大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・1・『ジェット推進十万馬力』

2020-12-20 09:43:47 | エッセー

 エッセーノベル    

1・『ジェット推進十万馬力』   

   

 

 あやかりものと申しましょうか、パクリっぽいタイトルで申し訳ありません。わたしなりの思い入れはあるのですが、最初に書くと、なにか言い訳っぽくなってしまいます。お読みになっているうちに「ああ、そうなのか」と感じていただければ幸甚です。感じられなかったらごめんなさい。

 とりあえず、エッセーかラノベか判然としない、そういう虚実皮膜的な駄文を、どこまでいくか分かりませんが、とりあえず鞘から抜いてみることにしました。

 
 部活の同窓会を南森町のイタ飯屋でやった時の事です。

 還暦前後のおっさん・おばはんの話は子どもや孫の話題になりました。

「こんどのガンダムは動くらしいで(^▽^)/」

 ワインに酔ったT君がスマホを出します。

「ああ、東京のどっかにあるやつやなあ」

「横浜や」

「せやったか……あれはポリさんの人形みたいに立っとるだけで動いたりせえへんぞ」

 警察を定年で辞めたY君が遮る。

 生徒だった頃から、人の間違いは正さずにはおられない性格で、その正義感が災いして、警部補止まりでの定年。いまだに定年後の再就職先が決まっていないY君。

「ガンダムて、うちの息子がガンプラ集めてるわ」

「うちは、亭主が集めてる」

「エバンゲリオンと双璧やねえ!」

 ん十年前のJKたちも身を乗り出してくる。

「これ見てぇ! 孫といっしょに日本橋(大阪なのでニッポンバシと発音します)行ったらさあ、お店丸ごとガンプラいうのんがあったのよ。ほら、これこれ、店の看板がガンダムの上半身! なんや、ずぼらやのフグ提灯みたいや思わへん?」

「そんなんちゃうねん、東京のは全身像や。これこれ」

 Y君は画像をつぼめて全身像であることを強調する。

「それは古いやっちゃ、これこれ、こっちを見いや」

 空き瓶やら空き皿を押しのけて、テーブルの真ん中にスマホを据える。

「え?」

「あ?」

「どんなん?」

「こんなん」

「「「「「おおおおお」」」」」

 テーブルを囲んで盛り上がる。

 横浜の山下ふ頭の実物大ガンダムが動き出すのを見て、どよめきが起こる。

 見てくれは還暦前後だが、こういう珍しいものへのリアクションだけはン十年前のままだ。

 そういうジジババ予備軍の好奇心に還暦を七年過ぎたわたしは着いていけない。この数年の歳の開きは、意外に大きい。

「俺はアトムとか鉄人28号やさかい、ガンダムはよう分からへん」

「ああ、アトムやったら、あたしらも観てましたよ(^▽^)/」

 バランス感覚のいいKさんが、現役のころと変わらぬエクボを浮かべて話を継いでくれる。

「そうや、アトムの主題歌て、ここ一番いうときに浮かんでけえへんか」

 T君が受け取って、自然に話題を膨らます。

 そうや、アトムの主題歌なら、俺も歌える!

 わたしの高揚を察してくれて「先輩、歌ってくださいよ!」とマイクを差し向けてくる。

「よし、ほんなら、みんなで合唱や!」

 カラオケメニューを呼び出すのももどかしく、合唱の音頭を取る。

 いち に さん ハイ!

 
 で……歌が違った(;゜Д゜)

 
 空を超えて~ ラララ 星のか~なた ゆくぞ~アトム ジェットのかぎ~り♪

 後輩たちは陽気に空を超えた。

 わたしは。

 ぼーくは無敵だ 鉄腕アトム 七つの力をもーっている♪

 
 わたしのアトムは実写版だった(-_-;)

 
 子役の少年がマンガのそれとは全然違う昆虫を思わせるウェットスーツみたいなのを着て、アトムヘッドを被って活躍するというものだ。当然、アニメのそれとは主題歌が違う。

「あ、いや、アニメのんも知ってるからね(^_^;)」

 自分でフォローをして、みんなに合わせて、事なきを得ました。


 人生、ここ一番という時に口ずさんでしまう歌が、一つや二つはあるもんですよね。


 それが、後輩たちの場合は『ゆくぞアトム ジェットのかぎ~り(^^♪』で、わたしの場合は『ジェット推進十万馬力~(^^♪』になるわけであります。

 昭和もガンダム世代や平成生まれの若い人には「どっちも同じ(^▽^)ジジババ」のノスタルジーなのでしょうが、この差は団塊の世代の境界面になるのです。

 アニメアトムの世代は、心情では左翼っぽくとも、デモに行ったり集会に参加したりはしない人が多いように思います。

 実写アトム組は、団塊の世代の尻尾の先で、雰囲気にのまれてデモの最後尾に付いたり、校長や学長への大衆団交の末席におりました。いわば現場の端っこに居ましたので、その後の団塊本流の、よく言えば行く末、悪く言えば変節を目の当たりにしてきました。

 大正生まれの親たちが「わしら、子どものころは江戸時代生まれの人が生きてたでぇ」とか言うのと似ているように思います。

 同窓会の帰り道、みんなの話をニコニコ聞いていたX先輩が地下鉄の階段を下りながら言いました。

「実写アトムはシーズン1とシーズン2があってな、君の言うてたのはシーズン2のほうや」

「え、そうなんですか!?」

「シーズン1は、カチカチの外骨格みたいなん着とった……こんど写真見せたるわ」

「そんでも、アトムの主題歌は『ジェット推進十万馬力~』でしょ?」

「う~~ん……俺はアトムよりも『赤胴鈴之介』かなあ、山東明子のナレーションで、吉永小百合が子役で声やってた」

 うう、それは知らんかった。

 改札に入るころは、まだ決着の付かない大統領選挙の話題に替わり、当然の如く先輩はバイデン押しでありました。

 長幼の序を旨とするわたしは、あいまいな返事をしてイコカを改札機に認識させたのでありました。

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・5『幸子の学校見学』

2020-12-20 05:51:18 | 小説3

たらしいのにはがある・
『幸子の学校見学』
          

 

            

「おい、むっちゃ可愛い子おが体験入学に来てるみたいやぞ!」

 クラスメートで同じケイオンの倉持祐介。

「ほんとかよ!」
 俺も人並みには女の子にも関心がある。ちょうど食べ終えた弁当のフタをして、腰を浮かせた。
「もー、ちょっと可愛い思たら、これやねんからなあ」
 これも、クラスメートでケイオンの山下優奈がつっこんでくる。
「そやかて優奈、ビジュアル系のボーカル欲しいて言うてたやないか」

 と、いうことで、祐介の目撃場所であるピロティーが見下ろせる渡り廊下に急いだ。
 渡り廊下にはすでに数人の生徒が高校生的好奇心プラス大阪人のスケベエ根性丸出しでピロティーを見下ろしていた。ピロティーと隣接する中庭にいる生徒の多くも、チラ見しているのがよく分かった(ちなみに、大阪人のチラ見は東京のジロジロと変わらない)。

 セーラー服のツィンテールが振り返って気が付いた。

「あ、幸子!」
「え?」
「うん?」

 俺の早口は、祐介と優奈には、よく分からなかったようだ。俺は一階まで降りて距離を置いて幸子を睨んだ。

――来るんなら一言言え。そして、人目に付かない放課後にしやがれ!――

 俺の怨念が届いたのか、幸子は俺に気が付くと駆け寄ってきた。
「お兄ちゃ~ん!(^0^)!」
 完全な、外出用のブリッコモードだ。
「兄の太一です。存在感が薄くて依存心の強い兄ですが、よろしくお願いします」
「ええ! 佐伯の妹か……ぜんぜん似てへんなあ!」
 教務主任で副担任の吉田先生が、でかい地声で呟き、近くにいた生徒たちが、遠慮のない声で笑った。
「えと……うちを受けることになると思いますんで、よろしくお願いします」
 兄として、最低の挨拶だけして、そそくさと教室に戻った。しまい忘れていた弁当箱をカバンにしまっていると、優奈が、いきなり肩を叩いた。
「いやー! 太一の妹やねんてなあ。ぜったいケイオンに入れんねんで! あの子には華がある。ウチとええ勝負やけどな」
 
 うちの学校に限ったことではないだろうけど、大阪は情報が伝わるのが早い。

「あの子、美術の見学に行って、デッサン描いたらメッチャうまいねんて。ほら、これ」
 五限が終わると、優奈がシャメを見せにきた。恐るべき大阪女子高生のネットワーク!
「おい、情報の授業見学してて、エクセル使いこなしたらしいぞ、幸子ちゃん!」
 六限が終わると、祐介がご注進。今度のシャメは、十人ほどの生徒たちを、アイドルのファンのように従えて写っていた……で、マジで、放課後には幸子のファンクラブが出来た。

――サッチーファンクラブ結成、連絡事務所は佐伯太一、よろしく!――

 スマホで、それを見たときは、マジで目眩がした。発起人は祐介を筆頭に数名の知っているのやら知らないのやらの名前が並んでいた。

 その日は、運悪く中庭の掃除当番(広くて時間がかかる)に当たって部活に行くのが遅れた。まあ、マッタリしたケイオンなので、部活の開始時間は有って無きが如く。メインの先輩グループを除いては、テキトーにやっている。

 それが……。

――なんじゃこりゃ!?――

 いつもエキストラ同然の一年生が使っている三つの普通教室はカラッポで、突き当たりの視聴覚教室が、防音扉を通しても、はっきり分かる賑やかな気配。

 入ってびっくりした( ゚Д゚)!

 先輩グループが簡易舞台の上で、いきものがかりの歌なんかを熱唱し、みんながそれを聞いている。そして……そのオーディエンスの最前列中央に幸子が座っている!
 俺は、その異様な空間の中で、ただ呆然と立っているだけだった。

 満場の拍手で、我にかえった。

「どう、サッチャン。ケイオンてイケてるやろ!?」
 リーダーの加藤先輩が、スニーカーエイジの本番のときのように興奮して言った。
「はい、とっても素敵でした!」
「どう、サッチャンも、楽器さわってみない?」
「いいんですか!?」
 とんでもない。加藤先輩のアコステは二十万以上するギブソンの高級品。俺たちは絶対触らせてももらえないイチモツだ。
「初めてなんですけど、いいですか?」
「いいわよ、簡単なコード教えてあげる」
 驚きと拍手が同時にした。冷や汗が流れる。
「コードは……スコアの読み方は……」
 小学生に教えるように優しく先輩は教え、幸子はぎこちなくそれにならった……。

 それから十五分後、幸子は、いきものがかりのヒットソングを、俺が言うのもなんだけど、加藤先輩以上に上手く歌った。むろんギターもハンチクな俺が聞いてもプロ級の演奏だった。

「サッチャン……あんた……」

 先輩たちが、驚異の眼差しで見た。
「あ、加藤さんの教え方が、とても上手いんですよ。わたしは、ただ教えてもらったとおりやっただけです(;^_^」
 可愛く、肩をすくめる幸子。
「佐伯クン、あんたたち、ほんとに同じ血が流れてる兄妹……?」
 加藤先輩の言葉で、みんなの視線が俺に集まった……。

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やくもあやかし物語・34『突然の選択肢』

2020-12-20 05:38:04 | ライトノベルセレクト

物語・34

『突然の選択肢』     

 

 

 あとはデザートというところで電話がかかってきた。

 

 お母さんは「ごめん」と言いながらスマホを持って店の外へ……「あ、島田君……」という一言で職場からの電話だと分かって、気持ちを引き締める。

「わるい、会社に戻らなきゃならなくなっちゃった」

「お仕事じゃ仕方ないよ。だいじょうぶだから行って(^▽^)」

 気持ちを引き締めていたので笑顔で言えた。

 お母さんは席にもどることなく、レジでお勘定済ませて行ってしまった。

「デザート、テイクアウトできますか?」

 マスターに聞くと、快くケーキ用の白い箱に入れて持たせてくれた。

「ごちそうさまでした、今度またゆっくり来ますね(o^―^o)ニコ」

 もう一回とびきりの笑顔をマスターに見せて外に出る。笑顔は、お母さんに見せてあげようと、そのつもりになっていたんだ。

 次はデザートというときには、心の中で準備していた笑顔。

 だれかに向けなきゃもったいない……うそうそ、笑顔にしてなきゃ涙が出てきそうだったから。

 

 血のつながりの無いのは心細い。

 あ、ダメだダメだ……これ考え出すと底なし沼になる。

 楽しいことを考えよう……と思っても、おいそれとは出てこない。

 えと……えと……

 

 すると、横の路地から黒猫が飛び出してきた。立ち止まると、白猫が飛び出してきた。次に茶猫。

 三匹混ざったら三毛猫……前にもこういうシュチエーションあったなあ……そう思っていると、ほんとうに白黒茶の三毛猫が出てきた。

 すると、三毛猫が一歩前に出ると四匹揃って、ヒョイと立ち上がった。

「おう、やくも。ここでクイズだ」

 三毛が言う。

「白・黒・茶は、これからのお前の運命だ。どれか一つ選びな」

「あ……えと……急に言われても」

「優柔不断なやつだなあ、さっさと決めろ。せっかく出てきてやったんだからよ」

「「「そーだそーだ」」」

「なによ、いきなり出てきて」

「いきなりじゃねーよ、前もつづら折りのとこで出てきてやったじゃねーか。あんときゃ、まだ、おまえは猫の言葉が分からなかったからよ。でも、いまは分かるんだ、さっさと選んじまいな」

「「「選べ!」」」

 立っても、わたしの膝小僧くらいの背丈なんだけど、四匹揃って迫ってくると後ずさりしてしまう。

 

 ピシ イテ! ピシ イテ! ピシ イテ! ピシ イテ!

 四回音がしたかと思うと、猫たちの頭がポコポコポコポコと音がした。

「そこまでにしときな。次は手加減しないで食らわすよ」

 歩道の向こうにツインテールのメイドさんがパチンコを構え、左右非対称の笑顔で立っている。

「やばい、ずらかるぞ!」

 三毛の一言で、猫たちは四方に散ってしまった。

「突然の選択肢には要注意」

 バシュッ!

 パチンコ玉がすぐ横に飛んできて思わず目をつぶる。

 

 再び目を開けた時には、わたしは家の前に立っていた……。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

 

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せやさかい・183『詩ちゃんと大掃除』

2020-12-19 14:52:16 | ノベル

・183

『詩ちゃんと大掃除』さくら   

 

 

 きょうは自分の部屋の大掃除。

 

 来週になると本堂とかの大掃除になるので、まずは自分の部屋から。

 お寺の大掃除はたいへんなんです。

 なんせ、敷地だけど五百坪。本堂の内陣と外陣で百坪。とても一日では終わりません。

 去年は、まずはお寺が先と思て、自分のを後回しにしたら、ヘゲヘゲでなんにもできませんでした。

 まあ、その年の四月に引っ越してきたから、大掃除いうほどのこともないこともあったんやけどね。

 せやさかい、今年は、まずは自分の部屋から。

 

 わたしの部屋は玄関上がって、リビングの外の廊下をL字型に進んだどん詰まりを階段を上がった二階。

 廊下を挟んで詩(ことは)ちゃんと向かい合わせの八畳間。

「「よし、やるぞ!」」

 詩ちゃんと、気合いを入れて、それぞれの部屋にかかる。

 たった一年と九カ月やねんけど、本棚の後ろとかベッドの下は埃だらけ(^_^;)

 床のカーペットを半分まくって、本堂用の掃除機をガアアアアって感じでかけまくる。

 ガアアアアア グガガガガガアアアアアア ガッガッガッガガアアアアアアア

 え、え、なんか音がおかしい(;゚Д゚)

「ゴミが溜まってるんだよ」

 詩ちゃんが廊下まで出てきて忠告してくれる。

「えと……(掃除機の開け方が分からへん)」

「あ、こうやるんだよ」

 バッチンていうんやろか、トランクの金具みたいなんをバッチンと開けて、グニっと回してカパッと開ける。むろん開けたのは詩ちゃん。

「「うっわあああ!」」

 ゴミ袋がパンパン。

「このまま取り出したら、埃だらけになっちゃうよ(^_^;)」

「窓、あけよか」

 詩ちゃんの提案で、越してきた時に一回開けただけの窓を開ける。

 うちの部屋は、あたしが越してくるまでは、ずっと物置になってて、あたしが使う分だけ片づけただけやから、窓を半分隠すようにして、屏風みたいなもんが突っ込んである。それをどけて、どっこいしょ!

 グァラリ!

「うっわああ!」

 開けてビックリ。

 窓の外は、お寺の裏通りになってて、四メートルの生活道路を挟んでお隣りさん。

 ほら、去年火事が起こった、あのお家。

 お隣りとは、町会の班が違うので日常的なお付き合いはない。

 お隣りに行くには、階段を下りて、L字の廊下を通って玄関に出て、本堂と釣鐘堂の前を通って山門を出て、お寺の外周を半分回ったとこ。

 ちょっと遠い感じやったんやけど、こうやって窓を開けると、ちょっとジャンプしたらお隣りの玄関先。

 ちょっと変な感じ。

「去年の火事、大事になってたら、ここから燃え移ってるね……」

 詩ちゃんが怖いことを言う。

「さ、ゴミ袋」

「本堂やったね」

「あ、この部屋にもあるよ」

「ほんま?」

「うん……」

 詩ちゃんはデリカシーのある子ぉで、さすがに元物置とは言わへん。

「こっちのクローゼットにね……」

 これも思いやり。ただの納戸やねんけど、クローゼットと優しく言うてくれる。

「ええと、たしか……こっちに」

「あ、これ?」

「あ、そうそう」

 その時、ちょっと無精して、手前の段ボール箱をどけへんかったんで、バランスを崩した段ボール箱がドサドサっと落ちてきた。

「あっちゃあ」

 オッサンみたいな声あげて、片づけようと思ったら、箱が崩れて中身が出てきてしもた(^_^;)。

「あ、これ、お祖父ちゃんのだ」

 中身はノートやら原稿用紙やらがびっしりと詰まってた。

 チラリと見ると、原稿みたい。

「お祖父ちゃん、昔は小説家になりたかったとか言ってたから……」

「すごい、みんな手書きやんか」

 ビッシリ入ってる原稿、あんまり多いんで読んでみよういう気にはなれへん。とりあえず、ビックリ。

 その中に、厳重に封印されて巻いた麻ひもの結び目も蝋で固めてあるという特別そうなのが目に入る。

「え、うそお!?」

 袋に筆書きしてあるタイトルを見てビックリした。

 

「『鬼滅の刃』!?」

「ちょっと、違うみたい……」

 詩ちゃんと落ち着いて読み直すと……タイトルは……

「『滅鬼の刃』!?」

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・4『幸子は佳子ちゃんと友だちに』

2020-12-19 05:43:31 | 小説3

たらしいのにはがある・
『幸子は佳子ちゃんと友だちに』
          

 

  

 

 人間はたいていの環境の変化にはすぐに慣れる。

 自他共に認める「事なかれ人間」の俺は、三日目には、幸子の可愛さと、それに反する憎たらしさに慣れてしまった。
 幸子は、家の外では多少コマッシャクレ少女だが、まあ普通……より少し可愛い妹だ。家の中では、相変わらずのニクソイまでのぶっきらぼう。

 六日目に、一度だけお袋に聞いた。ちょうど幸子がお使いに行っている間だ。

「幸子……どこか病気ってか、調子悪いの?」
「え……どうして?」
 お袋は、打ちかけのパソコンの手を休めてたずねてきた。ちなみにお袋は、在宅で編集の仕事をやっている。
「あ……なんてか、躁鬱ってんじゃないけど、気持ちの起伏が、その……少し激しいような……」
「…………少し病んでるの、ここがね」


 お袋は、俺の顔を見ずに、なにか耐えるように胸をおさえた。


「……あ、ああ。思春期にはありがちだよね。そうなんだ」
 それで納得しようと思ったら、お袋は、あとを続けた。
「夜中に症状がひどくなることが多くてね、夜中に、時々幸子の部屋にお母さんたちが入っているの知ってるでしょ」
 俺は、盗み聞きがばれたようにオタオタした。
「いや……それは、そんなにってか……」
「いいのよ、わたしも、お父さんも。太一が気づいてるだろうとは思ってたから……」
 そういうとお袋は、サイドテーブルの引き出しから薬の袋を取りだした。袋の中にはレキソタンとかレンドルミンとかいうような薬が入っていた。

 処方箋を見ると、向精神薬であることが分かった。


「……俺が何か気を付けてやること、あるかなあ?」
「そうね……どうしてとか、なんでとか、疑問系の問いかけは、あまりしないでちょうだい」
「う、うん」
「それから、逆に、あの子が、どうしてとか、なんでとか聞いてきたら、面倒だけど答えるように……そんなとこかな」
「うん、分かった」
「それと、このことは、人にはもちろん、幸子にも言わないでね」
「もちろん」
「それから……」
 と、お袋が言いかけて、玄関が乱暴に開く音がした。

「お母さん、この子怪我してんの!」

 幸子が、泣きじゃくる六歳ぐらいの女の子を背負ってリビングに入ってきた。


「お兄ちゃん、大村さんちの前にレジ袋おきっぱだから、取ってきて。それから、大村さんの玄関に、これ貼っといて」
 女の子をなだめながら、背中で俺に言った。渡されたメモは広告の裏で『妹さん預かっています。佐伯』とあった。
 メモを貼って、レジ袋をとりに行って戻ってくると、幸子は女の子の足の傷を消毒してやっているところだった。
「公園から帰ってきたらお家が閉まっていて、家の人を探そうとして転んだみたい」
「いたいよぉいたいよぉ」
「大丈夫よ、優子ちゃん。オネエチャンがちゃんと直してあげるからね、もう泣かないのよ……」
 幸子は、まるでスキャンするように優子ちゃんの傷に手をかざした。
「大丈夫、骨には異常は無いわ。擦り傷だけ……」
「はい、傷薬」
 お袋は、手伝うこともなく、薬箱の中から必要なものを取りだして、幸子に渡した。幸子は、実に手際よく処置していく。


 ピンポ~ン

 インタホンが鳴った。


「すみません、大村です。妹が……」
「あ、佳子ちゃん、じつは……」
 佳子ちゃんを招き入れ、お母さんが手際よく説明。優子ちゃんも姉の佳子ちゃんを見て安心したんだろう。涙は浮かべつつも泣きやんだ。
「まあ、幸子ちゃんが。どうもありがとう……わたし、用事でコンビニに行ったら、友だちと話し込んでしもて。それで優子、自分でお家に帰ってきちゃったんや。ごめんね」
「用事って、それ?」
 幸子は、佳子ちゃんが手にしている書類に目をやった。
「あ、わたしドンクサイよって、出願書類コピーで練習しよ思て、十枚もコピーしてしもた」
「佳子ちゃん、どこの高校受けるの?」
「あ、それ、友だちと話ししてたとこ。わたし真田山にしよ思て」


 それがやぶ蛇だった。

 ひとしきりお袋と優子ちゃんの二人を交えた女子会になり、終わる頃には、幸子は大村姉妹と仲良しになり、ついでに受験先も、我が真田山高校に決まってしまった。

 そして、二日後、なんと幸子は真田山高校に一人で体験入学に来た……。

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やくもあやかし物語・33『最初の晩餐』

2020-12-19 05:24:17 | ライトノベルセレクト

物語・33

『最初の晩餐』     

 

 

 それから黒電話に変異は無い、いまのところね。

 七割安心して、三割期待してる……と思って、慌てて否定。

 三割でも期待して、本当になったらどうすんのよ(;'∀')!

 慌てて、ひとりエンガチョを切る。

 

 戦時中の真岡にあったものでもない。単に芳子ひい婆ちゃんのころに電電公社が据え付けたものだ。

 梅の咲くころまでには、そっけない部屋のオブジェとして収まった。

 

 庭の梅の木にポツリポツリと花がほころび始めた時に来客があった。

 

 梅田さんという苗字は暗示的だったけど、お婆ちゃんの和室にお茶を持っていくと、うちのお婆ちゃんと同年配の中肉中背のオバサンだ。お婆ちゃんと同年配でオバサンというのもおかしいんだけど、若く見えるから。

 若く見えると言っても、美人だとかいうわけじゃない。

 ただ、よく喋る。お喋りが若やいでいる。

「まあ、これが孫娘のやくもちゃん?」

 遠慮なく、わたしの顔を品定めする。

「さすがに、あなたの孫ね。キュートで可愛い、学校でもモテるでしょ?」

「いいえ、そんな(#´∪`#)」

 言いながら思った。お婆ちゃんとは血のつながりがないから『あなたに似て』というのはおかしいというか、不用意な発言。

 お婆ちゃんも言い返すこともなくニコニコしている。まあ、ほんの社交辞令と聞き流しているんだろう。

「どう、新しい学校には慣れた?」

 お尻を上げようとすると話題を振られる。

「はい、慣れました」

 だけでは愛想が無い。

「友だちは、そんなにいませんけど、先生も生徒もいい人ばかりです」

「そうでしょうね、やくもちゃん、陰りのないいいお顔してるもの」

 それからも、梅田さんはよく喋った。

 以前は近所に住んでらしたらしく、中学もわたしの通っている中学の出身。うちの中学は昔から美男美女の少ない学校で、うかうかしてるとブスが染っちゃうからほどほどでいいのよなどと言う。梅田さんは「わたしはよく喋ったのでブスが染っちゃったあ!」とケラケラ。

 これは、コミュ障っぽく見える(じっさい友だち少ないんだけど)わたしをフォローしようって気持ちなんだろうけど、しっくりこなくて曖昧な笑顔をしておく。

 いいかげん持て余したころ、部屋の外で電話のベルが鳴った。

「失礼します」

 と言って部屋は出たものの、いつもの固定電話じゃない。

 リビングにいったら、やっぱ、着信のベルは鳴っていない。

「まさか……」

 部屋に戻ると、むろんオブジェの黒電話も沈黙している。

 いったい……?

 腕組みしていると、今度はほんとにリビングの電話が鳴る。

 パタパタとリビングに戻る。

「もしもし、小泉ですが」

 受話器を取ると――あ――と声がする。「あ」だけでも分かる。お母さんの声だ。

――ごめん、間違えて家に電話してしまった! 島田くん、そっちの電話で、ごめんね――

 お母さんは、自分のミスを島田くんとやらに押し付けたようだ。地声がでかいから、受話器を手で押さえていても聞こえてしまう。

「もう、しっかりしてよね」

――そおだ、久々に二人でご飯食べようよ(^▽^)――

 島田くんをスケープゴートにして、久々に親子の晩餐になる。

 それにしても、あの電話の呼び出し音は?

 ま、いいや。少々の不思議には驚きません。

 お婆ちゃんにことわり入れようと思ったら、すでにお母さんが携帯で連絡していた。

 お婆ちゃんと梅田さんの笑顔に送られて、最初の晩餐に出かけるわたしでした。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・3『なんだか変』

2020-12-18 06:53:51 | 小説3

たらしいのにはがある・
『なんだか変』
          

 

 なんか変なんだ。

 例えて言うなら、ライブの舞台セットの裏側と表側。
 セットの表側は、きれいに飾られ、電飾やらレーザーやらの照明が当てられて、とても華やか。でも裏側にまわると、それはただの張りぼてで、ベニヤ板が剥き出しだったり、配線が生ゆでのパスタのようにのたくって薄暗く、まるで建設現場のように素っ気なく乱雑だ。
 幸子は、Yホテルで会ったとき、引っ越しでご近所周りをしている時は明るく可愛い女の子だった。家の中を整理しているときは、親父、お袋、そして俺たちも忙しく立ち回り、いわばセットの立て込み中のスタッフのように、テキパキと無駄なく動いていた。だから、素っ気なくて当たり前だと思った。
 
 でも、落ち着いてからの幸子は変だ。

 兄妹とはいえ、平気で上半身裸の姿を晒し「こういう場合、どうリアクションしたらいいと思う?」は無いと思う。それも歪んだ薄笑いで……。


 親父とお袋には普通の態度だ。


「ウワーーーーー奮発したのね! これ宅配寿司でも高級なやつじゃん!」
「佐伯家の再出発だからな。まあ、これくらいは」
「う~ん、この中トロたまら~ん!」
「よかったら、お母さんのもあげるわ。脂肪が多いから」
「ごっちゃん、遠慮な~く!」
「ハハ、幸子は東京で舌が肥えちまったなあ」
「下も上も肥えてませーん。ナイスバディーの十五歳で~す!」
「そうよ、ブラのサイズ、この冬からCカップになっちゃったもんね」
「もー、そういう秘密は、家族でも言っちゃいけません!」
「ハハ、友だちにも自慢してたくせに」
「女の子の友だちだもん。でも、お父さんならチラ見ぐらいさせてあげるわよ(^▽^)/」
「おいおい、親をからかうもんじゃないよ」
「ハハ、お父さん赤くなった!」
「アハハハ……」
 
 俺は、この食事の間、ほとんど会話には入っていけなかった。

「幸子、ムラサキとってくれよ」
「…………」
 幸子は笑顔をさっと引っ込め、例の歪んだ笑顔で俺を見た。


「ムラサキって醤油のこと」
「分かってる……」


 幸子は、まるで犬にものをやるように……いや、ゴミ箱に投げ入れるような無機質さで、ムラサキの魚型チュ-ブを放ってきた。それも、俺の手許三センチのところにピタリと。そして、俺と始めかけた会話など無かったように、続きを始めた。


「で、敦子ったら、敦子って、東京の友だちなんだけどね……」
「そりゃ、びっくり……」
「ハハ、年頃の女の子って……」
「ハハ、お父さんも苦労しそう……」
「だーかーらあ……」
「アハハハ……」

 その夜、トイレに行こうとしたら風呂に入ろうとしていた幸子と廊下で出くわした。

「……覗くんじゃないわよ」

 今度は、歪んだ笑顔なんかじゃなくて、無機質な真顔だった。スニーカーエイジで機材を間違えて置いたときにとがめ立てしたスタッフのようにニクソかった。
「覗くわけないだろ。昼間のは事故みたいなもんだったけど」
「でも……可能性の問題としてね」
 そう言って俺の前を通っていく幸子の手には着替えやらバスタオルが抱えられていたが、チラッと金属のボンベのようなものが見えた。偶然か、それを察したのか、幸子は縞柄のパンツでそれを隠した。
 トイレと風呂場は隣同士で、脱衣場とトイレ前の洗面とはカーテン一枚で仕切られているだけで、幸子が潔く服を脱いでいく衣擦れの音がモロにした。昼間見た形の良い胸が頭に浮かんだ。

――俺ってば何考えてんだ(^_^;)――

 その夜、新しい寝床で寝付けずにいると、隣の幸子の部屋で気配がした。幸子一人ではない気配だ、つい耳をそばだててしまう。


「……やっぱ、無理か?」
 親父の声だ。
「うん、幸子が拒否……」
 お袋の声だ。でも拒否だと? 壁に耳を付けると間が空いた……。
「ま、引っ越しとかで疲れがでたんでしょ。とにかくゆっくり眠りなさい」
「はい、ごめん。お母さん、お父さん」
 なんだか、急にボリュ-ムが上がったような気がした。

――なに盗み聞きしてんのよ――

 幸子のニクソイこえが聞こえたような気がして、俺は慌ててベッドに潜り込んだ……。

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やくもあやかし物語・32『黒電話の怪異・5』

2020-12-18 06:43:37 | ライトノベルセレクト

物語・32

『黒電話の怪異・5』     

 

 

 本当に落ちたわけじゃない。

 

 真岡電信局の事は夢か幻だ。

 だから、交換室の後ろの扉から芳子ちゃんと手を繋いで飛び出したことは現実のことじゃない。

 ベッドの上に落ちたと思ったのは錯覚なんだ。錯覚なんだけど、落ちたと思って瞬間身体に力が入って、あちこちの筋が違ったんだろう。

 あーーいててて……

 夕飯のテーブルに着くのも、要介護三くらいのお婆さんになったみたいだ。

 

 アハハ、どうしたのよ?

 

 テーブルの向かいでリアルお婆ちゃんが笑いながら食器を並べている。お爺ちゃんは鍋の具材を整えながら聞きたそうにしている。

「じつは、黒電話がね……」

 黒電話の発見から公衆電話の使い方まで祖父母には世話になっているので、夕飯の鍋が煮立つ間にあらましの事を話した。

「芳子ちゃんと言ったんだね?」

「うん、セーラーモンペでね、とても走るのが速いの」

「お兄さんが、小泉……」

「名字だけで名前は聞いてない」

「ちょっと待てよ……」

 お爺ちゃんは、リビングの棚から古いアルバムを取り出した。

「まあ、埃だらけ、あっちでやってくださいよ」

「ああ、すまんすまん」

 いったん廊下に出てからお爺ちゃんはアルバムを開いた。バリバリいう音がテーブルまで聞こえてくる。

「古いアルバムだからページが貼り付いてんのね」

 お爺ちゃんは、バラして必要なページだけ持って戻ってきた。

 そのページには見覚えのある真岡の街の景色や学校の行事の写真が貼られている。

 裏を返したところには人の写真。

「あ、これだ!」

 それは一家三人の写真だ。

 写真館で撮ったんだろう、背景も横に置かれた台付きの花瓶もしっくりしている。

 前に椅子が三脚、女学生二人と国民服の青年。後ろに年配の国民服とかっぽう着の女の人、たぶん三人兄妹のご両親。

 で、言うまでもなく。三人は小泉兄と妹の洋子さんと芳子ちゃん。

「この芳子ちゃんと一緒だったんだよ」

「芳子は、俺のお袋だよ」

「え、そうなんだ……」

「源一郎伯父さんと洋子伯母さんは真岡で亡くなった。伯母は電信局で亡くなったんだけど、伯父さんは死体も見つからなかったんだ」

 そうだろう、わたしを逃がした後路地に直撃弾だったもん……ていうか、わたし、リアルに体験してしまった!?

「芳子さん……お義母さんは、あの日の真岡での記憶が無いのよ。お姉さんを助けようとは思って走ったんだけど、艦砲射撃が始まって、気が付いたら港の収容所に入っていたって」

 そうだろ、あんなものを見たら記憶飛んじゃうよね。

「じゃ、あの黒電話は真岡の?」

「そこまで古くは無いさ、俺が子どものころに電電公社が交換しに来たやつだ。まあ、ほとんどお袋専用みたいだったけどね」

 そこまで話したところで鍋が食べごろに煮立ってきた。

 お鍋をいただいているうち、話題が変わってしまい、しばらくは真岡の話に触れることは無かった。

 ツケッパのテレビが立春になったことを目出度く報じていた……。

 

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

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オフステージ・148『ミリーの頼まれごと・4』

2020-12-17 11:12:35 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)148

『ミリーの頼まれごと・4』ミリー    

 

 

 お弁当箱の入った巾着袋を抱えて家庭科準備室へ、階段の踊り場から正門が見える。

 

 遅刻した生徒は、正門を入ったところの守衛室で入室許可書をもらわなければならない。守衛室のカウンターに見覚えのある女生徒……Sさんだ!?

 体調悪いのに大丈夫……?

 この距離でも気配を悟ったのか、わたしの姿に気が付いて、ピョンピョン跳ねながら手を振って来る。

 可愛く健気な姿に、窓から身を乗り出して手を振り返す。

「家庭科準備室行くから! Sさんもいっしょにおいで!」

 我ながら、こういうところはアメリカ人。

 ここをアニメにしたとしたら、顔の上半分を二つのへの字、下半分をノドチンコむき出しの口にして、陽気に叫んでいる金髪女子だね。それで、十秒スポットの予告編になりそう。

 事情を説明すると――わたしもですか?――という表情をするけど、わたしの圧が強いのか、Sさんは大人しく付いてきた。

「体は大丈夫?」

「はい、お弁当張り切り過ぎて、心配かけました」

「そっか、元気ならなによりなにより(^▽^)/」

「でも、なんで家庭科準備室なんですか?」

「ああ、それはね……」

 いきさつを話すと、Sさんも「そうなんですか」と笑ってくれる。

 ほんとうは、目論見なんかあるわけない。なりゆきよ。

 相談にのるとは言ったものの、冷静に考えると、啓介がSさんを受け入れる可能性は低い。

 でも、啓介自身千歳への気持ちが固まっているとも言い難い。

 だからね、Sさんという変数を加えて見れば、結果はともかく、事態は動くと……ちょっと乱暴かもしれないけどね。

「「失礼しまーーーす」」

 二人で挨拶すると『どーーぞ』と先生の声。

「あら、Sさん、間に合ったの!?」

「はい、三時間ほど寝たら元気になりました。休んだら、お弁当無駄になりますし」

「そうね、じゃ、掛けなさいな。家庭科特性のお味噌汁入れてあげる」

「「ありがとうございます」」

「じゃ、お弁当、見せてくれるかなあ(^▽^)」

 お味噌汁をつぎながら杉本先生。

「じゃ、いくよ」

「はい」

「いち、に、さん、でね」

「はい」

 わたしは巾着袋から、Sさんは通学カバンの他にもう一つ持ったバッグから、それぞれ一人分にしては多すぎるお弁当箱を出した。

「ほほ、たまに作ると量が多くなるのね。はい、お味噌汁」

「「ありがとうございます」」

 わたしのは千代子のお婆ちゃん出してくれた曲げワッパ。Sさんは三段重ねの大型タッパー。

 ワッパとタッパー、取りあえずゴロはいい。

「じゃ、いち、に……」

「「さん!」」

 日米のお弁当が御開帳になった!

 

☆ 主な登場人物

  •  啓介      二年生 演劇部部長 
  •  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー     二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  美晴      二年生 生徒会副会長

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・2『タイトルに偽りなし』

2020-12-17 06:14:06 | 小説3

たらしいのにはがある・
タイトルに偽りなし
    

 

 

 タイトルがおかしい。

 前回読んだ人はそう思うかもしれない。

『妹が憎たらしいのには訳がある』と題しておきながら、八年ぶりの妹を、こう描写している。
 
 すっかり変わって可愛くなった妹の幸子が向日葵(ひまわり)のようにニコニコと座っていた。

 可愛くのみならず、ニコニコとまで書いている。

 しかし、タイトルに偽りはない……。

 妹の幸子は、喋りすぎるでもなく、静かすぎることもなく、自然な会話の中でニコニコしていた。


 八年前、俺が東京の家を出るとき、まだ七歳の幸子は、電柱五つ分ぐらい泣きながら追いかけてきた。


「おにいちゃーん、行っちゃやだー!!」
 転んで大泣きする幸子を見かねて、俺はタクシーを止めてもらった。
「幸子、大丈夫か!?」
「だいじょばない……おにいちゃん、ファイナルファンタジー、まだクリアーしてないよ。いっしょにやるって言ったじゃないよ、言ったじゃないよ……」
 そう言って、幸子は手を開いた。小さな手の上にはプレステ2のメモリーカードが載っていた。
 メモリーカードには、ファイナルファンタジーⅩ・2のデータが入っている。PS4なんかの最新ゲームに飽きてヤフオクでゲーム機ごと買ったレトロゲームだ。メモリーカードにデータを残すのがお伽話のようで、さちこのお気に入りになったんだ。

「さちこ……さちこ一人じゃ、できないよ。おにいちゃんといっしょじゃなきゃできないよ!」
「がんばれ、幸子。やりこめば、きっとできる。あれ、マルチエンディングだから、がんばってハッピーエンドを出せよ。がんばってティーダとユウナ再会のハッピーエンド……そしたら、またきっと会えるから」
「ほんと……ほんとにほんと!?」
「ああ、きっとだ……!」
 そう言って、俺は幸子にしっかりとメモリーカードを握らせ、その手を両手で強く包んでやった。
「がんばれ、幸子!」
 包んだ手に、幸子の涙が落ちてくるのがたまらなく、俺は幸子の頭をガシガシ撫でてタクシーに戻った。
 バックミラーに写る幸子の姿が、あっと言う間に涙に滲んで小さくなっていった。

 あれから八年。

「コンプリートして、ハッピーエンド出したよ」

 幸子は、黒いメモリーカードをコトリとテーブルの上に置いた。
 八年前の兄妹に戻り、俺は、ほとんど泣きそうになった。

 Yホテルのラウンジの、ほんの一時間ほどで、我が佐伯家の空白の八年は埋められた……ような気になっていた。

 それから一週間後、俺たちは、新しい家に引っ越した。お袋と親父は、それぞれ東京と大阪のマンションを売り、そのお金で、中古だけど戸建ての家を買ったんだ。5LDKで、ちょっとした庭付き。急な展開だったけど、俺には本気で家族を取り戻そうとする両親の心意気のように感じられ、久々にハイテンションになっていた。
 大ざっぱに家具の配置も終わり、ご近所への挨拶回り。
「今日、越してきました佐伯です」
「よろしくお願いします」

 向こう三軒両隣、みなさんいい人のようだった。特に筋向かいの大村さんは、幸子と同い年の佳子という子がいて、なんだか気が合いそうな気がした。

 夕食は大村さんに教えてもらった宅配のお寿司をとった。

「一時間ほどかかりますが」と言っていた宅配のお寿司が、四十分ほどで着いた。
「おーい、幸子、お寿司が……」
 幸子の部屋のドアを開けて、俺も幸子もフリーズした。
 幸子は、汗をかいたせいだろう、トレーナーも下着も脱いで、着替えの真っ最中だった。
「あ……」
「こういう場合、どうリアクションしたらいいと思う?」


 幸子は、裸の胸を隠そうともせずに、歪んだ薄ら笑いを浮かべて言った。

 初めて見る妹の憎ったらしい顔がそこにあった……。


 

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やくもあやかし物語・31『黒電話の怪異・4』

2020-12-17 05:53:52 | ライトノベルセレクト

物語・31

『黒電話の怪異・4』    

 

 

 南に走ったつもりだった。

 

 真岡の街は西に向けて傾斜しているので、東西に方向を間違えれば平衡感覚で分かる。

 しかし、南北には高低差が無いので、銃撃や艦砲射撃が続く中、何度も転んでしまって分からなくなる。平穏な時であれば右手に海、左手に山を捉えていれば間違えようは無いけど、身を低くして頭を抱えて足もとしか見えていないうちに混乱してしまった。

 何度目かに転んだ目の前に真岡電信局が見えた。

 ここだ!

 近くには国民服の人とお巡りさんがねじくれて転がっている。

 ピュピュピューーーン! ピュピュピューーーン!

 二人を地面に縫い付けるようにして機銃弾が走る。子どもが寝転がったまま駄々をこねるように跳ねる。

 ピュピュピューーーン! ピュピュピューーーン!

 まだ生きていると思ったのか、執拗に機銃弾が走る。

 国民服とお巡りさんは、人であったことが分からないくらいにボロボロになってしまった。

 

 ボト

 

 どちらのか分からない手首が落ちてきて、弾かれるように後ずさって電信局のドアにぶつかって転がり込んでしまった。

 疲労と建物の中だという安堵感で目が開けられない。

 荒い息をするうちにアーモンドの匂いがしてきた。

 目を開けると、目の前に横たわった女の人の顔……くしゃみをする寸前のように弛緩した口元から、いっそう強いアーモンド臭。

 青酸カリを飲んだんだ……小説や探偵アニメで覚えた症状だ。嗅いでいては、こちらまでやられる。

 身を起こすと、床に転がったり交換台に俯せるように息絶えた女の人たちが目に入った。ネットで調べた通りの九人……いや、もう一人いる。

 交換台の下、膝を抱えて目を見開きっぱなしのセーラーモンペ。

「……芳子ちゃんね?」

「…………」

「小泉芳子ちゃんでしょ?」

「……だれ?」

「やくも、小泉やくもだよ」

 声を掛けながらも、ダメだろうという気持ちだった。芳子ちゃんは洋子お姉ちゃんを迎えに来て、九人の自決に出くわしてしまったんだ。たぶん、芳子ちゃんがうずくまっている交換台に突っ伏している女の人。だらりと下がった左腕で息絶えていることは間違いない。最後までお姉ちゃんの手を握って命を呼び戻そうとしてるうちに砲撃や銃撃がひどくなって動けなくなったんだ。その目には絶望の色が滲んでいる。

 こんな子を励まして逃げる自信は無い。

「小泉やくも……やくもちゃん?」

 面食らった、急に思い至ったかのように芳子ちゃんの目に光が戻ってきた。

「やくもちゃん! やくもちゃんなんだ!」

 交換台の下から這い出てきて、芳子ちゃんはわたしの手をしっかりと握った。

 これなら言える! 逃げようって言える!

「もう少し、もう少し早かったら、洋子お姉ちゃんも……」

 姉の事を残念がってはいるが、生きて行こうという気持ちは次第に強くなってきている。

 しかし、問題は逃げ場所が無いということだ。

 電信局は占領したあとに使うつもりか、銃砲撃が控えられているようだ。

 しかし、このまま留まっていてはソ連軍にどんな目にあわされるか分かったもんじゃない。外は激しい攻撃にさらされている。

 プルルル プルルル

 空いている交換台のベルが鳴る。交換台には百以上のランプがあって、そのうちの一つが点滅してベルが鳴っているのだ。

 交換台のレシーバーをとって、ジャックを点滅しているところに差し込んだ。公衆電話だってまともにかけられないわたしだけど、これは自然にできた。

「もしもし」

――交換室の後ろのドアから出て――

 あの声が、それだけ言って切れた。

「芳子ちゃん、後ろのドアだ!」

 芳子ちゃんの手を取ると、目についた後ろのドアに向かった。ドアは左右に二つあり、一瞬どちらだろうと思う。右側のドアが開いたので、二人して飛び込んだ!

 入ると同時にグニャリと空間が歪んで、前方のねじくれたブラックホールのようなところに引っ張られていく!

 ヤバイ気持ちと助かるという気持ちが半々、吸い込まれながら芳子ちゃんの手の感触が希薄になっていく……。

 芳子ちゃん……!

 声を振り絞ったところで、ドサリと体が落ちる。

 落ちたところが自分のベッドだと分かるのにしばらくかかった……。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

 

 

 

  

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妹が憎たらしいのには訳がある・1『再会』

2020-12-16 07:07:34 | 小説3

たらしいのにはがある・
『再会』
    


「土曜日、お母さんと会うからな」

「え………………………………?」

 これが全ての始まりだった。

 

 俺は、どこと言って取り柄も無ければ、欠点もない(と思ってる)、ごく普通の高校生だ。
 通っている高校も偏差値58の府立真田山高校。クラブは、どこの学校でも大所帯の軽音楽部。特に軽音に関心が高いわけじゃない。
 中三の時、友だちに誘われて、親父のアコステを持ち出して校内の発表会に出た。
 バンドというだけで注目だった。
 どっちかって言うと、そういうのは苦手。俺は、ただ習ったコードをかき鳴らしていただけだ。本番でも五カ所ほど間違ってしまった。とてもアコステをマスターしたとは言えない。でも、観客の生徒はみんなノリノリだった。友だちのボーカルが多少イケテル感じはした。ボーカルも「アコステよかったじゃん!」とか言ったけど、あとで見たビデオはひどいものだった。親父譲りのアコステは、そのまま物置に戻した。

 だから高校に入るまで、そういうのとは無関係だった。中学のアレは、義理ってか、押し切られたとか、錯覚とか、まあ、そういう範疇のものだ。

 俺は、自分は特別だとか思い込む中二病的因子は少ない方だ。良く言えば冷静、普通に言えば落ち着いた、悪く言えば面白みのない奴。中規模企業の課長で定年ぐらいの無難な人生がいいと思ってる。

 高校で軽音楽部に入ったのは、とにかく人数が多くて適当にやっていれば、学校の居場所としては悪くないと思ったから。
 実質は十人ほどの上級生が独占的にやっていて、俺たちはエキストラみたいなもんだ。


 でも、それでよかった。


 やったことと言えば、伝統の「スニーカーエイジ」に出場した先輩の応援にかり出され舞洲アリーナで弾けたぐらい。

 パンピーと言うかモブして観客席で群れているのが性に合っている。


 だから、入部したときに組まされたメンバーも、そういう感じで、ケイオン命ってんじゃなくて、お友だち仲間というベクトルが強い。お友だちというのは、互いに深いところでは関わらない。他愛のない世間話をするぐらい。
 スニーカーエイジの授賞式で先輩と目が合って「おめでとうございます」と言った時、先輩は俺の名前が出てこず、曖昧な笑顔をしていた。こういうことにガックリ来る人もいるだろうけど、俺は名もないモブであることにホッとした。


 俺はさ、そういうヌルイ環境が心地いい。

 さて、本題。

 俺の両親は、俺が小学二年の時に離婚した。

 原因は親父の転勤だった。


 なにか仕事で失敗したらしく、実質は大阪支店への左遷だった。ずっと東京育ちだったお袋は大阪に行きたがらなかった。そして、それよりも左遷されて、自信やプライドを失ってしまった親父にお袋は嫌気がさしてきたようだった。
 で、あっさりと離婚が決まり、俺は親父に引き取られ大阪に来た。一つ年下の妹はお袋が引き取り、我が家は、あっさりと大阪と東京に分裂した。

 それ以来、お袋にも妹にも会っていない。特別不幸だとは思っていない、今の時代、片親だけの奴なんてクラスに七八人は居る。

 妹が四年前交通事故で入院した。親父は一度だけ日帰りで会いに行った。
「大したことはなかった」
 その一言だけで親父は二度と東京にいかなかったし、当然俺も東京には行っていない。
 それが、今朝、ドアを開けて出勤しようとして、まるで天気予報の確認をするような気軽さでカマされた。

「この土曜日、お母さんと会うからな」
「え………………………………?」

 俺は、人から何か頼まれたり命じられたとき、とっさに返事ができない。

 一拍おいて「うん」とか「はい」とか「おお」とか、たいてい同意してしまう。小学校の通知票の所見には「穏和で、友だち思い」と書かれていた。要は事なかれ主義の、その場人間。親父に似てしまったんだと思う。この時は一拍遅れの「うん」も聞かずに、親父はドアを閉めてしまった。だからだろう、初めて乗ったリニア新幹線の感動も薄かった。

 そして、その土曜、Yホテルのラウンジ。

 目の前に、八年前と変わらないお袋が座っていた。
 そして、その横には、すっかり変わって可愛くなった妹の幸子が向日葵(ひまわり)のようにニコニコと座っていた。

 

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やくもあやかし物語・30『黒電話の怪異・3』

2020-12-16 06:29:36 | ライトノベルセレクト

物語・30

『黒電話の怪異・3』     

 

 

 真岡の街だ……

 

 走りながら思った。

 南北に長くて西に向かって坂道が下っている、坂の向こうには港のパノラマ……港の沖には灰色の船がたくさん浮かんでいる。

 船たちにチカチカと火花と煙が立つ。

 ズドドーン ズドドドーン ズドドドドドーン

 数秒遅れて雷のような音、軍艦が揃って大砲を撃ってるんだ!

 ネットで検索したままの景色……ソ連軍の攻撃が始まったんだ!

 その子はピョンピョンお下げを振りながら坂道を駆け下っている。

 舗装されていない坂道は、その子とわたしの駆ける音でザッザッザッザと音がする。

 スピードに身を任せていると、足がもつれて転びそうだ。重心を後ろに傾けて転ばないようにする。

 その子は坂道に慣れているんだろう、どんどん距離が離れていく。

 

 ドッカーン! ドカドカドーン! ドドドドーン!

  キャッ!!

 ソ連軍の艦砲射撃が着弾し始める。

 港の方を狙っているようで、このあたりには着弾しない。

 それでも足の裏から震えがやってきて満足に走れない。その子が角を曲がった。

 数秒遅れて角を曲がると、すぐそこまでソ連軍が迫っていた。

 ズドドド ピューン ピューン

 機銃の音やら弾があちこちに当たって爆ぜる音が、ビックリするほど近くでする。

 ピューン! ピューン!

 目の前の路面に見えない矢が突き立ったように砂柱が立つ!

 ヒヤーーー!

 思わず立ちつくしてしまう。立ちつくした側を銃弾がかすめる! 逃げなきゃいけないんだけど体が動かない!

 もう、あの子を追いかけるどころじゃない!

 

 あぶない!

 

 声と共に男の人が横っ飛びにぶつかってきた!

 天地がグルングルンと二回転! 男の人に抱きかかえられたまま路地に転がっていった!

「ソ連軍が、そこまで来てる、南の方に逃げるんだ、逃げなさい」

 男の人は怖い顔を十センチくらいにまで近づけて言う。

 カーキ色の服は兵隊さんかと思ったけど、水筒をぶら下げているだけで武器は持っていない。平和学習で聞いた国民服という奴だろうか、胸には住所や名前を書いた布が張って……小泉源一郎と読めた。

「きみは名札……ないんだね」

「あ、はい、きゅ、急なことだったもので」

「そうか、そんなこともあるよね……名前はなんというの?」

「あ、えと、小泉 小泉やくもと言います」

「そうか、僕と同じ苗字だ……やくも……いい名前だ」

 男の人は、わたしを落ち着かせようとして聞いてるんだ……自分で分かるくらいに歯がカチカチいってる。

「お、おじさんは、どうして?」

 落ち着かなきゃならないと思って、わたしも質問する。

「妹がね、あ、下の妹なんだけど、お姉ちゃん、上の妹を迎えに行ってしまってね……危ないから追いかけてきた」

「あ、あ、セーラーとモンペにおさげ髪……」

「ああ、たぶん、この先の電信局……でも、もう間に合わないなあ……芳子……洋子……」

 そこまで言うと、おじさんは仰向けになった。右のわき腹が真っ赤に染まっている。

「痛みには強い方なんだけどね……」

 出血が多くて動けなくなっているんだ。

「南の方に逃げなさい……この路地を東に抜けて、南に……」

 銃撃の音に混じって、シュルシュルという音がしてきた。

「逃げろ!」

 おじさんは、わたしを路地の奥の方に付きとばした。突き飛ばされた勢いで数秒走った。

 

 ドッガーーーーン!!

 

 目の前が真っ赤になり、キナ臭い刺激臭と土埃で息が止まりそうになる。

 そして……今の今まで居たところが、見事に吹き飛んでしまった。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

 

 

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魔法少女マヂカ・189『霧子の横・1』

2020-12-15 15:34:16 | 小説

魔法少女マヂカ・189

『霧子の横・1』語り手:マヂカ    

 

 

「ここは物見やぐらなの」

 

 霧子は一人分左に寄って、わたしも窓の外を見るように態度で示した。

 うかつには近寄れない。

 二階建て校舎の二階にある礼法教室の上に三階などあるわけがない。それも、城郭のような物見やぐらなど。

 見たままの物見やぐらだとしたら、物の怪や妖の仕業に違いなく、誘いに乗っては元の礼法教室に戻れないような気がする。

「大丈夫よ、何度もここに来て外の世界を窺っているけど、きちんと戻れているから」

 見透かされたか……仕方がない……後ろ手で密かに印を結んでから霧子の右に立つ。

「見て、ひどい有様でしょ……」

 予想はしていたが、瞬間、感覚が追いついてこない。

 二階の礼法教室から一階分の階段を上がったのだから、わたしの五感は三階を予想していた。

 しかし、物見やぐらの窓から見える風景は優に十階、いや十二階から見たパノラマのように開けている。

「まずは、高さに驚いたかしら……この高さは凌雲閣の天辺ほどにもあるからね」

 凌雲閣とは浅草公園に建てられた十二階の塔で、この時代には珍しいエレベーターが設置され、最上階からは東京市内が一望のもとで、高いところと言うと上野の山しか知らない帝都の民衆に親しまれた観光施設だ。ただ、昨年の関東大震災で九階部分から上が折れてしまい、安全のため、陸軍が爆薬を仕掛けて残りの八階分も撤去されている。

「高さに慣れたら街の様子に注目して」

 震災から半年ほどの東京は、まだ惨憺たるものではある。

 惨憺たるものではあるが、わたしは四半世紀先の東京大空襲の惨状を知っている。震災の痕を摂政の宮として視察をされた陛下は「震災よりもひどい」と小さく漏らされ、大空襲を防げなかった魔法少女は俯いて警護の供奉につくしかなかった。

「そうか……真智香さんは、すでに知っているのよね。西郷家の人だものね、きっと、震災後の救援活動にも行ったのよね」

「少しはね」

 ……戦災を知っているとは言えない。

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

 

 

 

 

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ライトノベル・ライトノベルベスト・〔年賀状を書こう!〕

2020-12-15 06:22:32 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
を書こう!      



 年賀状を書こう!

 朝目が覚めて、一番に思った。
 毎年思っては書きそびれ、ひどいときは紅白を聞きながら書いていることがある。
 佳世の年賀状は、正月明けのサインだね。と、友達に言われてきた。去年は開き直って七草粥のイラスト付けてだ出したら、結構ウケた。

 せり、なずな、ごぎょう、はこべら、すずな、すずしろ、(   )

 にして、カッコの中に入るのは何でしょう? というクイズ付。七日に着いて、ちょうど七番目を抜いておく。
 苦肉の策だったけど「こんな手があったか!」と評判だった。
 でも、同じ手は二度とは使えない。それに「七番目はなに?」といっぱいメールが来たのにも閉口。七草ぐらい調べろよな。といって、書いた本人がなにが入るのか忘れている。まあ、思い付きだからしようがない。

 テスト明けだというのに、きちんと目を通し、柄物のフリースにジーパンといういでたちで顔を洗いにいく。誰かが朝風呂に入ったんだろう、洗面台の鏡は見事に曇って、自分の顔が判然としない。ま、長年付き合ってきた顔なので、多少曇っていても歯磨きに支障はない。
 トースト焼いて、ハムエッグこさえて乗っける。以前はマヨネーズを塗ってからトーストにしていた。美味しいんだけどカロリーが高いので、マーガリンだけで済ませる。冷蔵庫を開けると、古いのが切れていたので、新しいバター風味のマーガリンを開ける。何事も新しいものを開けるというのは気持ちのいいもんだ。スープもインスタントだけど、コーンポタージュ。コーンの粒々が嬉しい。こいつも四袋入りのが切れていたので、新しいものを開ける。今日はなにごとも新鮮な感じで「オーシ、やるぞ!」という気になる。

 去年みたいにアイデアを期待していては、いつまでたっても書けないので、パソコンから適当なのを選んで、まあ、ごく普通なのにしよう。ただ、下1/4ぐらいは空けておいて、一人一人コメントが書けるようにしておく。
 完全にパソコンとプリンターに頼ったのは、なんだかダイレクトメールじみていて味気ない。

「そうだ!」

 パソコンのスイッチ入れてから思いつく。お父さんが九州に出張したときに買ってきたお土産の志賀島の金印のレプリカ。「漢倭奴国王」と、一見意味は分からないけどかっこいい。部屋に取に戻って、リビングへ……。

 パソコンが、まだ起動していない。いわゆる「まだ立ち上がっていない」状態。この夏に買い換えたばかり。一分もあれば立ち上がるのに……おかしいなあ。
 あたしは、こういうものには弱いので、兄貴を呼ぶ「おーい、にいちゃん!」

 返事が無い。

 お兄ちゃんだけじゃなくて、お母さんもお父さんも居ない。
「え、今日なんかあったっけ?」
 リビングのテーブルにハガキの束があるのに気付く。喪中葉書だ……。

 娘、瀬田佳代が、この十二月十一日に……そこまで読んで、頭がくらりとした。

「うそ、あたし死んだの!?」
 冷蔵庫を開ける。マーガリンは新品が箱に入ったまま。カップスープも未開封だった。置いたと思った食器はシンクのどこにもない。
 洗面所の鏡は曇っていなかった……自分の姿が見えないだけだ。部屋に戻ったら着たと思ったフリースもジーパンもそのまま、クローゼットの中にある。あたしは、なぜか制服姿のままだ。

 そして、記憶が戻って来た。期末テストが終わって、嬉しさのあまり校門を出たらトラックが迫ってきた。あとの記憶は、さっき目覚めたところまで空白。

 もう一つ思い出した。

 春の七草の最後は……仏の座だ。

 

 

 

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