オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
ニイチャン、換えたろかあ( ̄▽ ̄)
アメチャンオバチャンが肩を叩く。
「え、換える?」
「温泉は、まえに当たったさかいなあ、テーブルゲームやったら孫とでもできるよってに」
「え? いいんですか!?」
「うん、有馬とか白浜やったら行くねんけどな、南河内は自分らで、なんべんも行ってるさかいなあ」
「せやせや、空堀高校は商店街のお得意さんやしなあ」
肉よしのオバチャンに薬局のオッチャンも賛同してくれる。
「「「ありがとうございます!」」」
演劇部の三人娘もそろってお礼を言って、温泉ご優待券をゲットした。
部室に戻ってパソコンを開く。現実に行けることになったので下調べをするのだ。
「ホームページで11800円だから、実際は10000円というとこでしょうねえ」
「これで、二食付きで温泉入り放題!?」
「お部屋も悪くないです!」
「こんなとこに行き慣れてるって、リッチなんだなあ空堀のオバチャンたちは!」
「ちょっと、いいですかあ」
お部屋に感激した千歳が車いすを乗り出す。
「ああ、バリアフリー! 洋室もあるから、介助なしでもいけそう!」
なんだかんだで半年になるけど、千歳はやっぱり気にしてるんだ。もう、俺たちは自然に千歳の介助は出来るようになっている。でも、口に出しておくことでエクスキューズを表明しておきたいんだな。
「ハハ、シスコの温泉プールはイマイチだったしね」
うん、出会ったアメリカの高校生たちはいい奴らだったけどな。
「じゃ、いつにする?」
「啓介、パンフ見て」
「うん、えと……来週から一か月」
「そか、じゃ、テスト期間を外して……候補は三つだね」
ミリーが、ボードのカレンダーの土日を三つチェックする。
「ま、慌てて決めてもなんだから……この週末一杯考えて決めよっか!」
須磨先輩の一声で決まった。せいてはことを仕損じるというやつだ。
いちおう顧問や担任にも話しておくということで、オレ一人先に帰ることにした。やっぱ、千歳の事や女生徒の宿泊とかがあるので、あとで苦情が出ないようにという須磨先輩の知恵だ。
再び商店街を谷町筋に向かって歩く、自然と福引会場に目が行ってしまう。
一等賞品獲得者ご芳名!
大売出しのポップみたいなのが張り出してある……てことは、残る一本を引き当てた人がいるのか?
知らない苗字(プライバシーがあるから苗字だけなんだろう)と並んで、似たようなのが二つ……一つは俺たち空堀高校演劇部。もう一つは……船場女学院高校演劇部……!?
船場女学院!?
東横堀川を挟んで立っている、うちの空堀高校とは対照的なお嬢様高校だ!
自分でも気恥ずかしいほど胸が高鳴った。