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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベル ジジ・ラモローゾ:036『かずのみやおやこないしんおう?』

2020-05-13 15:09:11 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:036

かずのみやおやこないしんおう?』  

 

 

 ああ……まただ。

 

 ユーチューブで『宇治観光』の動画をクリックすると、了解しましたって感じでスクリーンが現れるんだけど。グルグルが出て止まらない。

 こうなると、ユーチューブそのものを終了するしかない。

 ほかに対応の仕方があるのかもしれないけど、パソコンが苦手なわたしはお手上げだ。

「うーーん、お祖父ちゃんのパソコンは難しいからねえ……」

 お祖母ちゃんでも手に負えない。

 お祖父ちゃんのパソコンはデスクトップで、どうやら、ほとんど自作したみたいだ。

「買ってきた時にはボケてんのかと思ったわよ」

 お祖父ちゃんが買ってきたデスクトップには中身がなかったらしい。

「大きなボディーの割に、嘘みたいに軽いでしょ。メッシュの隙間から覗いたら本当に空っぽなんだもの『ちょっと、大丈夫?』って頭を指さしたわよ。そしたら『アハハ、それは筐体だよ』って、筐体がボディーのことだってことも分からなかったけど、それから、いろいろパーツを集めてひと月ほどで使えるものにして、なんだか難しいから、わたしは触ったこともないからね。なんならお祖母ちゃんの使う?」

「いいよ、暇つぶしに動画見たかっただけだから」

「そーお、じゃ、使いたくなったら言ってね。あ、お昼はパスタでいい?」

「うん、時間になったら手伝いに行くね」

「あ、パセリが切れてるんだった」

「あ、ラッキー! パセリにチャレンジしてみる!」

「そ、じゃ、頼んだわね」

 

 ダラダラしてるよりは労働した方がいい。つっかけを履いて庭に出る。

 

 ノンノン茂ったパセリの株。これがパセリだと教えられた時はビックリした。

 野蛮に茂ってしまって、雑草にしか見えなかったから。

 その猛々しいパセリの奥の方から若いパセリの葉っぱをちぎってザルに入れる。

 キッチンへ持ってって水洗い。まな板に横たえて、これでもかってくらいみじん切りにする。切ると言うよりぶっ叩く。

 トントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントン

 粉みじんになったところでガーゼに包んで水に漬け、ギュッギュッって絞る。ボールの水が青汁かってくらいになるまで絞る。

 あとは、お皿にあけて自然乾燥。お昼のパスタにかかるころには立派な乾燥パセリのできあがり。

 そこまでやって部屋に戻る。

 

 パソコンの画面に画像が出ている。

 

 お雛様みたいな衣装、髪は……おすべらかし? だったっけ、天皇陛下のご即位の時の皇后さまのような姿。

 ソフアーみたいなのに掛けていて、写真で見ても分かるくらいに小柄……。

 どこかで見たような……。

 

 ジジ~ ジジ~!

 

 呼ばれて気が付いた時は、お祖母ちゃんは部屋に入っていた。写真に集中して気が付かなかったんだ。

「あ、お祖母ちゃん。この女の人、だれだか分かる?」

「え、ああ、直ったんだね……この人は……」

 十秒ほど見て、お祖母ちゃんは本棚から辞書みたいなのを引っ張り出した。

「国史大辞典?」

「うん、日本史の辞典……ええと……あ、これだわ!」

 お祖母ちゃんが示したページには画面と同じ写真が載っている。

 写真の下に名前がある。

 和宮親子内親王……かずのみやおやこないしんおう?

 プ

 お祖母ちゃんが吹き出した。

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・129「福引・2」

2020-05-13 12:56:57 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

129『福引・2』   

 

 

 校門を出て、ちょっと歩いて左に曲がると商店街だ。

 

 谷町筋に向かって上り坂になっていて、そこを高校生らしく駆け足で上がっていく。

 中学では野球部に居たのは知ってるよな。

 いちおうピッチャーだったんだけど、攻守換わってマウンドに上がる時は駆けていく。ベンチからの短い距離を歩こうが走ろうが大して変わりはないんだけど、ノタクラしていては勝てる気がしない。

 監督は嫌いだったけど『試合中は走れ!』というコンセプトは正しいと思う。

 レトロな商店街のテーマ曲が流れ、そこを曲がったら『ふれあい広場』という角に福引のコーナーがある。まずまずの人気で、すでに五人のオッチャンやオバチャンが並んでいる。

 赤いハッピと鉢巻のオッチャンがニコニコと番をしている……と思ったら先輩でもある薬局のオッチャン。

「お、空堀演劇部、四等はフライドチキンのビッグバレルやで!」

 高校生には食い気のフライドチキンが有難いやろという気持ちなんだろうけど、こっちは一等狙いだ。

「一等狙いです!」

 高らかに宣言する。

「欲かいたら、早死にするでえ」

「ええがな、志は高い方がええ」

「アメチャンあげよ」

「ありがとう、いただきます」

「惚れ薬入りやでえ」

「え!?」

「てんごいいな(^▽^)/」

 先客のオバチャンたちがいじってくる。カラカラと福引のガラガラが回る。次の次がオレの番だ。

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ……。

「どんだけ回すねんな」

「いや、念を籠めんとなあ……えい!」

「おめでとう、四等ビッグバレル!」

「え、これが賞品?」

 アメチャンのオバチャンが四等を引き当てた。でも、渡されたバレルは空っぽ。

「これ持って、『肉よし』(商店街の精肉屋)に行ったら一杯入れてくれるさかい」

 なるほど、食品だから揚げたての新鮮さを大事にしてる……というか、思いっきり地元商店街の商品じゃねえか……五等フライパン……六等食用油……七等ティッシュペーパー……上がって三等は洗剤一年分……二等テーブルゲームセット……そして一等南河内温泉宿泊券……これだ! でも、南河内? なんだかショボイ。

「ショボイ思たらあかんで、近場やけど、一等は三本もあるねんでえ!」

 三本!?

 福引券は十回分ある。野球だって九回の裏までやらなければ結果は分からない。それが、もう一回多い十回分だ、可能性はあるかもな!

 カランカランカラン! 一等賞!

 いや、まだ早いって(n*´ω`*n)、まだガラガラ回してねえし。

 え? なんということだ、アメチャンくれたオバチャンが当てちまった!

 い、いや、まだ二本ある。勝負は勢いだからな! オバチャンにあやかって……エイ!

「七等ティッシュペーパー!」

 まあ、一等が出た直後だからな……ガラガラガラ……エイ!

「七等ティッシュペーパー!」

 くそ、つぎこそは!

 ガラガラガラ……エイ!

「七等ティッシュペーパー!」

 く、くそ、もう一回!

 こんな調子で九回連続のティッシュペーパーだ。

 いよいよ最後の一球。

 オレは、福引台の前で、九回の裏同点の試合を思った。攻守どっちだ? ピッチャーでは苦杯をなめ続け、あげくに肩を痛めて引退の憂き目にあったので、バッターのフルスィングのモーションをとってからガラガラに向かった。

 期せずして「かっ飛ばせー、かっらほり!」のコールが湧きおこる、オバチャンたち、意外に若い声だ!

 ツーストライク、スリーボール! あとはねえ! エーーーーーイ!!

「おめでとう! 二等、テーブルゲームセットオオオオオオオオオオオ!!」

 え……二等賞?

 しまったあ、オレはピッチャーだったんだから、とことんピッチャーで行くべきだったんだ。ピッチャーが打撃で勝負してどーーする!

 それでも地元の商店街だ、オレは薬局のオッチャンから恭しく賞品を授与される。

「おめでとさん、ほら、お仲間も応援に来てくれてたんやし。またがんばろ」

 え、お仲間……?

 振り返ると、演劇部の三人が残念な笑顔で並んでいた……。

 

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・9《大容量メモリー》

2020-05-13 06:16:26 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・9(惣一編)
≪大容量メモリー≫ 
         


 

 船を降りるとアキバで潮っけを抜いて帰る。

 といっても一杯ひっかけるわけじゃない。ちょっと遠回りして秋葉原に寄る。ラジオ会館を主にうろうろする。

 オレの乗っている船は「あかぎ」という海自最大最新のヘリ搭載護衛艦で、やっと慣熟公試が終わったところである。新造艦の公試というのは、並の転属艦の倍はくたびれる。

 ラジオ会館は、天下に名の知れたオタクのビルだ。

 昔は名前の通りラジオから電子部品まで扱う電子部品や電器会社のアンテナショップが入っていたが、今世紀に入って漫画、トレーディングカード、フィギュアを扱う店ばかりになった。
 新館がオープンしてから足を向けていないので、楽しみに寄ってみた。イベントフロアーでは懐かしのウルトラマンショーをやっていた。童心に帰って30分のイベントを観た後、いざ目的のフィギュアの店に寄る。
 キャストのフィギュアを横目に殺し、可動フィギュアの陳列棚を見る。「あかぎ」に関わるようになってからロクに情報を集められていなので、新製品の人形たちにびっくりする。陸自の災害出動の可動フィギュアがあった。今までドイツ兵やアメリカ兵のはあったが自衛隊のそれは初めて見た。それも災害出動仕様。まだ癒えない震災体験と自衛隊への認識が変わったことの現れだろう。顔を見ると、うちの砲雷長に似ているので笑いそうになった。まあ海自や空自のフィギュアは出ないだろうが、少し嬉しくなる。しかし、こんなのが目当てではない。

 あくまでも女性のフィギュアである。オレには「さつき」と「さくら」という二人の妹がいるが、妹とは言え生身の女は手を焼く。正直苦手……というわけではないが、女性の、それもシリコンの可動フィギュアに目が行くF社が1/6で、ころあいのものを出している。
 内部にステンレスの骨格が入っていて、間接が30以上も稼働する。「あかぎ」の前の「しらなみ」の時にハマった。なんせ人並みの姿勢を保持できるので、以前ハマっていたキャストのフィギュアよりも格納という点で優れている。小さな姿勢をとらせると、ショ-トケーキほどの小ささになってかさばらない。骨格が強化プラスチックの旧バージョンを4体ほど持っているが、2体は関節を壊してしまった。別にいやらしいポーズをさせていたわけではない。関節にラチェットが組み込まれていて、動かすたびにカチカチと音がする。それが硬くて、少し角度を間違えると骨折してしまう。二体壊してやっと扱いに慣れた。
 それは新製品の棚の上にあった。
 シリコンの宿命である静電気を帯電しにくく、したがって汚れにくい。そしてなにより関節がステンレスになり、動きもスムーズで骨折の心配がない。三種あったが、もっとも日本人的な顔をしているやつ。それと『ルパン三世』の実写版のルパンを買って帰る。

 豪徳寺の駅を降りるころには、佐倉惣一二等海尉から、ただの惣一に戻っていた。

「あれ、見慣れない車があるなあ……」
 独り言がこぼれると、車の向こうからホースを握ったさつきが顔を出した。
「あ、ソーニーお帰り。半年ぶりだね」
「7カ月ぶりだ。これお前の車か?」
「うん、バイト先から押し付けられたのホンダのN360Z。これで命拾いしたんだよ」
 さつきは、試運転の時に交差点で当て逃げされかけた話をした。
「このケツの短さで助かったか、良かったじゃないか。しかし、これってほとんどクラシックカーだろ?」
「あちこち手が入ってるから、ただのポンコツ。ヤフオクで似たようなのが8万で落札されてた」
「まあ、今時クーペに乗る奴なんて、ちょっとオタクだろうな」
「ソーニーに言われたかないわよ」
「お帰りソーニー!」
 さくらが出てきて抱き付いてきた。昔と変わらないオニイチャン子だが、抱き付かれた背中に胸のふくらみを感じるのには閉口だ。
「あ、デニーズのテイクアウト!」
「ああ、土産だ。みんなで食うんだぞ!」
「はーい!」
 お土産の袋だけ持って、さっさと家の中に消えてしまった。やっぱり十二分にガキだ。
「駅前のデニーズで済ますなんて、ソーニーらしいわ」
「前の日から予約してたんだぞ……なんだこりゃ?」
 後ろのバンパーに大きめのチューインガムのようなものが付いていた。
「やだ、ガムなんか着いてる!」
「ん……こりゃシリコンだな……なかなかとれない。これ、かなりの勢いで貼りつけられたんだな」
「ソーニー、取ってよ」
「うん……」
 こういうところで、シリコンの扱いが役に立つとは思わなかった。

「ソーニー、やらしい。また、こんな人形買ってきて!」

 リビングから、さくらが叫ぶのが、両親の笑い声とともに聞こえた。
「シリコンの中に何か入ってるぞ」
「え、なに?」
 オレは慎重にシリコンをはがした。
「……なんで、こんなもんが?」

 それは、大容量のメモリーだった。

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乙女と栞と小姫山・44『美玲の転入試験』

2020-05-13 06:05:13 | 小説6

 乙女小姫山・44
『美玲の転入試験』     
      

 


 美玲の転入試験は、大阪城の天守閣が見える応接室で行われた。

 つい四日前の大阪城でのことが思い出された。

 新しいお母さん(乙女さん)は、ほんの気晴らしのつもりで連れて行ってくれた。むろん広々とした大阪城公園は気晴らしになった。生まれてすぐに近江八幡に行った美玲は、お城と言えば、遠足で行った彦根城しか知らない。彦根城は国宝ではあるが小さな平山城。どちらかというと、山の中の閉鎖性を感じさせたが、大阪城は石垣なんかはいかついけど、なんだか野放図な開放感があって、美玲は好きになった。
 そこで出会った青春高校の教頭先生の娘さんは、いま美玲が受けようとしている森ノ宮女学院の試験を合格し、その制服姿をお祖父ちゃんお婆ちゃんに見せに行く途中の事故で亡くなった。
 美玲は、実のお母さんが亡くなって、血の繋がったお父さんと、なさぬ仲の乙女お母さんに引き取られ、その直前まで森ノ宮女学院への転入試験の説明を受けていた。
 なんだか運命的なものを感じ、美玲は、この試験に受かり、あの教頭先生の娘さんの分まで、幸せになろうと思った。

 でも、一つ未解決な問題が残っていた。
 夕べは危うく、お母さんに知られてしまうところだった。

 その話を、お父さんに電車の中で話そうとしたが、お父さんはやんわりと、――その話はあとにしよう――という顔になって、今ここに座っている。
「じゃ、国語から始めます」
 係の先生が静かに開始を告げた……。

 その間、お父さんの正一は、出張で空き部屋になっている校長室で待った。堂島高校の教頭であることは、とうにばれているので、森ノ宮の教頭が、挨拶を兼ねて話に来ている。
「……公立も、なかなか大変ですなあ」
 私学と府立の違いはあっても、教頭同士、通じ合うものがあった。
 正一は乙女さんから聞いた青春高校の田中教頭の娘さんの話をした。
「ああ、その子なら覚えていますよ。三月の半ばぐらいでしたね。川西の方で交通事故があって、女の子の方がうちの制服を着ていたんで警察からの連絡で、所轄署まで行きました……そうですか、そのときのお父さんが小姫山高校の先生でしたか。あの子は米子って、ちょっと古風な名前でしたが、理事長のお母さんと同じ名前でしてね。もう合格通知も出て、クラスも決まっていましたから、職員一同の意向で生徒名簿には載せました。卒業式でも名前を読み上げようとしたんですけど、お父さんが固辞なさいましてね……そうか、まるで米子ちゃんが生き返ってやり直してくれるみたいで嬉しいですね」
「いやあ、試験に受かってからの話です……」
 それから正一は、自分の身の恥を話した。教頭は、それも暖かく受け止めて聞いてくれた。

 そして三時間後、国・数・英の三教科の試験を終えて美玲が校長室に入ってきた。

「美玲、おつかれさま!」
「なんとか全力は出し切れました……なんか、いろんな人が応援してくれてるみたいで、落ち着いてやれました」
 まだ、慣れない娘は、他人行儀なしゃべり方ではあったが、真情の籠もった物言いで父に報告した。

「佐藤さん、合格ですよ」

 三十分ほどもすると、教頭が若い職員を連れて嬉しそうにやってきた。
「優秀な成績です。非の打ち所がないですわ。ほな、事務的なことは、この木村君から聞いてください。おめでとう佐藤美玲さん」
「は、はい!」
 しゃっちょこばった美玲を大人たちの暖かい笑いが包み込んだ。

 最後に不思議なことが起こった。

 乙女さんは仕事中なので、メールを打った。それを見ていた職員の木村君が「記念写真を撮りましょう」ということで、美玲のスマホで父娘が並んだところをシャメってもらった。

 そのシャメに、美玲と同学年ぐらいの森ノ宮の制服を着た女の子が映り込んでいた。
「これは……いや、こんな時間帯に、こんな場所に生徒がいるわけないんですけどね」
「これ、米子ちゃんだ。だって、こんなに嬉しそうにニコニコしてる」
「そうやな」

 撮り直しましょうかという木村君を丁重に断って、父娘は、難波の宮公園に向かった。大極殿の石段の上に座った。

「……夕べ、庭に埋めよとしてたんは、亡くなったお母さんのお骨やろ」
「え……なんで?」
「だいたい察しはつく」
「わたし……アルバムの背中のとこに隠して持ってたんです」
 リップクリームの入れ物に入れたそれを、ポケットから出した。
「お父さんにも見せてくれるか?」
 少しためらったあと、それを父の手に預けた。軽く振ってみるとカサコソと儚げな音がした。
「これが、美子か……」
「火葬場で、お骨拾いの時にもめたんです。分骨するせえへんて」
「分骨?」
「本家のオッチャンが、うちの墓にも入れるいうて骨壺もって用意してはって……」
「なんで本家が?」
「お母さんの退職金、預金、生命保険、合わせたら、けっこうなお金になるんです」
「ムゲッショなことを」
「それで、もめてる隙に、お母さんの右の人差し指のお骨、ハンカチで取ったんです」
「右手の人差し指?」
「わたし、乳離れの遅い子で、お母さんのオッパイの代わりに右手の人差し指吸うてたんやそうです。粉薬が苦手やったんで、薬はこの指につけて飲ませてくれました。泣いて帰ってきたときは、この指で涙拭いてくれたんです……そやから、そやから。わたし……」
「美玲……!」
 正一は、横から娘を抱きしめた。
「お母さんのために、もう、これは手放さならあかん思たんです。それが一日延ばしになってしもて」
「それで、夕べ、庭に穴掘ったんやな」
「……はい」
「これは、美玲が持っとき。こんな大事なもん粗末にしたら、乙女オカン怒りよるで……家庭平和のためにも持っときなさい」
「はい」
「この難波の宮も大阪城も、見えてるその下に、もう一つの難波の宮、大阪城があるねん。そんで、大阪の人間は、つっこみで大事にしてるんや。乙女オカンは、生粋の大阪、それも岸和田のオバハンや。両方大事にせんかったら、お父さんでも手えつけられんぐらい暴れよる」

 その時、美玲のスマホが鳴った、乙女さんからだ。

「おめでとう!!」
 盆と正月と、クリスマスにホワイトデーまで来たような喜びようだった。

 電話を切ったあと、例の記念写真を乙女母さんに送ろうとすると、例の映っていた女の子が満面の笑みのうちに影が薄くなり消えていってしまった……。

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