大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・154『欄干の陰』

2020-05-21 13:44:01 | 小説

魔法少女マヂカ・154

『欄干の陰』語り手:マヂカ     

 

 

 お世話になりました( ;∀;)!

 

 峠のお地蔵さんの横で、千切れそうなくらい尻尾を振ってシロが見送ってくれる。

 友里と二人で手を振って応える。

 それが嬉しくて、一層激しく尻尾を振る。

 

 プツン

 あ!?

 

 ほんとうに尻尾が千切れて、春日部の空に舞い上がった。

 ワン!

 一声吠えると、ツンが駆けだし、ピョンと飛び上がったかと思うと尻尾を咥えて、シロに返してやる。

 パチパチパチ

「さすが、西郷隆盛の猟犬ね(^▽^)/」

 友里が微笑ましそうに拍手する。もう一度手を振ると、お地蔵さんが「エヘヘヘ」と頭を掻いた。

「お地蔵さんかと思ったら、どうやら飼い主だな」

 飼い主の正体を見極めたい気もしたが、ちょうど雲間から現れた太陽が逆光になってシルエットにしてしまったので、神の御意思でもあろうかと歩みを北にとった。

 赤白龍と銀龍を退治したせいか、それからの道中は穏やかだ。

 

 道は川に沿っていて、架かった橋の向こうに西洋のお城のような建物が見えてきた。

 

 もしもし……もしもし……

 

 かそけき声に振り返ると、欄干の橋柱の下に居た。

「あ、また犬だ」

 欄干の色に溶け込みそうになって大人しい犬がお辞儀をしている。

『御足を止めて申し訳ございません、わたくしは、春日部でお世話になりましたシロの母親でボ○シチと申します』

「いや、世話になったのはわたし達の方かもしれないんだ。シロの働きが無かったら赤白龍は倒せなかったよ」

『ご謙遜を、魔法少女さんのお力が無ければ、あの子の力ではどうにもなりませんでした』

「そのお母さんが、なにか御用なのだろうか?」

『いずれお気づきになるかもしれませんが、怨敵の首魁は赤白の鉄塔でございます』

「あ、それなら、アマチュア無線のアンテナだったわよ。シロが気づいてくれて、なんとかやっつけたわ」

 まるで自分がやっつけたように言う友里だが、まあ、誇らしく思っているのだから、これでもいい。

『あれは、ゲームで言えば中ボス程度の霊魔。首魁、ラスボスは東京タワーでございます』

「やはりな」

「え、マヂカは分かってたの?」

「確信は無かったがな、東京タワーはスカイツリーが出来てからは予備電波塔に甘んじていたからな」

『そうなのです、マヂカさんが復活されて間もないころに霊魔の幼体を退治されたのもスカイツリーでございました。霊魔どもは、より力のあるものを依り代といたします』

「そうだったな……これは、難儀なことになるかもしれない」

『東京タワーは、現役のころは、寄って来る霊魔どもを制する力を持っておりましたが。が、今は、逆に憑りつかれているようなありさまでございます』

「なにが憑りついている?」

『それは……』

 ボ○シチはもどかしそうに口をパクパクさせるだけで、言葉にすることができない。

「そうか、鬼籍に入っても口にできるのはそこまでなのだな」

『申し訳ございません、お察しくださいませ』

「いや、おかげで確信が持てた。本体が明らかになっただけでも大助かりだ」

『あと、もう一つ』

「なんだ?」

『西郷さんがツンをおつかわしになったのには、もう一つの訳がございます』

 ワン?

『西郷さんのお名前、実は隆盛ではないのです。西郷さんは申されませんが、西郷さんのお名前を明らかにすることも……』

「役割の一つなのだな……」

『はい、全てを解き明かした時に、神田明神さまの問題も、おのずと……』

「そこまででいいよ、ここで力を使い切っては、シロに会いに行く力が残らなくなってしまうだろ」

『恐れ入ります、それでは、これにて……』

 ボ○ルシチは、いそいそと春日部への道を駆けだした、何度も振り返っては頭を下げながら。

 

 わたしたちは、橋を渡って、先ほどから見えている城を目指した。

 橋を渡ったところに道標があり、『これより壬生(みぶ)』と書いてあった。

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・17《TEIKOKU5 聖火ドロボー》

2020-05-21 05:58:57 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・17(さくら編)
≪TEIKOKU5 聖火ドロボー≫    



 古い学校には伝説や言い伝えが付き物である。

 佐伯君の乃木坂でもマッカーサーの机(『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく載っている)とか、どこにも通じない階段とかがあるそうだ。
「さあ、六つ目よ!」
 米井さんの号令で、部活も終わった5時半に、あたしたちは、学校の玄関に集まった。

「ここに、帝都女学院の六つ目の不思議があります!」
「え、え、ええ?」
 そんな感じで、あたしたちは玄関を見渡した。
 玄関に入って右側が事務室の窓口。左側には大きなショーケースがあって、優勝杯や優勝旗、なんかの感謝状や表彰状……この手のものは、うちぐらいに古い学校なら倉庫に一杯ぐらいある。その横に『憧れ』というタイトルの少女の胸像。こんなのも珍しくない。ヘタに創立者のジイサンのがあるよりは趣味がいい。

「これ」

 5分ほどしてマクサが指さした。
 そこには5人の帝都の女生徒が、変な手つきして、不器用そうに固まっている油絵が飾ってあった。右の下を見るとSEIKO1964とサインが入っている。よく描けた絵だけど、線や色のタッチから美術部の生徒かOGが描いたものだろうと推測された。
「あ、この子たちの手、手話だ!」
 吉永小百合という、一度聞いたら忘れられない名前の子が発見した。
「なんて書いたあるの?」
 一番背の低い恵里奈が乗り出して聞く。
「それが……へんだな?」
 小百合はご本家に負けないくらいかわゆい顔で小首を傾げた。
「どう変なのよ?」
「古い手話なんで自信ないんだけど、ド・ロ・ボ・ーとしか読めない」
「泥棒!?」
 みんなの声が玄関に響いた。

「バレちゃったかしら?」

 声に気づいて振り返ると、なんと校長先生が立っていた。
「あ……ア!?」
 小百合が、さらに何かに気づいて口を押えた。
「そう、このドロボーの「ド」の手をしているのが私……!」

 というわけで、校長室に通された。

「あなたたちが七不思議を探しているのは知ってたわ。食堂のオジサンや技能員さんがうわさしてたから。でも、ここまで来るとは思わなかった」
「あたし、これが本命だったんです。あとのは、これの引立てみたいなもんです」
 引立てに、あたしら引きずり回したのかよ……。
「以前、校長室にお邪魔したときに引っかかったもんで」
「ああ、あれ……」
 校長先生が振り返ったところには、校長専用の飾り棚があって、そこに古ぼけたランプがあった。よく見るとランプの下にもSEIKOと字が彫り込まれていた。
「その字と絵のサインがいっしょで、手話の「ド」の女の子が若いころの校長先生だって分かったんです」
「よくわかったわね?」
 同感。
「名札の字は崩してありますけど『白波』って読めました。そう読めると……頭の中で補正したら、校長先生になっちゃったんです」
「ハハ、しわを伸ばして、ぜい肉とったのね」
「あ、いえ、その……」
 米井さん以外が、みんな笑った。

「あれ、東京オリンピックの聖火を盗んだの。だからド・ロ・ボ・ー」
「え、聖火盗んだんですか!?」
「「「「「どうやって!?」」」」」
 感嘆と質問がいっせいに出た。
「むろん聖火そのものは盗めやしないわ。「ロ」の子が写真部でね、聖火の写真をロングで撮ったの。それを大きめのスライドに焼いてね、「ボ」の字の子が演劇部でね、スポットライトのレンズの真ん中に貼りつけて、太陽の光を集めて火を起こしたの。それやったのが「-」の子。で、その年の運動会の聖火に、これを使ったってわけ。
「あの、SEIKOというのは?」
「美術の松田先生。偶然名前が聖子だから、手話と重ねて読むと……」
「ドロボー成功!?」

 というわけで、50年ぶりに聖火のランプに火をともした。帝都伝統のオチャッピーの聖火!

 帰りに、校長先生は米井さんと佐伯君に声をかけていた。声は聞こえなかったけど「がんばってるわね」というのが口の形で分かった。

 七不思議の残りは、あと一つ。それは、もっと意外なところに……起こった。

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乙女と栞と小姫山・52『風立ちぬ』

2020-05-21 05:49:57 | 小説6

 乙女小姫山・52
 『風立ちぬ』     

          


 紫陽花が人知れず盛りを終えたころ、夏がやってきた。

 あれだけ冷温が続いた春は、いつのまにか蝉の声かまびすしい夏になってきた。さくやはMNBではパッとしなかったが、それでも選抜のバックコーラスやバックダンサーをさせてもらえるようになり、楽屋では自称「パシリのさくや」とニコニコと雑用をこなし、メンバーからはかわいがられていた。

「ジャーン、この中に、当たりが一本は必ずあります!」

 スタッフの分を含め四十個のアイスを保冷剤をいっぱい入れてもらって、さくやが買ってきた。むろん制服姿で、宣伝を兼ねている。こういうパシリでは、制服でMNBということが分かり、ファンの人たちから声を掛けてもらえるので、さくや本人はいたって気に入っていた。

「あ、わたし、当たり!」
 
 七菜が嬉しそうに手を挙げた。
「ラッキーですね、すぐに当たりのもらってきます!」
「いいよ、さくや、これは縁起物だからとっとく」
「そうですか、それもいいですね。じゃ、サインしときゃいいんじゃないですか。七菜さんのモノだって」
「ハハ、まさか、取るやつなんかいないでしょう」
 聖子が、アゲアゲのMNBを代表するかのように明るく言った。
「いいえ、神さまって気まぐれだから、運がどこか他の人にいっちゃうかも。栞さんとか」
 近頃、ようやく栞に「先輩」を付けなくなった。言葉も全国区を目指して標準語でも喋れれるようにがんばっている。大阪弁は、その気になればいくらでも切り替えられる。今までずっと、それで通していたんだから。

 昼からは、バラエティーのコーナーである「学校ドッキリ訪問」のロケに府立口縄坂高校にバスを二台連ねて行くことになっていた。
 口縄坂高校は、府の学校改革のフラッグ校と言われ、近年その実績をあげている。そのご褒美と学校、そして府の文教政策の成果を全国ネットで知らせようと、府知事がプロディユーサーの杉本と相談して決めたことである。一部の管理職以外は、午後からは全校集会としか伝えられていなかった。

 そこへ、中継車こみで三台のMNB丸出しのバスやバンがやってきたのだから、生徒たちは大騒ぎである。
「キャー、聖子ちゃ~ん!」
「ラッキーセブンの七菜!」
「スリーギャップス最高!」
 などと、嬌声があがった。
 とりあえず、メンバーは楽屋の会議室に集合。生徒たちは、いったん教室に入った。研究生を入れた総勢八十人のメンバーは、三人~四人のグループに分かれ、各教室を回った。カメラやスタッフは、三チームで各学年を回った。

「わたし、小姫山高校なんで、こんな偏差値が十も上の学校に来るとびびっちゃいます!」
 教壇で栞が、そう切り出すと、生徒たちからは明るい笑い声が返ってきた。その中に微妙な優越感が混じっていることを、栞もさくやも感じていた。
「MNBで、オシメンてだれですか?」
「しおり!」
 如才ない答が返ってくる。あとは適当なクイズなんかして遊んだ。クイズといっても勉強の内容とは関係ないもので、当たり前の答はすぐに出てくる。
「これ、なんて読みますか?」
「離れ道!」
「七十九点!」
 栞は、わざと評定五に一点だけ届かない点数を言ってやった。案の定その子は、かすかにプライドが傷ついた顔をした。
「MNBじゃ、なんて読む、さくや?」
「はい、アイドルへの道で~す。首、つまりセンターとか選抜への道は、遠く険しいってわけです」
「この、しんにゅうのチョボは、私たち一人一人です。その下は、それまで歩んできた道を現しています。だから、このチョボは、今まさに首=トップにチャレンジしようとしているんです。そうやって見ると、この字は、なんだか緊張感がありますよね。わたしたちはアイドルの頂点を。あなたたちはエリートの頂点を目指してがんばりましょう!」

 教室は満場の拍手。栞は笑顔の裏で、少し悲しいプライドのオノノキのように聞こえた。

 それから、講堂に全生徒が集まって、ミニコンサートになった。この口縄坂高校は、プレゼンテーションの設備が整っていて、講堂は完全冷暖房。照明や音響の道具も一揃いは調っていた。まあ、これが学校訪問が、こんなカタチで実現した条件でもあるんだけれど。

「それでは、来校記念に、新曲の紹介をさせていただきます。『風立ちぬ』聞いて下さい」


 《風立ちぬ》作詞:杉本寛   作曲:室谷雄二

 走り出すバス追いかけて 僕はつまずいた

 街の道路に慣れた僕は デコボコ田舎の道に足を取られ 気が付いたんだ

 僕が慣れたのは 都会の生活 平らな舗装道路

 君を笑顔にしたくって やってきたのに 

 君はムリに笑ってくれた その笑顔もどかしい

 でも このつまずきで 君は初めて笑った 心から楽しそうに

 次のバスは三十分後 やっと自然に話せそう 君の笑顔がきれいに咲いた

 風立ちぬ 今は秋 夏のように力まなくても通い合うんだ 君との笑顔

 風立ちぬ 今は秋 気づくと畑は一面の実り そうだ ここまで重ねてきたんだから

 それから バスは 三十分しても来なかった 一時間が過ぎて気が付いた

 三十分は 君が悪戯に いいや 僕に時間を 秋の想いをを思い出させるため書いた時間

 風立ちぬ 今は秋 風立ちぬ 今は秋 ほんとうの時間とりもどしたよ

 素直に言うのは僕の方 素直に笑うのは僕の方 秋風に吹かれて 素直になろう

 ああ 風立ちぬ ああ ああ ああ 風立ちぬ


 スタンディングオベーションになった。
 構えすぎていたのは自分だったかも知れないと思った。
 みんなが笑顔になった。栞もさくやも、自然に笑顔になれた、

 その時までは……。

 

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