大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・149『月島さやか先生』

2020-05-29 13:36:27 | ノベル

せやさかい・149

『月島さやか先生』         

 

 

 二年三組やということは分かってる。

 

 担任は月島さやか先生。

 この四月から先生になったピッカピカの新任!

 学校は六月一日からやけど、課題やらプリントやらがあって、それを持ってきてくれはった。

 ポニテをスィートスポット(顎と耳の線を延長したところで結う)にキリリと決めて、白のブラウスに黒のタイトスカート。うっすらとオデコに汗をにじませて、山門の前でキョロキョロしてはる。

「あ、ひょっとして月島先生ですか!?」

 詩(ことは)ちゃんと本堂の掃除をしてて、障子の隙間から見えたんで、ころけるように階(きざはし)を下りて声をかける。

「あ、酒井さくらさん!?」

「はい、酒井さくらです!」

 お互いマスクからはみ出そうなくらいに口を開けてご挨拶。

 マスクしてると、しっかりはっきり言わんと通じひんさかいね。

「酒井さんとこてお寺さんやねんね、なんや、境内に入ったら涼しい感じ」

「あ、広いだけです。すみません、山門のとこはお寺の看板しかないさかい」

「いいわよ、念のため所番地を確認してただけだから。わたしの家も神社だから親近感よ」

「あ、そうなんですか!」

「あ、あんまり近寄らないで、ソーシャルディスタンス(n*´ω`*n)」

「あ、あ、そーですね、すんません!」

 

「さくらちゃん、リビングの方にお連れしたらあ」

 

 本堂の縁に正座して詩ちゃんが庫裏の方を指す。

「せやね、すみません、つい話し込んで(;^_^A」

「うん、いいの、まだまだ周るお家があるから。えと、お姉さん?」

 ペコリと頭を下げながら月島先生。

「あ、従姉です」

「従姉の詩です。ほとんど姉妹ですけど」

「あ、そうなんだ。こんど酒井さんの担任をすることになりました、月島です」

「ごていねいに、せめて、本堂の中でも。冷房はしていませんが天井が高いですから」

「あ……じゃあ、お参りを兼ねて」

 

 さすが神社の娘さんらしく、阿弥陀さんにきれいな合掌をしはる。

 

「お母さんにもご挨拶しなきゃなんだけど……」

「あ、母は……」

「いいのいいの、今日は……はい、課題持ってくるのが仕事だから。一日の登校日に持ってきてください」

「ありがとうございます」

「詩さん、きれいな人ねぇ」

「はい、自慢の従姉です!」

「あ、笑うと似てるわね」

「嬉しいです、そう言われると!」

「ハハ、わたしも先生のなりたてだから、よろしくね。阿弥陀さま、やさしいお顔ねえ……長年信仰されてると、錬られてくるものがあるんでしょうねえ」

「そうなんですか?」

「そうよ、ああいう微妙な笑顔はなかなかできないわよ……どう?」

 先生は、右手をチョキにして口角を吊り上げて見せる。

「あ、ペ…………」

 ポニテのキリリが不二家のマスコットみたいになった。

「アハハ、ペコちゃんみたいだと思ったでしょ?」

 そう言うと、ペロッと舌を出して目玉と一緒に右側に寄せる。ますますペコちゃん。

「アハハ、子どものころから言われてるんやけど、先生になってもペコちゃんじゃねえ。今のは内緒よ」

「そうなんですか?」

「えへへ、今日は元気な笑顔が見れて、先生も元気出ちゃった! じゃ、次のお家に行くから、詩さんにもよろしく」

 荷物を持つと、女生徒みたいな軽やかさで本堂を出て、自転車に跨り、歯磨きのコマーシャルみたいな笑顔を見せて、もう一度「じゃ!」と一声残して行ってしまった。

「あら、もう、お立ちになった?」

「あ、うん、まだまだ周らならあかんみたいで」

「そうだよね、お仕事なんだから」

 

 詩ちゃんと二人、本堂の座って、詩ちゃんがお盆に載せてきた麦茶を頂いたのでありました。

 いよいよ本格的に新学期! いや、新学年の始まりです!

 

 

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あたしのあした06『チャイムが鳴った』

2020-05-29 06:31:18 | ノベル2

06『チャイムが鳴った』      

 

 

 四カ月ぶりの学校はよそよそしかった。

 よそよそしさにもいろいろある。

「信じてたわよ、あなたなら、きっと復活するって! あ、でもね、無理はしないようにね。しんどかったり辛かったりしたら、いつでも言ってね」
 担任の杉村萌恵先生は、登校すると直ぐに職員室に呼んで、声を掛けてくれた。
「ありがとうございます」
 とは答えておいたけれども、なんとも味気ない。
 だって、職員室には教頭先生をはじめ他の担任やら教科の先生やらが二十人以上いる。萌恵先生の台詞は、他の先生に聞かせるためのものだ。
 あたしが、また不登校になったりトラブルに遭っても、きちんと声はかけました。というアリバイなのだ。伊達に不登校をやっていたんじゃない。オタメゴカシな大人の態度は肌感覚で分かってしまう。

 教室に行くと、クラスメートの視線が突き刺さる。

 覚悟はしていたけど、かなりウザイ。

 ちょっと前のあたしなら、萌恵先生のオタメゴカシとクラスメートのウザイ視線でリバースしていただろう。

 でも、電車に飛び込んで助かったあたしは、なにか吹っ切れて腹が座っていた。

「もう、来ないと思ってたのに」
「電車に跳び込んだら、ふつう死ぬよね」
「死にぞこないなんだ」
「死ねばよかったのにさ」
「死ねば楽になるのにね」
「死ねぇ」
「そうよ、死は唯一の救済なのにね」
「キモ! こっち見てる!」
「こっち、見んな!」


「ウダウダコソコソ言ってんじゃないわよ!」

 生まれて初めての大声あげて立ち上がった。
 みんなが一瞬だけひるむ。
 でも、直ぐに数を頼んでニヤニヤ笑いだす。

「あたしは死んだ方がいいの? どーよ、関根・皆川・古田・渡辺・伊藤・木下・森・藤田・横田にその他! どーなのよ!?」

 タメ口にびっくりしてるけど、数を頼んでのニヤニヤ以外は返ってこない。予想はしてたけどね。

「じゃ、お望み通り死んでやるわ」

 あたしは、ガラリと教室の窓を開け、窓枠に身を乗り出した。
 あたしの背後で拍手が起こる。
「おめでとう、今度こそ成功するように祈ってるわ!」
 ボスの横田智満子が囃し立てる。
「横田智満子、あんた、死は唯一の救済って言ったわよね」
「そ、そうよ、死んだら楽になるじゃん」
「楽になれるのね」
「そ、そうよ、だから……なによ!?」

 あたしは、智満子の傍に寄った。

「そんなに楽になれるのなら、あたし一人じゃもったいないわ。あんたもいっしょに楽になろうよ!」
 あたしは智満子の鼻の穴に指を突っ込んで窓際まで引っ張って行った。

「キャーーーーー!!」

 窓辺まで来ると、脚を掴んで手すりを軸にして窓の外に智満子をぶら下げた。智満子は、かろうじて膝の裏側で手すりにひっかかっている。
「楽になれるんだから、怖がることはないでしょ? ほら、みんなも、あたしにだけ拍手したんじゃ不公平でしょ……拍手!」
 当然だけど、だれも拍手なんかしない。
「拍手しろよ!」
 睨みつけてやると、パラパラと拍手。
「しみったれた拍手してんじゃないわよ! ほら、智満子からも頼みなさいよ!」
「みんな、は、拍手、拍手よ~(´;ω;`)ウゥゥ」

 
 拍手はしだいに大きくなっていき、あたしへのイジメは割れんばかりの拍手の中で終わってしまった。

 キーンコーンカーンコーン~🎵キーンコーンカーンコーン🎵

 チャイムが鳴った。

 なにかが始まったようにも終わったようにもとれる音色で、長く余韻を引いて耳に残った。 

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メタモルフォーゼ・7『彼女の悲劇』

2020-05-29 06:20:21 | 小説6

メタモルフォゼ・7
『彼女の悲劇』       
        

 


 これでいいのか?……心の中で声がした。

 進二の声だ。でも体が動かない。金縛りというやつだろう。

 美優の体になって、まる三日目の夜。なかなか寝付けずにいると、こうなってしまった。
――よくわからない。あたしが、進二の双子のカタワレなのか、受売命(ウズメノミコト)のご意志か、とんでもない突然変異なのか……思い詰めるとパニック……にはならないか。あたしって、なんだか、とても天然なんだ。進二は、いまどこにいるの?――

 応えはなかった。

 乖離性同一性障害だとしたら、あたしがいるうちは、出てこられない。金縛りとは言え、出てくるようなら、まだ完全には乖離(多重人格)しきっていないということだろう。
 なにか、よく分からないけど、こうなったのには意味があるような気がする。それが分かって解決するまでは、これでいいじゃん……で、ようやく眠りに落ちた。

 翌朝学校へ行くと、なんだか、みんなの様子がおかしい。男子も女子も、なんだか「気の毒そう」と「関わりにならないでおこう」という両方の空気。

「ちょっと、ミユちゃん!」

 来たばかりのミキちゃんが、お仲間二人と教室にも入らないで、あたしを呼んでいる。

「おはよう、なあに?」
「ちょっとこっち」
 人気のない階段の上まで連れて行かれた。
「ちょっと、これ見て」
 スマホを動画サイトに合わせて見せてくれた。

「あーーー、ヤダー!」

 そこには『彼女の悲劇』というタイトルで、昨日の体育の授業の終わりにハーパンが脱げたところが、前後一分ほど流れていた。
「これって、セクハラよ!」
「肖像権の侵害!」
「ネット暴力よ!」
 もうアクセスが千件を超えている。さすがの天然ミユの自分も怒りで顔が赤くなる。

 一時間目は生指に呼ばれた。むろん被害者として。

「渡辺、心当たりは?」
 生指部長の久保田先生が聞いた。
「分かりません」
「渡辺さん、これは犯罪だわ。警察に被害届出そう!」
 同席した宇賀先生もキリリと形のいい眉を逆立てた。宇賀先生は怒ってもきれいだと感動する。

「ちょっと、しっかりしなさいよ!」

 見とれてしまって――まだ、進二が残ってる――一瞬安心するけど、こういうキリっとしたところが女子に人気だと思いだして、訳が分からなくなる(^_^;)
「あ……でも、これ撮ったのうちの生徒ですよ。誰だか分かんないけど」
「そんなこといいのよ、毅然と対処しなくっちゃ!」
「は、はい……」
「まずは、画像の削除要請。さっき学校からもしたんだけど、確認のため向こうから電話してもらうことになってる。それに本人からの要請も欲しいそうなんだ」
 まるで、それを待っていたかのように電話があった。先生とあたしが、説明とお願いをして、削除してもらうことになった。そして警察の依頼があれば投稿者を特定し、法的措置がとられることになった。

 あの時間、あのアングルで撮影できるのは、いっしょに体育の授業をやっていた、うちのA組かB組の男子だ。女子より数分早く授業が終わっていたことはみんなが知っている。ポンコツ体育館はドアがきちんと閉まらない。換気のために開けられたままの窓もある。携帯やスマホで簡単に撮れる。

 警察の調べは早かった。

 午後には隣町のネットカフェから投稿されたことが分かり、防犯カメラが調べられた。
 しかし犯人は、帽子とマスクをしてフリースを着ているので特徴が分からない。昼休みには、所轄の刑事さんが防犯ビデオのコピーを持ってきて、生指の先生やウッスン先生といっしょに見ることになった。

 直感で、うちの生徒じゃないと思った。

 こんなイカツイ奴は、うちにも、隣のB組にもいない。
 でも、言うわけにはいかない。あたしは一昨日転校してきたばかりの渡辺美優なんだから。さすがにウッスンも「こういう体格の生徒はうちにはいません。ねえ土居先生」 で、隣の担任も大きく頷いていた。ところが、刑事さんは逆に自信を持ったようだ。
「分かりました、予想はしていました。さっそく手を打ちましょう」
 元気に覆面パトで帰っていった。

 六限は全校集会になった。

 みんな予想していたので、淡々と体育館に集まった。あたしは出なくて良いと言われたけど、どうせあとで注目の的になるのは分かっている。なんせ、削除されるまでにアクセスは三千を超えていた。集会に出ている生徒の半分は、あの動画を見ている。なんせ、最後は顔がアップになっていたのだから。

 顔がアップ……あたしはひっかかった。Hなイタズラ目的ならアップにするところが違う。だいいち、あそこでハーパンが落ちたのは事故だよ。

 なにか見落としている……。

 クラスのみんなは気を遣ってくれた。ミキちゃんたちは、なにくれと他の話題で気をそらそうとしてくれたし、ウッスンまでも「早退するか?」と言ってくれた。

 放課後になると頭が切り替わった。コンクールまで二週間だ。稽古に励まなくっちゃ!

 部室に行くと、一年の杉村が、もう来ていた。

「早いね、杉村君!」
「先輩、見てください。一応必要な衣装と小道具揃えておきました」
「え……どうして?」
「昨日台本をダウンロードしたんです!」
「ハハ『ダウンロード』をダウンロードか。座布団一枚!」
「ハハ、どうもです」
「でも、台本はともかく、衣装と小道具は?」
「オヤジが映画会社に勤めてるんで、部下の人がさっき届けてくれたんです。道具は、一応ラフだけど描いてきました」

 それは、もう素人離れしていた。衣装の下のミセパンやタンクトップまで揃っていた。

 人間いろいろ(^^♪……むかし死んだ祖父ちゃんが歌っていた歌を思い出した。

 つづく

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・25《尾てい骨骨折・2》

2020-05-29 05:58:31 | 小説3

新・ここ世田谷豪徳寺25(さくら編)
≪尾てい骨骨折・2≫    



 

 昨日の学校はさんざんだった。

 教室の席に座る時は、家での体験があるので、尾てい骨を庇うように座れる。
 だけど授業中にノートをとろうとして顔を上げた拍子に姿勢が真っ直ぐになって、もろに尾てい骨に響く。
 さすがに家にいるときのように気軽に叫んだり唸ったりはできず、その分表情になる。

「佐倉、おれの授業、そんなにつまんないか?」

 数学の先生は、三度目に目が合ったときに言われた。
「いえ、そんなことはありません」
「……だったらいいんだけどな」
 で、授業の後半、ムズイ数学の公式の説明のときに、またやらかした。論理的な思考が苦手なんで、説明はじっくり聞かなければ全然わからない。で、つい身を乗り出したところで、まともに尾てい骨に響いた。

「……!!」

 声にこそ出なかったけど、痛みはマックスで、我ながら怒った顔のようになったと自覚した。

「あのなあ、佐倉、数学なんてつまんねえよ。教えてる自分でもそう思うよ。数学なんて、買い物に行った時にお釣りの計算出来りゃ十分だ。微分なんて微かに分かったでいいし、積分なんて分かった積りでいいんだ。要は数学を通じて、論理的な説明に慣れるようにすることが重要なわけ。分かるか? そうすれば将来結婚しようかなって相手に出会った時に、惚れた晴れたってこと以外に互いの所得や月々の経費、ローンの計算なんかがきちんとできるわけさ。そうすりゃ、つまらん家庭争議なんか起こさずにすむんだよ! いいか、佐倉……」

 そのお説教の最中に、悪気はないんだろうけど「だいじょうぶ?」という気持ちで、マクサがシャーペンでお尻をつついてきた。

「ウググ……!!」
「あ、ひょっとして、こんな愚痴こぼすおれのことバカにしてんだろ! いいよ、どうせお前らは、おれのこと……おれのこと……今日は、もうこれでおしまいだ!!」

 八分も早く数学が終わってしまった。ちょっとクラスは騒ぎになった。「先生、昨日彼女と一悶着あったんだよ」「え、フラれたとか!?」「フラれるってことは、フッテくれる彼女がいたってことでしょ」「でも、さっきのさくら……」「やっぱ」「変だよ……」「思う?」「思う」「…………」

 マクサや恵里奈が聞いてきたのなら「うるさい、あんたたちに関係ない!」と開き直れるんだけど、あろうことか、由美と吉永さんというクラス一番と二番の清純真面目コンビニ聞かれたから、つい喋ってしまった。
「じつは……」

「「え、尾てい骨骨折!?」」

 クラスのみんなに知られてしまった。

 二人に悪気はない「骨折」というところにアクセント感じて共感の叫びをあげただけ。恵里奈はジョバレだけあって、尾てい骨骨折のなんたるかを知っているんだろう。こいつも悪気なく爆笑。とんだ人気者になってしまった。
 で、二時間目以降は、例の睡魔と尾てい骨の痛みが交互にやってきて、まさに地獄の一日だった。

 夢を見た。夢の中にあたしに似た女学生が出てきた。制服はスカートが長めだったけど、同じ帝都だ。

――あなただれ……?――
――佐倉桜子よ――
――え…………?――
――あなたのひいばあちゃん――
――え、ひいばあちゃんが、どうして、そんな若い格好で……?――
――実はね……――

 なんだか長い物語を聞かされた。で、最後にとんでもないことを頼まれた。

 おかげで、今日もねだめカンタービレになってしまった……。

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