大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・8(The witch trainingのつもりが……)

2019-03-23 06:19:39 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・8
(The witch trainingのつもりが……)



 三条河原のアベックは川に沿って等間隔に並ぶことで有名である。

「じゃ、とりあえず河原に降りようか」
 ろくに紹介もされないうちに、青年の一言で真由は三条河原のアベックの一組になってしまった。
「ボク、安倍って言います。よろしく」
「あ、あたしは……」
「朝倉真由さん。ひょんなことで魔法が使えるようになっちゃって、そのエクササイズのために、沙耶さん、ハチ公、そしてボクのところへまわされてきたんだよね」
「あ、はい。その通りです……なんで分かるんですか、一言も喋ってないのに?」
 それには答えないで、安倍は続けた。ハチは、おまかせとばかりに少し離れてリラックスしている。
「なんで、ここのアベックたちは等間隔で座っているか分かる? それも、この冬に」
 真由は、改めて周りを見まわすと、同じようなアベックが並んでいるのが分かった。等間隔なのかなと思うと、上空から見たビジョンが目に浮かんだ。何十組というアベックが等間隔で並んでいる。ビジョンが見えたこと自体が、もう魔法なのだが、真由は、この程度では驚かなくなっている。魔女慣れしてきたことと、安倍青年の不思議な雰囲気にも呑まれてしまっているようなのだ。

「これも一種の魔法。日本の古い言い方で呪(しゅ)がかかっているという」
「呪……ですか?」
「それも、二つの呪だよ。一つは互いの愛情……愛は多少の寒さもものともしない」
「なるほど……」
 納得して、真由は驚いた。真由も寒さを感じない。小春日和のような温かさを感じる。
「ハハ、真由ちゃんが感じてるのは愛情じゃないから。ボクが暖かくしている。そこのハチ公までは届いている。病気の時、お母さんが手を当ててくれたり、さすってくれたりすると病状が和らぐね。あれも原始的な呪の一つ。西洋で言う魔法とは呪と同じで、その能力を増幅させたものなんだよ。ハチは上手く教えてくれたようだね、君の頭の中にはコントローラーが見える……いまR2ボタンでボクのこと透視しようとしたね」
 無意識にやってしまったのだが、言われれば、その通りなので、またまた驚いた。で、真由のレベルでは透視しても安倍の正体は分からない。
「もう一つの呪はね……この三条河原は、むかしは処刑場だったんだ。有名なところじゃ豊臣秀次の一族やら石川五右衛門やらが処刑されてる。アベックの間には、そういう霊が座って心を温めているんだよ」
 となりのアベックが笑った。どうやら男の子が女の子にプレゼントをしたみたいだ。
「なるほど、恋は魔法だ。でも、あたし処刑された人たちは見えません」
「経験値があがれば見えるさ。真由ちゃんにはハチが見えてるだろ。でも、他の人には見えないんだ」
「え、見えてないんですか?」
「渋谷じゃないからね、ハチもリラックスしてるんだよ。ちなみに隣にいるのが、いま言った五右衛門……おかしい、五右衛門が気を付けろって言った……いかん、ボクに掴まって!」
 言うが早いか、安倍は真由に覆いかぶさってきた。真由は反射的に安倍にしがみついた。

 次の瞬間、安倍と真由の体が爆発……したように見えた。

「しとめたか?」
「……だめ、一瞬早くテレポされてしまった」
 アベックが悔しそうに言った。
「いて!」
「痛い!」
 ハチが、アベックの男女に噛みついて消えた。周りの何組かのアベックが咎めるように二人を睨んでいた。どうやら、仲間の失敗に怒っているようだ。

 魔女の初級訓練が、いきなり実戦に入ってしまった。


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高校ライトノベル・時かける少女・46『女子高生怪盗ミナコ・12』

2019-03-23 06:11:46 | 時かける少女

時かける少女・46 
『女子高生怪盗ミナコ・12』 
  



 ワールドトレードセンタービルのテロを忘れようと、爺ちゃんと三人でディズニーシーへ行った!

 ちゃんと入場料を払って!

 出来て、もう半年はたとうかというのに、でもって、学校も休んで平日に来たというのに、ディズニーシーはイッパイだった。でも、シッパイだったとは思わない。怪盗ドロボープリンセス(自分たちで付けただけ)と言っても、根はハイティーンの女の子である。こういうテーマパークではいくら待っても退屈はしない。
 待ち時間の間にブルジョアと思われるオッサン……たいがい玄人と思われる風俗の女の子(女の人?)をハベラセて得意そうにしている。そういうオッサン達のカードを預かってはスキャニングして、コピーを作り、園内のアチコチにあるショップで大量に買い物をし、リストアップした児童施設などに送った。
 で、とても使い切れない(なんと三時間ほどで、5億円分ぐらいスキャニングした!)金額なので、後日、本当に必要なものを考えて送ることにした。まあ、普段アコギなことをして稼いだお金なんだろうから、これくらいの散財は、オッサン達の功徳にもなるだろう。

 驚いたことに、K国の将軍様の坊ちゃんが、お忍びで来ているのに出くわした。よく観察すると、日本の公安のオニイサンたちが、5人ほどつかず離れずしていたが、どうやら、ただ見守っているだけのようだった。
「いっちょう、やるか!」
「そうですね」
 ミナコとミナミの意見は直ぐに一致した。動画を3分、エレクトリックレールウェイでは、直ぐ後ろに座り、音声まで採った。会話の中にK国の要人の固有名詞がバンバン出てくる。
 ミナミは、特注のSONYのケータイ型パソコンで、自分のスタッフに送った。また、夜のゴールデンタイムに割り込み放送をするつもりである。

 謙三爺ちゃんは、船長服を着て、コロンビア号のデッキを歩いていたが、あまりにシャメをねだられるので、普通のオッサンのナリになって、デッキチェアーでまどろんでいた。

「なんだ、爺ちゃん、どこにも行ってないの?」
「そこで、おもしろい人にお会いしましてよ」
「ああ、K国のボンボンだろ」
「うん!」
「その様子じゃ、またビデオに撮ってテレビで流す腹だな」
「だって……」
「いや、止めやせんさ。やりたいだけやれ。ただ、あんまり期待すんなよ。辻貴子のときも、世間は見向きもせんかったからな」
「お腹空いちゃった。ちょっと遅いけどランチにしようよ。カードこんなにあるし……」
「貸してみろ……うん、使わせてもらってもいいやつばっかりだな」
「お爺様、見ただけで、お分かりになるんですか!?」
「オレの指輪は、スキャナーになってるんでね」
「指輪だけ?」
「あとは、孫でも教えられん」
「ちぇ!」

 で、三人はCデッキのラウンジで、昼食にした。
「ああ、おいしかった!」
「食った食った~!」
「もう、こんなマガイモノの海やら船は飽きた。どうだ本物の船に行くか?」
「え、本物ですの?」
「ああ、超ホンモノだ。少し仕事もしてもらうがな……」

 ワクワクと、不安な予感が一度にしてきたミナコであった……。

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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・007『四人でテーブルを囲むぞ!』

2019-03-22 15:56:51 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・007

『四人でテーブルを囲むぞ!』 

 

 

 女子高生は仲良くなると、つまらないことにこだわる。

 

 一人が特定の人物を嫌うと、みんなで嫌う。

 逆に言うと、女子一人に嫌われると、その仲間全員に嫌われる。場合によってはクラスの女子全員に嫌われる羽目になる。

 英語の授業中、橋本先生がbe動詞を書き忘れた清美を指導した。ちょっとしつこい指導だったので、手を挙げて助け舟を出してやった。おかげで、仲良くなれたのだが、わたしが先生をやり込めた感じになってしまって、女子の橋本嫌いに拍車をかけてしまった。ちょっと橋本先生が気の毒だ。

 お仲間の中心はユリ(要海友里)だ。そこにノンコ(野々村典子)と清美(藤本清美)が連なっていて、今度の件でわたしが加わった。中心はユリのはずなのに、弁当とbe動詞の件以来、三人がわたしを立てようという雰囲気になってきている。教室移動などで廊下を歩いていると、他の三人も並んで歩く。狭い廊下を四人が横一列は物理的に無理なので、のこぎり型の変則的横一列になる。正直通行の邪魔になっている。「ちょっとお手洗い」とか言って列から離れようとすると「「「あたしもー」」」ということになって余計に面倒だ。

 もう一つは昼食だ。

 わたしとユリは弁当だが、ノンコと清美は食堂なのだ。ユリも食堂だったのだが家庭事情で弁当になっている。

 人間関係の基本は食事だ、飯だ。同じ釜の飯を食うという言葉にもある通り、けしてないがしろにしていい問題ではない。

「よし、四人で食堂いこう!」

「わたし、お弁当だし」

「同じテーブルで、ノンコと清美は学食。わたしとユリがお弁当ならいいじゃない?」

「あー、でも、四人揃ってテーブルってむつかしいよ」

「任せてよ!」

 

 三人を引き連れて食堂へ。ノンコが言った通り席はほとんど一杯だ。

 まあ、少しくらいの魔法はいいだろう。

「ほら、そこ!」

 指さすと同時に、四人掛けのテーブルを出現させる。

「あ、こんなところに!?」

 すかさず四人で掛けてしまう。ノンコと清美は座席の背もたれにリザーブを示すハンカチを掛けて券売機へ。

 無事に仲良くランチタイムになる。

 わたしも女の子だ。いささかのズルはやっているが、こういうのは、ちょっと楽しかったりする。

「マチカは横綱だ!」

「えー、わたしってお相撲さんみたいなのお!?」

「セキトリのチャンピオンだよ!」

 お仲間には、テーブルの増設ではなく発見と思えるようにしてある。

 

 ところが、三日目には担任の三橋先生に呼び出された。

「食堂からクレームがきててなあ、弁当持参の利用は控えて欲しいって言ってきてるんだ」

「あー、ちゃんとデザートとかジュース買ってますけど」

「でも、メインの食事がなあ……食堂が言ってくるということは、他の生徒からも苦情が出てるってことだと思うよ」

 言いにくいことでも伝えるのが担任なんだろう、三橋先生も辛いんだ。

「分かりました、善処します」

 人のいい三橋先生を困らせるのは本意ではない。とりあえずの返事をして、三人で中庭に向かった。

「ユリは食堂ランチじゃダメなの?」

「あ、うん……」

 ユリの弁当には事情がある。ノンコは気づいているようだが、清美は事情を知らない感じだ。もっと大仕掛けな魔法を使えば解決できるんだけど、それはしたくない。

「わたしも当分はお弁当だしね」そう答えるしかない。

「わたしたちがお弁当にするってのはどうかな?」

 ノンコらしい解決案を出す。

「えー、わたしお弁当なんて作ってらんないよ」

 清美が拒否反応、声の調子から、面倒くさいのが1/4、料理に自信が無いのが3/4と知れる。

「よし、そんならさ、料理教室しよう! 不肖渡辺真智香が教えてあげようじゃないの!」

「ムリムリ! わたし、お料理なんてとってもムリ!」

 顔の前で手をハタハタさせる。

「大丈夫だって、それに、作れるようになるまで、わたしが二人のお弁当作ってきてあげるから!」

「「ほ、ほんと!?」」

 地味で孤高の女子高生をやるつもりだったのが、ちょっと方向性が変わって……ま、なんとかなるさ!

 

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・07『崩れる生駒山・1』

2019-03-22 05:52:39 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・07
『崩れる生駒山・1』
        


 自転車に乗るようになって発見したことがある

 土地の高低差


 歩いていると高低差なんてほとんど気づかない。
 自転車だと、直にペダルの重さで分かってしまう。
 家から学校にかけては、おおむね下り坂だ。

「下り坂だったんだよ!」

 発見がうれしくて京ちゃんに言う。
「え、あ、うん、そうやよ」
 つんのめるような返事。当たり前のことを何言ってんだ、という感じ。
 京ちゃんは、なにごともきちんと聞いてくれるけど「下り坂だったんだよ!」っていうのは「上を見たら空があった」というくらいに当たり前で、わざわざ「!」を付けて報告するようなことではないようだ。
「でもさ、なんで下り坂なんだろ? なんで?」
「え、ええ?」
 京ちゃんは面食らって、廊下の真ん中で立ち止まった。
 ちなみに、今は昼休み。給食の後、窓から見える校庭が日差しの中、とても暖かそうに見えたので日向ぼっこに行った、その帰り。
 溢れるような日差しだったけど、風が強いんで挫折したんだ。

「ええとこに気が付いたなあ」

 後ろから声が掛かった。振り返ると授業の道具一式をカゴに入れた、社会の藤田先生が立っている。
「それはなあ、生駒山が崩れてるからや、ほら」
「生駒山て崩れてるんですか!?」
 びっくりした京ちゃんと窓から見える生駒山に目を向けた。

 すると、生駒山のダラダラした頂上がポロポロと崩れていくのが目に入った!
 
 

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・7(The witch training・3)

2019-03-22 05:47:40 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・7
(The witch training・3)



「あんたも、えらいもんしょっちゃったね……」

 ハチ公がしみじみとした声音でため息ついた。
「なんでも、血筋だから仕方無いらしい……」
「他にも血筋で、名前だけ引き継いでるのいるけど、からっきし。まあ、魔法が使えたってろくなことないけどね」
「うん、なんだか使い方むつかしいみたいだし。ハチ公も魔法使いなの?」
「魔法犬ってとこか……」
「魔法犬?」
「ああ、ご主人の上野先生が無くなってから、九年間も渋谷の駅前で待ち続けてさ。それを、世間様は『帰らぬ主人を待ち続けた忠犬』ってことにしちまった。俺は、ただ犬としての……俺って秋田犬なんだ。秋田犬ってのは主人に忠実ってのが売りだったしさ。俺自身のレーゾンデートルのためにも、秋田犬の代表としても引っ込みつかなくなってしまってさ。なんたって生きてる間にマスコミが騒いじゃってさ。俺ぐらいのもんじゃない、本人が生きてる間に銅像まで造られちまって。除幕式には俺自身引っ張り出されっちまってさ。映画になるは教科書に載るはで……けっこう大変。で、もう九十年も、ああやって銅像やってるだろ。自然と魔法犬っぽくなちまってさ、あの沙耶ちゃんの体に憑りついてるやつと仲良くなったりするわけ」
「沙耶ちゃんに憑りついてるのって、誰なの?」
「それは……内緒。いずれ分かる時もくるさ。けして神さまとか天使とかじゃないけど、悪い奴じゃないから。気楽に付き合ってていいと思うよ。ほんと新人の教育って大変だから……あ、真由のこと嫌がってるわけじゃないからね。これでも使命感があるんだ。真由も大変だ、たまたま四代前がイギリス人でさ。この人が魔女の血をひいてたから、真由がやらざるを得なくなっちまった。さて、基本からやろうか」
「ああ、お願い、沙耶途中で投げ出しちゃうんだもん」
「あの子にも都合があってね、真由一人のことにかまけてらんないんだ。真由、ゲームってやる?」
「うん、たまにね。いまは『ファインファンタジー13ヘッドライトニングリターンズ』やってんの」
「ああ、あのラスボスがバカみたいに強くって、何度も『最後の13日間』やらなきゃならないやつだね。あの世界観、ちょっと魔法に似てる」
「そうなんだ」
「コントローラーを頭に思い浮かべて」
「うん……」

 真由の手は無意識にコントローラーを持つ手になった。

「〇ボタンが攻撃、あ、ちょうどいいや、あそこでチンピラに絡まれてる気弱そうな大学生がいるだろ。△ボタン押して、地図を出す。ターゲットを大学生にマーク、合わせるのはL3のグリグリボタン。キャッチしたら〇ボタンで決定。あとは〇ボタンで攻撃になる」
 襟首を締めあげられていた大学生が、振りほどいて、チンピラの顔に頭突きをくらわせた。
「連打すれば、コンボ攻撃」
 大学生は、頭突きのあと、パンチと背負い投げを二回繰り返した。
「ああ、攻撃ゲージの使い過ぎ、□ボタンでガード。その間にゲージを貯める。×ボタンで相手の攻撃能力を弱くして……」
 あとの説明はいらなかった。真由は無意識にバーチャルコントローラーを操作して、HPゲージも満タンにして、さっさと逃げさせた。あとには三人のチンピラが唸って転がっている。
「さすがにゲーム慣れしてるね。これなら、すぐにコントローラー思い出さずに魔法が使えるようになる」
「R1ボタンは?」
「カーソルを……自分に合わせて押してごらん」
 R1ボタンを押すと、次々に自分の姿が変わるのが分かった。相変わらずAKBの選抜メンバーになってしまう。
「弱く押せば、コスだけ変わるから」
「……なるほど、ファッション雑誌でいいなと思ったのに変わっていく。ハハ、これいいわね」
「あんまりやると、人に怪しまれる」

 雑踏の中、真由の変化を信じられない目で見ている人が何人かいた。真由は急いで元の姿に戻った。

「魔法属性とか、戦闘、防御の属性は暇なときに切り替えとくといいよ。慣れれば、これも無意識に瞬間でできるから」
「こうやりながら、経験値をあげていくのね」
「ま、そういうこと」
「あの……さっきから、同じとこばっか回ってない?」
「バレたか。テレポのゲージを上げてんの」

 ハチ公が、そう言うと一瞬目の前が白くなり、回りの景色が変わった。東にダラダラした山並み、擬宝珠の付いた橋。その下に南北に流れる川。托鉢のお坊さんに、溢れんばかりの観光客。振り返ると京阪三条の駅。どうも京都にテレポしたみたいだ。

 首を前に戻すと、ヒョロリとした若者がやってくるのが分かった。若者の魔法ゲージは、真由とケタが二つも違っていた……。

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高校ライトノベル・時かける少女・45『女子高生怪盗ミナコ・11』

2019-03-22 05:38:06 | 時かける少女

時かける少女・45 
『女子高生怪盗ミナコ・11』 
  

 


 
 ワールドトレードセンタービルは、あっけなく崩れてしまった……。

「無慈悲なことをしやがるぜ……」
 謙三爺ちゃんは、朝から何度目かのシーンを見て、ため息をついた。
「爺ちゃん、もう三度目だよ……」
「何度でも見て心に刻んでおくんだ。泥棒稼業で、やっちゃなんねえのは、困っている人の物を取ること。それ以上に、人の命を取ることだ」

 この時、市民派のスポークスマンとニュースキャスターが余計なことを言った。

「このテロのやり方の源流には、戦時中のカミカゼ特攻隊の流れがあるような気が致します……」
 その横で、飾り物の女子アナと、どこかの大学教授が深刻そうに相づちをうった。
「なんだと、下郎ども、許せねえ……」
 爺ちゃんは、酒を飲み干したあとの、茶碗を片手で握りつぶした。
「爺ちゃん……」
「脅かしたな、ミナコ。ちょっくら、一仕事してくらあ……」

 スッとお爺ちゃんが居なくなった。かわりに気配がしたかと思うと、ミナミがフェリペの制服で、茶の間の入り口に立っていた。
「謙三爺お爺様は?」
「あ、たった今、仕事に行くって……」
「さすがね、気配も感じさせずに、お行きになったのね……座布団の温もりさえ残してらっしゃらないわ……この、お湯のみのカケラは?」
「爺ちゃんが、握りつぶしたの。初めて見た、あんなお爺ちゃん」
「さすが、握りつぶしても、血の跡もないわ」
「ミナミ、どうかした?」
 ミナコがお茶を入れようとすると、寸前に爺ちゃんの剣菱を湯飲みに注ぎ、一気に飲み干した。
「あんた、まだ未成年でしょ?」
「さ、どうだか……でも、謙三のお爺様よりは若輩ものです」

 ミナミは語った。学校の教師が、うわっつらに説明をし、アメリカがテロを受ける背景を、よその国の天気予報の説明のようにしたこと。日本人も何十人も犠牲になったというのに。

 

 そして、驚くべき事を言った。

「アメリカのユニオンも、このテロには気づいて、あらかじめ犯人たちに接触していたんですけど、改心したと報告してきていました。たった一人、ベテランのメンバーが犯人を尾行して、同じ飛行機に乗り、これは墜落させて失敗させました。自分と同乗者の命と引き替えに……」
「ミナミ……」
 気が付くと、ミナコも、湯飲みで剣菱を干していた。
「人の心を取るというのは、難しいものなのですね……」
「こないだの拉致未遂は、どうやら効果ががあったじゃない」
「まだまだ、未熟です」

 そのとき、点けっぱなしになっていたテレビの画面に異変が起こった。

 一瞬の間に眼鏡のキャスターと、女性アナウンサー、大学教授のコメンテーターの三人が下着姿になってしまい。女性アナウンサーの悲鳴で、画面は切り替わった。この間10秒ほどは、慌てふためく三人が、逃げ隠れする姿が映された。10秒後、草色の旧海軍の軍服を着た温厚そうな老人が、気楽にソファーに座った姿で現れた。

「失礼いたしました。ここからは、最後の海軍大臣を務めましたわたくし、米内光政が、お話いたします。キャスター氏は、カミカゼ特別攻撃と言っておられましたが、正確にはシンプウ特別攻撃と申します。カミカゼとは米軍が付けた名称であります、まず、これを訂正いたします。そして、シンプウ特別攻撃と今般のテロを同等に述べられたことも訂正いたします。シンプウ特別攻撃は無謀な攻撃ではありましたが、テロではありません。攻撃目標はあくまで、敵の軍艦であり爆撃機であり、時に戦闘機などであり、あくまでも武装した敵に、それこそ身をもって攻撃したのであって、民間人や民間施設を狙ったことは、ただの一度もなく、まして民間人を巻き添えにしたことなど一度もありません。今般のテロは許し難いものではありますが、これにひっかけて日本をおとしめる言説をいたすのは、いかがと思い、しゃしゃり出てきた次第であります。それでは、視聴者のみなさん。これにて失礼いたします。米内光政がお送り致しました」
 カメラはロングになり、マントルピースを背景ににこやかに微笑む米内の全身をカメラ前の花と重ねてフェードアウトしていった。

「米内さんて、とっくに亡くなった方ですよね……」
「うん、昭和23年……」

 呆然としていると、爺ちゃんが戻ってきた。
「あ、今の、ひょっとしてお爺ちゃん!?」
「三人剥いてやったのはオレだが、米内海軍大臣は別人だよ」
「あ、藤三のお爺ちゃん!?」
「さあてね……あ、おめえら、オレの剣菱呑んじまいやがったな。池之宮のお嬢も一人前だなあ」
「あ、あたくしのこと、ご存じなんですか?」
「最初は分かんなかったけどよ。ミナコから聞いた話と、仲間内のうわさでよ……池内様も三代目なんだねえ」
「謙三お爺様のことも、父や祖父から子守歌のように聞かされたものです。光栄です。お会いできて!」

 ミナコが見たこともないハニカミを見せる爺ちゃんであった……。

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魔法少女マヂカ・006『安倍晴美の疑問に答えて』

2019-03-21 15:00:15 | 小説

魔法少女マヂカ・006

『安倍晴美の疑問に答えて』 

  語り手:安倍晴美

 

 1+1=2

 

 世界で一番単純な数式、これを疑う奴はいない。世界の常識……なんだけど。

 高校生の時にこんなことがあった。

 授業中居眠りばっかりしてる男子が居た。特に成績が悪いわけでもないので先生たちも注意をしない。

 ある日、数学の先生が、寝てるそいつを当てた。

「おい、〇〇」

「先生、こいつ起こしても起きませんよ」

 委員長が控え目に言う。

「起こしてるんじゃない、質問してるんだ」

 男子は『質問』という言葉に反応した。馬鹿でも不良でもないので、起こされると起きないが『質問』と言われると、それなりに反応するのだ。

「〇〇、1+1はいくらだ?」

 世界の常識、小学一年でも分かる問題なので「えーと、2です」と答えた。

「え、なんつった!?」

 先生は真面目な顔で驚いて、繰り返した。

「もう一度聞くぞ、1+1はいくらだ? いくらなんだ?」

「え……2……です」

「2、2だとお!?」

 周囲の者がクスクス笑う。わたしも笑ったんだけどね。

「1+1だぞ、1+1!」

「えーと……」

「1+1の答えは1だろーがあ! もっかい聞くぞ、1+1の答えは!」

「あ、と……1です」

 教室は大爆笑になり、男子は「え? え?」とうろたえるばかりだった。

 

 なんで、こんなことを思い出したかというと、二年B組の渡辺真智香のことだ。

 

 周囲から聞こえてくるのは――渡辺真智香は入学時からずっと居る――というもので、中には中学時代の真智香のことを知っている者もいる。

 だけど、わたしには違和感がある。

 先日B組に授業をしに行って――こいつは誰だ?――と思ってしまったんだ。瞬間見た自作の座席表にも渡辺真智香どころか、真智香が座っている席すら無かったのだ。授業進度が気になったので、そのままにした。

 職員室に戻って、あれこれ調べると、真智香は入学以来存在していたという情報ばかり。さっき確認した自作の座席表にも、座席と共に真智香の名前があった!?

 勘違いか。

 一度は納得しかけたが、今月いっぱいで終わる非常勤講師がもう三か月延びることになり、再び疑問が深くなる。

 そこで、高校時代の1+1問題を思い出したのだ。

 ほんとうは、わたしが正しいのではないだろうか……?

 

 そんな疑問をいだきながらの仕事帰り、日暮里駅の太田道灌像の横、横断歩道を渡って駅に入ろうとして気配を感じた。

 道灌像の台座に隠れるようにして黒い犬がいたのだ。

 世間の犬は首輪が付いて、首輪にはリードが付いていて、リードを持った飼い主がいるものだ。

 ところが、そいつは飼い主がいないどころか、リードも首輪も付いていない。こいつは、今や文学作品の中にしか存在しない野良犬というやつか?

「いいえ、野良犬ではありません」

 なんと、犬が喋った。

「驚かせてすみません、そのままで、ちょっと話してもいいですか?」

 日暮里駅を目の前にして、目玉だけ道灌像の下の犬を見続ける。

「犬が、なんの用?」

「先生がお気になさっている渡辺真智香のことでございます」

「真智香のこと!?」

「お静かに、お顔は駅の方を……」

「真智香が、どうよ?」

「あれの正体は魔法少女でございます。先日復活いたしまして二年B組の渡辺真智香になりました。周囲の方々には疑似記憶を刷り込んでありますが、いかんせん、安倍先生には記憶の刷り込みが通用いたしません。小細工を弄しては、かえって先生や周囲の方々を混乱させるだけと存じまして、こうやってお願いに上がっておる次第でございます」

「魔法少女って……昔アニメとかでしか見たことないんだけど」

「はい、実際に存在するのでございます。詳しいことを申し上げる暇はございませんが、真智香、ホーリーネームはマヂカでございますが、マヂカのことは先生の胸に収めて接してはいただけないでしょうか。先々の事は分かりませんが、必要なことが起こりましたら、先生にもお知らせするということで……いえ、けしてご迷惑をおかけするようなことはいたしません。先生のお気を煩わせぬよう気を付けますので、よろしくご了解ください」

 黒犬はペコリと頭を下げた。

「で、あなたは何なのよ? 白戸家のお父さんなら白犬だし」

「申し遅れました、魔王の秘書を務めておりますケロべロスと申します。それでは失礼いたします……」

 視界の右端から黒犬の気配が消えた。

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・06『北に向かう』

2019-03-21 06:17:05 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・06
『北に向かう』
        


 我が家は外環に面している。

 外環、正式には国道170号線。四車線の道路にひっきりなしに車が通っている。大阪の幹線道路なんだろうけど、地理に詳しくないので、どんな道路なのかよく分からない。わたしにとっては、ただやかましい道路。窓を閉めきっていても、地の底から響いてくるような自動車の音が聞こえる。大型のダンプなどが通ると、音だけじゃなくて地響きが伝わる。
「ま、そのうち慣れるで」
 お隣りの『畑中園芸』のおじさんはにこやかに言う。
 その畑中のおじさんも、うちからM4戦車を出した時にはタマゲテいた。
 うちは戦車とかの特殊車両のレンタルとかをやっているので、ご近所の迷惑やら輸送の便利さのために、この秋に越してきたのだ。
 子どものころから聞きなれているので、戦車の地響きには驚かない。でも、ダンプの地響きには慣れない。ひょっとしたら大型車両が高速で走る時の低周波とかが影響しているのかもしれないけど、番頭のシゲさんは「ちがう」と言う。シゲさんは、この道のプロなので、そうなんだろう。いつか畑中のおじさんみたく慣れるのかもしれない。

「みっちゃん、この自転車に乗ってみるかい?」

 シゲさんが、M8グレイハウンドの横に立てかけてある自転車を、ニヤニヤしながら顎でしゃくった。
「あー、そんなのムリ」
 見るからにミリタリー丸出しの自転車。オリーブドラブに塗装されたイカツイ自転車。
 一見小さく見えるけど、装甲車や戦車だらけのうちのヤードで見ると、とてもとても小さく見える。ほんとは28インチもあって、サドルを最低まで下げても地に足が着かないだろう

 で、お母さんから譲り受けたオレンジチャリで休日の我が町にくり出す。

 目の前の外環を渡って、その向こうに行ってみたい気持ちはあるけど、高安山に向かってずっと上り坂になっているので「ま、そのうちに」ということでシカトする。

 えーと……

 家の前で悩むのは初めてだ。
 家を出るのは、いつも朝。学校に行くためだから、なんの迷いもなく南に向かって、すぐの角を曲がる。

 そうだ、北に行ってみよう!

 ハンドルをぶん回して北に向かう。
 北に向かっただけで景色が違う。なんというのか、南に向かうと太陽が前にあって、景色には影がある。影があると遠近感が強調され、豊かに見える。
 北に向かうと、景色はベタに日差しを受けてノッペリして見える……う~ん、初めて踏み込む北方向なんで、そう感じるのかもしれない。ま、引っ越して三カ月余りの新鮮さ……かな?

 新発見はすぐにやってきた。

 スーパー出股のデッカイ看板が目に留まる。
 うちは忙しいので日々の買い物は生協に頼っている。生協はトラックのデリバリーなので、多分お母さんも知らないだろう。
 さっそく自転車を停めて探検。
 お財布には千円ちょっと入っているので、お菓子とかあったら買っていこう。

 黄色いレジかご持って店内へ。

 入って直ぐが野菜なんだけど、それはスルー。
 商品を全部見ていたら、途中でくたびれる。それに探検の途中なので、ここで全精力を使うわけにはいかない。
「あ、これだ!」
 叫んでしまうところだった。
 一袋19円の生麺が冷蔵陳列棚に山積みだ。京ちゃんが言ってたのはこれなんだ。
 おうどんだけじゃなくて、中華麺やら焼きそば麺、鍋用の細うどんまである。
 思わず買おう! と思ったけど、お母さんにも段取りがあるだろうと自制する。
 お握り各種が49円! うん、お八つ用だ! 二個をカゴに。
 ポテチも89円! ちょっと袋が小さいかなと思って二個ゲット。
 すると、シゲさんの好物の干しイモも89円。二個と思ったけど、踏みとどまって一個。

 思わぬ買い物で、自転車の前かごがいっぱい。ま、今日は帰るか!

 北への旅は、わずか三百メートルほどで打ち止め。
 シゲさんに干しイモをあげたら恐縮された。
「そんな高いもんじゃないから」
 と、値段を言うと、シゲさんはスーパーに突撃しに行った。
「お母さん、北の方にスーパーがあってさ!」
 戦況を報告すると、ぶら下げたレジ袋を見とがめられ「ブタになるよ」と一言。
 でも、干しイモの大人買いしてきたシゲさんとスーパーのチラシを熱心に見ていたところを見ると、十分有意義ではあったようだ。

 さ~ポテチポテチ( ´艸`)

 レジ袋を逆さにして出てきたポテチの袋は大きかった。
 うちの軍用自転車と同じで、スーパーの陳列棚では小さく見えるようだった。

 二袋は多かったと学習しました。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・6(The witch training・2)

2019-03-21 06:06:09 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・6
(The witch training・2)



「さて、なにからやろうか……」

 沙耶がハチ公前で呟いた。
「あの、頭にリングのかかった人は何?」
 群衆の中に三人ほど天使のようなリングが付いた人を見つけて真由が聞いた。
「ああ、三日以内に死ぬ人。ちゃんと見えるんだ」
「沙耶も、ああだったわけ?」
「そうよ。で、知らないあなたが見つけて助けたもんだから、あたしが沙耶の体に入って代理をしてるわけ。魂は、もう向こうの世界に行ってるから、助けちゃだめ。助けると、あたしみたいなのが代わりに体に入るか、意識が戻らずに眠ったままになる」
「あ、バツ印が付いている人がいる!」
 それは、歩きスマホの女の子だった。沙耶は急いで呪文「エロイムエッサイム」を唱えた。すると、スマホが手から滑り落ち、女の子は立ち止まって、拾おうとした。その瞬間目の前を猛然とダッシュしたスーツ姿の男が駆け抜けて行った。
「待て!」
 そう叫びながら、人相の悪い革ジャンの男が追いかける。通りの向こうからも一人。そして街路樹の横からも二人のオッサンが駆け出し、スーツ姿は、スクランブルの真ん中で乱闘の末に捕まった。
 真由は混乱した。まるでヤクザが、善良な市民を拉致したように見えたからである。
「な、なにあれ!?」
「鈍いなあ、人相の悪いオッサンたちが警察。で、スーツ姿が振込詐欺の主犯。アジトから一人逃げてきたのを、張り込んでいた警察が捕まえたとこ。ほら、人だかりになるから交番からお巡りさんが出てきて、交通整理し始めた」
「さっきのバツ印の子は?」
「ほら、ピンクのセーター、野次馬の中に居るでしょ」
「あ、ああ。でもバツ印が無い」
「バツ印は、突発の事情で本人の自覚も了解もなく死が迫っている人。あの子、逃げてくる犯人にぶつかられて転倒。打ち所が悪くて死ぬとこだった。ああいう人は救けていいの。リングが付いた人でも赤い人は、まだ魂が抜け切れていない。時と場合によっては助ける。ピンク色やら白はダメ」
「沙耶も、ああだったの?」
「そう。酷なこと言うけど……リングの人を助けると、代わりに死ぬ人が出る。死に方は様々だけど、確実にね」
「じゃ、あたしが助けたのは……」
「魔法って、そういうものなの。落ちてくる爆弾は避けられても、それは別のところに落ちるだけ。場合によっては、犠牲者の数が増えることもある」

 真由は落ち込んでしまった。

「デリケートなんだ真由。この程度で傷つかれたんじゃ……そうだ、灯台下暗し。ハチ公に頼もう」
 沙耶が指を鳴らすと、人ごみの中から秋田犬が現れた。
「じゃ、散歩しながら話そうか?」
「犬が喋った!」
「びっくりするほどの事じゃないわ。テレビのCMでも、普通に喋ってるじゃない」
「あれは北大路欣也さんでしょ」
「まあ、魔法の世界って、そういうものなの。じゃ、ハチのおじさんよろしく」
「調子がいいんだから沙耶は。じゃ、真由ちゃん、一回りしようか」

 ハチの姿は見えているようで、道行く人たちも避けてくれる。心配した言葉は、実際に声に出さなくても通じるようで、ハチと真由が会話していてもいぶかる人は居なかった。

「さあ、渋谷も広い、ゆっくり話そうかい……」

 真由とハチ公は、とりあえず道玄坂に向かった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・44 『女子高生怪盗ミナコ・10』

2019-03-21 05:58:45 | 時かける少女

時かける少女・44
『女子高生怪盗ミナコ・10』
  



 新潟空港から拾った車で某海岸に着いた時には、とっぷりと日が暮れていた。

「こんな所まで連れてきて、何をしようと言うのよ?」
 沈黙服従の催眠術が解かれて辻貴子議員が、意外に小さな声で聞いてきた。
 一つには庶民党党首としてのメンツ。もう一つは、女子高生の姿に戻り、すっかり少女らしい姿になったミナミとミナコへの油断からであった。

「お母さん、何を言ってるのよ、海を見たいと言ったのはお母さんじゃないの」
「そう、わたしはいつも庶民というみなさんの海の真ん中に居ります。わたしは、この海の景色が一番好きなんです! そう、前の選挙でも言ってたじゃない。だから、今日は、こうして海を見にきたんでしょ?」
「あなた達は、いったい何者なのよ?」
「それは、これからここに来るオジサンたちに聞いた方がいいわ」
「オジサン?」

 まるで、辻貴子の言葉が合図であったかのように、一人の気のよさそうなオッサンが、短くなったタバコを吹かしながら近寄ってきた。

「このあたりに、タバコ屋はないかい。これ喫ったら、タバコがきれちまうもんでね」
「オジサン、この土地の人じゃないのね、言葉に訛りがないわ」
「ああ、仕事で来てるだけなんでね」
「タバコ屋は、近くにはないわ」
「そうか、それは残念だったなあ」

 そう言うと、オッサンは、ちびたタバコを砂浜に落として踏み消した。すると、岩場の陰から五人の男が駆けてきて、あっと言う間に三人に猿ぐつわをし、二人で一人を担ぎながら、岩場に隠してあったゴムボートに乗せると、沖を目指して走り出した。
 その間、ミナミとミナコは怯えたフリ、辻貴子は分けが分からず、満足に声も出せないまま沖の母船に連れて行かれた。船にはさらに八人の男達がいるのが分かったが、ことごとく外国語だった。
 三人は、猿ぐつわだけを解かれて、手足を縛られたまま狭い船倉に放り込まれた。

「なんですか、あなた達は、こんな事をして、ただじゃ済まないわよ。わたしは……」
「その先は言わない方がよろしゅうございますよ、辻さんの身分が分かったら、あのオジサマたち、きっと辻さんを海に捨ててしまいますわよ」
 ミナミが、辻をたしなめた。ミナコは手足の縛めを自分で解いて、小さく伸びをした。
「辻のオバサン、否定したい気持ちはよく分かるんだけど、これは、辻さんが一番否定したい現実なの。それ分かっていただくために、新潟まで来て頂いたの。猿ぐつわを解いたのは分かる?」
「女性に、度を超した乱暴はしないからでしょ!」
 ミナミとミナコは品の違いはあるが、笑い出した。
「猿ぐつわしたままだと、船酔いしてゲロ吐いちゃったら窒息しかねないでしょ。生きて連れて帰らなきゃ意味無いから。もちろん庶民党の辻さんなんて、大物連れて行く気はないから、ばれたら命はありません。ミナミさん、用意はいい?」
「よろしくてよ、この向こうがキャビン。男が一人眠ってるから、その人は、そのまま眠らせて。わたくしは、先に船内を歩き回って、残りのオジサマたちに正しいシバリ方を教えてあげます」
「OK、あたしは右舷の方から、落ち合うのはブリッジということで」
「じゃ……」
 一瞬閃光が走り、薄い鉄の壁に人がやっと通れる穴が開いた。ライオンさんの火の輪くぐりのようにキャビンに躍り出ると、ミナコは一瞬のうちにオッサンを縛り上げ、猿ぐつわをした。
「ゲロ吐くんじゃないわよ、窒息するから……ムリムリ、甲賀流の緊縛術、あんたには解けないわよ」
 そして、右舷側に回り、出くわしたオッサン五人を、同様に縛り上げた。六人目はデッキにいた。海岸で声をかけてきたオッサンだ。
「タバコ喫うなら、日本製にしなよね。煙の臭いでバレてたよ」

「乗員全員確保、異常なし」

 そう、ブリッジで声をかけあって終了。そのあと新潟の海保に無線連絡をして、引き取りにきてもらうことにした。

「ち、あれだけのことをやったのに完全に無かったことにされちゃったね」
「でも、痛手は相当のものよ。庶民党は、立ち上がれないでしょうし、来年あたりには内閣が直接うごくわ。事の顛末は、ぼかし抜きで、またJRのCMの間に挟んでおくわ」
「じゃ、また機会があったら、いっしょに仕事しよう」
 これだけの内容を読心術を使って交わしたあと、渋谷の駅のホームの上りと下りに別れていった二人の泥棒娘であった。
 

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魔法少女マヂカ・005『be動詞で友だちに!』

2019-03-20 15:45:55 | 小説

魔法少女マヂカ・005

『be動詞で友だちに!』 

 

 

 

  ノンコと清美を友達にするきっかけは、あくる日には巡ってきた。

 英語の時間にこんなことがあったのだ。

「二番の問題、藤本さん」

 英語の橋本先生が和文英訳の問題をあてた。ノンコは前回の定期考査で欠点をとっているので本人も橋本先生も意識している。

 

 〔問題・2〕以下の日本文を英訳しなさい。

 言語が大きく異なる欧米人と本当に理解し合うことは決してやさしいことではない。

 

 緊張の面持ちでノンコは黒板の前に立ち、数秒考えてからチョークを取った。

  It not easy by any means to really communicate with Westerners, whose languages are quite different from ours.

  書き終ると、ホッとため息ついて、上着の袖で額を拭って席に戻った。

 意味は通じる。まずまずの、いや、よくできた答えだ。ところが、橋本先生は腕組みして眉間にしわを寄せた。

「う~ん、なんか抜けてない、藤本さーん?」

「え?」

 気の弱いノンコの額は一瞬で汗をにじませた。

「あ……えと……えと……」

「よくできてるみたいなんだけど、大事なのが抜けてる。中一レベルの間違いだよ」

 中一レベルと言われて、ノンコは手の平にも汗をかきだした。

「中一レベルですか……えと……えと……」

 確かに抜けているが十分正解だ。

「小学校でも英語をやろうって時代よ、その感覚なら小学生レベルだわよ~」

 嫌味な言い方だ、ノンコはチック症のように目をしばたたかせている。

「他の人、分かるかな~」

 清美とユリは俯いている。先生のお道化た言い方に追従笑いをする者もいる。

「be動詞よbe動詞!」

It is not easy by any means to really communicate with Westerners, whose languages are quite different from ours.

 先生は「is」を赤チョークで書き入れ、その上を何重にも〇で囲んだ。教室の半分以上がケタケタと笑う。ノンコは真っ赤になって俯いてしまった。

「こういう基本的なことを押えておかなきゃ、いつまでたっても欠点取っちゃうわよ~!」

「は、はい……」

 ノンコは消え入りそうだ。

「先生」

 手を挙げてしまった。

「なにかしら、渡辺さん?」

「藤本さんの文章、十分正解」

「でも、be動詞が抜けちゃ話にならないでしょ。これがテスト問題だったら半分も点数あげられないわ」

「お言葉ですが、ニューヨークの街角でも通じる英語です」

「でも、ここは学校なの、日本の学校。be動詞抜けてちゃ話にならないわ」

「わたし、手を挙げて、こう言いました『藤本さんの文章、十分正解』。 助詞の『は』と『です』を抜きました。be動詞に擬態させられる『です』を抜いたんです。でも、こうやって意味が通じて会話になってますよね」

「ム……それは……」

 これ以上教師の権威を落としてはまずいなあ……収拾に掛かった。

「アハ、野々村さん、これだけやっときゃbe動詞忘れないでしょ?」

「あ、は、はい!」

 
 授業が終わって、野々村さんとは「ノンコ」「マチカ」と呼び合える仲になった。清美は友だち二人の友だちということで十分友だちになる事が出来た。

 

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・05『ガンバってみる!』

2019-03-20 06:22:42 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・05
『ガンバってみる!』
        

 わたしが感動したからと言って他人が感動してくれるわけではない。

 すごく当たり前のことなんだけど、いざ実感して見るとガックリだ。


 コンバットの新兵さんが敵中横断をやるみたいにドキドキして学校に着いても、感動してくれる人なんかいない。
 そりゃそーだよね。
 わたしは何百人もいる玉櫛中学の生徒の一人でに過ぎない。そして、何百人の生徒の半分は自転車で通っている。
 同じ制服着て同じような自転車に乗って校門を潜っても、犬や猫が迷い込んできたほどにも気づいてもらえない。

 だけど、尾道少女が自転車に乗れたというのは革命的なことなんだ!

 例えて言うと、女子中学生が初めて宇宙飛行士になるようなものなのだ! わたしにとってはね。
 でも、ここ大阪の高安では「人間だったら歩く」のと「自転車に乗れる」というのは、ほとんど同じ意味なんだ。
 分かってるんだけど、つまらない。

「如月さん、自転車に乗ってるのね」

 担任の和田先生に言われた時には、思わず「ハイッ!」と大きな声で応えてしまった。
「これ自転車保険のプリント。今週中に申し込んでね。それから、ほんまは自転車通学届を提出してからやないと自転車では通学できないから。ま、早く手続き済ませてね」
 和田先生は気づいていた。
 だったら「おめでとう!」の一言ぐらい欲しいと思ったけど、まあ、生徒に目が行き届いている、学校としては上等の方なんだと、自分を納得させる。

「さっそく乗ってきたんやね!」

 師匠の京ちゃんだけは喜んでくれる。
「帰りに二人だけでお祝いしよ!」
 一時間目の体育の後、ひまわりの妖精みたいな笑顔でハグしてきた。
 京ちゃんの体からはお日様のような匂いがした、新発見。
 考えてみると、匂いが分かるくらいの近さで人に接したことが、もう何年も無い。
 わたしって……考え込みそうになるので頭を切り替える。

「わー、ご馳走になってもいいの!?」

 放課後、図書館で十五分だけ時間を潰してから家庭科教室に行った。
「失礼します」の声を掛けて家庭科教室のドアを開けると、出汁の効いたいい匂いがした。
「こっちこっち!」と誘われたテーブルには鍋焼きうどんが二つ並んでいたのだ。
「これ、京ちゃんがつくったの?」
「まーね。あたして家庭科クラブやったりするわけなんよ」

 知らなかった、転校してきてから唯一友だちになった京ちゃんだけど、てっきり帰宅部だと思っていた。

「まあ、あんまり熱心な部員やなかったからね、さ、冷めへんうちに」
「うん」
「「いっただきまーす!」」
 友情の籠った鍋焼きうどんを美味しくいただきました。

「なんだか京ちゃんには世話になりっぱなしだね」

 高安の開かずの踏切にひっかかったので、電車の轟音に紛れる寸前に言った。

 ゴーーーー ガタンガタンガタンガタン ガタンガタンガタンガタン ガタンガタンガタンガタン

 通過してから京ちゃん。
「人も街もいっしょやと思う。同じとこしか通ってなかったら違う景色は見えてけえへん……てか、あたしもミッチーに世話になってるんよ」
「え、なん……」
 聞こうと思ったら、今度は特急電車の轟音に遮られてしまった。
 タイミングを外すとシビアな話は続かなくなる。
「大阪の子って、みんな、あんなにお料理が上手なの?」
 やっと開いた踏切に話題が変わる。
「材料がええんよ。安うて美味しいもんが一杯あるからね、あのおうどんなんか一玉十九円やねんよ」
「十九円!?」
「ミッチーも自転車乗れるんや、自分で探してごらん、他にもいろいろある街やからね」
「あ、うん。ガンバってみる!」

 その足で探検に行きたかったけど、まだ運転には自信が無いので――今週中には!――と決心するわたしであった。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・5(The witch training・1)

2019-03-20 06:15:55 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・5
(The witch training・1)



 朝起きると、テレビで船の事件を二つ言っていた。

 一つはイタリアの客船が過積載のまま出港。波にあおられて船が傾き沈没の危機になった。しかし船長らの的確な判断と行動により、船は傾斜を五度に戻して無事に助かった……という目出度い話。
 もう一つは、南シナ海で、C国の巡視船にしつこく追いかけまわされたベトナムの漁船が、神業的な操舵で巡視船に体当たり。C国の巡視船は大きな船であったが、当たり所が悪く沈没。幸い怪我人だけで済んだが、C国とベトナムは、一触即発の危機的な状態になったものである。
「大変だね、世界は……」
 日本人を代表するようなのどかさで、お父さんが呟く。真由は高倉健に続き菅原文太が亡くなってしまったことと、AKBの新曲を半月も知らなかった方がショックだった。

「行ってきまーす!」

 いつものように玄関を出て横丁を曲がると、たまげた。沙耶が怖い顔をして立っているのだ。
「やっぱ、自覚ないんだ」
「え、何が? どうして沙耶が、ここにいるわけ? あなたの家、駅三つはむこうだったわよね?」
「今朝、船の事故のニュース二つやってたでしょう」
「え……」
 AKBの新曲の方が気にかかり、とっさには思い出せない。
「あれ、二つとも真由がやったんだよ」
「え……?」
「もう忘れちゃっただろうけど、真由は夢の中で、透視していたの。で、無意識にイタリアの船を助け、ベトナムの漁船をC国の巡視船にぶち当てたの。イタリアの船長は英雄視されると同時に過積載の責任を問われるし、ベトナムとC国は戦争直前までいってんのよ!」
「え、うそ!?」
「真由の魔力は、予想よりも大きい。今日から、ちょっと魔力コントロールの訓練やるわね」
 
 沙耶が、そう言うと一本向こうの道から、真由と沙耶そっくりの二人が現れて駅へ向かった。
「あ、あれ、あたしたち……」
「デコイよ。しばらくあたしたちの代理をやってもらうの。さ、あたしたちは訓練にいきましょう」
 そう言うと、沙耶はジーンズと、ブルゾンの姿に……そして、顔が今まで見たことのない子に変わっていた。
「すごい、本物の変身なんだ」
「感心してないで、真由もやるの!」
「あ、そか……エロイムエッサイム……」

 一瞬間があって、沙耶が呆れた顔で言った。

「渡辺麻友になって、どうすんのよ!」
「あ、ついAKBのこと考えてたから……どうしよう」
「あ、みんな気づいた! ご丁寧にステージ衣装なんだもん。走って!」
 二人は、横丁を曲がりながら、魔法をかけなおした。沙耶は、ブルゾンの色を変えるだけだったが、真由は大変だった。ステージ衣装は無くなって、当たり前のハーフコートとコーデュロイのパンツに変わったが、顔が決まらない。次々と変わるが、どれもAKBの選抜の顔だ。
「ええ、もう足して48で割る!」
 やっとAKBの顔ではなくなったが、集団の中では目立つかわいい顔になってしまった。で、駅前の百均でマスクとファンデとペンシルを買って、駅のトイレでメイク。なんとか群衆の中に溶け込める顔にはなった。

 改めて、魔法の難しさを実感した真由であった。で、訓練の場所は渋谷に決まった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・43『女子高生怪盗ミナコ・9』

2019-03-20 06:09:10 | 時かける少女

時かける少女・43 
『女子高生怪盗ミナコ・9』 
      


 こんな簡単に会えるとは思えなかった。怪盗ミナミはハチ公前で気軽に声をかけてきた。

「蟹江さん、時間通りね」
「え……ミナミ!?」
 ミナコは学校帰りに通っただけで、別にミナミと待ち合わせていたわけではない。それどころか、どうやったらミナミに連絡がとれるか思案しながら歩いていたのである。
「あなたの、そういう無鉄砲なところと、計画性の無さが好きよ」
「隙って意味?」
「素直にとってちょうだい」
 そう言いながら、手を上げて一台の車を停めた。タクシーでも、仲間の車でもないことは止められたドライバーの表情で分かる。
「あぶねえじゃねーか! いったい……どうぞ、後ろのシートに」
 ミナミは、一瞬で、ドライバーのニイチャンに催眠術をかけたようだ。
「こういうテクニックも持ってるのね?」

 ミナミはフェリスの制服を着ていた。ミナコは青山学園である……ほんとうに。

 車は、六本木のIホテルの前で止まった。
「五時半になったら、迎えに来て」
 ニイチャンにそう声を掛けると、ホテルの中に入り、フロントに向かった。
「池之宮です」
 その一言でキーが渡された。ミナコは、初めて正体不明な人間に出会った気がした。

「不思議な感じなんでしょ、わたくしのこと?」
「あなたみたいなの初めてだから」
「わたくしは、池之宮南と、ご記憶くださいな」
「一応ね」
「うふふ、よくってよ」

「わたくし、あなたと組みたいの」
 ドアを閉めるなりミナミは切り出した。部屋には、お茶のセットが置かれていた。
「その前に、お茶いただいていいかしら?」
 ミナコは、ストレートで紅茶を一口だけ含んだ。
「毒も、変な薬も入ってないでしょ?」
「それは、あなたの表情を見れば分かるわ。いままでの仕事もパフォーマンスなのね」
「そう、わたくしを売り込むためと、あなた、蟹江ミナコさんを誘い出すためのね」
「なにか……大きな仕事を計画してるような感じがするわ」
「そう……世の中には、わたくしたちより、もっとスケールが大きく、許せない泥棒さんたちがいるわ」

 ミナコは、一時間ちょっとミナミの話を聞いた。デビューには、ちょうどいい仕事に思えた。

 五時半きっかりに、ホテルのアプローチに出ると、さっきの渋谷で掴まえた車が入ってきた。
「今度は国会議事堂前に」
 そう言うと、ミナミはカバンから衣装を出し、瞬間で議員秘書、それも革新系のそれになった。
「じゃ、わたしも……」
 ミナコも瞬間で、同じように衣装を替えた。どちらも変装にかけては同等の力を持っているように思えた。

 議事堂に入ると、そのまま予算委員会室の前に向かった。
 ちょうど休憩になったようで、議員達がぞろぞろ出てきて、記者達がぶら下がろうと後を付いてくる。
「先生、お迎えにあがりました」
 ミナミが声を掛けたのは庶民党の党首辻貴子であった。
「あ……ごくろうさま」
 そう言わせて、人だかりの中から、辻貴子を引っぱり出したが、誰も気づかず、どこから出てきたのか記者達は、カーネルサンダースの人形相手に質問を浴びせていた。

 待っていたニイチャンの車は、辻貴子を挟むようにして後部座席に三人を乗せ、羽田空港に向かった。

「やっぱ、あなたの力がなきゃ、ここまで上手くいかなかった。カーネルサンダースは傑作だったわね」
「え、あれ、あたしがやったの?」
「そうよ、あなたには気づいていない力がまだまだあるわ」

 車は、羽田空港のロータリーに入っていった……。

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魔法少女マヂカ・004『こうならざるを得ない』

2019-03-19 15:19:41 | 小説

魔法少女マヂカ・004

『こうならざるを得ない』 

 

 

 要海友里との弁当はまずかった。

 

 いや、弁当がまずかったわけではないので念のため。

 自慢じゃないが弁当は自分で作っている。これでも一応女なのでな、いずれは相応しい男を見つけて幸せな生活をおくりたいと思っている。男は胃袋から掴まえなくてはならない。そういう方面にも怠りはないのだが、そのことは、またいずれ。

 ポリコウ(日暮里高校)関係者の脳みそに刷り込むまでもなく、わたしは美少女だ。

 ただ、キャピキャピとつるむことが嫌だから、孤高の少女という設定にしてある。

 その孤高の美少女が、その足元にも及ばないNPCというかパンピーというかエキストラというか、普通の女生徒要海友里と昼食を共にしたのだ。机をくっ付けて向かい合わせで。

 まずいことに、要海友里は初めての弁当だったのだ。初めての弁当を学校一の美少女と食べているのだ、当然注目される。

――ひょっとして百合?――

 面白半分の心の声が二三か所から聞こえる。

「渡辺さん、お弁当は自分で?」

「ええ、そうよ。お料理くらいしか取り柄が無いもんだから……」

 謙遜のつもりだが、このNPCたちには別の事に響くか?

「くらいしかなんて無いと思うけど、なんか、素人ばなれ……もちろん美味しいんだろうし」

「じゃ、この竜田揚げとか試してみる?」

「え! あ、じゃ、わたしの玉子焼きと交換」

「うん、いいわよ」

 おい、おかずの交換くらいで顔を赤くするなよ……。

 期せずして交換したおかずを同時に口の中へ。

「「おいしい!」」

 同時に称賛してしまった。はたから見たらなにかの兆候、今の時代はフラグというのか、それが立ったみたいに見えるぞ。お、美味しいからと言って涙流すなよ!

「あ、なんか感動しちゃって」

「わたしもよ。なんと言うのかしら、愛情の味……お母さんが?」

「は、はい!」

 思いのほか大きな声……心を読んでしまった。これは記念すべき(お母さん)の初お弁当なのだ。

 つっこんで話題にするわけにもいかず、取り留めのない話を心がけるが、わたしにへの崇拝に似た気持ちを持ち始めた友里は目を潤ませて聞いている。

「よかったら、またいっしょに食べましょうね」

「は、はい」

「友里って呼んでいいかな?」

「はい!」

「フフ、わたしのことは真智香。ね」

「真智香さん」

「さんなし」

「ま、まちか」

「うん、その平仮名の感じがいい」

 流れから、こうならざるを得ない。

 

 友里、いやユリには親友と言っていい友だちがいる。ノンコ(野々村典子)と清美(藤本清美)だ。女子にありがちなんだが、不可抗力とは言えユリとわたしが親しくなって、おそらくは面白くないはずだ。仕方がない、機会を見つけてノンコと清美とも友だちになっておこう。

 その日の放課後、職員室前の廊下で嫌なことを聞いてしまった。

「安倍先生」

「なんでしょう、教頭先生?」

「田中先生、もう三か月お休みになられます、講師の延長お願いできませんか」

「は、はい、お引き受けします!」

 

 くそ、安倍晴美もなんとかしなければ……。

 

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