大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・123「大お祖母ちゃん・3」

2020-05-07 06:49:17 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

123『大お祖母ちゃん・3』    

 

 

 一時間かけて山を下りると登った時とは違う場所に出た。

 

 小学校のグラウンドほどの広場になっていて、ちょっと不自然。

 山の傾斜が途切れていて、そこだけが水平で、自然な地形ではないように思われた。

「このあたりの五つの山から切り出した原木が集められるところなのさ。四百年前にご先祖が切り開いて、ずっと使っている。シーズンになればトラックやら重機で賑やかになる。ここで枝を払って長さを整えて甲府の駅やら関越自動車道やらに運ばれて行くんだ」

 大お祖母ちゃんの説明を思い出す。

 貯木と製材を兼ねた広場なのだろうけど、美晴には適当な言葉が浮かばない。それだけ美晴の日常からはかけ離れた所なのだ。

 広場の下り斜面の方から自動車の音が響いてきた。十台くらいかと思ったら、上って来たのは二台の四輪駆動車だった。

「周りがみんな山だから、木霊して多く感じるんだよ。それにしても猛々しい」

 美晴も感じた、先頭の車は怒ったカブト虫のようにガチャガチャして、後ろの車は、それを見守っているように思えた。

「やっと会えたです、瀬戸内さん」

 最初の車から妙なアクセントの男がダークスーツを従えて降りてきた。後ろの車からは穴山さんと、夕べの宴会で見かけた男が心配顔で下りてきた。

「林(りん)さん、話の続きは明日のはずでしたが」

「申し訳ありません、どうしてもとおっしゃるので……」

 穴山さんが申し訳なさそうに付け加える。林(りん)さんと言うのだから中国の人なんだろう、その林さんが、穴山さんたちがダメだと言うのも無視してやってきたんだろうということが美晴にも想像できた。

「ごめんなさいね穴山さん、みなさん。チンタオ公司が動き始めてるので先を越されると心配なのです。きのう提示した金額に三億の上乗せします。どうか、この私に売ってください」

「ご心配なく、どこが来ても、この案件には同意しません」

「ん……こんなことを言ってはなんなのですが、あの山の所有者は惟任(これとう)さんです。慣習上瀬戸内さんの了解が必要、それは尊重しますが、法的には私と惟任さんだけの取引でもできますよ。でも、わたし日本の人たちと仲良くやっていきたい思うからです。チンタオ公司はもっとビジネスライクにやってきますよ」

「そうはいきませんよ、商取引、特に山林売買に関しては慣習が重視されます。無視すれば、その後の業務で日本の、少なくとも瀬戸内の協力は得られませんよ。そうなれば山の木一本運び出せない」

「あーーーでも、山の木は切りださなきゃ、九州豪雨のようなことになるんじゃないですか。300ミリちょっとの雨で山崩れとかありえないでしょ」

「そうなれば、持ち主である林さんの責任になるでしょう」

「んーーーかもしれないけど、林道や入会権は瀬戸内さんの裁量、裁判になったら五分五分でしょね」

 林さんは、けして無理を言っているのではないと美晴にも分かる。ハキハキものを言うけど、どこかすまなさそうに眉をヘタレさせるところなどクマのプーさん思わせるところがある。

「とにかくチンタオ公司は相手にしません。ここで言いあっても仕方がない、今夜はうちにお泊りなさいな、温泉にでも浸かれば、いい考えが浮かぶかもしれない」

「……ハーー、そうしましょうか。おーい美麗」

 林さんは4WDの後部座席に声をかけた。

「わたし、日本の温泉好きよ」

 そう言いながら4WDから出てきたのは、美晴と同年配の黒髪少女だった。

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新・ここは世田谷豪徳寺・3《疎遠な米井由美》

2020-05-07 06:38:55 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・3 (さくら編)
≪疎遠な米井由美≫  



 夏休みは、ほとんど成果とか成長とかからは無縁で終わってしまった。

 毎年のことだけれど。


 でも、まったく無かったわけでもない。しいて挙げれば二個ある。

 AMAZONのプライム会員になった。

 たいした注文はしないんだけど、2000円以上買わないと送料が発生することを知らなかった。主に本とかコスメとかファッション小物とかを買ってたんだけど、2000円以下になったことがなかった。たまたま、1800円のキャップをクリックしたら送料が400円付いたので「ええーー!?」っということになり、これからのことも考え、思い切ってプライム会員になった。

 するとプライムビデオってのが自動的に観れるようになって、これがビックリ!

 どうせオマケみたいなもんだろうと思ってた、ところが「あんたはネットフリックスか!?」ってくらいあって、見逃した映画やアニメの七割くらいは網羅されてる。

 で、日課の如くアニメとか見まくって「これの原作読みたいなあ」という気になってググってみると、ちょっと前のラノベなどは全巻セットが定価の30%くらいだったりする。

 それで、アニメで感動した『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』とか『りゅうおうのおしごと!』なんかを買ってみた。学校じゃ古本とか図書館の本を蔑む人が居るが(主に不潔という理由)、世田谷人間の割には感覚は関西人で、とても得した気分になる。

 で、けっきょく、夏休みでAmazonに8000円も貢いでしまう。ま、いいんだけど。


 もう一つの成果は『はるか ワケあり転校生の7カ月』の発見。以前は『はるか 真田山学院高校演劇部物語』でネットに出ていた。タイトルを変えて本物の本になったのでビックリするやら、先見の明がビビッとするやら。Amazonをクリックしたのは言うまでもない。

 読み直してみると、主人公のはるかが、今時こんな女子高生いるかって感じなんだけど。ちょっと抜けててピュアなところが、で、坂東はるかって女優さんのセミドキュメンタリー風。あたしのアンテナの周波数にあった。

 ネットばっかりだったので、今日は夏休み明けの短縮授業なんで渋谷Tデパートの本屋さんに行った。恵里奈は部活があるので、マクサを誘う。

「あ、絵の展示会やってる」

 エレベーターの中でマクサがささやくように言った。
 見ると印象派っぽい広告が貼ってあった。印象派は好きだしタダで観られるので、本屋さんの階は飛ばして催事場へ。H・大林という人の絵だ。港を海側から見た絵で『魔女の宅急便』の冒頭に似たものを感じる。ヨットの帆柱が林立する向こうに、ローマ時代の水道橋が見えて、その下のあたりが入江か川でがあることを暗示している。印象派的な光の使い方もいいけど、見えないところに空間の奥行きを感じさせるところがいい。
 このコンパクトでツボを押さえた評はマクサ。お茶の家元の娘だけのことはある。

「ちょっと、そのまま、ガラスに目の焦点合わせてみそ」
「え、なに?」
「いいから……」
 あたしが、そう言うとマクサも、ようやく分かった。

 ガラスには、あたしたちと同じ帝都の制服と乃木坂学院の制服のアベックが、絵を観ているのが映っていた。
 乃木坂は、ぜんぜん方角違い。これは、乃木坂の男子が気を使って、渋谷にまで来て、絵の鑑賞をしながらのつつましいデート。
「ウラヤマ~」
 マクサが呟く。あたしも、このアベックのありようをとても好ましく思った。だからして、お邪魔虫にならないよう、二人の視界に入らないように気を使った(n*´ω`*n)。

 ここから問題なのよね!

 一階下の本屋さんのフロアーに行ったら、また、このアベックに出くわした。本屋さんに来ることは問題なし。微笑ましいくらいに、あたしのアンテナには好ましく感じられ。

 ところが、ところがよ。あとがダメダメ!

 女の子は、ファッション雑誌のコーナーで若者向きのファッション雑誌見ながら「かわいい~」「いけてる~」を連発。よくよく見ると、甘ロリのところでキャピキャピ。男の子は、スマホでモバゲーとかやってる感じで、テキトーに返事。で、二人から感じられるのはイケてるオーラ。さっきのつつましさはどこ行ったんだ!
「ちょっ、よしなさいよ」
 マクサの制止をを振り切って横に並ぶ。彼女と同じ雑誌めくって「サイテーのセンスだね!」と独り言。さすがに女の子はムッとして、こちらをチラ見。

「あ、佐倉さん!?」
「あ、(学級委員長の)米井さん!」

 同じクラスで、疎遠な米井由美と初めて会話を交わした瞬間だった。

 で、あたしは、やっぱ、ピンクベイビーズ的なものが好きだ……と実感した瞬間でもあった。

 

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乙女と栞と小姫山・38『栞は栞』

2020-05-07 06:00:35 | 小説6

乙女小姫山・38
栞は栞』        

 

 

 この連休は、全てレッスンである。
 
 覚悟はしていたが、やっぱし厳しい。休日のレッスンは昼休みを除いて六時間ミッチリある。 
 
 まず、狭いスタジオの中を二十周ほど歩かされる。歩く条件は、ただ一つ「アイドルとして歩くこと」  
 
 その間、二人のインストラクターの先生は、なにかしらメモをしている。終わってもなんのアドバイスもない。 
 次ぎに、MNBのストレッチ。一定の型はあるんだけど、そのストレッチの間、個別に指導が入る。どうやら歩かせているうちに、体の歪みや癖がチェックされていたようで、各自、それに合ったメニューが付け加えられる。 
 栞は、それまで、自分の体に歪みがあるなんて思いもしなかった。 
 
「栞は右脚に重心をかけすぎ。あんな調子で吹雪きの中でまよったら、大きく左側にそれて、一時間も歩いたら、もとの場所に戻って、遭難間違いなし」 
「そうなんですか!」 
 
 みんなに笑われた。期せずして、ギャグになったのだ。
 
 「今のが、ギャグなんだけど、無意識に出た物だからおもしろい。あれを企んでやったらオヤジギャグになって、気温の寒さの前に、ギャグの寒さで凍死する」 
 もう一人のインストラクターの先生に指摘されて、また笑われた。 
 
 その後、しばらく「そうなんですか!」が五期生の中で流行った。
 
 「栞、自分の靴持っといで」 
「はい」 
「みんなよーく見て、この靴底。右の方が左よりも二ミリも減っている。わかるわね、右に力が入っているのが」 
「みなみ、あんたも靴持ってきて」 
「は、はい!」 
 武村みなみという子が靴を持ってきた。 
「ほら、みなみの靴と、栞の靴、よ-く見て。なにか気づかない?」 
 先生は、二人の靴を全員に回した。 
「なにか、わかった人?」
 「はーい」 
 こともあろうに、さくやが手をあげた。 
「栞先輩のは、やや外側のカカトが削れてますけど、みなみさんのは、内側が削れてます」
 「正解。でも、ここで互いの名前呼ぶときに『先輩』はつけない。同期は「ちゃん」か「呼び捨て」 
 ま、そのうちに愛称になったらそれも良し。この減り方から分かることは?」 
「X脚とO脚です」 
 
――わたしって、X脚か~―― 
 
 栞は落ち込んだが、先生がフォローしてくれた。 
「少し外側が減るくらいがちょうどいいの。栞は、その点は合格」
 「今から、新しい靴を配ります。当分学校も、レッスンもこれで来ること。靴底の減り方チェックするからね」 
 
 それから、みんなで靴底のチェックをしあった。きちんと減っている子は五人ほどしかいなかった。   
 今度は、まっすぐきれいに歩く練習だった。背筋の曲がり方、肩の左右の高さの違いなどチェック。
 「はい、フロアーの線をカカトで踏んで歩く。ふらつくな! 前を見て、腰から前に出す!」  
 全員でやっている間に、問題児は抜き出されて個別の指導を受けている。
 「モデルじゃないんだから、おすまししない! ごく自然にぶら上がった状態で歩く」 
 ブラ、上がった? 変な連想をした子もいたけど、先生の見本を見てすぐに分かった。自然でカッコイイ。 でも、どうやったら、それが出来るのかは謎だった。
 
 昼からは、表情の練習だった。
 「笑ってごらん」 
 先生に言われて笑ってみる。 
「ばか、声に出さない。顔だけで笑う。なんだ、おまえは虫歯が痛いのか!?」 
 確かに、虫歯が痛いのを堪えているような顔ばかりだった。
 「顔には、表情筋というものがあるけど、みんなは、その半分も使っていない」 
 先生は、いろんな表情をして見せてくれた。顔の筋肉が左右非対称で動くのを初めて知った。 
 これの一番簡単なのがウィンク。でも、だれもできなかった。
 それから、発声とステップの基礎。終わったころにはアゴが痛く、膝が笑っていた。
 
 夕方は、ステージのカミシモに分かれて見学。
 その日はチームMの公演だ。
 リ-ダーは、以前テレビでいっしょだった榊原聖子。顔つきがまるで違う。円陣を組んで気合いを入れる。
 「今日失望したファンは二度と来ない! だから、一人一人最高のパフォーマンスで! 掴んだファンは二度と逃がすな! いいな!!」 「おお!!」 「MNB24ファイト!!」 
 すごい気合いだった。知ってか知らでか、聖子は栞のことなど、完全にシカト。 
 武村みなみは、ステージの高さに顔をそろえ、選抜メンバーの靴のカカトばかり見ていた。
 そして、かえりは支給されたローファーを履いて、さっそく足にマメができてしまった。
 
 で、前号の台詞になる。
 
「ああ、もう死ぬう……」 
 いつもなら敏感な栞だが、この日はさすがに、乙女先生が、こんな時間に家にきていることも、ほとんど気にかからなかった。
 明くる日、ステージ袖のモニターに映る開演前の客席に、乙女先生と旦那さんに挟まれた女の子を見て、ちょっと不審に思った。
 
――乙女先生、娘さんなんかいたっけ……――
 
 「そこの研究生!」 
「はい!」  
 
 あっと言う間に、乙女先生の家のことなど、頭から飛んでしまった……。

 

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