大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベル ジジ・ラモローゾ:037『親子 チカコ』

2020-05-18 14:35:18 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:037

親子 チカコ』  

 

 

 かずのみやちかこないしんのう

 

 お祖母ちゃんが正しく読んでくれる。

「ルビが振ってあるわよ」

「あ、ああ……」

 写真の下は漢字だけだけど、本文の見出しにはきちんとルビが振ってある。難しい文章は無意識にパスしてしまうんだ。ま、17歳の女子ってこんなもんだし。

「えと、お姫様?」

「そうだねえ……孝明天皇……明治天皇のお父さんね。その孝明天皇の妹さんで、十四代将軍の徳川家茂……」

「いえしげじゃないよ、いえもちだよ、お祖母ちゃん」

「え、あ、ほんとだ」

 今度は、わたしが一本取る。

「文久二年……1862年にお輿入れしてるんだねえ。明治維新が1868年だから、もうちょっとで明治だったんだねえ。大変だっただろうねえ……」

「どうして?」

 天皇の妹さんの嫁ぎ先として将軍様って釣り合ってると思うんだけど。

「だって、15歳だよ。ジジより二つも若くて、将軍と言っても一度も顔なんか見たことも無いだろうしね……あらあ……すでに婚約者が居たのを婚約破棄までして結婚させられたんだ」

 お祖母ちゃんが示したところには『熾仁親王との婚約が決まっており……』と書いてある。これはむごいなあ。

「公武合体って言うんだねえ」

「なにそれ?」

 音の響きから『サクラ大戦』の霊子甲冑光武とガンダムの合体が浮かんだ。

 はっしれーー光速の~帝国華撃団~(^^♪

「公は朝廷で、武は幕府のことね。幕末で衰えた幕府の権威を天皇の妹を迎えることでパワーアップしようとしたんだね」

「ふーん、そうなんだ」

「歴史の勉強でもしてるの?」

「京都のこととか調べようとしてたら、勝手に出てきた」

「ハハ、ジージのパソコンだからね」

「不思議なパソコンだ」

 

 そこで終わった。

 だって、お昼ご飯のパスタが作りかけだったから。

 

 予想より美味しくできたパスタとサラダを食べているうちに、和宮さんのことは忘れてしまった。

 昼からは、お祖母ちゃん『輝けユーフォニアム』を借りて観る。

 おづねに宇治に連れて行ってもらって、宇治を舞台にした『輝けユーフォニアム』をもう一度観たくなったのだ。

 黄前久美子が宇治川の川岸のベンチ……幼なじみの秀一と座っていたり、葵と話していたり。

 今日は、宇治川のせせらぎの音やら川岸のヒンヤリした空気まで感じる。

 やっぱり、じっさいに行ってみると受け取るイメージがこんなに違うんだ。

 場面は、吹部に入る決心がつかない久美子がベンチでボンヤリしているところに、秀一がヌソ~っと現れて驚くところ。

 ウワア!

 わたしもリアルに驚いた。

 いつのまにか、おづねとチカコが横に座っているのだ。

 ああ、ビックリした!

 ん?

 チカコ……和宮さんも親子(ちかこ)だったよね?

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新・ここは世田谷豪徳寺・14《ついてくる足音!》

2020-05-18 05:54:37 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・14(さくら編)
≪ついてくる足音!≫     



 誰も触らないのに水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した。まるで透明人間が水を飲んでいるように!

「東京大空襲で焼け死んだ人たちが、水を求めてやってくるのよ」

 米井さんは、怖そうなことを天気予報の解説のようにお気楽に言う。聞いた瞬間は「そうなんだ」だけど、数秒後に頭が理解して、俄然怖くなる。これは、あたしたち女子高生が、いかに人の話をいい加減に聞いているかの現れ。人が話したら、とりあず「はい」とか「そうなんだ」を息を吐くように無意識ってか、無神経に言う。これは「まず、お返事しましょう」という保育所時代から仕込まれた動物的な条件反射。そんで帝都で仕込まれた『明朗・闊達・俊敏』の指導の賜物。
「人の話には、まず明るく、素早く返事をしましょう。明朗・闊達・俊敏に」
 何かにつけて言われるので、帝都の子たちは明るく躾がいいと言われる。でも、これも保育所以来の仕込みの積み重ね。返事のわりには理解していない。聞いたことは、そのあと頭の中で取捨選択して、重要なものや、興味のあるもの、怖いものには、そのあと脳みそが判断する。で、今の米井さんの話は、数秒かかって、脳みそが「怖い」と認識したわけ。授業なんかだと「はい、分かりました」と無意味に言い、スルーしたまま脳みそは反応しない。

「これは他の学校にでも起こっていてね、大概は生徒が居なくなった深夜に起こるの。うちに来る幽霊さんたちは優しいから、まだ日のあるうちにおこしになるの」
 そんなの優しいって言わないよ!
「ボクもガードマンのバイトし始めたころに経験したよ。とある都立高校に深夜の巡回に回ったら、同じように水飲み機から、水が飛び出して……」

 キャーーーー!!

 四ノ宮のニイチャンが恐ろしげにいうので、これにはダイレクトに反応した。

「こいつはタネがあるんだよ」

 測量技師のオジサンが、マジシャンの種明かしのような口調で言い始めた。
「水飲み機のタンクの水が腐らないように、タイマーが仕掛けられていてね、一日に一回タンクを空にするために、水が全部出るんだ」
 聞いてみると、どうってことじゃない。米井さんは知っていたようで、ニヤニヤ笑っている。その傍で佐伯君もニコニコ。どうも二人にはめられたようだ。
「でもさ、今のみんなの反応も七不思議だな。情報によって脳みそが取捨選択するっての」
「あ、そうだね。動画も撮ったし、これで七不思議の三つが取材できた!」
 アハハハと、楽しそうに笑う米井、佐伯兄妹であった。プンプン!

 あくる日は、担任の水野先生にも付き添ってもらって、日が沈んでからの取材だった。

「なんにも言わないで、グランドを一周走ってみそ」

 米井さんは、とぼけた口調で言う。

 また昨日の水飲み機のデンであろうと、あたしたちはタカをくくっていた。もう8時を回っていて、運動部もいない。グラウンドが広く感じられる。青山通りからは一筋隔てているだけなのに、車や街の喧騒はほとんど聞こえない。佐伯君が高性能カメラを担いでスタンバイしている。なんだか、もうスタッフの一員だ。
 あたしたちは、グランドシューズに履き替えて、グラウンドに並んだ。今日は遅いのにも関わらずメンバーは10人に増えていた。時間まで、あたしたちは東京の都市伝説なんかで盛り上がっていて、やる気は満々だった。

「時間だわ、ヨーイ……スタート!」

 走り出して二三分で気が付いた。あたしたちのすぐ後ろを、数十人の集団が走っている。今にも追いつかれそう。グラウンドは夜間照明が点いているとはいえ、周りは青山通り界隈のビル、怖さはひとしおだった。

 みんな同じと見え、速度が上がっていく。先頭はバレー部セッターの山口恵里奈。二番手は意外も茶道部の佐久間マクサ……なんのことはない、二人とも親友のあたしをほったらかしにして先を走っているだけ!

 

 ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ

 迫りくる何十という足音。

 口から心臓が飛び出しそうになった!

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乙女と栞と小姫山・49『デビュー!』

2020-05-18 05:43:01 | 小説6

乙女小姫山49
『デビュー!』           

 

 


 朝、校門近くの坂道で、さくやのお姉さんを見たような気がした……。

 しっかり者の栞は、人が気づく前に、こっちから挨拶ができる子である。幼いころに母が亡くなってからは、弁護士の父の足手まといにならないように、子どもながら家事一般はこなしてきたし、父の仕事柄、行儀作法も並の子よりはできるほうである。だから挨拶はされる前にする。これがモットーであった。
 それが「あ」と思ったときには姿が見えなかった。ただ栞のことをニッコリ見つめ皇族の内親王さまのように手を振っていたような気がした。で、気がしたときには姿が見えなくなっていた。

「ねえ、お姉さん、来てた?」

 妹の方は、すぐに目に付いた。下足室で上履きに履きかえようと片脚をあげたところに声を掛けたものだから、さくやはタタラを踏んで、クラスの男の子にぶつかってしまった。
「ごめん、片桐君!」
 さくやは、顔を真っ赤にして謝った。
「あ、ええよ、大丈夫か?」
 片桐君は、優しく肩を支えてくれて、さくやの顔は、さらに赤くなった。
「う、うん大丈夫」
「そうか、ほんなら、お先に」
「はいはい……」
 片桐君を見送って、もう栞のことなど忘れている。
「ちょっと、さくや!」
「あ、栞先輩!」
「あの子……なんなのよ?」
「あ、ただのクラスメートです!」
「そうなんですか……?」
「栞先輩も、新曲頭から抜けへんのんですね」
「抜けちゃ困るわよ、今日本番なんだから!」
 栞も、今日の本番のことで聞くことを忘れてしまった。

「学校生活に影響を与えないって、約束じゃなかったかな?」

 担任代行の牧原先生が、小学生を諭すように言った。
「すみません。急にデビューが決まって、本番の日取りは決まっていたんですけど、リハなんかのダンドリが今朝入ってきたもんですから、ご報告が遅れました」
「……ご報告やないやろ。許可願いやろが」
「あ、はい、言い間違えました。よろしくご許可願います」
「まあ、しゃあないな。そやけど試験前やいうこと忘れんなよ」
 ハンコをついて、栞が手を出したところで、牧原は引っ込めた。
「あ、あの……」
「榊原聖子のサインもろてきてくれへんか?」
「え……」
「同じユニットやろ。うちの娘が聖子ちゃん好きでな。交換条件や」
「あの、わたし、身分的には研究生なんで、そういうことは……」
「ちぇ、ケチやのう。まあ、手島栞のデビューやったら、しゃーないわの!」
 職員室中に聞こえる声で牧原が言った。
 こう言うときに、弱った顔や、怒った顔をしては負けである。
「ありがとうございました」
 栞は、落ち着いて頭を下げた。

 四時間目が終わり、生指の部屋に入るときは、さすがに胃がキリリときた。
「失礼します。二年A組の手島栞です」
「やあ、栞。いよいよやね!」
 よかった、生指の部屋には常駐の乙女先生しかいなかった。

 リハーサルはドライもカメリハも上手くいった。いよいよ本番である。

 こないだ刺身のつまで出たときの倍くらい念入りなメイクにヘアーメイク。緊張が増してくる。
「スリーギャップスの船出、円陣組むよ」
 聖子が、七菜と栞に声を掛ける。
「「お願いします」」
 七菜と栞が同時に言った。それがおかしいのか聖子がクスっと笑った。
「あんたら、おかしいよ、別にオリンピックの決勝戦じゃないんだから」
「わたし、高校の陸上部入ったらいきなりオリンピック出ろって、そんな心境なんですけど」
「そうなんですか!?」
「アハハ……」
 さすがにベテラン、ほぐすのも上手い。
「じゃ……スリーギャップス、GO!」
 それを合図にしていたかのようにADさんが迎えに来た。

「それでは、本日結成したばかり、MNBの新ユニットスリーギャップスでーす!」

 MCの居中が大げさに声をあげると、エフェクトのドライアイスが、両サイドからシュポっと出て三人そろって出る、最後の一段で栞はステップを踏み外した。危うく将棋倒しになるところを居中が支えてくれた。
「なんだ、栞って、冷静そうな顔して意外とドジなのな」
「いや、今のは想定内のズッコケでした」
「栞、ちょっと、真っ直ぐに歩いてみてくれる」
 聖子の機転だ。栞はわざと手と足を同時に出して笑いを誘った。
「ね、緊張なんかしてないでしょ」
「あー、こりゃ気合いの入れ直しだわ」
 三人で、背中のどやしつけあいをやった。
「じゃ、大丈夫ね?」
 角江の声でスイッチが入った。三人は丸いステージスペースに入り、イントロが流れる。
「それでは、本日結成、初公開。スリーギャップスで『そうなんですか!』どうぞ」

 


 《そうなんですか!》  作詞:杉本 寛  作曲:手島雄二

 ホ-ムの発メロが鳴る階段二段飛ばしに駆け上がる 目の前で無慈悲にドアが閉まる

 ああチクショー! このヤロー! 思いがけないキミのため口

 駅員さんも乗客のみなさんも ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ カワイイ顔して このギャップ
 

 あの それ外回りなんだけど

 そうなんですか しぼんだようにキミが呟く

 新学期 もう夏だというのに いいかげん覚えて欲しいな電車の発メロぐらい

 でも 愛しい ピンのボケ方 このギャップ そうなんですか そうなんですか

 


 昼休みチャイムが鳴る廊下優雅に教室に向かう 開けたドアみんなが起立していたよ

 ええ うそ~! ええ ど~して! 見かけに合わないキミの大ボケ

 クラスメートも教科の先生も ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ カワイイ顔して このギャップ

 あの 今の本鈴なんだけど

 そうなんですか 他人事みたいキミが呟く

 新学期 もう夏だというのに いいかげん覚えて欲しいな予鈴と本鈴ぐらい

 でも 愛しい ピンのボケ方 このギャップ そうなんですか そうなんですか


 
 照りつける太陽 砂蹴散らして駆けまわる ビキニの上が陽気に外れかかる

 ええ うそ~! なんで今~! 天変地異的キミの悲鳴

 ライフセーバーさんもビーチのみなさんも ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ キミは飛び込む 波打ち際

 ああ たしかキミはカナヅチなんだけど

 そうなんですか でも助けてとキミが叫ぶ

 夏休み もう真っ盛り いいかげん覚えて欲しいな犬かきとボクの気持ちぐらい

 でも 愛しい こ~の無神経 このギャップ そうなんですか そうなんですか 

 そうなんですよ ボクの愛しいそうなんですよ ボクの青春のそうなんですよ 人生一度のそうなんですよ

 Yes! そうなんですよ!

 


 歌っている間、栞は、さくやの姉の手の温もりを思い出した。そうあの姿は温もりそのものだった。そう感じると、さっきのズッコケはどこへやら。
 すっかり落ち着いてデビュー曲を歌い上げた栞だった……。

 

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