大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・133「真面目に下見・1」

2020-05-31 13:14:51 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

133『真面目に下見・1』朝倉美乃梨   

 

 

 T駅の改札を出てロータリーに向かう階段を降りると、驚いたことにお迎えが来ていた。

 

 南河内温泉の法被を着て温泉の小旗を持った、ちょっと髪の毛が寂しい番頭さん。

「わざわざお迎え有難うございます、予約しておいた朝倉です」

「あ、おいでなさいませ。どうぞ、車の中へ」

 温泉のロゴの入ったワンボックスに収まる、直ぐに発車……と思ったら、番頭さんは小旗を振りながら走り出した。

 何事かと思ったら、もう一つ出口があったようで、五人連れの女子学生風といっしょに戻ってきた。どうやら、他にもお客が居たんだ。

「では、出発いたします」

 六人の客を乗せて走り出す。

「すみません、後ろに追いやったみたいで」

 わたしの横に座ったボブの似合う子が頭を下げる。

「いいえ、学生さん?」

「はい、おひとりですか?」

「ええ」

 あなたも学生さん? とは聞いてこなかった。

 半年とは言え、教師をやっていると『らしさ』が身に付いたのかもしれない。一泊の、それも下見なんだ。同宿の人に気を使うこともないわよ。

「朝倉先生、夕食は承っていたのですが、気を付けなければならない食材とかございますか?」

「え、ああ、特にアレルギーとかはありませんから」

 簡単に済ませた予約だから確認が遅れたんだろうけど、先生の敬称は余計だ。

「あ、先生だったんですか?」

 ボブ子さんが笑顔を向けてくる。

「ええ、こんど生徒を連れてくるんで、下見に」

「あ、そうなんだ。高校ですか?」

「あ、はい」

 それから、前のシートの四人も話に加わる。ボブ子さんとポニ子(ポニーテール)さんが教職をとっていて、この春に教育実習を済ませたところだったので、いろいろと質問される。

 まあ、同宿のよしみ。半分は社交辞令と和やかに話しているうちに、和泉山脈麓の宿に到着。

 まだ半年にしかならないと言うと「え、そうなんですか!?」「なんか、ベテランに見えます!」とか驚かれる。

 驚かれるということは……実年齢よりも……歳食って見えるってこと?

 

 正体がバレてしまったので、宿の駐車場に着くと、ロビーに至るまでの動線を確認。スロープとか、玄関ロビーの段差とか。千歳の事があるからね。

「朝倉さん、送迎の車、折り畳みの車いすなら後ろから載せられるそうですよ!」

 ポニ子さんが教えてくれる。

 抜かっていた、まずは車いすが載せられるかどうかが問題なんだ。千歳は普段は電動を使っている。

 あ、でも、なんで千歳の事知ってるんだ? あ、自覚無いけど話しちゃったんだっけ?

「朝倉さん、入浴用の車いす完備しているそうなんで、あとで試してみません?」

 モブ子さんがフロントで確認してくれてご注進。

 優雅に温泉に浸ろうかと思っていたんだけど、なんだか真剣に下見しなければならなくなってきた(;^_^A

 

 

☆ 主な登場人物

 小山内啓介     二年生 演劇部部長 

 沢村千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した

 ミリー・オーエン  二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生

 松井須磨      三年生(ただし、四回目の)

 瀬戸内美晴     二年生 生徒会副会長

 朝倉美乃梨    演劇部顧問

 

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あたしのあした08『もう一人のあたし・2』

2020-05-31 06:30:00 | ノベル2

08『もう一人のあたし・2』      


 

 ついこないだまで、合わせ鏡で自分のお尻を見ても平気だった。

 それも、単にお尻を見るだけじゃなくて、お尻の穴が見えるかどうかを観察していた。
 それが、浴室の鏡に自分の裸が見えただけでドギマギしている。

 とても変だ。

 学校じゃ、いじめのボスである横田智満子を、ほんの一瞬で凹ませた。
 あたしに対するいじめは、あっけないほど簡単に解決した。そう、自分自身で解決したんだ。
 これも、今までの自分からは考えられないことだった。

「恵子、お行儀が悪い」

 晩御飯を食べようとしたら、お母さんに注意された。
「え……うっそー?」
 椅子の上で胡坐をかいている自分に気づいてビックリした。
「退院してから、ずっと胡坐だわよ」
「言ってくれたらいいのに」
 ひょっとしたら学校でも胡坐だったんじゃなかったかと、少し狼狽えた。
「元気になってくれたのが嬉しくて、ね、『ま、いいか』だったんだけどね、ちょっと目につくから」

 お母さんは不安だったんだ。あたしの元気が一過性のもので、ちょっと注意したことで、あたしの鬱がぶりかえさなかと。

 なんたって、自殺未遂から四日しかたっていないもんね。
 お母さんが胡坐を注意したということは、それだけあたしのことを安心したということなのだから、嬉しくはある。
 お母さんを安心させて、嬉しく思うなんて……小学校の運動会以来だなあ。
 くすぐったく思っていると、新聞の記事が目についた。

 春風さやか議員乱脈疑惑は秘書の仕業!

 乱脈な政務活動費・二重国籍に疑惑を持たれていた春風さやか衆議院議員の潔白を示す資料が発見される……。

 記事は続いていた。

――風間秘書は親の代からの秘書で、わたしの女房役というよりは、文字通り親同然でした。風間秘書から見ると、わたしは未熟で、気が気ではなかったのだと思います。ですので、わたしに分からないように違法なことも含めて世話を焼いてくれた結果だったと思います。むろん、それに気づかずにいたわたしに問題があったことは事実ですので……――

 春風さやかって、病院のエントランスで見かけた人だ。そして……。

「議員秘書の風間さんて、あたしを救けてくれた人だよね……」
 食卓のおかずにお箸を伸ばしながら記事の残りを目で追った。
「ご飯食べながら新聞読むのも、どうかと思うわよ」
「え、ああ、ごめんなさい」
 そう謝りながら、新聞から目が離せない。
 風間さんが可哀そうという気持ちと、これでいいという気持ちがせめぎ合っている。
 というより、春風議員の疑惑は秘書の風間さんがやったことであると新聞も締めくくっているのに、あたしは信じていない。
 てか、なんで新聞の政治欄なんか読んでんだ、あたし?
 あたしは、お漬物を小気味よく噛み砕く。
「恵子、あなた奈良漬食べるようになったの?」
「え……?」
 口の中にあるのが、大の苦手な奈良漬であることに気づいた。

 あたしってば、ほんとうにどうしたんだろう……そう思いながら、二つ目の奈良漬に手を伸ばしていたのだった。
 

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メタモルフォーゼ・9『受売神社の巫女さん』

2020-05-31 06:21:50 | 小説6

メタモルフォーゼ

9『受売神社の巫女さん』        

 

         


 あたしを、こんなにしたのは優香かと思った……。

 だって、優香が自転車事故で死んだのと、あたしが男子から女子に替わったのはほぼ同じ時間。
『ダウンロード』は優香が演りたがっていた芝居で、優香は、よくYou tubeに出てる他の学校が演ったのを観ていた。
 しかし、それは一人芝居で、あれを演ろうとすれば当時発言権を持っていたヨッコ達をスタッフに回さなければならず、ヨッコ達は、そんなことを飲むようなヤツラじゃない。自分は目立ちたいが、人の裏方に回るのなんかごめんというタイプだ。

 あたしは、訳が分からないまま部活を終えて、気がついたら受売(うずめ)神社の前に来ていた。鳥居を見たら、なんだか神さまと目が合ったような気になり、拝殿に向かった。
 ポケットに手を入れると、こないだお守りを買ったときのお釣りの五十円玉が手に触れた。
「あたしのナゾが分かりますように」
 が、手を合わせると替わってしまった。
「うまくいきますように」
 なぜだろう……そう思っていると、拝殿の中から声がかかった。

「あなた、偉いわね」

 神さま……と思ったら、巫女さんだった。
「あ……」
「ごめん、びっくりさせちゃったわね。売り場と拝殿繋がってるの。で、こっち行くと社務所だから」
「シャムショ?」
「ああ、お家のこと。神主の家族が住んでるの。で、わたしは神主の娘。自分ちがバイト先。便利でしょ」
「ああ、なるほど」
「あなた、AKBでもうけるの?」
「え、いえ……あたし……」
「あ、受売高校の演劇部! でしょ?」
「は、はい。でもどうして?」
「これでも、神に仕える身です……なんちゃってね。サブバッグから台本が覗いてる」
「あ、ホントだ。アハハ」
「でも、偉いわよ。ちゃんとお参りするんだもの。こないだお守りも買っていったでしょ?」
「はい、なんとなく」
 なんとなくの違和感を感じたのか、巫女さんが聞いてきた。
「あなた、ひょっとして、ここの御祭神知らない?」
「あ、受売の神さまってことは、分かってるんですけど……」

 詳しくは知りませんと顔に書いてあったんだろう。巫女さんが笑いながら教えてくれた。

 ここの神さまは天宇受売命(アメノウズメノミコト)という。

 天照大神(アマテラスオオミカミ)が天岩戸にお隠れになって、世の中が真っ暗闇になったとき、天照大神を引き出すために、岩戸の前で踊りまくって、神さまたちを一発でファンにした。
 前田敦子のコンサートみたく熱狂させたアイドルのご先祖みたいな神さま。
 あまりの熱狂ぶりに、天照大神が「なにノリノリになってんのよ!?」と顔を覗かせた。そこを力自慢の天手力男神(アメノタジカラオ)が、力任せに岩戸を開けて無事に世界に光が戻った。
 で、タジカラさんはお相撲の神さまで。ウズメさんが芸事の神さま。今でも芸能人や、芸能界を目指す者にとっては一番の神さまなのだ!

 あたしは、ここで二度も神さま(たぶん)の声を聞いた。と……いうことは、神さまのご託宣?

 訳が分からなくなって、家に帰った。
「美優、犯人分かったらしいわね!」
 ミキネエが聞いてきた。ちなみに我が家は、今度の映像流出事件と、その元になったハーパン落下事件は深刻な問題にはなっていなかった。
「イチゴじゃなくって、ギンガムチェックのパンツにしときゃオシャレだったのに」
 これは、ユミネエのご意見。
「しかし、男子の根性って、どこもいっしょね」
 これは、ホマネエ。
「まあ、これで、好意的に受け入れてもらえたんじゃない?」
 有る面、本質を突いているのは、お母さん。

 もう、あの画像は削除されていたけど、うちの家族はダウンロードして、みんなが保存していた。
「あ、なにもテレビの画面で再生しなくてもいいでしょ!」

 と、うちはお気楽だったけど、この事件は、このままでは終わらなかった。

 つづく

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・27《尾てい骨骨折・4》

2020-05-31 06:11:02 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺27(さくら編)
≪尾てい骨骨折・4≫       



 

 寝ダメがきかなくなってきた。

 昨日は、アジア大会のライブも諦めて、8時頃にはベッドに入った。で、11時間以上寝たんだけど、眠り足りない。さつきネエの話では、相変わらず寝言みたくゴニョゴニョ言ってるらしいけど、さすがにハッカののど飴を口に入れられることも無くなったが「このまま続くようなら、お医者さんに診てもらったほうがいいよ」と言われる始末。

 授業中の居眠りも常態化しつつあり、数学の先生も何も言わなくなった。尾てい骨は相変わらず痛かったけど、庇いながら寝るすべを覚えたのか、痛さに飛び起きるということも少なくなった。
「放課後、校長室へ行きなさい」
 担任の亜紀ちゃん先生に宣告されたのは、今日の放課後。

 そうか、何も言われないと思ったら、そんなとこまで話は飛躍してんのか……と覚悟を決めた。

 校長室は例の七不思議の偶然でお邪魔して以来。

「いやあ、呼び出してごめんなさいね」
 校長の白波先生は、予想に反して穏やかだった。
「あ、あの、居眠りの話じゃないんですか……?」
「ああ、耳には入ってるけど、あんなのは、あなたの歳ではありがちなことよ。今日呼び出したのは、個人的なお願いがあってのことなの」
 そう言って、先生は御みずから紅茶を淹れてくださった。
「実は、これを聞かせてもらったの」
 校長先生は、パソコンのキーをいくつか叩いた。すると、こないだ音楽の時間に歌っていたあたしの姿が音声入りで再生された。
「あ、これは……」
 マクサが撮った動画だ。
「あまり上手いんで佐久間さんから美音先生のスマホにコピーされて、職員室で話題になってたので、ちょっと取り込ませてもらったの」
 この後、校長先生は意外な話をした。びっくりして椅子の上で飛び上がったら、もろ尾てい骨を打って、びっくりは三倍ほどに増幅して校長先生に伝わってしまった。

 そして、その夕方に校長先生のお家にお邪魔することになった。

「まあ、桜じゃないのお!」

 そう言って校長先生のお母さんが抱き付いてきた。前もって聞いていたので、この「桜」というのはひい祖母ちゃんのことだとは分かっている。いるんだけど、やっぱ、現実にハグされると戸惑いが先に立つ。
 うちのひい祖母ちゃんは佐倉桜子といって、日ごろは呼びにくいので、ただの「桜」と呼ばれていた。音だけで聞くと、あたしといっしょ。で、同じ帝都の女学生なので、校長先生のお母さんは完璧に、あたしをひい祖母ちゃんの「桜」と思い込んでいる。

「聴かせてもらったわよ、見せてもらったわよ、桜とうとうやったのね!」

 ここで解説。

 校長先生のお母さん白波松子さんは、ひい祖母ちゃんの桜子とは親友であったらしい。
 二人が女学生であったのは戦時中。後半は勤労動員に狩り出されて学校どころでは無かったみたい。でも二年生までは、まともに授業をやっていた。
 音楽のテストで、松・桜コンビは『ゴンドラの唄』を歌うつもりでいた。音楽の先生も、時局がら、これが最後の歌唱テストになると思い、曲目は各自の自由にした。で、おしゃまな二人は『ゴンドラの唄』を選んだ。
「そうだったのよ、あなたのひいお祖母ちゃんは、わたしと『ゴンドラの唄』を歌うはずだった……」
 一瞬松子さんは正常になった。
「でもね、ゴンドラの唄って松井須磨子でしょ。築地小劇場でしょ。さすがの先生も、これは許してくれなかった。だから『早春賦』で妥協したのよね。いいお点はいただいたけど、やっぱり『ゴンドラの唄』が歌いたかった、そしたらサクラ、あんた見事にやりとげたのよね。あたし感動しちゃった!」
 この「サクラ」はどちらを指しているのかよく分からない。
「ねえ、桜、生で聴かせてよ。あたしは、もうあのころの声は出ないわ。でも桜はあの時のままなんだもん。ねえ、こっちきて!」
 これは完全に、ひい祖母ちゃんと間違っている。そして通されたのは、地下の防音室だった。

 八畳ほどの地下室に、本物のスタジオ並の機材が揃っていた。

「さあ、唄って桜!」

 松子さんの目は、少女のように輝いていた……。

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