大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・147『アリとキリギリスとさくら』

2020-05-20 13:23:30 | ノベル

せやさかい・147

アリキリギリスさくら』         

 

 

 六月に学校が再開される……らしい。

 

 今までも○○までに再開とか、休校は○○までと言われては延長になってきたので油断禁物。

 やねんけど……信じたくなる。

 もう、家におるのも飽きたしね。というか、不安や。

 こないだのバーチャル女子会は、最新のホログラム技術で、あたかも、本堂に頼子さんが出現したみたいで、不覚にも涙ぐんでしもたりした。

 スーパーの前で留美ちゃんに逢うたときは、二人とも泣きながら喋りまくったし。

 

 日課になった境内の掃除も、あと十回ほどでおしまい。

 

 そう思うと、掃除にも熱が入る。

 敷石の縁(へり)を蟻が歩いてる。

 よう見ると、前後にも蟻が歩いてて、のどかな蟻さんの行列。しゃがみ込んで見とれてしまう。

 途中から、蟻さんたちは荷物を持ってるのに気付く。

 なにやろ? え……脚?……羽根?……首!?

 蟻さんたちは、死んだ虫をバラバラに解体して巣穴に運んでる最中!

 しゅんかん、フラッシュバックした。

 小三ぐらいのときにも、学校の運動場で蟻の行列を見た。同じようにキリギリスかなんかを解体して運んでた。

 保育所で習った『アリとキリギリス』が頭に浮かんだ。

 夏に遊んでばっかりやったキリギリスは、冬になって食べ物もなくなって飢え死に寸前で、蟻さんの家に転がり込む。蟻さんたちは、そんなキリギリスを暖かく迎えてやって食べ物を分けてくれる。キリギリスは涙を流して感激し、これからは真面目に働くことを誓うのでありました!

 そいうハートフルな話やったのに、なんと、蟻さんはキリギリスをバラバラにして食料にしてる!

 子ども心にも、蟻さんたちが、むっちゃ悪者に思えてきて。ランドセルからレンズ付き定規を出して、太陽光線を集めて照射、逃げ惑うところを執拗に追いかけて焼き殺した。

 蟻さんはそっくり返って身もだえし、最後はプツンと音がして小さな煙が立つ……スルメが焼ける匂いがした。

 ちょうど、お父さんが帰ってこーへんようになった時期。

 数年ぶりに思い出して、自分の中に戦慄が走る。

 自分の部屋に取って返して、虫メガネ持ってきて、蟻さんを焼きたい衝動にかられる。

 もう一回、スルメが焼けるような匂いを嗅いでみたいと、慄いてしまう。

 

 ニャーー

 

 いつのまにかダミアが寄ってきた。

 顔を起こしてダミアと目が合う。

 ダミアはギクっとして固まって、二三歩後ずさりしたかと思うと、本堂の方に逃げて行った。

 ひどい顔をしてたんやろなあ。

 

 やっぱり、学校は早く始まったほうがいい!

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・16《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

2020-05-20 05:56:19 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・16(さくら編)
≪たぬき蕎麦から見える日本の文化≫   



 帝都の「たぬき蕎麦」は、ちょっと違う。

 ふつう「たぬき蕎麦」ってのは、かけ蕎麦の上に天かすが載っているものと決まっている。ところが、我が帝都女学院のそれは、かけ蕎麦にネギがドッチャリ入っている。200円と言う安さで、生徒に人気のメニュー。入学したころはびっくりしたけど、お手軽でビタミンたっぷりの優れもの。カウンターにはカイワレも載っていて自由に入れられる。別名「ビタミン蕎麦」とも言う。

 で、なんで、これが「たぬき蕎麦」なのか、食堂のオジサンはうんちくを垂れた。

「ここの食堂任されたときに、なにか安うて特別なメニュー作ろ思て考えたんや。玉子は高いし、安うてボリュームあって、栄養のあるもん」
「それがたぬき蕎麦なんですか?」
「せや!」
「で、なんでネギ載せたのが『たぬき』になるんですか?」
「玉子蕎麦の玉子抜きや!」
 たぬき蕎麦の「た」は玉子の「た」だったのだ。
「ネギはボリュ-ムの割に安い。で、栄養もたっぷりやさかいな。震災の後、これ作ってみんなに喜んでもろたん思い出してな」
「でも、この夏なんかネギ高かったでしょう?」
 佐伯くんが、もう帝都の生徒みたいな気楽さで聞いた。
「あれは例外。それに夏休みやったから営業してへんかったさかいな。ほんまの『たぬき蕎麦』はかけ蕎麦の上に煮しめたアゲさん乗せるんや」
「え、それって『きつね蕎麦』じゃないんですか?」
「それは東京。関西は、これを『タヌキ蕎麦』という。うどんが蕎麦に化けたいうのが語源や」
「へえ、そうなんだ!」
「その返事は、関西では、ちょっと冷とう聞こえる」

 ということで、たぬき蕎麦から東西文化の違いに発展。あくる日改めてオジサンの話を聞くことにした。

「東京でレーコは通じひんやろ」
 恵里奈は分かっているようでクスクス笑っている。あたしらには分からない。
「アイスコーヒーのことをレーコと言う。元々は喫茶店で出たコーヒーの搾りかすをもろてきて、煮出したコーヒーの二番煎じ」
「ええ、そんなの香りも味もないでしょ!」
 と、みんなの反応。
「味はけっこう残ってる。そこにシロップと牛乳ぶちこんでキンキンに冷やす。これがもとで喫茶店の冷たいコーヒーもレーコ言うようになった。元祖レーコは冷やし飴よりいけるで」
「そうなんだ」
「昨日も言うたけど、それ、関西人には冷とう聞こえる」
「じゃ、なんて言うんですか?」
「ほんまあ!? とか、おもろいなあ! ウッソー!やな」
 なるほど、距離感の近い言葉だ。テンションが上がりそうだ。

 それから東西文化の違いに花が咲いた。

 エスカレーターで左右のどっちを空けるか。程よい整列乗車の仕方の違い(大阪なんかは並んだふりして、電車がきたら要領次第)直すという言葉には「片付ける」という意味があること。大阪の人間はおそらく日本で一番声が大きい。この話の間もオジサンと恵里奈の声が目立ったというか、恵里奈はオジサンと意気投合してた。
 電気が60と50ヘルツの違いがあって、東西に跨って走る電車は、途中電気の通っていない区間をちょこっと惰性で走って切り替えてるらしい。
 アホとバカの重さの違い。これは思い出した。一年の頃、恵里奈に「バカね」と言ったら、すごくショックな顔をしたので違いは分かる。東京の人間に「アホ」と言うとケンカになりかねない。関西は、その逆。

 そんなこんなで、また日が暮れてしまった。オジサンは「たぬき蕎麦」をごちそうしてくれた。オジサンも含めて、みんなフレンドリーになった。佐伯君もなんだか、もう仲間。でも律儀な佐伯君は、病院から来ているのにもかかわらず、必ず乃木坂の制服を着てくる。

 彼らしいけじめのつけ方だろうと思ったが、事情はあたしを含めて5人しかか知らない……これで七不思議の五つは揃った、あと二つだ。

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乙女と栞と小姫山・51『もらった南天』

2020-05-20 05:46:21 | 小説6

 乙女小姫山・51
 『もらった南天』             

 

 

 

 中間テストの初日であったが、朝から全校集会になった。

「黙祷!」

 首席の桑田が号令をかけた。さすがに水を打ったように静かになった。

 

 一昨日、墓参りのあと、田中教頭が霊園の門前で急死したことを、校長の水野が簡潔に述べたあとである。一分間の黙祷が終わった後、校長は再び演壇に上がり、話を続けた。

「田中教頭先生は、この春に淀屋橋高校から赴任されてこられました。赴任以来、本校の様々な問題について、わたしの女房役を務めていただきました。昨年わたしが本校にまいりましてより、我が校の改革に邁進してきましたが、今年度に入り、様々な軌道修正をしながら、本格的な改革案を練る作業に入ったところであります。その実務を裏で支えておられたのは田中先生です。先生を、突然失いわたしは両腕をもがれた思いであります……正直、先生達がやろうとしている改革は、君たちが在学中には実現が難しいほど壮大な難事業であります。時間と、途方もない忍耐力が要ります。先生は、持ち前のモットー『小さな事からコツコツと』を実践してこられ……」

 それから、校長は新しい教頭が決まるのには数日かかること、田中教頭は妻子を早くに亡くし孤独な生活を送ってきたが、生徒のみんなを自分の子どものように思っていたことなどを交え、田中教頭の姿を美しく荘厳して話を終えた。

 生指の勘で、校庭の隅のバックネットの裏に生徒の姿を感じて、現場に急いだ。
――こんなときにタバコか――予想は外れた。
 そこには、しゃがみこんで泣いている栞がいた。
「栞、どないしたん……」
「わたし……わたし、人が死ぬなんて、思ってもいなかったんです!」
「栞……」
「学校の改革は必要だと思ってました。だから、進行妨害事件でも、あそこまで粘りました。それが正しいと思っていたから。そして改革委員会ができて、実際の進行役が教頭先生で、苦労されていることも父から聞かされて知っていました。でも……でも亡くなってしまわれるほどの御心労だったとは思いもしなくて、いい気になってMNBなんかでイキがちゃって……なんて、なんて嫌なやつ! 嫌な生徒!」

 次の瞬間、乙女先生は、栞を張り倒した。

「自分だけ、悲劇のヒロインになるんとちゃう!」
「先生……」
「オッサン一人が死ぬのには、もっと深うて、重たい問題がいっぱいあるんじゃ!」
「他にも……」
「いま分からんでも、時間がたったら分かる。さ、もう試験が始まる。教室いき……」
「……はい」
 駆け出した栞に、乙女先生は、思わず声をかけた。
「栞がしたことは間違うてへん。それから……教頭さんのために泣いてくれてありがとう」
 栞は、何事かを理解し、一礼すると校舎の方に戻っていった。

「しもた、シバいたん謝るのん忘れてた!」
 振り返ったが、栞は全て理解した顔をしていたので、もう、それでいいと思った。

 教頭の葬儀には、手空きの教職員が行った。

 後日わかったことであるが、通夜と葬儀を足すと全職員数の1・5倍になった。

 職員の受付には技師の立川さんが座っていた。土地柄であろうか、細々とした仕事は明らかに、プロではない地元の人たちが手伝っている。その様子を見ていると、上辺だけではなかった教頭の近所づきあいの良さがうかがえた。
「ほんまに、去年の盆踊りにはなあ……」
「そうそう、正月のどんど焼きでも……」
 家族がいないせいか、ご近所にはよく溶け込んでいたようだ。

 焼香を終わって一般参列者の群れの中に戻ると、喪服に捻りはちまきというジイサンが呼ばわっていた。
「どないだあ、米造が丹精した盆栽です。お気に召したんがあったら、持って帰っとくなはれ!」
 半開きにされたクジラ幕の向こうには、全校集会のように盆栽たちが並んでいた。ゆうに、中規模の盆栽屋ぐらいの量があった。とても会葬者だけでさばける量ではない。
「これ、残ったら、どないしはるんですか?」
「あ、わしが引き取ります。ヨネが生きとったころから、そう話はつけたあります。生業が植木屋やさかい、どないでもなりますけどな。どこのどなたさんか分からん人に買うてもらうより、まずは縁のあった人らにもろてもらおと言うとりました。あんさんには、これがよろしい」
 おじいさんは、小ぶりな南天の盆栽を、なんの迷いもなく、慣れた手つきでレジ袋に入れてくれた。

「お棺のフタを閉じます。最後のお別れをされる方は、こちらまで」

 係の人の声に促され、乙女先生は棺の側まで行った。田中教頭は、着任式の印象とは違って、とても穏やかな顔をしていた。
「よかったな、ヨネボン。こないぎょうさん来てもろて。好子さんも碧ちゃんもいっしょやで」
 喪主のお姉さんが、二枚の写真を入れていた。一枚は卒業式の妻子の写真……そして、もう一枚は、なんと乙女さんの娘美玲の制服の写真だった。どうやら、娘さんの碧ちゃんと間違われたようだった。
 乙女さんは、一瞬混乱したが、田中教頭の大阪城での嬉しそうな顔を思い出した。
――これでええ、本人さんは、よう分かってはる――
 傍らに掲げられた府教委の死者への表彰状だけが、そらぞらしかった。

「教頭さん、ああ見えて、なかなか周旋能力の高いひとでしたからね、あとが大変だ。乙女先生、よろしくお願いしますよ……」
 ハンドルを握りながら、校長が呟いた。
 脇道から自転車が飛び出したが、さすがの校長、緩い急ブレーキで止まった。
――あ……!――
 南天が驚いたような声をあげたような気がした。
 ふとレジ袋を見ると、鉢にさした札には、一字で、こう書いてあった。

 碧…………。

 

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