやれるんじゃないかと思った。チラ見すると、米井さん以外の子も同じような顔で見ている。測量技師のオジサンはニヤニヤしている。

「ここ昔はうちの屋敷があったんだ……」

 あっさり言った。

「……あの、聞いてる?」
「あ、はい。もちろん!」
 あやうく上の空になるところだった。
「うちは昔ちっこい大名家でね、代々ここに上屋敷をもっていた。大名家って没落したとこが多いんだけど、うちのご先祖は上手く立ち回って明治からこっちは華族さまだった。帝都の創設者がひいジイサンの友達でね、学校が移転するときにこの家屋敷を寄付した……といったらかっこいいけど、戦争に負けてニッチモサッチモ。で、国に取られてばら売りされるよりは、そのまま学校になった方がいいって、帝都女学院がここにあるわけ。で、上屋敷だったころは、ここ丑寅……北東のことで、魔物が入ってくるって鬼門だったんだ。実際不審火が出たり、庭師が怪我をしたりした。そこで、京の都から陰陽師を呼んで鬼門封じをやってもらったと……ここまでいい?」
 みんな黙ってコックリした。イケメンの上にやんごとないお方なのだ。竹田さんて元皇族の人よりずっとイケてる。
「で、将門塚から敷石を一つもらってきて。あの校舎の下あたりに埋めたんだ。それから、今みたいに坂の上の方に物が転がるようになった。どう、すごい話だろ?」
 最後の方は、声を低めて言うもんだから、あたしたちはすっかりキミが悪くなった。

「ハハ、信じた?」

「え……え、ウソなの!?」
「本当さ。でもここから先は佐伯君に譲ろう」
「実は、重力異常の場所って、案外あるんだよ。うちみたいに建築会社やってると、たまにこういうところに出くわすんだ。地脈の異常とか、地下に大きな隕石が埋まってるとか、説はいろいろだけど、怪奇現象……にしていた方がいいかな。あ、由美、そろそろ時間じゃないか?」
 佐伯君が、兄妹のニュアンスで米井さんに言った。

 それから、あたしたちは古い別館の三階の水洗い場に向かった。三つ蛇口が並んだ横に時代物の水飲み機があった。
「え、ここで何があんのん?」
 大阪弁丸出しで里奈が聞く。
「待ってて、あと20秒ほどだから……」
 みんな米井さんに従って、水飲み機を見つめた……。

 ドーーーーーーーーーー

 ええ!?

 なんということ、誰も触らないのに、水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した。まるで透明人間が水を飲んでいるように!
 

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乙女と栞と小姫山・48『それぞれの週明け』

2020-05-17 05:58:32 | 小説6

 乙女小姫山・48
『それぞれの週明け』     
       

 


 トーストを咥えながら、駅まで走っている女子高生なんてドラマかラノベの世界だけだと思っていた。

 栞は、現実にやって、自分がドラマの主人公になったような気に……は、ならなかった。

 今日から中間考査の一週間前である。学年でベストテンの成績をとっていた去年までの栞なら、こんなには慌てない。父子家庭で、早くから主婦業を兼業……正確には、弁護士である父と半分こであるが、半分と言え主婦をやっていることには違いない……ので、物事を計画的とか、順序立ててやることには自信があり、去年まで実態として存在していた演劇部と学業と家事の三人組を相手にするのは、『体育会テレビ』で、プロのスポーツマンが子どもを相手にするよりタヤスイことであった。
 
 でも、今は違う。

 MNB24の研究生になって十日もたたないのに、ユニットを組まされた。その名も『スリーギャップス』 センターを張るベテランの榊原聖子と中堅の日下部七菜、そして駆けだし(現に今もトーストを咥えながら駅まで駆けている)の手島栞の三人。きっかけは、レッスン中に栞が口にした「そうなんですか!」が、グループの中で流行り、プロディユーサーの杉本寛が「今月中に、『そうなんですか!』で新曲をリリースする」と生放送中に宣言した。そのときは、ただの冗談かと思った。そうしたら、一昨日いきなり新曲のスコアを渡され、急遽ユニットが組まれ、何度も言うようだが、ユニット名は『スリーギャップス』 それぞれのギャップの差を楽しもうという、芸能界ではあり得ない、いや、あり得なかった、いや、あってはならないアイデアである。

「ギャップの差は、個性の差である!」

 杉本は、この世界の風雲児である。たとえ思いつきでも、言われたらやるっきゃない!
 正直、杉本の企画が全て当たるわけではない。母体のAKRも神楽坂でも、コケた企画は山ほどある。そして、陰で泣いた……泣くぐらいなら、まだいい。この世界から姿を消したアイドルは死屍累々。
 だから、この『スリーギャップス』は、絶対にコケられない。聖子や七菜はすでにアイドルの地位を不動のものにしている。コケルとしたら駆けだしの栞である。
 栞は、昨日も夜中の十一時までかかって、ボイトレ、新曲の練習、フリの復讐をBスタを独占してやった。そして帰宅してからは、三時前までテスト勉強。

 ああ、二次関数や英単語たちがこぼれていく……そして『そうなんですか!』が頭を巡る。

 

 ホ-ムの発メロが鳴る階段二段飛ばしに駆け上がる 目の前で無慈悲にドアが閉まる

 ああチクショー! このヤロー! 思いがけないキミのため口

 駅員さんも乗客のみなさんも ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ カワイイ顔して このギャップ
 
 あの それ外回りなんだけど

 そうなんですか しぼんだようにキミが呟く

 新学期 もう夏だというのに いいかげん覚えて欲しいな電車の発メロぐらい

 でも 愛しい ピンのボケ方 このギャップ そうなんですか そうなんですか~(^^♪

 

 

 曲の一番にスイッチが入り、駅前で思わずワンコーラス分、ステップを踏んだ。そして歌詞通りになった。
 ホ-ムの発メロが鳴る階段二段飛ばしに駆け上がる。その目の前で無慈悲にドアが閉まってしまった……。

 


「ええ、今日からこのクラスの仲間になる佐藤美玲さんです。中間テスト一週間前からの転校で、ちょっと大変ですけど、みんなよろしくね。じゃ、佐藤さんから一言」

 美玲は、ゆっくり教壇に立った。制服は他のみんなと違って、イージーオーダー、身にピッタリと合っている。高い位置でポニーテールにしているので、目尻が上がりキリリとした表情には気品と貫禄さえあった。
「ご縁があって、今日からみなさんといっしょに勉強することになりました佐藤美玲です……」
 そこまで言うと、黒板に自分の名前を書こうとしたら、すでに担任が書いてくれていた。
「ちょっと難しい字だけどミレイと読みます。言いにくいからうちの母は略してミレって呼んでます。みなさんも、それでよろしくお願いします」
 オヘソの前で手を組んで、静かに頭を下げた。お母さんに教えられた通りに……暖かい拍手が起こった。

――受け入れられた!――

 そんな喜びが、オヘソのところから湧いてきた。
 前の学校では、正直言ってハブられていた。狭い街なので、噂は子どものころから広まっていた。面と向かって言われたことはなかったが「不倫の子」と陰で言われていることは分かっていた。しかし伯父夫婦は気にする様子は無かった。
 姪への愛情からではなく、無関心からであった。
 だから一定以上言われることもない。そして、姿勢も成績もいい美玲は、ハブられるというよりは、近寄りがたい存在として見られることが多くなっていたのだが、それとハブられることとの区別がつくほど美玲は大人ではなかった。
 美玲は、初めて自分を受け入れてくれる学校ができたと思った。
 一礼して上げた美玲の顔は、担任の佐野先生が驚くほど美しかった。本来母親似(乙女さんではない)の美玲は整った顔立ちの子で、それが、その身に溢れる喜びで一杯になったのである。美しさはひとしおで、その日いっぱい、中等部の職員室の話題になった。

「教頭先生、例のものです」

 乙女さんは、お土産の饅頭を置くような気楽さでそれを、教頭さんの机の上に置いた。
 数秒して、教頭さんは、それが何かが分かった。この人には珍しく、プレゼントをもらった子どものように、すぐさま開けると。葉書大ほどのそれを食い入るように見つめた。

「今日の教頭さん、なんだか……その、楽しそうでしたな。あんな教頭さんは初めてだ」
「よっぽどええことがあったんでしょ。そっとしといたげましょ」
「ですね……」
 校長は、片手を挙げると校長室にもどった。
「ああ、チャック閉め忘れてる……ま、ええか」

 乙女さんは、美玲を引き取った判断に間違いはないと思った。それぞれの週明けだった……。

 

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