大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・151『地下神殿の霊魔・1』

2020-05-10 13:16:41 | 小説

魔法少女マヂカ・151

『地下神殿の霊魔・1』語り手:マヂカ   

 

 

 

 ワープして入ります。

 

 通常の入り口である龍Q館の前でシロは宣言した。

「ワープできるのか?」

『はい、わたしの力は微々たるものですが、魔法少女であるマヂカ様のオーラを被れば可能かと』

「通常の入り方じゃだめなの?」

『いまは流行り病のために通常の見学は停止されています』

「そうか、それならば仕方がない。どうすればシロに力を分けてやれる?」

『はい、わたしをマヂカ様の頭の上に掲げるようにしてください』

「こうか……おまえ、軽いなあ」

『恐れ入ります、日ごろはアニメの中に居りますので、元来重さがありません。このままでは空に浮かび上がってしまうのでツンさんの体重を半分借りております』

 ワン!

「そうか、ツンも役に立てて嬉しいんだな」

『では、まいります』

 

 ワーーープ!

 

 目の前が真っ白になり『ワーーープ!』と叫ぶシロの詠唱が巨大な浴室の中にいるようにくぐもった。

 ワーーープ! ワーーープ ワーーーーーーープ ワーーー………ワーーー………

 シロの詠唱が木霊して、小さくなっていくにしたがって、地下神殿の構造が明らかになっていく。

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 友里が全身の空気が抜けていくようなため息をつく。

『地下22mの位置にあって、長さは177m、幅78m、高さは18mあります』

「柱もすごいよ、巨大な象、ううん、恐竜が何百匹も立ってるみたい!」

『はい、柱は一本につき奥行き7m、幅2m、高さ18m、重さは約500トンにもなります。それが全部で59本そびえたっています』

 友里は、地下神殿の広大さにぶったまげ、感心ばかりしているが、わたしは少し疑問に思った。

「しかし、これでは50万トンタンカーの油槽の半分ほどでしかないのではないか?」

「タンカーって、そんなに大きいの?」

「縦横は同じくらいだが、長さは、これの倍くらいはあるぞ。それに柱の容積を引けば、半分もないかもしれない」

『一時的に貯めておくだけの施設ですから』

「そうか……」

 中くらいのダムと比べると、この容積では二割にも満たないのではないかと思うが、深くは追及しない。

 シロにも事情があるのだろうが、悪い奴ではなさそうだ。言えないだけの事情があるのだろう。

 

 来るぞ!

 

 思ったが口にはしない、シロが言うまでは知らないフリがいいと思ったのだ。

『来ます……でも、ここは出直しましょう』

「いいや、一気に片を付ける。シロ、おまえは友里とツンを守ることに気を配れ」

「マヂカ、わたしだってやるよ!」

「調理研の力でどうこうなる相手ではない……セイ!」

 勢いをつけて跳躍し、三本の柱を蹴って、来たるべきものの側面に位置を占める。

「マヂカあーーーーーーーーーー」

 友里の叫び声は、すぐに後方の天井付近に移って小さくなった。

 視野の外縁で、ツンを抱きながら淡い泡に包まれているような友里が認識できた。シロは一瞬の迷いの後に、友里とツンを避難させるのが正しいと判断してくれたようだ。

 ズガガガガガガガ ズガガガガガガガ ズガガガガガガガ ズガガガガガガガ

 地下神殿の側壁や柱を削りながら現れたのは三頭の龍だ。

 二体は銀色の鱗を煌めかせ、大き目の一体は赤白のダンダラの皮膚をしている。一瞬、あの妖ではと身構えたが、あいつほどの大きさがない。

 一気に攻撃するのは憚られる。

 こいつは正体を見極めてからの方がいい。

 ズガガガガ ガラガラガラ ガラガラガラ ズガガガガ ガラガラガラ ガラガラガラ

 柱の間を経めぐりながら、赤く点滅する双眼を抜かりなく配っている。

 

 ドン!

 

 大きく壁を蹴って、反対側に回る。龍は首を巡らせ体をくねらせて音の主を見つけようとしている。

 ドン ドン ドン

 さらに柱や壁を蹴る。ドラゴンは急角度に体をくねらせて探すものだから、鱗の隙間が覗く。

 これは……!?

 鱗の隙間から覗くのは鉄骨だ。柱を蹴りながら、さらに様子を見ると、鉄骨はトラス構造を形成していることが分かった。

 長大なトラス構造……こいつらは鉄塔の……送電鉄塔の霊魔だ!

 トラス構造というのは、存外頑丈なもので、骨の一本や二本折っても、すぐには崩壊することは無い。

 まして、大小三体が連携している。一体にかかずらっているうちに、こちらが危うくなってしまう。

―― シロ、どのくらい見つかずに持ちこたえられる? ――

―― 柱を一本ずつ調べられたら、三分くらいが限度です ――

―― よし、二分半だけ持ちこたえてくれ、二分半後に一気に片づける ――

 

 セイ!

 

 一気に跳躍して地下神殿を抜け、春日部の街の上空に駆けあがった。

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・126「餃子が焼き上がるまで」

2020-05-10 06:06:44 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

126『餃子が焼き上がるまで』    

 

 

  子ども手当というものがあった。

 

 十五歳までの子どもを扶養する親に月々13000円を支給するという国の政策だ。

 受給資格に国籍条項はなく、外国人であっても受給できる。

 申請は地方自治体の窓口だ。

 これによって、子どもたちの経済環境をよくし、少子化対策の狙いもある。

 

 これに、日本に住む外国人の親が申請に来た。なんと、子どもの数が50人だ!

 

「これは、ちょっと……」

 役所の窓口は困ってしまった。

「どうして困るの? 法律には人数制限は無いし、50人の子どもたちは全員わたしの子どもですよ、これが書類だし」

 なるほど書類は揃っている、法律で定めている子どもとは親権のことで、遺伝子的に親子である必要はないのだ。

 大お祖母ちゃんから聞いた時、美晴は――とんでもないことだ!――と腹を立てた。

 

「それは外国人の親が正しいよ」

 

 大お祖母ちゃんに言われた通り話すと、餃子を焼きながら美麗が背中で答えた。

「えーーどうして!?」

 美晴はヨダレを垂らしながら驚く。とうぜん美麗は「それはひどい!」と夕べの自分のように憤慨すると思っていたのだ。

「美晴のヨダレといっしょ。美味しいものがあったら、ヨダレ垂らして食べたいと思うのは人情だし、人間が生きていくために必要なバイタリティーだよ」

「だって、書類をよく見たら、親子関係は子ども手当の支給が決まってからのばっかりなんだよ」

「でも、法律には合ってるんだ。でしょ?」

「だけど!」

「お皿は大きいのにして、餃子はチマチマ乗っけちゃ美味しくないから」

「え、あ、うん……」

 美晴は素直にお皿を片付け、食器棚から白い大皿を出した。

「あ……っと、その奥にある錦手のがいい」

「こっち?」

「おいしく感じるでしょ」

 なるほど牛丼屋の丼のようながらで、食欲がそそられる。

「で、ぼんやりしてないで、お皿にお湯を張る!」

「へ?」

「お皿が冷たいと冷めてしまうでしょ」

「なるほど……」

 美晴はポットのお湯をなみなみとお皿に注いだ。意外なことにポットのお湯の半分が入る。

「子どもを育てるのは大変なんだよ、中国じゃ子どもっていうのは自分が生んだ子どもばかりじゃなくて、一族みんなの子どもが自分の子どもなんだよ……変に思うかもしれないけど、そうでなきゃ中国は、こんなには発展してないよ」

「美麗の言う通りだよ」

 いつのまにか林(りん)さんがテーブルについて餃子の焼き上がりを待っている。餃子はさっき林さんが皮から作ってくれたものなのだ。

「林さん……」

「ぼくの父親は国で役人をやってるんだ。子どもは、わたしも含めてみんな外国に行かせてる。母親は去年呼び寄せたから、国には父親一人で生活。なぜか分かる美晴ちゃん?」

「たくましいお父さんですね」

「はは、父親は、いざとなったら捕まるつもり……あ、なんかヤバそうなことしてるんじゃないかって顔」

「え、あ、いや……」

「父親は、さっき言ってた家族手当程度の事しかやってないよ」

「え、じゃ、合法的なことしか……」

「いざとなったら、国はどんな罪でも被せてくる。父親は覚悟してるよ。だから、一族の事は、ボクが世話をするんだ」

「それが胡同なんですね……」

「そう、でも、美晴ちゃんは分かっちゃだめだよ」

「え、なんで?」

「簡単に分かられちゃ、面白くないでしょ。大お祖母ちゃんのように歯ごたえのある人になってよ。人生は面白くなくちゃね」

「焼けたわよ!」

 ジュワーー!!

 盛大な湯気と匂いが満ちた。美晴は、サッとお皿の湯を捨てて、美麗はすかさず餃子鍋をひっくり返してお皿に盛った。

「ナイス日中合作!」

 林さんは、各人の取り皿にタレとラー油を注いでいく。

「中国の餃子は、元来は水餃子なのよ。こうやって焼くのは余って固くなった餃子の食べ方」

「でも、ぼくは日本の焼き餃子が好き。ぼくも美麗も、こういう焼き餃子のように生きていくつもりだよ」

 林さんの幸せそうな笑顔で昼食の準備は整った。

 この親子にはかなわないと思う美晴であった。

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・6《まるで 星に願いを……1》

2020-05-10 05:58:13 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺6(さくら編)
≪まるで 星に願いを……1≫    



「あたしじゃないよ!」

 チェ-ンメールをよこしてきたA子に学校で聞いた、むろん米井さんには分からないように。


 で、A子から、チェーンメールを送ってきた子を聞いて、その子にあたる。そんなことを五回繰り返して、元々の発信者Eにたどり着いた。
 村野美穂という一年のときの同級生だった。三つ隣のクラスにいる美穂に問い詰めたとき、美穂は不思議そうな顔で言った。

「なに言ってんの。最初によこしたのさくらじゃんよ」

 絶句した。

「そんな馬鹿な……」
「だって、ほら」
 美穂が見せてくれた着信履歴は、確かにあたしのアドレスだった。あたしは軽いパニックになった。
「そんな……あたし、こんなの送ってないし。それに自分が写りこんでる写メは、だれか他の人間が撮ったってことじゃんよ!」
「アドレスが盗まれた……考えられないことじゃないけど、なんの得にもなんないじゃん。やっぱ、さくらしかいないよ」
「あたし、こんなことしないもん!」
「そんな、あたしが悪者みたいに言わないでよね!」

 廊下の隅で言いあってたんだけど、ちょうど階段を上がってきた担任の水野亜紀先生に見つかって、相談室に連れていかれた。

「確かに妙ね……」
 一通りの話を聞いて、水野先生は腕を組んだ。
「誰かが、あたしのアドレス盗んだんです!」
「まあ、佐倉さん、落ち着いて……この写メおかしいのよ」
「え、なにがですか?」
 美穂と声が揃った。
「先生ね、学生時代にここでバイトしてたの。フロアもここ。このアングルから写メは撮れないのよ」
「でも、エスカレーターに乗れば、このアングルで……」
「この場所にエスカレーターはないわ。それに端の方にスプリンクラーがぼんやり写ってるけど、これって、天井にめり込まなきゃ撮れないわよ」
「そんな……」
「……ちょっと二人のスマホかしてくれる?」
 美穂といっしょにスマホを出すと、先生は自分のも出して、なにやら操作した。
「不思議だ……」
「なにがですか?」
「二人のスマホから、このチェ-ンメールをわたしのに送ろうとしてもできないの」
「そんな……!」
 チェ-ンメールってのは、一種のイタズラで、拡散はネズミ算式に増えていくものなのだ。それが一人にしか送れないのは、常識としてありえない。

「ん……こんなのが出てる」

 先生が画面を見せてくれた。
――このメールは、一回送ると無効。メールも写メも問題が解決したら消滅します――
 美穂のメールには、そう書いてあった。
――さくらさん。あなたがゴールです。あなたは転送しないし、転送できないようになってます――
 あたしのメールには、こう書いてあった。美穂もあたしも、気が付かなかった。

 先生は他の四人も呼び出して、それぞれのスマホをチェックした。四人ともいっしょだった。
 そして、驚いたことには、美穂を含めた全員が、程度の差はあっても、あたしと米井さんの両方を知っていた。一年で、どちらかと一緒だったり、中学で知り合いだったり。

「これは、もう秘密にしない方がいいようね。あなたたちはしばらく、ここで待っていて……」
 そう言うと、水野先生は、五分ほど部屋を開けた。

 そして、米井さん本人を連れて戻ってきた……!

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乙女と栞と小姫山・41『田中教頭の娘』

2020-05-10 05:51:29 | 小説6
乙女小姫山・41
『田中教頭の娘』       
   


 
 
 田中教頭は、イタズラを見つかった小学生のようにうろたえた。

「アッチャー!」
 乙女先生は、教頭のあわてぶりを、親しみをこめた感嘆詞で現した。
「先生、スーツが汚れます!」
 美玲は、ポケットからティッシュを取り出すと、取り落としたアイスで汚れた教頭のズボンを拭き始めた。
「いや、いいよいいよ。クリーニングに出すから」
「せやけど、直ぐに、ちょっとだけ拭いとくだけで、ちゃいますよ」
 美玲は公園の水飲み場に飛んで行き、ハンカチを濡らして固く絞ると、もっとも被害の大きかった右の膝を丹念に、ポンポンと叩きだした。
「ミレちゃん、なかなかのダンドリの良さやな」
「はい、母に……あの、習ってましたから」
「せっかくやから、教頭先生、三人でアイス食べなおしましょ」
 乙女先生も、これまた見事な早業で、地面に落ちたコーンとアイスをティッシュで拾い上げると、ついでのように、傍らのゴミ箱にシュート。そのストライクを見届けもせず、バイトのニイチャンにアイス三つをオーダー。
「ミレちゃん、一人で持てへんさかい、てっとうて」
「はい」
 まだ二日目の親子とは思えない連携と、仲の良さで、アイスを三つ手に持った。
「教頭先生、こっちの方が景色よろしいよ」
 そう言って、乙女先生は、教頭を西の丸庭園が望める石垣の上に誘った。

 ここなら、教頭の涙を人に見られることはない……。

「あ、目にゴミが……」
 実に分かり易いゴマカシ方で、教頭は、目の涙を拭いた。
「出張のお帰りですか?」 
「はあ、昼食を兼ねまして……いや、食欲がなくて、こんなもので……いや、どうも、ごちそうさまです」
「アハハ、急に声かけてしまいましたよってに」
 最初の一口で、豪快にアイスを吸引した。
「佐藤先生のお嬢さんですか?」
「はい、成り立ての若葉マークですけどもね。美玲といいます。今度、森ノ宮女学院に転入させよと思いまして」
「この時期に?」
「アハ、いずれ分かるこっちゃから言うときます。この子は、うちの亭主の子ですけど、わたしの血は入ってません。そやけど水は血より濃いと言いますよって。もう三日も、うちの水飲んでるから、うちの娘です」
 ぽっと上気した美玲の顔を横目で確認し、教頭の涙の核心をついた。
「教頭先生にも、お嬢さんがいてはったんですよね……」
「……美玲ちゃんと、同じ年頃でした」

 乙女先生は、着任式での教頭の、あまりの暗さにピンと来るものがあって、十数年前の事件を思い出し、仕事仲間のネットワークで調べておいた。最初は、相手の弱みを掴んでおくつもりだったのだが、調べて同情した。教頭が校長になれない最大の原因は酒癖の悪さだった。

 

 ただ、それには背景があったのだ。

――思た通りや……。
 
 乙女先生はため息をついた。

 教頭先生の奥さんとお嬢さんは、十数年前の交通事故で亡くなっていた。ちょうど三学期の終わりごろで、まだ平の教師で、新一年の学年主任に決まっていた田中教頭は、宿泊学習の準備と入学式の国旗掲揚でこじれていた職員間の人間関係の調整やら、遅れ気味の仕事の準備に忙殺されていた。
 そこで休日、田中の妻は娘を車に乗せてドライブに出て事故を起こし、親子揃って帰らぬ人になった。
「親父とお袋に、新しい中学の制服姿を見せにいくんだって、そりゃあ、嬉しそうでした。事故を起こしたときは、まだ入学前の制服を着ていたんで、その中学の先生方も病院に来られましてね……入学前に制服なんで、わたしはお詫びしましたが、『いや、こんなにうちの学校を愛して頂いて、嬉しく、そして残念でなりません』そうおっしゃってくださいました。だから、今でも、こんなつまらないものを持ち歩いてます」
 教頭は、定期入れの中から四つ折りにしたそれを出した。

『合格通知書 田中留美 森ノ宮女学院中等部』……とあった。

「入学式じゃ、ちゃんと『田中留美』って呼んでくださいましてね……佐藤先生、美玲ちゃんの制服姿の写真ができたら、一枚いただけませんか。親ばかと言われるでしょうが、なんとなくの佇まいが、留美と似ているんですよ」
「はい、必ず」
 正直、仕事ぶりからバカにしていた教頭だったが、見なおす思いがした。
「じゃ、そろそろ学校に戻ります。どうぞ、良い連休を」

 淡いつつじの香りの中、教頭は片手をあげて、学校に戻っていった……。

 

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