大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・130「福引・3」

2020-05-14 15:35:25 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

130『福引・3』   

 

 

 ニイチャン、換えたろかあ( ̄▽ ̄)

 

 アメチャンオバチャンが肩を叩く。

「え、換える?」

「温泉は、まえに当たったさかいなあ、テーブルゲームやったら孫とでもできるよってに」

「え? いいんですか!?」

「うん、有馬とか白浜やったら行くねんけどな、南河内は自分らで、なんべんも行ってるさかいなあ」

「せやせや、空堀高校は商店街のお得意さんやしなあ」

 肉よしのオバチャンに薬局のオッチャンも賛同してくれる。

「「「ありがとうございます!」」」

 演劇部の三人娘もそろってお礼を言って、温泉ご優待券をゲットした。

 

 部室に戻ってパソコンを開く。現実に行けることになったので下調べをするのだ。

 

「ホームページで11800円だから、実際は10000円というとこでしょうねえ」

「これで、二食付きで温泉入り放題!?」

「お部屋も悪くないです!」

「こんなとこに行き慣れてるって、リッチなんだなあ空堀のオバチャンたちは!」

「ちょっと、いいですかあ」

 お部屋に感激した千歳が車いすを乗り出す。

「ああ、バリアフリー! 洋室もあるから、介助なしでもいけそう!」

 なんだかんだで半年になるけど、千歳はやっぱり気にしてるんだ。もう、俺たちは自然に千歳の介助は出来るようになっている。でも、口に出しておくことでエクスキューズを表明しておきたいんだな。

「ハハ、シスコの温泉プールはイマイチだったしね」

 うん、出会ったアメリカの高校生たちはいい奴らだったけどな。

「じゃ、いつにする?」

「啓介、パンフ見て」

「うん、えと……来週から一か月」

「そか、じゃ、テスト期間を外して……候補は三つだね」

 ミリーが、ボードのカレンダーの土日を三つチェックする。

「ま、慌てて決めてもなんだから……この週末一杯考えて決めよっか!」

 須磨先輩の一声で決まった。せいてはことを仕損じるというやつだ。

 

 いちおう顧問や担任にも話しておくということで、オレ一人先に帰ることにした。やっぱ、千歳の事や女生徒の宿泊とかがあるので、あとで苦情が出ないようにという須磨先輩の知恵だ。

 

 再び商店街を谷町筋に向かって歩く、自然と福引会場に目が行ってしまう。

 一等賞品獲得者ご芳名!

 大売出しのポップみたいなのが張り出してある……てことは、残る一本を引き当てた人がいるのか?

 

 知らない苗字(プライバシーがあるから苗字だけなんだろう)と並んで、似たようなのが二つ……一つは俺たち空堀高校演劇部。もう一つは……船場女学院高校演劇部……!?

 船場女学院!?

 東横堀川を挟んで立っている、うちの空堀高校とは対照的なお嬢様高校だ!

 自分でも気恥ずかしいほど胸が高鳴った。

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魔法少女マヂカ・152『地下神殿の霊魔・2』

2020-05-14 12:07:50 | 小説

魔法少女マヂカ・152

『地下神殿の霊魔・2』語り手:マヂカ     

 

 

 

 春日部の街が一望に見渡せる高度で風切丸を抜いた。

 

 風切丸の刀身は鏡のように磨き抜かれており、これに日輪の光を反射すれば、その輝きは霊魔の本性をさえあぶりだす。風切丸を江ノ島の戦いで手に入れ、マンションの屋上で試みに一閃した光が上空を陸自のヘリ飛んでいた来栖一佐に見破られたのも、この風切丸の力だ。

 おかげで、七十五年ぶりに特務師団に復帰させられてしまったが、いま、霊魔の正体を見破るのはわたしだ。

 風切丸を上段に構え、旋回しながら春日部の中央から外側に向かって風切丸の光を照射する。

 霊魔の本性は送電鉄塔なのだろうが、その属性から見れば、無数と言っていい電柱も見過ごしにはできない。

 二周旋回しても感応するものがない。

 考えすぎか……三周目では春日部の外縁まで広げて捜索した。

 あれだ!

 市域の丑寅に位置する二基の送電鉄塔が光を浴びて震えているのが分かった。

 

 そこだ!

 

 急降下しながら風切丸を振りかぶる!

 ガンガン! ガンガン!

 二閃ずつ斬撃を食らわせる。視界の端に鉄骨の断片が飛び散るのが見えたが、鉄塔本体はビクともしない。

 くそ!

 時間を掛ければどのような攻め方でも倒せるが、二分半を超えては地下神殿で身を隠しているシロたちが危うい。

 やたらに鉄骨を断ち切っても、崩壊させるには時間がかかる。基礎のボルトを断ち切れば確実に倒壊させられるが、かかる時間に大差はないだろう。

 見込みのないまま、二回目の急降下!

 降下するにしたがって風切丸の輝きは強くなり、キラキラと鉄塔の各部を照らし出す。あたかも風切丸に意思があってサーチしているような感じだ。

 頼むぞ、風切丸!

 一瞬、輝きは鉄塔を離れ、送電線を照らした……そうか、送電線だ!

 バシ! バシ! バシバシバシ!

 二基の鉄塔を繋いでいる六本の送電線を切断して、V字を描いて上空に戻る。

 ユワーーーーーン!

 存外のどかな音をさせて、二基の鉄塔は反対側の送電線に引っ張られて倒れて……いや、曲がっていった。

 そうか、あえて倒さなくても、曲げてしまえばいいんだ。

 とっさの閃きに助けられるが、もう一機、紅白の大型鉄塔があるはずだ……が、大型鉄塔は発見できない。

 いったん戻ろう。

 江戸川の放水口から侵入、神殿に潜る。

 

 ズガガガガガガガ ズガガガガガガガ ズガガガガガガガ ズガガガガガガガ!

 ズガガガガ ガラガラガラ ガラガラガラ ズガガガガ ガラガラガラ ガラガラガラ!

 

 神殿の中は騒音に満ちていた。

 

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・10《シリコンの秘密》

2020-05-14 06:01:33 | 小説3

 ここ世田谷豪徳寺・10(惣一編)
≪シリコンの秘密≫    



 大容量メモリーには、とんでもないものが入っていた。

 どうしたものか案じた末に、ある処理をして、さつきに返した。
「え、シリコンから取り出してないの?」
「ああ、ちょっとヤバイものじゃないかと思ってな。多分近々警察が来る。提出を求められたら素直に出すんだ……いや、元通りバンパーに貼っておこう」
 しかし、この貼り直しが難しい。どうやら交差点でぶつかりかけた車から、特殊な銃のようなもので吹きつけられている。貼りついた角度は速度を持った分、角度を持っていたし、飛沫も着いていた。悩んでいるといきなり肩を押されてメモリーカード入りのシリコンは上手い具合に擦れてバンパーにくっついた。
「ねえ、ソーニー、映画観に行こうよ。ARISEの新作観たい!」
「あのなあ、さくら、もう17歳なんだから、くっつくのはよせ。いい歳してブラコンと思われるぞ」
「ブラコン? あたしは今のサイズで十分満足してる」
「ばか、ブラジャーじゃない。ブラザーだ!」
「いいじゃないよ、本当の兄妹なんだからさ」
「映画だったら、さつきといけよ。あいつの方が専門だ」
「お姉ちゃんは御託多すぎ。こういうのは素人同士がいいの」

 ARISEは、オレも古くからのファンだ。池袋のシネコンの朝一を条件に引き受けた。

 ルパン三世のフィギュアは妹二人も気にいって、テレビの横に置くのを許してくれた。こういうものが一つあると、空間に潤いというか遊び心が出ていい。ただ骨董好きの親父にはヒンシュクだった。お袋も異議なしだったので、親父はダッシュボードの上の九谷を備前焼に替えた。九谷とルパン三世はオレが見ても合わない。
 その親父が九谷を箱にしまって立ちかけたところに、インタホンが鳴った。モニターにはいかにも刑事という顔が二つ並んでいた。
「すみません、世田谷署の者なんですが、ちょっとお宅の車見せていただけませんか?」
 そう言って、ポリス証をカメラにかざした。
「ああ、あたしの車なんで、あたしが出ます」
「さつき、初めて見たってことでな」
「うん、分かった」
 オレは、リビングの隙間から刑事二人の映像を撮った。数分でバンパーのシリコンが発見された。
「先日、青山通りの交差点で、信号無視の車に当てられそうになったでしょ。そのとき、その車がとっさに付けていったものなんです。詳しいことは言えませんが、これお預かりしていきます」
 そう言って、刑事たちは引き上げた。さつきは見事にとぼけ通していた。

「なんだか、変なオッサンたちが来てるよ」
 さくらが、おずおずとオレを部屋まで呼びに来た。刑事たちが帰ってから一時間ほどたってからのことである。
「オレが相手する」

 出てみると、所轄の刑事と中央警務隊に情報保全隊まで揃っていた。で、やはりシリコンのことを聞かれた。
「機密に関わることなんで、所轄の刑事さん外してもらえますか」
 刑事は、素直に道路まで後退した。
「で、物は、佐倉二尉?」
「刑事と名乗る二人に渡しました。これが、その二人です」
「……こいつはC国のエージェントだ。どうして自衛官の君が居ながら、易々と渡してしまったんだ」
「渡さなければ、家族に類が及びます。ただ、中身のデータは改ざんしておきました。コピーがこれです。ビフォーアフターになっています」
 情報保全隊の担当者は、すぐに手持ちのタブレットにかけて確認した。担当者は吹き出した。
「これは、君……」
「超極秘機密です、70年前の」
「旧海軍の空母赤城の諸元と運用記録じゃないか」
「相手は『あかぎ』としか言っていないようですから、変換して書き換えておきました。この一両日で動きがあると思いますが、それは、そちらで処置願います」
「分かった。機転を利かしてくれてありがとう」
「国民の生命財産を守るのが任務ですから。で、うちの家族も国民の一員ですから」
「任せてくれ、君のご一家には類が及ばないようにする」

 あくる日、C国の駐在武官が都内で任意同行を求められた。むろん外交官特権で拒否されるが、当局がマークしたと宣言したのに等しい。その外交官はその日のうちに本国に呼び戻された。そして、海自の幹部自衛官が一人逮捕された。ハニートラップにかかった上のことらしい。

 とりあえず、家族という国民が守れてよかった。

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乙女と栞と小姫山・45『春の大遠足』

2020-05-14 05:54:30 | 小説6

乙女小姫山・45
『美玲の転入試験』     
     

 

 


 水野校長の数少ない功績がある。遠足を連休が終わってからにしたのだ。

 一年生だけは学年でまとまって遠足にいく。学年としての一体感を持たせたいという、これも校長の発案であった。職員は嫌がったが、校長が、とうに絶滅した宿泊学習を持ち出す気配だったので、この線に落ち着いた。
 もっとも、一体感をもって学校を改革しようという意思のかけらもない教職員にはなんの効果もなかった。
 ただ、先月の栞の『進行妨害事件』で、府教委やマスコミから叩かれた時には、ささやかではあるが、学校が前向きな姿勢を持っている証左であると評価された。しかし、このことは教職員には伝えていない。「恩着せがましい」と思われるのが分かっていたからである。
 二三年生は、クラスごとに行き先を決める。現実には幾つかのクラスが、示し合わせて同じところに行くので、学年としては三つぐらいのコースになる。

 栞のクラスは、あっさりと嵐山に決まった。

 なぜかというと、阪急の嵐山に着いたあとは自由行動であるからだ。

 別に単独行動で悪さをしようなどという不埒な考えはないが、学校や先生が決めたコースを羊のように引っ張り回されるのがイヤなだけである。担任の湯浅も、若い頃に奈良国立博物館を遠足の目玉にしたところ、たった一分でスルーされてしまい、それ以来、遠足はルーチンワークと心得て、生徒が行きたい場所に行かせている。
 そして、なにより一年生が全学年そろって嵐山なので、男子は一年生のカワイイ子を探し、お近づきになるチャンスである。女子は、あちこちにある甘い物屋さんや、桂川のほとりでのんびりしたい。と意見が一致した。

 一言で言えば、師弟共々の息抜きなのである。

 教師たちは、昼には共済の保養施設で嵐山御膳というご馳走を食べることに話が決まっていた。本来監督責任があるので、あまり誉められたことではないのだが、同行の教頭も、見て見ぬふりをする。
 乙女先生は、この際、教頭とゆっくり話がしてみたかった。大阪城公園でのことがあって以来、教頭を見る目が変わってきた。娘さんの話などをうららかな五月の風の中でしてみたいと思ったのである。

――先輩、どこに行くんですか?――

 さくやからメールが来た。
 栞は、気のあったクラスの女の子たちと大覚寺から大沢の池方面を目指している。一応メールで答えておいたが、大覚寺は嵐山の駅からかなりあり、地理に詳しくないと、ちょっとむつかしい。まあ、遠足。適当にやるだろうと、放っておいた。

「え、どうしてさくやが!?」

 大覚寺の門前まで来ると、さくやが一人でニコニコと立っていた。
「わたしも、こっちの方に来てましてん」
 まあ、いいや。邪魔になる子でもないし。そう思う……前に、さくやは連れてきた友だちみんなに仲良くアメチャンを配っていた。
「このサクちゃんも荷物の多い子やねんな」
 クラスメートの美鈴が、さくやの背中を見て言った。
「同じクラブですから」
「ええ、遠足の日に学校帰って部活すんのん!?」
「これでも演劇部は厳しいんです。ねえ、先輩?」
「そ、そうよ」
 MNBに入っていることは、内緒にしてある。記者会見などやっているのだが、おもしろいもので、あの画面に映っていたのが、クラスの栞であるとは、まだ誰も気づいてはいない。いや、気づいていても、あえて騒がない。よく言えば大人の感覚のあるクラスではあった。
 お寺そのものには興味がないので、五百円払って入ろうとは思わず大沢の池のほとりでお弁当にした。
「えい!」
 残ったご飯粒を丸めて、池に投げると、まるで待ってましたという感じで錦鯉が跳ねて食べてしまった。
「うわ、今のんきれいに撮れたわ!」
 美鈴が、絶好のシャッターチャンスで鯉を撮っていた。
「うわ、ほんま」
「きれいなあ」
 などと言っていると、後ろから声がかかった。

「よかったら、君たちの写真撮ってあげようか」

 振り返ると、いかにもプロのカメラマンという感じのオジサンが声をかけてきた。
「お願いできます」
 栞は、物怖じせずに頼んだ。
「じゃ、まず君たちの携帯で。おい、レフ板」
 すると、助手のようなニイチャンたちがレフ板を持ってきた。
「うわー、本格的!」
 瞬くうちにみんなのスマホに写真が撮られた。
「じゃ、最後にオジサンのカメラで……」
 さすがはプロで「はい、チーズ」などとはやらない。世間話をしているうちに連写で何枚も撮ってくれた。
「はい、こんな感じ」
 オジサンは、モニターを見せてくれた。すると、なんと後ろに、スターの仲居雅治と中戸彩が映っていた。
「きゃー」
「うわー」
「本物や!」
 女子高生たちは大喜びした。仲居と中戸は気さくに握手やサインに応じてくれた。
「お願いがあるんだけどな……ここは仲居君頼むよ」
 オジサンが振った、それも仲居君と親しげに……!

 というわけで、栞たちはテレビドラマのエキストラになった。

 最初は、仲居と中戸たちとすれ違ったり、追い越したり、背景のガヤになったり。そのうちにカメラマンのオジサンが言った。
「ねえ、栞ちゃんだったっけ」
「はい」
「ちょっと、中戸君と絡んでくれないかな」
「……え!?」

 中戸が水色のワンピで、駆けてきて栞とぶつかる。
「あ、すみません」
「ごめんなさい」
 これだけだったのが、監督とカメラマンのインスピレーションで膨らんでしまった。

「ねえ、大里さん待って!」
 女子高生ぶつかる。はずみで恭子のバッグが落ちて、中のものがぶちまけられる。
「すいません、うち、ボンヤリやから」
「ううん、ボンヤリは、あたしの方。ごめん、手伝わせちゃって」
「いいえ、おねえちゃん、イラストレーターやってはるんですか」
「うん、あいつ……大里のバカ野郎!」
 恭子の目から涙。女子高生の目、キラリと光る。
「あの、オッチャンですね」
「うん。でも、もういいの」
「ええことありません、ちょっと待って、大里さん! 大里のオッサン!」
「ちょ、ちょっと、あなた」
「大丈夫、掴まえてきます!」
 女子高生は、一筋近道をして、大里を発見。
「見つけた! もう逃がさへんよって……」
 女子高生の顔アップ、迫力におののく大里。

 ここまで、ほとんどアドリブで、カットが増えた。

 そして、これが、しばらくして問題になるとは思いもせずに栞たちは集合場所へと急いだ……。

 

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