大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・146『バーチャル女子会』

2020-05-16 13:39:30 | ノベル

せやさかい・146

『バーチャル女子会』         

 

 

 『「あ、そうか!」』には微妙なズレがあった。

 

 ちょっと説明するわね。

 お寺の婦人会(ほとんどお婆ちゃん)と文芸部でバーチャル女子会をやろうと思った。

 テイ兄ちゃんが構築した『寺テレワーク』のシステムを使ったテレワーク式の女子会。

 せやけど、全部で18人も参加するとタブレットの画面では小さすぎる!

 そこで、スカイプしてたテイ兄ちゃんとジョン・スミス(頼子さんのボディーガード)が『「あ、そうか!」』と閃いた。

 

 その閃きにズレがあった。

 

 テイ兄ちゃんは、ネットでお寺と領事館を繋いで、プロジェクターとスクリーンで映像を映す2Dバーチャルを考えた。大阪も部分的な規制解除がされたので、婦人会のお婆ちゃんらはお寺の本堂に集まってもらう。むろんソーシャルディスタンスはしっかりとった上でね。せっかくのタブレットやけど、それよりええ方法を思いついたらすぐに切り替えられるのは、檀家のお婆ちゃんらのことを第一に考えられる坊主の優しさ。

 ジョン・スミスは、その上を行ってる。

 なんと、3Dホログラムのセットを使う!

 ご本尊の前の畳に真上を向いた投影機、その上に45度の角度を付けたカーボンの黒枠、黒枠には特殊シールが張ってあって、投影機が発した映像が、シールに映って、あたかも実物があるような感じになる。

 ほら、初音ミクのライブとかで、ほんまにステージに初音ミクが居てるように見える、あの仕掛け。

 あれをグレードアップしてコンパクトにした仕掛け。それを領事館のボックスカーで持ってきて、ジョンスミスは一時間ほどで仕上げる。

 同じものが、領事館のホールにもセットされていて、双方孤高で3Dバーチャル映像が楽しめるわけ!

 

 おおーーーーーーー!!

 ニャーー!

 

 ご本尊の前に現れた頼子さんはホログラム特有の輝きを放って出現し、目の当たりにしたお婆ちゃんたちが感嘆の声をあげる。中には、手を合わせて念仏を唱えるお婆ちゃんも居てる。

 ニャーはダミア、あやうく頼子さんめがけて飛びつきそうになったんでテイ兄ちゃんに取り押さえられる。

 突っ込んだら爪でスクリーン破られてしまうからね。

 仕掛けを知ってるわたしも三カ月ぶりに見る頼子さんの姿に胸が熱くなってくる。

『さくらちゃん、留美ちゃん、そして如来寺婦人会のお婆ちゃんたち、ほんとうにご無沙汰していました……』

 そこまで言って、頼子さんもこみ上げてくるものがあって、しばらく沈黙になる。

「頼子ちゃん」

「畏れ多いことを『殿下』をつけなあかんやんか!」

 声をかけた田中のお婆ちゃんを別のお婆ちゃんがたしなめる。

『そんな敬称はいりません、ここに居る時は、ただの頼子です。いっしょにお餅を食べたり、ミカンの皮を剥いていた文芸部の中学生……あ、書類上は卒業して高校生だけど』

「そっちも、わたしたちのこと見えてますか?」

『うん、大丈夫だよ留美ちゃん、ちゃんとホログラムで見えてるよ。ただ、領事館のホールは本堂ほどの広さがないので、みなさん1/2サイズなんだけどね』

「え、大きさ変えられるんですか?」

「うん、できるよ、こっちからでも……」

 頼子さんがなにやら操作する、影から「あ!」っと声、たぶんソフィアさん。

 

 わ!!

 

 頼子さんがグラリと揺れたかと思うと、いきなり首のドアップ!

 お婆ちゃんたちが腰を抜かす。

『ごめんなさい、操作が難しくって(;^_^A……えい!』

 今度は、ティンカーベルほどの小ささになる。

『頼子さま、わたくしが……』

 陰でソフィアさんの声がして、やっと元のサイズに収まって女子会が始まった……。

 

 

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・12《帝都女学院七不思議・2》

2020-05-16 05:41:46 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・12(さくら編)
≪帝都女学院七不思議・2≫    


 

 ビー玉の群れは、ゾロゾロと北門の坂道を転がっていった。

「「「「「ふっしぎー!!」」」」」


 みんなが、一斉に声を上げた。七不思議の最初、北門の重力異常の撮影に取り掛かっている。
 どう見ても北門の位置が低く、校舎側が高くなっているように見える。だのにビー玉の群れは、北門から校舎に向かって転がっていく。遊園地のトリックハウスのようだ。

「これは、トリックハウスの原理よ!」と理系の成績トップの松坂莉乃が言う。

「いいこと、このアプローチの道幅、校舎側の方が細くできているの。他にも植木の高さを意図的に刈り込んで、校舎側が高く見えるようにしてあるのよ。このアプローチも微妙に曲がってるじゃん。そのへんにも秘密があると思う」と、莉乃は続けた。
「あたし試してみるで」
 バレー部の名セッターの山口里奈が大阪弁で名乗りを上げる。最初にバレーボールを転がした。数秒じっとしていたボールは、ゆっくりと、坂道を登って行った。
「やっぱり……」と、みんな。
「体で試してみる」
 横になって転がるのかと思ったら、バレーボールをトスしながら、坂道を登って行った。
「どうよ?」
 米井さんが、坂の上の里奈に声を掛けた。
「不思議やなあ……感覚的には、こっちの方が高い」
 みんなは、当惑顔で、顔を見合わせた。里奈は練習中に体育館の床の傾きを感知し、顧問を通じて学校に申し入れた。測量の結果、0・3度床全体が中央に向けて傾斜していることが分かった。残念ながら体育館は七不思議ではなかった。単に老朽化で床が沈み込んでいるに過ぎない。ただ、この傾きでは公式戦などはできなく、バレー部のみんなは密かに喜んだ。欠陥のある会場で公式戦はできない。つまり帝都は当分公式戦の会場になることはなく、試合会場の準備や後片付けをしなくても済むからである。
「ま、こんなこともあろうかと、専門家呼んでるの」
「え、そうなの?」
「だったら最初から、専門家の人にやってもらったらよかったのに」
「演出よ、演出。まずみんなで試して驚いておく。ここまで撮ってあるわよね」
「うん、ばっちり」
 写真部のオソノがスマホを示した。

「やあ、遅くなってごめん」

 北館の校舎の陰から、二人のオッサンを従えて佐伯君(ほら、チェーンメールで騒ぎになった米井さんの双子の兄貴。でも彼って病気のはず。大丈夫かなあ)が乃木坂の制服で現れた。
「佐伯君のお父さんのコネで、測量技師の人にきてもらったの。よろしくお願いします」
「いや、持ち場の仕事が終わったとこなんで、大丈夫ですよ。じゃ、四ノ宮クンかかろうか」

 四ノ宮……あたしは、その名前にビビッときた。黄色のヘルメットの下の顔は豪徳寺の水道工事のガードマンのニイチャンだった!

「こういう現場は時々あるんですよ。ま、視覚的な勘違いがほとんどですけどね」
 測量技師のオジサンが準備をしながら呟き、莉乃が「どんなもんだ」という顔をする。
 オジサンはトランジットという三脚付の測量機械を出し、四ノ宮君は測量用の物差しの化け物みたいなの持って、4か所ほど立った。

「測量したかぎり、校舎側の方が3度、高さで30センチほど高くなってます」
「えー!?」と、みんなの声。
「よかったら、ボクが説明するよ」

 ヘルメットを脱ぎながら、四ノ宮青年が言ったので、あたしたちは驚いた……。

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乙女と栞と小姫山・47『スリーギャップス』

2020-05-16 05:31:36 | 小説6

 乙女小姫山・47
『スリーギャップス』     
      

 

 


「栞、Bスタジオまで……ほら、急ぐ!」
 
 午前のレッスンが終わって、控え室でお握りを頬張っていたら、鼻に絆創膏を貼ったMNBの専属作曲家の室谷雄二に呼び出された。
「は、はい!」
 栞は、お茶でお握りを流し込み廊下に出ると、室谷は、もうエレベーターの前にいて、エレベーターのドアが開きかけていた。
「うわー!」
 慌てて、エレベーターに乗り込むと叱られた。
「アイドルは、仕事以外では走らない!」
「はい」
 気難しい人だと思った。
「ほら、これ栞のパート」
 ナニゲに渡されたスコアに戸惑っているうちにエレベーターは一階上のフロアーに着き、あと二三歩でBスタジオというところで、室谷の背中にぶつかった。なぜかというと、室谷が急に立ち止まったからである。室谷は勢いでドアに顔をぶつけた。
「イテー! オレ、さっきもぶつけたところなんだよ! なんでMNBは、ガサツな奴が多いんだろうね」
「すみません」
 室谷さんが急に止まるから……と思いながらも、栞もスコアを見てテンパっていた。

 スコアのタイトルは『そうなんですか!』になっていたから。そう、栞の一言で流行ったギャグである。

「失礼します」

 ドアを開けて、今度は足が震えた! 

 スタジオにはプロディユ-サーの杉本、MNBセンターの榊原聖子、三期生で売り出し中の日下部七菜の、研究生の栞から見れば、雲の上の人間が揃っていたのだ。
「室谷さん、また顔ぶつけました?」
 聖子が、おかしそうに聞いた。
「MNBは、そそっかしいのが揃ってるからな」
「室谷ちゃん含めてね」
 杉本が、体を揺すって笑った。七菜も俯いているところをみると同じ目に遭ったんだろう。
「とりあえずスコア見てくれよ」


 《そうなんですか!》  作詞:杉本 寛  作曲:手島雄二

 ホ-ムの発メロが鳴る階段二段飛ばしに駆け上がる 目の前で無慈悲にドアが閉まる

 ああチクショー! このヤロー! 思いがけないキミのため口

 駅員さんも乗客のみなさんも ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ カワイイ顔して このギャップ
 

 あの それ外回りなんだけど

 そうなんですか しぼんだようにキミが呟く

 新学期 もう夏だというのに いいかげん覚えて欲しいな電車の発メロぐらい

 でも 愛しい ピンのボケ方 このギャップ そうなんですか そうなんですか


 昼休みチャイムが鳴る廊下優雅に教室に向かう 開けたドアみんなが起立していたよ

 ええ うそ~! ええ ど~して! 見かけに合わないキミの大ボケ

 クラスメートも先生も ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ カワイイ顔して このギャップ

 あの 今の授業開始の本鈴なんだけど

 そうなんですか 他人事みたいキミが呟く

 新学期 もう夏だというのに いいかげん覚えて欲しいな予鈴と本鈴ぐらい

 でも 愛しい ピンのボケ方 このギャップ そうなんですか そうなんですか


 照りつける太陽 砂蹴散らして駆けまわる ビキニの上が陽気に外れかかる

 ええ うそ~! なんで今~! 天変地異的キミの悲鳴

 ライフセーバーさんもビーチのみなさんも ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ キミは飛び込む 波打ち際

 ああ たしかキミはカナヅチなんだけど

 そうなんですか でも助けてとキミが叫ぶ

 夏休み もう真っ盛り いいかげん覚えて欲しいな犬かきとボクの気持ちぐらい

 でも 愛しい こ~の無神経 このギャップ そうなんですか そうなんですか 

 そうなんですよ ボクの愛しいそうなんですよ ボクの青春のそうなんですよ 人生一度のそうなんですよ

 Yes! そうなんですよ!


「このユニット名は、スリーギャップス」
「スリーギャップス?」
「そう、ベテランと中堅と駆けだしのミスマッチ」
「そう、栞はミス・マッチ」
「マッチですか!?」
「そう、栞の荒削りな馬力と根拠のない自信。こいつで火を付けてみようと思う。今日は曲をしっかり覚えて、明日は振り付け。来週の習慣歌謡曲で発表する」

 かくして、栞のヒョウタンから駒が出た……!

 

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