大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・12(促成魔女初級講座・実戦編・2)

2019-03-27 06:41:25 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・12 (促成魔女初級講座・実戦編・2)
 

 

 まき散らした紙屑は、真由の周りに一杯になって旋回し、広がったかと思うと、数百人の真由になった。
 

「あたしがいっぱい!」

 びっくりしたのは、国際通りのお土産ビルの最上階のフロアーだった。ちょっとしたレストラン街になっているフロアーで、様々な食材の匂いが立ち込めていた。現実の国際通りと、そこにあるお土産ビルと少しも変わらないんだけど、ビルの中には真由と清明しかいなかった。 表通りでは、無数の色の薄い者たちと、真由そっくりな式神たちが、睨み合っている。
 

「やつらは、本体の真由を探しているんだ。見つかる前にバトルを始めなさい」

「あ、はい」

 真由は、無意識に戦闘を開始した。

 瞬間コントローラーの〇ボタンが頭に浮かんだ。

「安心して戦いなさい。Z指定の様式にはなっていないから、相手をやっつけても血が流れたり、手足が吹き飛んだりはしないから」

 少し安心した。ゲームでも『バイオハザード』みたいなものは苦手だ『ファイナルファンタジー』のような、血しぶきが出ない、やりこみ系のRPGが得意だ。
 

 式神たちは、数は少ないがHPの値が高く、敵の攻撃を受けても容易には倒されなかった。また式神同士の連携がよく、一人の式神が敵に取り囲まれると、どこからか仲間の式神が集まり、敵を倒していく。 中には、仲間の支援が間に合わずに苦戦する式神もいた。つい助けてやりたくなる。

「助けちゃ、この場所が分かってしまう。じっと辛抱して見ているんだ」
 

 敵の式神は、真由の式神のツーアタックぐらいで消えてしまうが、真由の式神はガードが高かった。一撃をくらうと、着ている服が一枚ずつ無くなっていく。どうやら、服が防壁になっているようである。 中には、仲間との連携が悪く、裸同然になっている式神もいる。

「あの裸になっていくの何とかならないんですか?」

「あれは、君の頭の中で作った最高のガード方法だからね。ボクには手の出しようがない」

 と言いながら、清明はニヤニヤしているようにも見えた。
 十分ほどのバトルで、敵のザコの式神はほとんどいなくなった。
 

「これ、チュートリアルですか。なんだかあっけなく済んでしまいそうなんですけど?」

「いや、実戦だよ。そろそろボスが……」  清明が呟くと、あっさり消えてしまった!
 

 なんと、数少なくなった敵の真ん中で、光り輝いている小学生低学年程の少女がこちらの窓を見上げている。
 

「あれがボスだ。外に出るよ!」

 テレポして路上に出ると、今までいたお土産ビルが、一瞬でカオスに飲み込まれたようにグニャッとなって消えてしまった。

「あなたね、私たちの新しい敵は?」

 小学生の姿ではあるが、言葉には凄味があった。
 

 不意に魔法攻撃が頭に浮かんだ。

 観察を頭に思い浮かべると、敵のHPとMPが分かった。なんと真由の倍はある。  

 いきなり火属性の魔法攻撃をくらった。防御が間に合わず、真由は下着姿になってしまった。

 「フフ、ザコと同じように服で防御しているだけのようね。じゃ、素っ裸にしたうえでトドメをさしてあげるわ」

 真由は反射的に魔法防御をかけた。だが、敵は、まさかの風属性の魔法をかけてきて、下着の上が吹き飛ばされてしまった。

「ハハ、あんたってバスト貧弱なんだね」

 小学生の姿で言われるので、恥ずかしいより腹が立つ。

 再生魔法をかけると、服は元通りになった。

「バカね、見場に気を取られて。今の再生魔法で、あなたのMPゼロになってしまったわよ。下手な羞恥心が命とりになるの覚えておきなさい!」

 敵は、連続攻撃を加えてきた。真由は反射的にガードしていったが、そのたびに着ているものがなくなり、あっという間に、元のパンツ一丁になってしまった。
 

「トドメ!!」
 

 閃光が走り、真由は自分の浅はかさを思い知らされた……その瞬間、敵が倒れた。

「仲間がいたのね。ぜんぜん気配を感じなかったけど、あんたの周囲に二つエネルギーを感じる……」

 そう呟きながら、敵の姿は滲むようにして消えてしまった。
 

 静かになった国際通りには、清明とシーサー姿のハチが居るだけだった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・50『女子高生怪盗ミナコ・16』

2019-03-27 06:22:34 | 時かける少女

時かける少女・50  『女子高生怪盗ミナコ・16』          

  モニターに現れたのは、ブロンドの長い髪の美しい女性だった……。
 

「わたしはミスカンダルのアイドルーシャ……蟹江艦長、大和のみなさん。歓迎……したいところですが、どうぞこのまま、お引き取りください」

「アイドルーシャ、そうもいかん。これ以上地球の周辺をゴミラスの自由にさせておくことは、地球のドロボーのハシクレとして、見過ごしておくことはできんのだよ。とりあえず月は取り返す」
「月が……」

「取られてんの?」  

 ミナミとミナコが呟いた。
 

「月が、地球のものだというのは、地球人の思いこみです。古くから、ゴミラスやミスカンダルは、月を、宇宙旅行の中継基地として使ってきました。つまり、流行りの言葉で、実行支配をしているのです。今、にわかに地球が領有権を主張なさっても困惑するばかりです」

 「われわれ地球人は、その想いで月を支配してきた。ウサギを住まわせたり、蟹をすまわせたり。ロマンの中では、数万年前、いや、まだ言葉すら定かに持たないネアンデルタール人の昔から、人類は月を認識し、地球の存在に欠くべからざるものだったった。返していただこう」

「わたしたちは、月の裏側にささやかな中継基地を持っているだけなのです。なにも月そのものを持ち去ろうというのではないのです。地球人が、月をロマンや尊崇の対象としてあがめ、憧れることを妨げるものではありません。地球人の領有を認めれば、月は百年も待たずに乱開発され、宇宙の秩序破壊の元になります」

「ミナミ、ミナコ、両舷の対空監視を厳となせ。今が危ない……」

「艦長、地球の裏側、右舷165度にゴミラス艦隊!」

「シールドを、右舷後方に張れ! 面舵いぱーい!」  

 大和の巨体が、意外な早さで旋回。同時に大きな衝撃が来た。

 

 ズッガーーーーーン!!

「シールド損傷、第三主砲被弾。損傷なし!」

 副長の被害報告に、蟹江艦長は冷静に答えた。

「両舷後進、シールド復旧急げ。主砲、対空砲応射急げ。砲雷長、マトホーク即時サルボー」

 ガクンと体が前のめりになった。急速な両舷後進にショック……と思う間もなく、艦首前方を、ショックカノンやパルスレーザーが数十本の光の束になってかすめていった。
 

「危のうございましたね」

 左舷のミナミは長閑にため息。ミナミは右舷の高角砲に見せかけたパルスレーザー砲や、パルス機関砲で、敵の弾を相殺射撃。ミナコそっくりの砲雷長は、マトホークの初弾十二発を発射。次弾をリリースした。

「進路そのまま、最大戦速。射撃続け!」  

 大和は、敵艦隊を右に見ながら、応射を続けていく。
 ミナコは、いつのまにか射撃管制機をマニュアルに切り替え、必死の形相で、ロックオンと射撃をくり返していった。頭の中を、ある若い男性の姿がかすめていく。 ――だれ、だれなの、あんたは!?――  そう想いが噴き出してくると、一瞬で山野中尉の名前と姿に結晶した。

――わたしは、時任湊子……――

 そこに思い至ると、ミナコの視界は真っ白になっていった……。

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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・010『馬』

2019-03-26 18:38:44 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・010

『馬語り手・安倍清美   

 

 

 

  ポリコウの勤務が三か月延びたのは嬉しい。

 

   現場にいることで、家族や友人たちに感じるひけ目が少なくて済む。

 講師を首になったら、ただの就職浪人だよ。当然バイトやって定期収入と言うのを確保しなきゃいけないし。なんだフリーターかっちゅう世間の目にも耐えなきゃならない。

 たとえばよ、コンビニのレジをやったとする。

「いらっしゃいませ~、お弁当は温めますか~」

 とか愛想振りまいて、お客が教え子だったりすると、すっごく気まずい。でしょ!?

 マジ、半年前、講師の契約切れてコンビニのレジやってて、前任校の校長が来た時は困ったわよ。

 コンビニならまだいい、ミニスカ履いてポケティッシュ配って「お願いしま~す」って、渡した相手がスカート短すぎで指導した女子だなんて悪夢でしょ。

 

 アキバのバイトでさ、「お帰りなさいませ、ご主人様~」とか言って、それがポリコウの関係者! ゲシュタルト崩壊してしまうっちゅうの!

 バイトの範疇にアキバのメイドが入ってるのがどうかと思うけど、二年前までは現役のメイドだったし。

 しかし、やったバイトしか浮かんでこないっちゅうのは、二十四歳にして脳みそが縮み始めてるとか?

 ま、そういう心配を三か月はしなくていいというのはラッキーなわけさ。

 

  でもなあ……そのために、受験勉強が疎かになる。いやいや、疎かにする気持ちなんて、これっぱかしもないんだけど、やっぱ、時間も気持ちも仕事に取られてしまうっしょ。

 受験勉強と言うのはね、東京都の教員採用試験なんよ。

 二十五歳までに合格しないと実家に呼び戻される。それだけは、絶対避けねばならぬだ。 うう~二律背反じゃあ。

 

   安倍先生

 

   誰か呼んだ? この声、こないだの……。

 

 目玉だけ動かして声の主を探す。ケロだかケルだかの黒犬は居ない……。

 

「こっちこっち」

 

 目をあげると、なんと太田道灌の銅像の馬が喋っている!

「銅像を見上げていれば、それほど不自然ではないでしょう」

 え、こないだのは不自然? て、誰かに見られた?

「明日、学校で二つの事を依頼されます。必ず引き受けてください。マヂカのためばかりではなく、先生ご自身のためでもあります。よろしいですね、二つの頼まれごとです」

「って、どんな?」

「では、よろしく……」

 

  馬は、一瞬で銅像に戻ってしまった。

 

 えと、喋ってる間も銅像なんだけど、憑りついているケロケロだかが居なくなったことは分かるんだ。

 えと、まあ、そういう体質なんだ💦

 で、頼まれごとってなんだろう……。

 

 

 

 ☆ 主な登場人物

マチカ(マヂカ)     魔法少女としてはマヂカ、日暮里高校2年B組の渡辺真智香として72年ぶりに復活

ユリ  要海友里     マチカのクラスメート

ノンコ 野々村典子    マチカのクラスメート

清美  藤本清美     マチカのクラスメート

安倍晴美         日暮里高校の講師

ケルベロス        魔王の秘書 魔法少女世話係 黒犬の姿だがいろいろ変身して現れる

田中先生 田中実     2年B組の担任

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・11『八尾市立中河内中学校』

2019-03-26 07:02:45 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・11 『八尾市立中河内中学校』        
 

 

 ちょっと、あかんがな!
 

 自転車の手入れしていたら、畑中のオバチャンの大きな声がした。  

 畑中さんちは、外環沿いに並ぶうちのお隣りさん。

 大きな植木屋さんをやっていて、敷地はうちよりも広い。  

 ゲート(うちは門ではなくゲートという)を出てみると、オバチャンが『畑中植木店』と荷台に書かれた軽トラの前で仁王立ちになっていた。運転席には悪戯を見つけられた子どものような顔をしたオッチャンがハンドルを握っている。
 

「どうかしたんですか!?」
 

 お隣りさんの一大事に、わたしは頭のてっぺんから声が出た。

「みっちゃん聞いてよ、うちのオッサンが車の運転するて言いよんねん!」

「は、はあ」

 植木屋さんなんだから、車にだって乗るだろう……困惑していると、オバチャンのもっともな怒りの声が続いた。

 「先月免許返納したとこやねんよ!」
 

 脳みそがスパークした。
 

 運転免許を返納するのは、お年寄りだ。それも、ブレーキとアクセルを踏み間違ったりのリスクが大きいチョーお年寄り。  畑中さんのオッチャンもオバチャンも、まだそんな歳じゃないと思っていた。  

 でも、いまの言葉を聞いて、二人をマジマジと見ると、意外に歳を取っているようにも見えてきた。  

 たとえばディズニーのCGなどで、キャラが一気に老けてしまうような感じ。

「オッチャン、そんなお歳なんですか?」

 「はいな、天皇陛下の一個うえ」

「え、八十四!?」  

 せいぜい六十代の真ん中くらいに思っていた。二人とも威勢がいいので見誤っていたんだ。

「中河内中学、ほんそこやで!」

「遠い近いの問題やない!」  

 オバチャンの言う通りだ、無免許では一メートルだって走っちゃいけない。
 

 冷静になって訳を聞くと、こういうことだった。
 

 朝、職人さんたちが中河内中学の植え込みの仕事に行ったんだけど、お弁当を忘れてしまった。 それで、オッチャンが使い慣れた軽トラで届けようとしてトラブっているのだった。

「あ、あのー、だったら、わたしが届けましょうか?」  

 中学だから、ごく近所だと思って手を上げた。

「え、でも、ちょっとあるよ……」
 

 ナビで見た限りは遠くなかった。
 

 ナビでは二次元の距離しか分からない。  

 外環の信号を渡るといきなり上り坂。そう、中河内中学は、いつかは行ってみようと思っていた外環状の東側なのだ。  

 いつかというのはいつかなんで、今日のことではない。でも、引き受けたんだから行くっきゃない。  

 四人分のお弁当は重くはない、ペダルの重さは自分の体重。  

 二百メートルほど行くと交差点。ナビは直進しろと言っているけど、北に曲がる。
 

 東高野街道だ……!
 

 大坂夏の陣では、この道を北から徳川の軍勢が攻め上ってきて、八尾一帯で合戦になっている。真田丸の最終回で言っていた。  

 そーだ、ここから西に向いたら大正飛行場の府道21号線で、その南に木村重成のお墓があるんだ。

 数少ない八尾の地理的知識が3Dになっていく。  

 信貴線の低いガードを潜ると、田畑が目立つ。よく見ると目立つってほどじゃないんだけど、珍しいので目立つと感じてしまう。 ミキハウスの本社が近所にあるみたい。でも、うっかり立ち寄ったら、肝心の目的地に戻れる自信が無い。 中河内中学は、もうすぐだ。
 

 え……ないよ。
 

 大きな高校の建物は見えるんだけど、中学校らしきものが見えない。  

 公立学校というのは、どこでも似たような建物と規模で、近くにくれば分かるもんだ。 わたしは地図に弱い方だけど、こんなにトチ狂ってしまうことはない。 わたしは高校を中心にグルグル回った。
 

 パオーン!
 

 クラクションに脅かされて道路脇に寄った。  

 幸い、なにかの入り口になっていて、幅四メートルほどの門扉の前は五坪ほどの車寄せで、身を寄せるには十分だ。
 え?
 何気に看板を見てビックリした。
 八尾市立中河内中学 と黒地に金文字が光っている。
 

 え~~~~~ここぉ?
 

 なんか常識を超えている。 四メートル幅の門の向こうは、その幅のまま七十メートルほどの下り坂。下り坂の突き当りが……さっきの高校の校舎の横っ面。
 

 おずおずと自転車を押して坂を下る。  

 校舎の横っ面の向こう、植え込みの中で、見覚えのある植木職人さんたちが仕事をしている。 ミッションコンプリートだ。
 

 職人さんたちに聞いて分かった。  

 中河内中学は、中河内小学校と合併になり小中一貫校になって、この春に開校したばかり。  

 元々は、ここにあった府立高校の敷地と校舎をそのまま使っているので、並の中学校を思い浮かべるとビックリする。  

 おそらく日本中にここだけだろう、長細くて下り坂になってる入り口は、府立高校として建てられた時、正門と考えていた土地が買収できなかったために、変則的な形になってしまったということらしい。  

 だけど、高安山を仰ぎ見るロケーションは、なんだか奈良の郊外みたいで、探検のし甲斐がありそう。
 

 ちょっとワクワクしてきたよ。 

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・11(促成魔女初級講座・実戦編・1)

2019-03-26 06:40:37 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・11 (促成魔女初級講座・実戦編・1)
 

 

 気づくと、真っ青な空があった。
 

 真由は、どこかで見たことがある空だと思った。東京にはない、真っ青で密度の高い光に満ちた空。

「体の軸線が90度ずれてる。直して」  

 清明の声が斜めから聞こえてきた。ゲーム機のコントローラーが一瞬頭に浮かび、R3のグリグリを1/4回転させた。 目の前にでっかいシーサーの顔があった。
 

 思い出した。中学の修学旅行で来た沖縄は那覇の国際通りだ。
 

「瞬間移動には、すぐに慣れるよ。移動の直前に移動する場所のイメージが浮かぶようになる。ボクが手助けしたけど、初めての瞬間移動にしては上出来だ」

「どうして、那覇なんですか?」  

 国際通りの歩道を歩きながら、真由は清明に聞いた。

「実戦訓練には、ちょうどいいからさ。まあ、全部歩いても一マイル。歩いて馴染んでみようか」

「武蔵さんと、ハチは?」

「武蔵さんは、基本的には自分が行ったところにしか現れることができない。沖縄には来たことがないからね。連れてこようと思ったら『五輪書』を持っていなければできない。それに初級の実戦だから、ボクでも十分だ。ハチは君が見たシーサーに化けている。邪魔が入らないようにね」
 

 三十分ほどかけて、国際通りの端から端まで歩いてみた。真由はすっかり旅行気分になっていた。
 

「なにか気づいたかい?」

「え、あ、すっかり旅行気分になっちゃって……すみません」

「ハハ、それぐらいでいいよ。武蔵さんの座っている姿でも気づいただろう。本当の剣客は、普段はごく普通の姿勢がいいだけのオジサンだ。いつも殺気立っているのは初心者だよ……言った尻から緊張する。リラックス、リラックス」

 そう言われると、真由はすぐにリラックスした。国際通りが素晴らしいのか、真由の才能なのかはよくわからない。

「で、気づいた?」

 清明は、ニヤニヤしながら、もう一度聞いた。はた目には兄妹か若いアベックの旅行者にしか見えない。二人は完全に国際通りの風景の中に溶け込んでいた。

「えと……よくわかんないです」

「正直でけっこう。通行人の人たちをよく見てごらん。微妙に色の薄い人たちがいるだろう……」  

 真由はウィンドウショッピングの感じで見渡した。

「分かりました、あの学生風のグループなんか、発色の悪いプリンターで印刷したみたいです」

「よし、それが分かったら裏世界に変換。R3ボタンを押し込んで」

 コントローラーをイメージしたのは、ほんの一瞬だった。

「どうだい、なにか変っただろう?」

「……通行人が減っちゃった」

「それでいい。ボクも真由も、あいつらといっしょに裏世界に入り込めた」

「裏世界って……?」

「現実と変わらない世界なんだけど、その道の者だけで戦うダンジョンみたいなもの。現実の人間は、みんな排除してある。きっかけが来たと思ったら、ポケットの中の式神をまき散らして」
 

 きっかけは、直ぐにやってきた。さっきの学生風たちが、違和感を感じてキョロキョロし始めた。
 

「今だ!」  

 清明に言われると同時に、真由は、ポケットの中の紙屑のようなものをまき散らした……!

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高校ライトノベル・時かける少女・49『女子高生怪盗ミナコ・15』

2019-03-26 06:18:41 | 時かける少女

 

時かける少女・49  『女子高生怪盗ミナコ・15』  

 「大和発進ヨーイ!」爺ちゃんの沖田艦長のような声が響いた……。
 

「各開口部、ハッチ閉鎖完了……出力100。乾ドック注水」  水の無かったドックにナイアガラの滝を思わせるような勢いで注水が始まった。五分ほどで大和は、艦橋の最上部まで水に漬かった。 「ロック外せ。ドック隔壁解放、微速前進、ヨーソロ……」
 

 大和は、かつて在りし日の姿のまま、浦安の海底ドッグから浮上すると、東京湾を15ノットの速度で羽田沖を目指した。  行き交う船や、沿岸の人々が驚異の眼差しで、見つめる中、大和は羽田沖に近づいた。
 

「取り舵30度、主砲左舷90度、仰角40度祝砲ヨーイ!」

 3000トンもある主砲三基九門が音もなく旋回し仰角をかけていく。

「主砲、打ち方ヨーシ!」  

 副長のフサコが、祝砲の準備完了を伝える。

「祝砲、撃ち方、始め!」
 

 轟々と三基九門の主砲から、21発の祝砲が放たれ、その筒音は東京中に、響き渡った。
 

「水上走行止め、方位そのまま、上昇角15、微速飛行20ノット。発進!」

 大和は、アニメのヤマトのようにロケット噴射をすることもなく、ただ艦体から大量の海水をしたたらせ、四つのスクリューをブーンと唸らせて、銀座通りの上空をゆるゆると15度の上昇角で飛行、一丁目上空で上昇角を30度にし、亜音速で成層圏を目指した。
 

 ミナコは、放心状態になった。無意識の奥底で、ミナコの本来の湊子の意識が疼いたのだ。しかし、それは、ほんの瞬間で、ミナコはミナコとしての疑問を祖父にぶつけた。
 

「それで、この大和は、何をしにいくの?」
 

 艦橋にいた全員がズッコケた。

「艦長、この子達には、まだ説明されていなかったのですか?」  

 副長のフサコが、いささか呆れた顔で言った。

「いずれ分かるだろうと思ってな……わしたちは、ミナコたちがオッサン達のクレジットカードのスキャニングをやったのと似たようなことをやりに行くんだ」
「やっぱり、あくまでもドロボー稼業の延長なんですのね!?」
 ミナミが、素直に喜んだ。

「でも、この大がかりでドハデな出発は、並の仕事じゃないね……」

「今に分かる。それより、二人には、この船の仕事に慣れてもらおう。ミナコは右舷の緑のシートに、ミナミは左舷の赤いシートに座りなさい」
 

 言われたように座ると、上から32インチほどのモニターが降りてきて、前からは、プレステのコントローラーに似た管制機が出てきた。

「セレクトボタンを押すと、高角砲と機銃に切り替わる。三回押せば高角砲と機銃の同時操作になる。モニターに赤やら、薄いピンクの▽が出ているだろう。それが、敵のマークだ。照準はオートだが、左右の第三ボタンでマニュアル操作もできる。慣れてくれば、その方が臨機応変な対応ができる。一応チュートリアルをやっておく」
 モニターの▽が▼に変わった。
「戦闘モードだ、照準の合った敵から撃っていけ。副長、マニュアル最大戦速!」  

 目まぐるしく▼が現れては後方に流れていく。ミナコもミナミも最初からマニュアルで、▼を消滅させていった。発射が○ボタンであることは説明をうけずとも分かった。40分ほどかけて、地球を一周する間に▼マークの全てを撃破した。
 

「ヤッター!」

「でも、艦長、今の▼はなんでしたの?」

「世界中の軍事衛星と、機能を停止した衛星。つまり宇宙のゴミ掃除だ。で、敵を呼び寄せるデモンストレーションでもある」 「艦長、敵の通信です。メインモニターに出します」  

 フサコ副長が言うと、砲手用モニターの間に、50インチほどのメインモニターが現れた。

――蟹江さん。またお会いすることになりましたね――

 モニターに現れたのは、ブロンドの長い髪の美しい女性だった……。

 

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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・009『条件』

2019-03-25 15:08:02 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・009

『条件語り手・ユリ   

 

 

 お料理の練習をしたいので調理室を使わせてください。

 

 用件を言うと徳川先生の目は針のように細くなった。

「何のために料理の練習がしたいのかしら?」

 答えようとすると、マチカに先を越された。

「将来のためです」

「将来の、どういうことのためなの?」

「良き家庭人、良き職業婦人になるためです」

「良き家庭人、良き職業婦人とは?」

 畳みかけるような質問に、マチカが先を越してくれてよかったと思う。

「家庭においては良き妻、良き母、良き嫁、良き生活人になるためです。職業婦人としては、家事の柱である調理に長けることによって、職場にいる時は、より仕事に集中できると考えます」

「ふむ、簡潔な答えね。脇坂先生は、どう思います?」

 徳川先生は、安心して部屋を出て行こうとしていた脇坂先生に声を掛けた。

「は、あ……意欲の高さはけっこうなんだけど、えと……良き母とか職業婦人とか言うのはどうなんだろ」

 わたしもヤバいと思った。良き母、良き妻、良き嫁、職業婦人……なんかNGな言葉のように思える。

「そうね、言葉の意味を言ってもらえるかしら」

 ほら、絡んできた。

「良きを着けた言葉に順序はありません。女は『良き』を付けたいずれか、あるいはいくつかになるのだと思います」

「妻、母、嫁、生活人、職業婦人……その通りかなあ、いかがですか脇坂先生?」

「……生活人という範疇以外の言葉には、ちょっと女性蔑視の臭いがするかなあ」

「言葉に罪は無いと思います。あるとすれば、言葉を使う側、聞く側の感性ではないでしょうか」

 よく分からないけど、マチカの押し出しはすごい。

 徳川先生が足を組み替えたよ、なんか本格的に攻められそう……。

「続けて」

「妻がダメなら『女性配偶者』、母は『女性親権者』、あるいはフランス式に『親一号』あるいは『親二号』でしょうか。嫁は『息子の配偶者』、職業婦人は『女性労働者』になるかと思いますが、言葉としてこなれていないですし、会話に用いるには長すぎます」

「『婦人』というのはどうかしら、婦という文字は女偏に箒と書くでしょ、女は箒持って掃除でもしてろって蔑視の意味があると思うんだけど」

 気弱な脇坂先生にしては、よく言うと思う。徳川先生は、ちょっと意地悪そうに腕を組んでいる。

「それは間違いです」

 はっきり言う……でも、大丈夫、マチカ?

「帚と箒は違います。失礼します」

 マチカはホワイトボードに二つの字を書いた。えと……違いは?

「婦人の方は、竹冠が付いてないでしょ。清掃用具の箒には竹冠が付いてるの」

 あ、なるほど……で、意味の違いは?

「竹冠が無い方、つまり婦人の方はね、神さまにお供え物をするときの神聖な器を現わして、転じて、神に仕える神聖な女性を意味する。田んぼで力を発揮するって『男』って地よりも高尚なんです」

「そうなの?」

「よく知ってるわね渡辺さん。そうよね『婦人』を抹殺したから『看護婦』とか『婦人解放運動』とか使えなくなったしね」

「その分『主婦』などはそのままですし……」

 脇坂先生が視線を避けたぞ。

「すみません、言葉が過ぎました」

 マチカは脇坂先生に美しく頭を下げた。

「よし、調理室の使用は許可しましょう」

 ヤリーーー!

「ただし、条件があります」

 緊張する。

「なんでしょうか?」

「まず、後片付けをキチンとすること」

「「「「はい!」」」」

「もう一つ、たった今から『調理研究同好会』ということにしなさい」

「同好会ですか?」

「生徒の集まりというだけでは恒常的な施設利用は認められません、同好会の看板を掲げること。いいわね」

「はい」

「……」

 一瞬目を丸くして脇坂先生は準備室を出て行った。

 

 そして、われわれ四人は『調理研究同好会』になってしまった。

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・10『無駄に真っ直ぐ』

2019-03-25 13:24:07 | 小説6

 ひょいと自転車に乗って・10
『無駄に真っ直ぐ』
        


 


 真っ直ぐな道ってめったにない。

 碁盤の目のような京都の道だって、たいてい微妙に歪んでいる。
 聞きかじりだけど、大阪で真っ直ぐな道というと御堂筋。それも、淀屋橋から心斎橋にかけての二キロほどで、心斎橋から南は微妙に屈折している。

「わ、真っ直ぐ!」

 思わずブレーキレバーを握った。
「え、え、なにが?」
 京ちゃんは惰性で、二メートルほど進んで停まった。
「ほら、この道、チョー真っ直ぐっぽいよ」
「え……ん、そういえばそうかなあ」
 あまり関心のなさそうな返事が返ってくる。もともと返事を期待してのことじゃないので、わたしの感動は続く。
「ね、ちょっと走ってみようよ!」
 京ちゃんの返事も待たないでペダルを踏んだ。「ちょ、ミッチー!」という京ちゃんの声は十メートル以上後ろになっていた。

 歩道の狭く、二車線の道は自動車がビュンビュン走っているけど、歩道と車道の脇を拾いながら突き進んだ。

 ついさっきまでは、久宝寺の寺内町の痕跡を見たくて近鉄の線路沿いを走っていたんだけど、八尾駅を西に十分ほど行った交差点でビビっときた。ひょいと見た二車線が、果てしなく真っ直ぐなのに感動して今に至っている。
「ほんま、ミッチーて面白いなー」
 赤信号で追いついた京ちゃんは面白がっている。
 わたしは、ついこないだ自転車に乗れるようになったばかり。
――自転車に乗れたら世界が変わるよ――
 京ちゃんの言った通り。一時間でも空いていれば、あてもなく自転車で走っている。「八尾の道はラビリンスだから」というシゲさんのアドバイスで遠くには行かない。行きたい時は京ちゃんに付いて来てもらう。
「府道21号線やね」
「京ちゃん詳しい!」
「ハハ、道路に書いたあるでしょ」
 なるほど、道路に長細い字で書いてある。
「あ、この先に木村重成のお墓があるよ」
「え、ほんと?」
 京ちゃんもわたしも『真田丸』のファンだ。主役の幸村も好きなんだけど、大坂方の若武者の木村重成くんも好きだ。最終回で討ち死にした時は思わず「死ぬなー!」って叫んでしまった。

 車の流れが途切れる瞬間があって、思わず車道の真ん中寄りを全速で疾走。
「なんだか、このまま飛んでいけそう!」
「自転車でか!?」
「世界が広がるって言ったじゃない!」
「おーし!」
 
 でも、木村重成のお墓には、たどり着けなかった。

 二台続けてクラクションを鳴らされたところで萎えてしまい、東大阪へ2キロの標識を見て挫折した。

 帰ってからネットで検索した。

 なんと府道21号線の真っ直ぐな部分は『大正飛行場』の滑走路の跡だった。
 ラビリンスの中の滑走路、あのまま飛んで行けそうに思えたのは、飛行機のソウルみたいなのが憑りうつったからなのかもしれない。

 八尾という街が面白くなってきた。

 とりあえず木村重成くんのお墓を探してみよう。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・10(促成魔女初級講座・座学編・2)

2019-03-25 13:14:40 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・10
(促成魔女初級講座・座学編・2)



「なぜ生涯一度も負けなかったかわかるかのう」

 武蔵は独り言のように言って、庭を眺めている。ただ、言葉の直後に鹿威しの音が入って、真由の心に突き刺さる。
「……負ける戦いはしなかった。ハハ、なんだか言葉遊びのように聞こえるかもしれんが、戦いの極意はこれしかない」
「あの……それだと、あたし、だれとも戦えません」

 真由の正直な答えに、武蔵は方頬で、清明は遠慮なく、ハチはなんとなくニンマリと笑ったような気がした。

「あ、変なこと言いました?」
「いや、正直な答えでけっこう。ここからが話よ」
 武蔵は端正に座っているように見えながら、どこにも力が入っていない。かといって打ち込めば、必ず反撃されるようなオーラがあった。真由の気持ちが分かったのだろう。清明があとを続けた。
「巌流島の話はしっているかい?」
「えと……佐々木小次郎さんに勝ったんですよね。たしか武蔵さんの一番大きな勝負……でしたよね?」
 うかつに多く口に含んだ濃茶は、いささか苦かった。
「あれ、まともにやっていたら武蔵さんの負けだったんだ」
「あの試合、武蔵さんは、わざと遅れてやってきた。悠々と小舟の中で櫂を削って、長い木刀をつくりながらね。小次郎はさお竹と言われるぐらいに長い刀を、すごい速さで繰り出してくる。で、わざと遅れて小次郎をいらだたせた。そして普段の二刀流は使わずに、船の中で作った櫂の木刀をぶらさげて、こう言った。『小次郎破れたり!』遅れてやってきて、お前の負けだって言われれば、たいていの者は多少頭にくる。平常心を失っちゃうね。ここまでならハッタリなんだけど、武蔵さんは畳みかけるように、こう言った『おぬしは鞘を捨てた。その刀は二度と鞘にはもどらん。おぬしの負けだ』」
「ハハ、小賢しいハッタリにちがいはない。いつも使っていた二刀流を使わなかったのも、小次郎の早さに着いていけない可能性が高かったから……そして、二刀流の武蔵が、長い木刀……意表をついたまでのこと」
「ジャイアント馬場って、プロレスラー知ってる?」
「えと……アントニオ猪木の師匠のプロレスラーですね」
 真由はスマホで検索して答えた。
「あの人は、元々はプロ野球のピッチャーだったんだ。最初に長嶋さんと勝負した時は三振をとっている」
「え、そうなんですか!?」
「背の高い人でね。とんでもなく高いところから球が飛んでくるんで、バットの軸線が合わせられないんだ」
「よい例えだ。野球は慣れてしまえば、あとは目と腕で勝てる。剣術は、そうはいかん。一度でも負ければ死ぬということだからな。巌流島勝利の主因はそこにはない。わしが勝てたのは、そうやって死地を選ぶ余裕ができたからだ」
「シチ?」
 ハチが、自分の兄弟の事をいわれたのかと耳を立てた。
「死人の死に地球の地とかく。文字通り、相手にとって勝てない死の地点だ」
「武蔵さんは海を背に横に走り、小次郎の刀の軸線を殺した。つまり、小次郎が振り下ろした瞬間には、わずかに自分の位置がずれる場所まで走った。あせった小次郎は、それを補うために大刀を横ざまに振った……その瞬間、小次郎の上半身は無防備になる。そこを、すかさず武蔵さんは跳躍して、小次郎の脳天を木刀で打った。計算とアドリブの見事なコラボだ」
「それは、買い被りというもの。勝負は死地を選べた霊力。これは、そのときの清明殿から伝授されたものだ」

 武蔵は平気で濃茶を飲み干した。

「座学は、ここらへんでよいであろう。清明殿、真由どのを実地訓練に出そう。式神の作り方を教えてやってはいかが?」
「そうですね、それが、とりあえず役に立つ」

 清明は葉書大の和紙と鋏をもってきた。いよいよ実践編にはいるようである……」

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高校ライトノベル・時かける少女・48『女子高生怪盗ミナコ・14』

2019-03-25 12:52:57 | 時かける少女

時かける少女・48 
『女子高生怪盗ミナコ・14』 
 



  


 階段をつづら折れに降りると、目の前にとんでもないものが目に飛び込んできた!

 そこには、なんと戦艦大和が古武士のように鎮座していた。
「これって、どこかの映画のセット、かっぱらってきたの!?」
「それとも、ご趣味でお作りになった実物大のレプリカでございますか!?」
 ミナコとミナミは、それぞれの趣味と感覚で驚いた。こういうところにも育ちが出るものだと爺ちゃんは思った。

「これは、宇宙戦艦大和だ」

「宇宙戦艦……」
「ヤマト……?」
 二人で一人前の質問をした。

「見ればわかるだろう。あんなカタカナのプラモデルのようなものではない。外見は、あくまでも旧日本海軍の誇り、無用の長物とも言われた戦艦大和だ。わしは坊津沖で、無惨に撃沈させるような愚はおかさん。こいつは、パパブッシュのころにアメリカの公文書を手に入れ、脅しあげて、宇宙人の死体を借り受けた」
「死体なんて、どうしたの?」
「なあに、ヤツラは死んだふりをしとるだけだ。アメリカに技術を与えんためにな。わしらは、そのへんの情報はキチンと掴んでいる。ここに来たら、すぐに蘇生した。そして、地球を救うために、彼らに協力してもらって、この大和を作った」
「よく、世間に漏れずに作れましたね?」
「池之宮の先々々代も、宇宙人の手を借りておられた。そうでなければ、あの時代にイ007号のような潜水艦はつくれん」
「宇宙人の協力があれば、もっとすごいものが作れたんじゃございません?」
「日本は、一度敗れる必要がある。池之宮の先々々代は、そう考えておられたようだ。それが正しかったかどうかは、もう少し時間がたたなければわからんだろうがな……」

 それから、ミナコたちは、大和の周りを一周した。青灰色の艦体は圧倒的だった。戦うという機能を極言にまで追い求め、カタチにすれば、これ以上のものはないだろう。

「お爺ちゃん、少し本物のニオイがする……」
「わたくしも、艦首と主砲のあたりに……」
「さすがだな。艦首の最前部と、主砲は本物を流用している」
「つまり盗んできたのね」
「ばか、生き返らせたんだ。さあ、中に入るぞ」

 中は無人かと思ったが、人の気配がする。艦内の通路の向こうに人が居た。

「あ……」
 その姿形は、ミナコそっくりだった。ブリッジに着くまでに、五人出会ったが、服や階級章の別はあったものの、みなミナコにそっくりで、ミナミなんか、吹き出し掛けていた。
「彼女たち、アンドロイドなんですね」
「ああ、船の保守点検には、どうしても人型のロボットが必要なんでね」
「でも、あたしソックリにしなくったって。なんだか気持ち悪い」
「その秘密はな……」

「艦長、お待ち申し上げておりました」

 一人だけ、ミナコとは違うタイプのアンドロイドが敬礼した。
「紹介しておこう。副長のフサコだ」
 爺ちゃんは、きまり悪そうに、頭を掻いた。
「ミナミちゃんとミナコちゃんね。あなたたちには、両舷の火器の管制をやってもらいます」
「はい……声、聞き覚えがある」
「そう、それは嬉しいわ。わたしはね……」
「いや、わしから言おう。このフサコは、ミナコの婆さんの若い頃の姿がモデルなんだ」
「え、お婆ちゃん!?」
「ここでは、副長と呼んでね。艦長も」
「宇宙人が、アンドロイド一号を作るときに、艦長の補佐役で、もっとも適任な人間をモデルにしたら、わたしになったわけ。ちなみに、この人の情報もみんな、わたしのCPUに入ってるから」
「艦の中じゃ、艦長だろうが!」
 珍しく、爺ちゃんがムキになった。
「で、乗り組みのアンドロイドを作るときは、わたしの計算。ミナコのタイプが一番だと分かってね」
「なるほど……」

 他人のミナミは、すぐに理解できたが、ミナコ本人は、やっぱり納得できなかった。

――あたしって、もう少し可愛くって、プロポーションいいと思うんだけど――

「では、大和発進します!」
 副長が、そう言うと、お爺ちゃんは頭の上がらないカミサンに命ぜられたように、でもカッコだけはつけて頷いた。

「大和発進ヨーイ!」爺ちゃんの沖田艦長のような声が響いた……。

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・09『役小角の末裔』

2019-03-24 06:20:55 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・09
『役小角の末裔』
        

 

 慣れてきたころがあぶない!

 シゲさんにも京ちゃんにも言われていた。

 キャー!!

 悲鳴だけは、直ぐに出たけど、避ける余裕はなかった。
 これは衝突! したと思ったら、うまくかわして背の高さほどの茂みがクッションになって助かった。ぶつかりかけた自転車は、何事も無かったようにスイスイ行ってしまった。学校を出て二つ目の角を曲がったところでの出来事。
「フー……事故になるとこやったなあ」
 気づくと藤田先生がオデコの汗を拭っていた。
 藤田先生は、こないだ生駒山大崩壊の幻を見た時に「すまん、なんか暗示がかかってしもたみたいで」と言った先生だ。
 なんだか先生が暗示をかけたみたいな言い方だったけど、その真偽は確かめないまま三日がたった。
「いまの……ひょっとして先生ですか?」
 企んだわけじゃないけど、そう聞いてしまった。
「え、なにを……」
「だって……」
 茂みに目をやった。
 その茂は、よく見ると庭木で、生活道路とは言え道の真ん中にあるようなものじゃない。よく見ると、道路わきの家の庭の植え込みが不自然に一叢無くなっている。それに藤田先生の狼狽えた反応。

 きっと何かある……。       

「いやあ……如月のせいでもあるねんで」
「あ、あたしのせい?」

 先生と玉櫛川沿いの遊歩道を歩く。しみじみと語り合うにはもってこいの遊歩道だ。わたしは自転車を押している。
「ぼくのご先祖は役小角(えんのおづね)やねん」
「えんのおづね?」
「七世紀におった修験道の開祖でな、空を飛んだり妖怪と戦ったり、忍者の元祖とも言われてる」
「えと、その役小角さんが藤田……なんですか?」
「藤田は旧姓や。二十五で養子に行って、本名は要海いうねん」
「よ、妖怪!?」
「字ぃは重要の要に海て書いて『要海』や。もっとも藤田の家には要海の家から養子に出されてたから、元に戻ったとも言えるけどな」
「それで、いろいろ術とかが使えるんですか?」
「暗示に掛ける程度のことやったんやけどな。さっきみたいに庭木をクッション代わりにテレポさせるなんて初めてやった」
「先生、すごいですね! てか、それがわたしのせいってのは?」
「えと……あそこ見てみい」

 先生が指差したのは、工事中の玉櫛川。

 四メートルほどの川幅が、工事のため半分がせき止められて狭くなった区間が激しい流れになっている。
「あれが?」
「緩い流れでも、ああやると、ビックリするくらい速くなる。如月はあれや。ぼくの中でゆるゆる流れてた役小角の血の流れを増幅させて、さっきみたいな力を発揮させたんや」
「あ、でも、なんでわたしが?」
「その自転車やろなあ」
「自転車が?」
 言われて、しげしげと見る。オレンジ色というだけで、なんの変哲もない自転車だ。
「いや、自転車に乗れる如月自身や。中学生になって初めて自転車に乗れて、なんか、自分の中で開放されたもんがあったんやろなあ」
「開放……」

 自転車に乗れたら世界が変わるよ……京ちゃんの言葉を思い出した。

「あ、ここで車道渡って東に行くと、如月の家には近道やで」
「あ、そうなんですか」
「ほんなら、僕は山本から電車に乗るさかい」
「はい、失礼します」
 ペコリと頭を下げる。
「えと、ひょっとしたら、僕の影響で妙な目に遭うかもしれへんけど、深入りはせんようにね」
 そう言うと、先生はヒラヒラと手を振った。つられて手を振りそうになったけど、慌ててお辞儀に切り替えた。

 教えられたように車道を渡って生活道路へ、改めて見ると、周りは最低でも五十坪以上ありそうなお屋敷ばかり。なんだか知っている高安のイメージではない。
 そして道なりに行くと緩い下り道、そのどん詰まりに踏切があって、ひょいと首を巡らせると右に高安駅が見える。

 やった! 前から発見したかった学校への最短コースだ。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・9(促成魔女初級講座・座学編・1)

2019-03-24 06:12:28 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・9
(促成魔女初級講座・座学編・1)



「うかつだったなあ……」

 安倍青年の小さな呟きが、突然のクラクションのように聞こえるくらいに静かな山荘であった。
 三条河原で安倍が覆いかぶさって、真由がしがみついて、閃光が走ったかと思うと、ここにいた。
 八畳ほどの和室で、縁側に続いた庭にはハチが何事もなかったように日向ぼっこをしている。その周りは深山幽谷と言っていいほどの山の中である。
「あれは、なんだったんですか?」
「多分、中国の妖怪たち……」
「中国の?」
「うん、単に探りを入れに来ているだけかと思っていたけど。あいつらは実戦部隊だった」
「……あれも、あたしのせいなんですか?」
「真由くんが、南シナ海で中国の巡視船……無意識だけど沈めちゃっただろ。そこから手繰ったんだろうね。渋谷で網を張って、京都に来た時には、人知れず三条あたりに集結していた。ボクも気が付かなかった。油断だね」
「あ、助けていただいてありがとうございました」
 真由はペコリと頭を下げた。渋谷からこっちのことが、少しずつ整理されて、落ち着いてきた。
「あの……安倍さんていったい?」
「総理大臣の親類」
「え?」
「じゃなくて、第八十八代陰陽師頭(おんみょうじのかみ)安倍清明。ま、日本の魔法使いの元締めみたいなもん」
「ああ、むかし映画でやった」
「そんな感じかな。陰ながら日本と都を守るのが、うちの家系の仕事。うちのことはおいおい知ればいい。それより君だ。いきなり第一級の敵とみられたみたいだね」
「なんで、あたしが敵なんですか?」
「きみは、ヨーロッパの魔法の正式な継承者だ。まだチュートリアルの段階だけど、磨けば、すごい魔法使いになる。そうならないうちに、君を潰しにかかったんだ。ボクといっしょだったことも災いしたね。日本の陰陽道とヨーロッパの魔法が協定を結んだように思われた」

 庭の鹿威し(ししおどし)が、まるで時間にアクセントをつけるように、コーンと鳴った。

「七十年前の戦争で、京都と奈良にはほとんど爆撃の被害がなかったこと、知ってるね?」
「はい、学校で習いました。日本の敗北が決定的になったんで、文化財の多い奈良と京都は爆撃の対象から外したって」
「あれは、ボクのひい爺さんの仕事だったんだ。ああ、言わなくても分かるよ。日本の首都は東京だ。なぜ東京を守らなかったか……東京は正式には首都じゃない。ケチくさいけど法律のどこにも書いていない。天皇陛下が即位されるのも、東京じゃなくて京都の御所だ。京都の年寄りは、天皇陛下が京都に来られることを『お戻りになった』と、今でもいう」
「でも、東京は大空襲で、原爆以上の犠牲者を出しています。守れなかったんですか?」
「沙耶くんにも聞いたと思うけど、魔法と言うのは、ここに落ちる爆弾をそっちに持っていくだけのものだ。京都と奈良の分が、東京に落ちてしまった」
「そうなんですか……」
「皇居を守るのが精一杯だった」

 いきなり庭に面した縁側に人の気配を感じた。生成り木綿の着流しに渋柿色の袖なしを着た老人が、ハチを相手に遊んでいた。

「あ、武蔵さん。お久しぶりです」
 清明が頭を下げた。
「近くを通ったもんでな……山里におると、人恋しくなるものでな。ごめんくだされ」
「あ、どうぞお上がりください。松虫さん、お茶の用意をしてくれませんか」
 いつのまにか、座敷の傍らに和服の女性が座っていて、小さく頷くと、本格的な茶の湯の用意を始めた。
「おぬしの式神は、付かず離れず、まことに様子が良いのう。こちらの娘子が真由どのじゃな」

 鳶色の三白眼が、かすかに和んだ。この顔……日本史の資料集に出ていた宮本武蔵だ! 真由は正直に驚いた。

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高校ライトノベル・時かける少女・47『女子高生怪盗ミナコ・13』

2019-03-24 05:59:11 | 時かける少女

時かける少女・47 
『女子高生怪盗ミナコ・13』 
 



 浦安の海岸沿いを走り、町はずれの倒産した小さな造船所に三人を乗せた車は入っていった。

「池之宮家は、戦前は、ずっと海軍の宮家で通っていたね」
 倒産したとは思えない造船所の応接室で、トワイニングの紅茶を入れながらお爺ちゃんが言った。この応接室は、元々の応接室の地下にある。そこの床のモザイク模様を、一定の順番で踏むことによって、地下への道が開けるようになっている。もっとも、この程度の仕掛けで驚くような、ミナコとミナミではない。

「はい、他の宮家軍人とは違って、大佐以上には昇進できずに、いつも前線の指揮官をやっていたそうですが」
「先々々代には、ガキの頃一度だけお目に掛かったが、ガラッパチで、誰も本物の宮様だとは思っていなかったな。在郷軍人のタバコ屋のオッサンの方がえらそうに見えた」
「どんな、人だったの?」
 好奇心旺盛なミナコが身を乗り出した。
「戦後、人から聞いたんだが、終戦前は潜水艦の艦長をやっておられた。人間魚雷回天の搭載潜水艦のな」
「回天て、人間が乗る特攻魚雷だよね」
「辛い仕事だったと、父からは聞いております」
「ところが、宮様の潜水艦は、艦長の宮様が手を加えて、だいぶ違うものにした。水中速力35ノット。ワルター機関からヒントを得ているらしいが、今の潜水艦と比べてもひけをとらない」
 爺ちゃんは、そう言って、机の引き出しから二枚の白と黒の鉄板を取りだした。
「この白い方をカナヅチで叩いてごらん」

 ミナコが叩いてみたが、座布団を叩いたほどの音もしない。

「塗料が特殊でね、音がほとんどしない。これで潜水艦の中を塗っていたから、クシャミはおろか、モーターの音も外には漏れない。黒い方は外版だ、その塗料はアクティブソナーを吸収する。で、スクリューは、荒川の職人のオッサン達に削らせて、キャビテーションノイズを限界まで小さくした。で、それに載っけていた回天だ」
 爺ちゃんは、もう一枚の写真を出した。その写真の回天には、人間が出入りするハッチも、潜望鏡も無かった。
「こいつはリモコンで操縦するんだ。これが、そのモニターとコントローラーだ」

「これって、テレビとゲ-ム機のコントローラーだ!?」
「そう、遠隔操作で、敵艦にぶち当てるんだ」
「噂では聞いていましたが、写真を見るのは初めてです」

「二人とも、こちらへおいで」

 写真を食い入るように見ていた二人に、爺ちゃんは声をかけた。
 爺ちゃんがいくつかのパネルを踏んで応接の壁が動き、地下への階段が口を開けた。

「これは……」

「そう、先々々代が乗っていた、イ号007だ」
 黒い艦体の上には、四機の回天が載っていた。
「アメリカの公式記録じゃ、被害は4隻になっているがね、実数は10倍にはなる。こいつがいなきゃ、戦争は、もう、二か月は延びただろう。なんせ、原爆を積んだ巡洋艦を二隻も沈めとる。今でも、この記録とUFOの記録は、けして公開されることはない」

「お爺様、まさか、わたくしたちに、これに乗れと?」

「ハハ、こいつは、今は裏稼業のごく一部しか知らんが、記念艦。モニュメントだよ。二人……いや、三人で乗るのは別の船だ」

 爺ちゃんが、また壁のモザイクを操作すると、イ号007の、さらに下にいく階段が静かに開いた。

 その階段を、つづら折れに降りると、目の前にとんでもないものが目に飛び込んできた……!

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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・008『家庭科主任 徳川康子先生』

2019-03-23 15:43:33 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・008

『家庭科主任 徳川康子先生語り手・ユリ     

 

 

 高校の先生というのは職員室に居るとは限らない。

 教科別の準備室、国語、生物、化学、体育、社会とか。分掌別というのもある、分掌というのは分担された学校の仕事。進路とか生活指導とか保健とか図書とか。そういうあちこちの部屋に散らばってる。だから、直接授業を習ってないと――こんな先生いたっけ? 先生の方からすると、こんな生徒いたっけ?――ということが結構ある。

 その――こんな先生いたっけ?――というところに向かっている、四人揃って。

 向かっている先は家庭科準備室。旧館一階の西側に被服室・調理室・作法室・家庭科準備室と並んでいる。つまり、一番奥。わたしたちが習っているのは脇坂先生なんだけど、用事があるのは徳川先生。

 徳川先生と言うのは家庭科の主だ。

 脇坂先生とは親子ほど歳が離れている。むろん徳川先生の方が上で校長先生と同い年。徳川という苗字は伊達じゃなくて、マジで徳川家康さんの子孫。でもって、帝都タクシーの社長夫人であったりする。なんでも、東京都の家庭科教育のボス的存在であったりもする。

 なんで、そんなにオッカナイ先生の所に向かっているかというと、例のお昼ご飯のためなのだ。

 三日間はマチカが作ってきてくれたお弁当を頂いた。マチカのお弁当に不足は無い、無いどころかメチャクチャ美味しい! 美味しいのは、先日おかずの交換をやって承知してるんだけど、ノンコと清美の分も作るようになって、さらにグレードが上がった。三段重ねの重箱に色とりどりのお料理が入っていて、お正月のお節かお花見弁当かっていう感じ。マチカは、どうってことないという顔をしているけど、三人は恐縮した。材料費だけでもすごいと思う。トリュフとか伊勢エビとか入ってる。こういうところにビビるのが三人の良いところでもあると思うんだけどね。

 それなら、本格的にお料理講習会をやろうということになった。

 時間的にも場所的にも学校でやるのが一番。だから、脇坂先生に頼んで調理室を貸してもらおうと思った。

「わたしの一存では決められないわ、主任は徳川先生だから、直に頼んでくれる?」

 というわけで、奥つ城の家庭科準備室を目指しているのだ。

 ノックする前に互いの服装身だしなみをチェック。「「「「よし!」」」」の声が揃って、ジャンケンで負けたわたしがノック。「入れ!」の声にビクッとして「「「「失礼します」」」」。入室して最後尾の清美がドアを閉める。

「学年・組・氏名・用件を言いなさい!」

「ハ、ハヒ!」

「二年B組、要海友里」「渡辺真智香」「野々村典子」「藤本清美」「以上四名、家庭科調理室の使用を許可していただきたくて参りました!」

「奥に進みなさい」

「はい、失礼します……」

 

 徳川康子先生……名前からして徳川家康を思わせる先生は、机に向かって提出させた実習ノートや被服作品のチェックの真っ最中。三十秒ほどあって、チェックに区切りをつけてあげた顔は一見穏やかそうなうりざね顔だ。去年やってた大河ドラマの西郷隆盛の奥さんに似ていた……。

 

☆ 主な登場人物

マチカ(マヂカ)     魔法少女としてはマヂカ、日暮里高校2年B組の渡辺真智香として72年ぶりに復活

ユリ  要海友里     マチカのクラスメート

ノンコ 野々村典子    マチカのクラスメート

清美  藤本清美     マチカのクラスメート

安倍晴美         日暮里高校 国語の講師

ケルベロス        魔王の秘書 魔法少女世話係 黒犬の姿だがいろいろ変身して現れる

田中先生 田中実     2年B組の担任

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・08『崩れる生駒山・2』

2019-03-23 06:27:20 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・08
『崩れる生駒山・2』
        

 山が崩れると地震が起こる

 地震が起こるから山が崩れる? どっちだろ?

 生駒山がポロポロ崩れているというのに、わたしは、そんなことを考えていた。
「ミッチー、あれ!」
 京ちゃんが指差したのは高安山の頂上。
 引っ越してきた日に気づいていたんだけど、山のテッペンには大きなたこ焼きがある。てか、第一印象がたこ焼きだったんだけど、正体は分からない。そのデカいたこ焼きが、遠目にもグラグラ揺れているのだ。
「あ、転んだ!」
 たこ焼きが土台から外れて、山の斜面をゴロゴロ転がり始めた。
 たこ焼きは、山の斜面の木々をなぎ倒し、麓の家々をペチャンコに!
 と思ったら、斜面の途中でバラバラになった。
「え、張りぼて?」
「あれは、気象レーダーのドームや。そうか、きみらにはたこ焼に見えたんか。卒業した子らは目玉おやじとか言うとったけどな」
 藤田先生の言葉に――そういうふうにも見えるなあ――と感じる。

      

「恩地川が決壊した!」「山津波がおこった!」「玉櫛川も溢れてる!」

 立て続けに誰かの叫び、教室から飛び出した生徒たちが右往左往している。
「外には出るな! 屋上へ上がれ!」
 藤田先生が叫ぶ。叫ぶだけじゃなくて、校舎の出口に立って、グラウンドに出ようとしている生徒や先生を押しとどめている。
「緊急避難はグラウンドや、先生、そこどきなはれ!」
 教頭先生が藤田先生を押しのけようとする。
「マニュアルは通用しません! 恩地川が決壊してるんです、大和川を遡って来た津波が来るんです! グラウンド行ったら飲み込まれる!」
 恩地川は大和川に繋がってるなんて知らなかった。とんだところで地理の勉強。
「階段上がらせたら、慌てて怪我人が出る! マニュアルに沿ってせなあかん!」
「問答無用!」
 なんと、藤田先生は教頭先生を張り飛ばした!

「みんな屋上へ!!」

 教頭先生を張り倒したことで、迷っていた人たちの気持ちが一つになった。廊下のみんなは屋上を目指した。先生たちも踊り場に立って、パニックにならないように誘導し始めた。
 屋上に出てフェンスに掴まると、恩地川から溢れた水が街を浸し始めたのが分かった。グラウンドは、ほんの数秒で濁流に呑まれ、自動車やら家の壊れたのが押し寄せてきた。グラウンドに逃げていたら危ないところだった。
「ああ、あれー!」
 京ちゃんが叫ぶ。叫んだ方角を見ると、街の人たちが、いろんなものといっしょに流されて行くのが見える。中には、なにかに当たったのか、首があらぬ方向に曲がっている人も居る。京ちゃんは口を手で覆い必死で堪えている。京ちゃんは生まれながらの街だ、流されて行く人たちの中に大勢の知った人がいるんだろう。
「みんな、給水塔の上に上がれ!」
 藤田先生が、また叫んだ。
「生駒山が!!!」
 南北に長い生駒山が、あちこちで大崩れになり、崩れた土砂が麓のもろもろのものを飲み込みながら迫ってくる。そして崩れの向こう側からは、さらにいろんなものが、山の向こうは奈良県、その奈良県がグズグズになって押し寄せてくる。
「あ、奈良の大仏!?」
 なんと、大仏様がアップアップしながら、それでも仏様なので、なんとか抜き手で泳ごうとされている。
「コントロールが効かへんねんわ」
 大仏様は流されながらも、人の邪魔になってはいけないと身をくねらせているが、自然の猛威には勝てず、あちこちぶつかっては手を合わせて念仏を唱えている。
「念仏はいいから!」
 なんと大仏様は、校舎の方に流されてきている。

 わ ごめん!

 大仏様が言うのと、校舎にぶつかるのがいっしょだった。
 いかに耐震工事が終わっているとは言え、大仏がぶつかってくるところまでは想定されていない。
 なにかが折れる音がして、足許の校舎はゆっくりと崩れて行った……。

 おい、大丈夫か? 恩地! 如月!

 藤田先生の声がすると、元の廊下に戻った。
 わたしと京ちゃんは、抱き合ったまま廊下にへたり込んでいたのだ。
「校舎が崩れ……?」
「大仏様が……?」
「とりあえず、起きなさい」
 スカートをはたいて立ち上がる。廊下は、いつもの昼休みの景色だ。
「すまん、なんか暗示がかかってしもたみたいで」
「あ、暗示?」
「あ、いや、怪我とかなかったらええねん。いやいや、すまなんだ」
 先生は、頭を掻きながらペコリとすると行ってしまった。

「久々にひっかかってしもたわ、さ、行こか」

 ため息一つして、京ちゃんは歩き出す。
 どうも、この街は一筋縄ではいかないようだ。とんでもないところに越してきてしまった……。
 

コメント
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