大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

妹が憎たらしいのには訳がある・11『憎たらしさの秘密・2』

2020-12-26 06:40:30 | 小説3

たらしいのにはがある・11
『憎たらしさの秘密・2』
          

 

 

 
「幸子、裸になって」
「……はい」
 
 無機質な返事をすると、幸子は着ているものをゆっくり脱ぎ始た……。

 妹とはいえ、年頃の女の子の裸なんて見たことない。
 でも、不思議と冷静に見ていることができる。幸子の無機質な表情のせいかもしれない、これから顕わにされる秘密へのおののきだったかもしれない。

 幸子はきれいなな体をしていた。その分、左の腕と脚の傷が痛々しい。
 お母さんは、小さな殺虫剤ぐらいのスプレーを幸子の体にまんべんなく吹き付けた。
「幸子は、心身共に未熟なの。だから、肌もこうやってケアするのよ」
 ラベンダーの香りがした。幸子が風呂上がりにさせていた香りだ……驚いたことに、傷がみるみるうちに消えていく。
「メンテナンス」
 お母さんが、そう言うと、幸子はベッドで仰向けになった。
「ウォッシング インサイド」
 幸子の体から、なにか液体が循環するような音がしばらく続いた。電子音のサインがして、指示が続く。
「スタンバイ ディスチャージ」
 幸子は両膝を立てると、静かに開いた。M字開脚! 
 さすがにドキリとして目を背ける。
「見ておくんだ。緊急の時は、お前がやらなきゃならないんだからな」
「ドレーンを」
「うん」
 まるで手術のような手際だった。
「ここにドレーンを入れるの。普段なら、こんなもの使わずに、本人がトイレで済ませるわ。太一、あんたに知っておいてもらいたいから、こうしてるの」
「う、うん」
 お父さんがドレーンの先を、ペットボトルに繋いだ。
「ディスチャージ」
 ドレーンを通って、紫色の液体が流れ出し、ペットボトルに溜まっていく。
「レベル7だな」
「そうね、まだ未熟だから、ダメージが大きかったのね。さらにダメージが大きいと、この洗浄液が真っ黒になるのよ。ダメージレベルが6までなら、オートでメンテする、太一覚えた?」
「あ、うん」
「復唱してみて」
 ボクは、今までの手順をくり返して言った。
「オーケー。幸子メンテナンスオーバー」
 幸子は、服を着てベッドに腰掛けると目に光が戻ってきた。
「これで、いざって時は、お兄ちゃんたよりだからね。よ・ろ・し・く」

 あいかわらずの憎たらしさ。

「……じゃあ、幸子は五年生の時に一度死んだっていうこと?」
「ザックリ言えばね。脳の組織も95%ダメになったわ……」
「お父さんも、お母さんも、ほとんど諦めた……」
「でも、大学病院の偉い先生が、一人の学者を紹介してくれたの……時間はかかるけど、幸子は治るって言われて……」
「藁にもすがる思いでお願いしたら、幸子の体は別の手術室……いや……」
「実験室……みたいなところ」
「そこで……?」
「幸子そっくりの人形……義体が置かれていた……で、幸子の生きている一部の脳細胞を義体に移植した」
「分かり易く言えば、サイボーグね……」
「でも……あの体は、小学生……じゃないよ……」
「あれは三体目の義体だ……あれで、義体交換はおしまいだ……そうだ」
「ずっと、十五歳のまま……?」
「いや……人口骨格は5%の伸びしろが……ごちそうさま」
「人工の皮膚や筋肉は、年相応に変化……させられる……そうよ。ごちそうさま」
 俺たちは夕食をとりながら、この話をしていた。幸子は安静にしている。

「問題は……心だ……」

 お父さんが、爪楊枝を使いながら言った。
「太一……あなたには、幸子、冷たいでしょ」
 お袋が、お茶を淹れながら聞いた。
「冷たいなんてもんじゃない、憎ったらしいよ!」
「すまん、太一ひとり蚊帳の外に置いてしまったなあ」
「どんなふうに憎ったらしかった?」
「え、えと……」
 俺は唾とお新香のかけらと共に、一カ月溜まった思いを吐き出した。
「あれが、今の幸子の生の感情なんだ」
 親父は顔にかかった唾とお新香のかけらをを拭きながら続けた。
「人前や、わたしたちに対するものは、プログラムされた反応に過ぎないの」
 と、テーブルを拭きながら、お袋。
「いま、幸子は劇的に変化というか成長しはじめている。過剰適応と思われるぐらいだ。幸子の神経細胞とCPを遮断すれば、普通の十五歳の女の子のように反応はするが、それでは、幸子の成長を永遠に止めてしまうことになる」
「お母さんもお父さんも、幸子のようなお人形は欲しくない。たとえぎこちなくとも、いつか、当たり前の幸子に戻ってくれるように、太一に対してだけは生の感覚でいてくれるようにしているの」
「だから太一、お前が見守っていてやってくれ。幸子は、お兄ちゃんが一番好きなんだから……」
「お願い、太一……」
 お父さんも、お母さんも流れる涙を拭おうともせずに、すがりつくような目で俺を見る。
「……うん」
 ボクも、涙を流しながら頷いた。

 幸子が憎たらしい理由は分かった。
 しかし、まだ俺たち親子は、幸子の秘密の半分も知ってはいなかった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)
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やくもあやかし物語・40『お爺ちゃんの大掃除』

2020-12-26 06:22:57 | ライトノベルセレクト

物語・40

『お爺ちゃんの大掃除』     

 

 

 

 片づけばっかりやってると早死にしますよヽ(`Д´)ノ。

 

 片づけに熱中して、やっとお昼ご飯を食べに来たお爺ちゃんにプンスカ言うお婆ちゃん。

 お爺ちゃんも、なんとか切り上げてきたんだから、食卓に着いたとたんに言うことじゃないと思うんだけど。

 

 今日のお昼は、お婆ちゃんとわたしとで作ったカルボナーラ。

 お婆ちゃんは、わたしが手伝ったお昼ご飯に遅れたことを咎めているんだ。

 お婆ちゃんだけで作ったお昼なら、遅くなっても文句は言わない。ラップをかけてテーブルの上に置いておく。

 

 お爺ちゃんのお片づけも、わたしがお母さんといっしょにやったのに触発されたんだ。

 「ほう、感心感心、わしもやってみよう!」

 ねぎらいの言葉として聞いていたんだけど、ほんとにやりだして大掃除のようになってきた。

 広い家なので、そんなに気合いを入れてやることもないんだけどね。勢いというやつ。それと……これを言ったら言霊だから言わない。

 

 変わったこけしねえ。

 

 お爺ちゃんががんばったんだから、様子を見に行く。

 それで見つけたんだ、廊下に出されたいろいろの中に混じっていた太っちょのこけし。

「ああ、マトリョーシカっていうんだ」

「マトリョ……?」

「マトリョーシカ、ロシアのこけしだ」

 お爺ちゃんが手を伸ばすと、ホコリで滑ったのか、床に落っことしてしまった。

「あ……?」

 マトリョーシカはお腹の所で上下に割れて、中から一回り小さいマトリョーシカ、それも割れて二回り小さいマトリョーシカが顔を出した。

「入れ子になっていてね、全部で七つなんだ」

「触っていい?」

「ああ」

「……三つしかない」

 三つ目の中は空っぽだ。

「うん、どこかに行ってしまったんだ。普通のマトリョーシカは五つか多くても六つの入れ子なんだけど、こいつは七つ入っていたんだ」

「行方不明?」

「そうだな。薄汚れてるし、三つしかないから、値打ちなんかはない。次のゴミで出そうと思ってる」

「捨てるんだったら、もらってもいい?」

「ああ、いいよ。ちょっとアルコールで拭いてあげよう」

 

 そういうことで、マトリョーシカは、わたしの部屋、アノマロカリスを見下ろす棚の上に収まった。

 

 二つの新入りを眺めてるうちに寝てしまった。

「あんた、まだなにか隠してるんでしょ」

 マトリョーシカが文字通りの上から目線でアノマロカリスに言った。

「そんなデカイ図体しててメルル一個ってことはないでしょ!?」

「いや、それはな……」

 言葉のお尻を濁しながら、アノマロカリスはビー玉のような目を、わたしに向けた。

――あ、そうか!――

 アノマロカリスのお腹のヒダはメルルが入っていたところだけじゃない。

 

 目が覚めてから、アノマロカリスのお腹を探ってみた。

 

 すると、出てきた。桐乃、黒猫、あやせ、麻奈美、バジーナ、俺妹女子キャラの揃い踏みだ。

 先に出てきたメルル同様に少々歪んでる。十年近くアノマロカリスのお腹に閉じ込められていたんだから仕方がない。

 お腹の子を全部出して、心なしかホッとしたようなアノマロカリス。

 こういう時、無駄に大きいわたしの机は存在意義を増した。

 

 俺妹の女子キャラ全部を並べると、なかなかの眺めになった。

 

 プルルルル プルルルル

 

 黒電話が鳴った。

「もしもし」

―― 交換手です。俺妹の女子キャラの揃い踏み、おめでとうございます ――

「あ、ども」

 考えてみたら、発端は交換手さんの言葉だった。ま、おめでとうの電話くらいあってもいい。

―― フフ、まだ隠れているものがありますよ。出てきた子たちをよーく見てみましょう ――

 退屈させない交換手さんだ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
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魔法少女マヂカ・190『霧子の横・2』

2020-12-25 13:44:38 | 小説

魔法少女マヂカ・190

『霧子の横・2』語り手:マヂカ    

 

 

 授業が始まるわよ。

 

 二階建ての校舎からは見えるはずもない十二階相当の高さからの景色を見続けているのは不吉なので、小さく声をかける。

「大丈夫、学校の時間は停まっているから……ちょっと外に出てみましょ」

 霧子が向くと、今の今まで漆喰の壁だったところにエレベーターの扉が現れた。

 エレベーターと言っても令和に時代のそれではなく、武骨な鳥かごのようなもので上がって来ると、鳥かごの前面が折りたたむようにして開く様式。

 チン

 音がすると蛇腹になった鉄格子が開き、霧子と二人で乗り込む。

 チンチン

 二度音がすると、ガチャリと蛇腹鉄格子の扉が閉まって、エレベーターは降下し始める。

「気持ち悪くはない?」

「え?」

「始めて乗ると、気分の悪くなる人がいるから」

「ああ」

 降下し始めたエレべ-ターは一瞬無重力に似た浮遊感がある。大正時代の人間は、ほとんどエレベーターなどに乗ったことが無く、この浮遊感に酔うことがあるんだろう。

「慣れているようね」

「少しはね……」

 あとは聞かずに一階に着くのを待つ。

 ガックン

 令和のそれと比べるとショックの大きい到着音、続いて到着を示すチンの音がしてガシャガシャとドアが開く。

「「あ」」

 二人で同じ声をあげる。声は同じだが、意味は微妙に違う。

 わたしは、てっきり一階に着くものと思っていたが、着いたのは、どうやら地階なので驚いた。

 霧子は、どうやらいつもとは様子が違うので戸惑っている驚きのようだ。

 霧子といっしょに首を巡らすと理由が知れる。

 凌雲閣の八角形の壁面に合わせて、合計八枚のドアが付いているのだ。

「ひょっとして、いつもは一つだけ?」

「ええ、そうよ。ドアはいつも一つだった。それを開けると階段で、一階分上がって地上に着くの」

「どのドアか、分からない?」

「ええと……」

 八枚のドアは、アールヌーボー式の装飾の付いた鉄製のドアで、目の高さにプレートが嵌っているんだけども、プレートはのっぺらぼうでなにも記されてはいない。

「もどる?」

「試してみましょ、真智香さんは左からおねがい。わたしは右側から」

「うん」

 分担して八枚のドアに挑戦。

 ガチャガチャ ガチャガチャ

 どのドアも施錠されていて、四枚ずつ点検して、互いに半周したところで出会ってしまった。

「ぜんぶ閉まってる」

「ひょっとして……」

 エレベーターのドアに向かってみるけど、エレベーターのドアは鉄の格子ごと鎖と南京錠で施錠されている。

「閉じ込められた!?」

 さすがに霧子も声が尖がって来る。

「ええと……あ、見て!」

 エレベーターと対面のドアに照明が当たり、プレートに表示が浮かび上がってきた。

 

 1923/09/01

 

 関東大震災が起こった日付を示していた。

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

 

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・10『憎たらしさの秘密・1』

2020-12-25 06:32:53 | 自己紹介

たらしいのにはがある・10
『憎たらしさの秘密・1』
          

   


 お袋は息を切らして病院にやってきた。

 裂傷だけで命に別状はないことは伝えてある。しかし小五のときに続いて二度目の事故、俺には憎たらしい妹だけど、女の子。顔や体に傷が残らないか心配だったのだろう。
 俺も左手足が義手・義足であると聞かされてビックリしていた。義手・義足であることは、この一カ月、全然気づかなかったもんな。

「念のためMRIを撮ります。それにしても、あの義手・義足は、どうなさったんですか。完全に体と一体化していて、筋肉や皮膚組織も、一見生体のものと変わりはありませんが、人間の組織ではありません。よかったらお話を伺えないでしょうか!?」
 医者が興奮気味に聞いてきた。
「小学校五年生の時に交通事故で……ある大学の研究に秘密で協力することを条件に。あの義手・義足にしていただいたんです。医学的にご興味がお有りだと思うのですが、そういう事情ですので、これ以上のお話はご容赦願います」
 穏やかだが、きっぱり言うと、お袋は幸子の病室に向かった。

「ごめんねお母さん。ちょっとドジちゃった」
「いいのよ、切り傷だけで済んだみたいだし。ちょっと髪が乱れてるわね。直してあげるわ」
「うん」
 お母さんにはまともに話をする。いや、他のだれにでも……俺にだけだ、あんな無機質な憎たらしさで受け答えをするのは。
 お母さんは、ガラケーを持ったまま、ブラシをかけている。
「お母さん、携帯は置いたら」
「いえ、これは必要なの……太一にも話しておかなければならないかもね……」
「お兄ちゃん……何を聞いてもおどろかないでね」
 あいかわらずのニクソイ歪んだ笑顔で幸子が言った。
 お母さんは、幸子の左の髪を掻き上げて左耳の後ろを顕わにした。瞬間、耳の後ろの皮膚が、ハンコぐらいの大きさで、僅かに盛り上がっているのが分かった。お母さんは、そこに携帯の先端を押し当てると、例の蚊の鳴くような電子音がした。そして、次の作業に掛かろうとした時に看護師が入ってきたので中断されてしまった。


「太一、幸子の部屋に……」

 親父が、そう言って先に幸子の部屋に向かった。


 作業は自宅に帰ってから再開されたのだ。


 先にお袋が入っていたので部屋が狭く感じられた。幸子は無表情でベッドの端に腰掛けている。
「イグニッションモードになってるんだね」
「ええ、お人形さんといっしょ」
「太一。もうお前に隠しておくことも難しくなってきた。今度こそ幸子の秘密を見せる。このことに目を背けてはいけない。そして、これから見ること、聞くことは、誰にも話しちゃいけない。いいな」
「約束できるわね」
 両親の真剣な目にたじろいだけど、俺は決心した。俺が知っておかなければならない幸子の秘密は、とてつもないものだという予感がしたが、兄として、しっかり向き合わなければならないことのような予感もしたからだ。
「まず、この画像を見て」
 お母さんは、幸子のパソコンのキーをいくつか叩いた。
「これは……」
「そう、昼間病院で見せてもらったMRIの画像」
 それは、左の腕と脚だけがアンドロイドのようで、あとの体は普通の人間の体をしていた。
「これはMRIに掛けたダミー画像。ドクターには、あくまで特殊な義手・義足ということで納得してもらったわ。秘密研究だということで、あの後、厚労省の役人にも行ってもらった。この画像も処理してもらったわ」
 お母さんは、さらにいくつかのキーを押した。
「これが、幸子の本当の姿」

 え…………ええ!?

 そのMRIの画像の幸子は、全身がことごとく……どう見てもサイボーグだった。

「幸子、裸になって」
「……はい」
 
 無機質な返事をすると、幸子は、着ているものをゆっくり脱ぎ始た……。

※ 主な登場人物

佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄

佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 

大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生

大村 優子      佳子の妹(6歳)

学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)

 

 

 

 

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やくもあやかし物語・39『アノマロカリスのお腹』

2020-12-25 06:21:52 | ライトノベルセレクト

物語・39

『アノマロカリスのお腹』     

 

 

 シャコの縁側を大きくして二本の大きな牙を付けたみたい。

 それがアノマロカリス。

 で、そのぬいぐるみ。 「アノマロカリス」の画像検索結果

 海老みたく目玉が飛び出している。真っ黒な目玉なんで怖くはないけど気味が悪い。ひっくり返すと、信じられないけどまん丸い口。井戸を掘るドリルのようだ……といって井戸掘りドリルなんて見たことないんだけど、こんなのだと思う。

 これが、スーパーとかで売ってる有頭海老くらいの大きさだったら、変なやつってくらいでほっぽらかしておいてもいいんだけども、デカい! とにかくデカい!

 全長一メートルほどもある。

 もし、こいつを背負って出かけたとする。半径二メートル以内には人が寄り付かないだろうね(^_^;)。でもって「ちょっといいですか」とか言って人に話しかけたとする。十中八九逃げられるね。ひょっとしたら通報されるかもよ。

 いきなり新垣あやせの顔が浮かんだ。

 ほら『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』に出てくる桐乃の親友。桐乃といっしょに読モとかやってるんだけど、お堅い子で、主人公の京介に、すぐ「通報しますよ!」と言っては張り倒しているテリブルな女。

 あ……そか、通報→通報しますよ!→あやせ。

 お腹のヒダからなにか出てる?

 ピンク……内臓? んなわけないよね……引っ張り出すと『星くず☆うぃっちメルル』が出てきた。 「星くず☆うぃっ...」の画像検索結果

 アノマロカリス自体が段ボール箱の中でヘシャゲていたので、メルルも捻じれてる。

 そうか、アノマロカリスのヒダはポケットになっているんだ。

 数億年の時の流れでアノマロカリスはメルルに進化したんだ! メルルの圧倒的な強さは何億年か前に圧倒的な強さを発揮したアノマロカリスの強さなんだ!

 ……これは、お父さんが仕掛けたんだ。

 普通にメルルのぬいぐるみをもらうよりも、アノマロカリスから出てきた方が面白い!

 だけどね、それ発見する前に物置に放り込んだんだよ、わたし。

 

 お父さんも忙しい人だったから、そんで、人より気の長い人だったから。そのうち、わたしが気づくと思ってほったらかして、お父さん自身忘れてしまったんだ。

 なにごとも無理押ししないで待つのはいいけど、待ちすぎて取り返しがつかなくなることもあるんだけどね……。

 いろいろ思い出したんだけど、図書当番代わってもらってゴミ袋あさるほどのことだったのかなあ。

 せっかく命拾いしたアノマロカリスなんで、無下に捨てることもはばかられて、無駄に広い部屋の隅に立てかけて置く。

 あ、お風呂掃除!

 わたしはアノマノカリスの非日常からお風呂掃除の日常に戻った。

 

 

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銀河太平記・023『修学旅行・23・北富士駐屯地』

2020-12-24 13:15:58 | 小説4

・023

『修学旅行・22・北富士駐屯地』ダッシュ   

 

 

 急きょ火星に帰ることになった。

 

 ホームステイ先の家が焼かれて、調べに行ったヒコのハンベが目の前でクラッシュした。

 ハンベのクラッシュは持ち主の危険を現わしている。ハンベロストのシグナルは地球の周回軌道を周っている学園艦に直ちにキャッチされ、同じ班員(俺とか未来とかテルとか)のハンベがオートで状況を学園艦に状況を報告する。

 アキバと靖国の事件も大ごとだが、生徒の身に危険が及ばない限り、学園艦の先生たちが干渉してくることは無い。正直靖国神社で陛下をお助けした時は学校からリアクションが有るかと思ったが、何も言ってこなかった。

 扶桑の教育と言うのは古い言い方をすると質実剛健。とにかくワイルドなんだ。まあ、地球のように生ぬるい教育をしていては、まだまだ開拓の段階にある火星では通用しないからだ。

 当たり前なら羽田宇宙港からの帰還になるが、羽田までの道中は危険が伴う。

 学園艦からは『北富士駐屯地』に向かえという指示が来た。

「ひょっとして、軍の護衛付きでご帰還とかにゃ(^▽^)?」

 この状況になってもテルは無邪気だ。

「万一のことがあっても、軍の施設なら民間に迷惑かけないからでしょ」

 ミクは現実的だ。

「北富士は砲兵部隊だから、ひょっとしたら電磁砲に入れられてドッカーンと周回軌道までぶっ飛ばされるのかもな」

「日本で一番標高の高い駐屯地だ。960メートルだったかな、眺めはいいはずだ」

 ヒコが締めくくった通り、駐屯地へのつづら折りの道はレトロ車で行くには絶好のドライブではあった。

 門衛の隊員に来意を告げると、そのまま駐屯地の裏門に向かいトラックのあとを付いて演習場に向かえと指示される。

 カクン

 軽いショックが路面から伝わって来る。

「オートで光学迷彩をかけられたな」

「だけじゃない、後ろを見てみゆよ」

「ん?」

 振り返ると、光学ダミーのトヨタが光学ダミーの俺たちを載せて衛庭に向かっていく。軍も気をつかってくれているようだ。

「あのトラックだな」

 ちょうど裏門を出て行こうとしている牽引トラックの尻についていく。

 軍の支援車両にもパルス動力のものがあるが、大型で力のいるものはタイヤを履いているものが残っている。舗装道路のない演習場に入れば光学迷彩をかけていてもレトロ車では砂埃が立つし轍が残る。トラックのあとをつけていけば、たとえ衛星から覗かれてもごまかせるというわけだ。

 烹炊車が収まっている藪に潜り込むと、トラックは停止し、俺たちのトヨタは烹炊車との間に滑り込んだ。

「無事に来れたね」

 ミクが安心の吐息を漏らすと、それを台無しにするような怒声があがった。

「おらあ、おまえらあ!」

 藪の外で怒鳴っているのは俺たちの担任、姉崎すみれであった(^_^;)

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・9『幸子 事故に遭う』

2020-12-24 05:38:57 | 小説3

たらしいのにはがある・
『幸子 事故に遭う』
          

 


 その日は言い出しかねた。

 入学式の入学宣誓は参列者のみんなが驚いた。
 宝塚のスターのように堂々とした宣誓は大評判で、参列した指導主事(府教委から派遣された監視役)が、ぜひ、府のネット広報にアップロードしたいと申し出があった。アップロ-ドするということは、誰かがビデオ撮影していたということだけど……まあ、俺は、そういうことは深く考えない。


 話しかける隙がなくて幸子にケイオン入部の申し入れができなかった。

「ドンクサイねん太一は。アタシがさっさとOKとっといた。演劇部とも話ついてる」

「え、いつの間に!?」
「ダテに三年生やってへんで。演劇部は木曜休みやから、木曜はベタ、あとは気の向いた時に朝練しにきたらええ……という線で手ぇ打った。まあ、演劇部は、一学期には壊滅するやろから、実質ケイオン専門になっていくやろけどな。アハハハ……」
 高笑いを残して加藤先輩は行ってしまった。

 明くる日から、幸子は俺のアコギを担いで学校にいくようになった。

「朝練に使うの、終わったら部室に置いとくから。ギター遊ばしといちゃもったいないでしょ」


 前の晩、風呂上がりに俺の部屋にきて、いつもの憎たらしい無表情でアコギに手をかけた。そのとき幸子のパジャマの第二ボタンが外れ、胸が丸見えになったが、例によって気にする様子もないので、なにも言わなかった。ただ、ほんのかすかにラベンダーの香りがしたような気がした……。

 なんと、演劇部の練習は幸子がリードするようになっていた!

 初日は単調な発声練習を言われるままにやっていたが、二日目には幸子がクレームを付けた。優しく提案というカタチではあったが。
「新しい発声やってみません?」
 幸子が見本を見せると、先輩二人よりもかなり上手い。で、あっさりと、幸子のメソードに切り替わった。
「ちょっと走ってみません。長音で二十秒ももたないのは、肺活量が弱いからだと思うんです。わたしも弱いから、付き合っていただけると嬉しいんですけど(o^―^o)ニコ」
 と、可愛く言う。で、演劇部はストレッチをやったあと学校の周りをランニングすることになった。
「山元先輩、もうちょっと足伸ばすとかっこいいですよ。宮本先輩、胸をはったら、男の子が……ほら、振り返った!」
「アハハハ……」
 完全に幸子が主導権を握っているが、あたりが可愛く柔らかいので、二人の先輩は、そうとは感じていない。

 幸子と暮らし始めて一カ月あまり、俺は半ば無意識に幸子を観察しはじめていた。


 その他大勢のケイオン平部員である俺たちは部活の開始時間はルーズなので、少々遅れても、誰も文句は言わない。それに、アコギは、幸子が朝練でチューニングをやってくれているので、その分時間もかからない。俺は正門前の自販機で、パックのカフェオレを買って飲んでいる。食堂の業者が代わり、いつも飲んでいるやつが、正門前のそこでなきゃ買えなくなったことが直接の原因ではあるけれど。やっぱり俺は観察していたんだ。

 それは、ランニングを始めて三日目に起こった。

 最初の一周は三人いっしょに走るが、二周目は、幸子は立ち止まり、コーチのような目で先輩たちのフォームを観察している。俺は、校門前でウダウダしている生徒たちに混ざってカフェオレを飲んでいる。
「幸子ちゃん、かっこええねえ……」
 まだ、部活が決まらない佳子ちゃんが並んで、ため息をつく。
 佳子ちゃんは、がらに似合わず、缶コーヒーのブラックを飲んでいる。塀に上半身を預け、足をXに組み、ポニーテールを春風になぶらせている佳子ちゃんも、けっこういけてるなあ……。
 そう思ったとき、道の向こうから少々スピードを出しすぎた軽自動車が走ってきた。運転しているオネエチャンはスマホを持ったままで、学校の校門前にさしかかっていることに気づかない。

――危ない!――

 思った時には体が動いていた。

「幸子!」


 幸子が振り返る。そして景色が二回転して衝撃がきた。


「幸子、大丈夫か!?」
「大丈夫、あんたは……」
 無機質でニクソゲに幸子は応えたが、ジャージの左肘と左の太もものところが破れて、血が滲んでいた。
「佳子ちゃん、救急車呼んで! だれか先生呼んで来て!」

 それから、救急車やパトカーや先生たち、ご近所の人たちがやってきて大騒ぎになった。一見して幸子の傷がひどいので、幸子はストレッチャーに載せられ、俺は、念のための検査で救急車に乗った。
 俺は揺れる救急車の中で、スマホを出してお袋に電話した。


――先生から電話があった。お母さんも、すぐ病院へ行くから! 救急隊の人に病院を聞いて!――
 
 病院は真田山病院だった。

 俺は、簡単に頭のCTを撮って触診だけで解放されたが、幸子は、左の手足に裂傷を負っており、縫合手術をされ、レントゲンが撮られた。そして、医者がレントゲンを見ながら、とんでもないことを言った。

「妹さん、左手は義手。左脚は義足なんだね……それも、とても高度な技術で作られている。こんなの見たこともないよ!」

 

※ 主な登場人物

佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄

佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 

大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生

大村 裕子      佳子の妹(6歳)

学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)

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やくもあやかし物語・38『ぼっちの図書室』

2020-12-24 05:25:05 | ライトノベルセレクト

物語・38

『ぼっちの図書室』     

 

 

  広い図書室に一人ぼっちということがある。

 

 しょっちゅうあることじゃないんだけど、相棒の当番の子がまだ来ていなくて、図書室を利用する生徒も来ていない時ね。

 図書の小出先生は居ないことの方が多いしね。

 一人ぼっちの図書室は神秘的だ。

 数千冊の本たちが寝息を立てているみたいな気がする。

 カウンターからは見えない書架の陰に何かの気配を感じることもある。

 図書室にはカーブミラーみたいなのが幾つか付いていて、カウンターからは死角ができないようになっている。

 本を盗んだり、ページを破ったり、飲食したり、そういうのを取り締まるために付けたらしいんだけど、それって生徒に対する剥き出しの不信感だよね。そういうこともあって、カーブミラーは埃をかぶってくすんだままにされている。天井の照明の陰になることもあって、人が居てもよく分からない。

 わたしは、ときどき不思議な目に遭うので、期待半分怖さ半分でチラ見する。

 

 プルプルプル

 

 ビックリした!

 カーブミラーには何も映らなくて、背後の司書室の電話が鳴ったのだ!

 日ごろはささやかな音なんだけど、意表を突かれたので、スッゴク大きな音に感じた。

 司書室の電話は先生用だから、生徒が出る必要なんてないんだけど、小出先生とかに急用だったら困るので、いらっしゃいませんを言うために受話器を取る。

「はい、図書室です……」

―― やくもちゃんね? ――

 ふたたびビックリ!

「あの……」

―― 小泉電信局の交換手です ――

 あ、あの黒電話に住み着いている身長一センチの!

―― 燃えないゴミを出しましたよね ――

 出した。お母さんが前の家から持ち帰ってきたガラクタを今朝指定の袋に入れて出したところだ。

「それがなにか?」

 不思議さも忘れて答えてしまう。

―― あの中にアノマノカリスのぬいぐるみがあります ――

「アノマロカリス?」

―― ほら、牙を出したイカみたいなやつです ――  

「あ、ああ」

 思い出した、大昔、お父さんがクレーンゲームで取ってくれたやつ。気持ちが悪いんで整理を口実に物置に放り込んだんだ。

「あれならゴミでいいんだよ」

―― そうおっしゃらずに、一度見てください。一時間もしたら回収車が来ますから ――

 でも、いらないし……言おうと思ったら、頭の中でフラッシュするものがあった。

 失ったら取り返しがつかない……気持ちだけが爆発した。なんなのか分からないけど、アノマロカリスがとても大事なもののように思えてきた。

 電話を切ると、やってきた相棒の小桜さんに頼んで家路を急いだ……。

 

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

小出先生      図書部の先生

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間

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妹が憎たらしいのには訳がある・8『幸子の入学宣誓』

2020-12-23 06:30:27 | 小説3

たらしいのにはがある・
『幸子の入学宣誓』
          

 

 

 路上ライブの時のように、お袋が耳元でささやくと、幸子はホッとしたように大人しくなり、ベッドに横になった。

「太一は、部屋から出ていて……手当するの、幸子、裸になるから」
「う、うん……」


 部屋を出た俺は、いったんリビングに戻り、スリッパを脱ぎ、こっそりと幸子の部屋の前に戻った。
 服を脱がせているのだろう、衣擦れの音がして、かすかに蚊の鳴くような電子音がした。それからお袋は、親父に電話をかけた様子だった。
「あなた、わたし……うん……障害、でも……初期化……だめよ、せっかく……!」
 親父が、なにか言いかけたのをさえぎって、お母さんは電話を切った。それ以上いては気取られそうなので、リビングに戻って、新聞を読んでいるふりをする。

 やがて幸子の部屋のドアが開く音がした。

「あ……」

 俺は新聞を逆さに持っていることに気がついた。

 それから、幸子は再びギターと歌に熱中し始めた。


 ただ、もう路上ライブをするようなことはなく、部屋のカーテンを閉めて控えめにやっている。時々熱が入りすぎて、ボリュームが大きくなる。
 その歌声は、もう高校生のレベルではなかった。

 入学式の三日前には、佳子ちゃんといっしょに入学課題をやり、ますます友人として親交を深めていった。
 俺には相変わらずの憎たらしい無表情だが、幸子の視線を感じることが少し多くなったような……これは、幸子のニクソサを意識しすぎる俺の錯覚かもしれない。

 二日前に幸子は入学者の宣誓文に熱中しはじめた。

 ネットで高校生の入学式宣誓を検索し、それは、入学式宣誓、高校生スピーチ、スピーチ、話術などと検索の範囲が広がった。俺も興味が出て、そっと覗き込んでみると『AKB卒業宣言集』になっていた。
「見るな……」
 ニクソイ無表情で返されたのは言うまでもない。

 そして、入学式の日がやってきた。

 午前中は、俺たち在校生の始業式。俺はA組。ボーカルの優奈と同じクラス。優奈はニヤリとしたが、俺は曖昧に苦笑いするしかなかった。なんせ幸子をケイオンに入れ損なっている。
 午後の入学式は、お袋が来るんだけど、気になるので(演劇部と兼部でも構わないから、幸子をケイオンに入れろと優奈を通じて、加藤先輩から言われていた)式場の体育館に向かった。

 最初の国歌斉唱でタマゲタ。

 ソプラノの歌声が音吐朗々と会場に響き渡り、会場のみんなが、びっくりしていた。
 ただ、府立高校の体育館は音響のことなど考えて造られていないので、短い国歌斉唱の間に、それが幸子だと気づいたのは、幸子の周囲の十数名だけだった。大半の人たちは、負けじとソプラノを張り上げた音楽の沙也加先生のそれだと思っている。

 いよいよ、新入生代表の宣誓になった。

「桜花の香りかぐわしい、この春の良き日に、わたしたち、二百四十名は栄えある大阪府立真田山高校の六十六期生として……」
 
 宣誓書に目を落とすこともなく、まるで宝塚の入学式のように朗々と語り始めた。明るく、目を輝かせ、喜びと決意に満ちた言葉と声に参列者は驚き、そして聞き惚れた。
 一瞬幸子は振り返り、新入生たちの顔を確かめるようにし、宣誓分を胸に当て、右手を大きく挙げて再び壇上の校長先生を見上げた。校長先生は目を丸くした。


「……わたしたち、六十六期生は、清く、正しく、美しく、新しく、目の前に広がった高校生活を送ることをお誓いいたします。新入生代表・佐伯幸子」


 会場は割れんばかりの拍手になった。演壇に宣誓分を置いた幸子は、まるで宝塚のスターのように、堂々と胸を張り、明るい笑顔で席に戻った。

 思い出した。

 夕べ、幸子が検索していた中に『宝塚』の入学式があったことを……。

 

※ 主な登場人物

佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄

佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 

大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生

大村 裕子      佳子の妹(6歳)

学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)

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やくもあやかし物語・37『お母さんの性癖』

2020-12-23 05:57:08 | ライトノベルセレクト

物語・37

『お母さんの性癖』     

 

 

 風邪ひいて寝込んでしまった。

 

 建国記念の日にお片づけした。ジジババが手伝ってくれたのはいいけど、ぎっくり腰の前科があるのと、あれこれ部屋のシミとか日に焼けた痕とか古い電話のコンセントとかに「へーーー」とか「ほーーー」とか感心して座りこんじゃうもんだから、けっきょく仕上げは自分でやった。

 けっこうな労働だったので、それなりに汗をかいたんだけど、そのままにして居眠りしたのが良くなかったんだよね。

 あれが原因だったのかもしれない。見た夢も受話器の中から小さな電話交換手の女の子が出てくるって妙なもんだったし。

「あー、それって、受話器の中にゴキブリとか住んでるのかもー(^_^;)」

 お母さんが嫌なことを言う。

 普段かまってやれないということで、まる一日仕事休んで看病してくれる。してくれるのはいいけど、そういう余計なことを言うんだ。言うだけじゃなく、電話の話に興味持ってしまって、ドライバー持ってきていじくり倒す。

「ゴキブリは住んでないようだけどホコリだらけだね」

「壊さないでよ」

「え、これ通じるの?」

「ツーーーーーーって音はするよ」

「どこか掛けた?」

「ううん、天気予報とか掛けて試そうかと思ったんだけど……」

「取りあえずはクリーニングだね」

 そう言うと、お母さんは殺虫剤スプレーを持ってきた。

「あ、そんなのかけたら殺虫剤臭くなる!」

「ただのエアークリーナーよ」

 そう言うと、注射するように剥き出しになった電話機パーツの中をスプレーしまくった。

 シュッ シュシュ シューーーー!

「出てくる出てくる、ほんとホコリ高き電話だあ!」

 ホコリだか虫の死骸だか分からないものがポロポロと杯に二杯ほど出てくる。お母さんは、それをティッシュの上にかき集め、ピンセットにルーペを持ち出して観察し始める。

「もーー、バッチイからやめてよお」

「……大丈夫、なあるほどお……機能はシンプルなのに無駄に複雑だね、昔の機械は……」

 お母さんには、こういう機械フェチなところがある。風邪で寝込んだ娘の横でやることじゃないんだろうけど、お構いなし。

 キッパリ言うと止めてくれるんだけど、すごく悲しい顔するから言わない。お母さんが楽しそうに熱中してる姿は嫌いじゃないし。

 あの交換手さん吹き飛ばされないかなあ……まだ机の裏側とかなのか、姿を見ることは無かった。

 というか、夢で見た交換手さんを心配するなんて、わたしも夢フェチなのかもしれない。

 電話を元通りにしながら昔の家の事を話す。

 必要なものは持ち出したけど、まだ、チマチマと残したものがあるみたい。

 前の家は、お父さんとの離婚が決まった時に売りに出してるんだけど、まだ買い手がつかないようだ。

「そうだ、いっぺん見に行ってくるよ!」

 思い立ったらすぐの人なので、わたしの熱が上がってないことを確認してから出かけて行った。

 

 それが三日前のことで、きょう学校から帰ったら段ボール箱が届いていた。

 

 前の家に残っていた最後のイロイロが箱詰めにされていた。

 いちおう、ザっとだけ見る。

 ああ、ベランダの物置に突っ込んでいたものだ……どうも、物置ごと忘れていたみたい。

「見つけた時はお宝に見えたんだけどね……」

 張本人のお母さんは、もう興味を失ったみたいで、チラ見しただけで立ち上がる。

 わたしの部屋にオキッパにしないでほしいんだけど。

「来週、燃えないゴミだから……」

 それだけ言うと出て行ってしまった。

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妹が憎たらしいのには訳がある・7『幸子の首席合格』

2020-12-22 06:17:29 | 小説3

たらしいのにはがある・
『幸子の首席合格』
          

 

 


 幸子の路上ライブは動画サイトにアップロ-ドされてしまった。

 幸い東京の中学の制服の上にダッフルコート。恍惚として唄う表情は、いつもの幸子とは違ったもので、ケイオンのみんなも気が付かずじまい。アクセスも、一日で八百ほどあったが、それに続く情報が無いので、しだいに減ってきた。

 お父さんが言った「過剰適応」という言葉がひかかった。
 多分心理病理的な言葉だろうと、当たりをつけて検索してみた。

――過剰適応症候群(over-adjustment syndrome)とは、複数の人間の利害が絡み合う社会環境(職場環境)に過度に適応して、自分の自然な欲求や個人的な感情を強く抑圧することで発病する症候群のこと――

 ……少し違う。

 幸子は、まだ俺の真田山高校に受かったわけでもなく、ケイオンに入ったわけでもない。単に半日体験入学をしただけで、加藤先輩たちにノセられただけである。複数の人間の利害が絡み合う社会環境にあるとは言えない……で、深く考えることは止めた。


 その日以来、幸子はギターに見向きもしないで受験の準備にとりかかり……というか、佳子ちゃんといっしょに参考書や問題集に取り組みながら、お喋りしていることが楽しいらしく、佳子ちゃんと楽しく笑っている声や、熱心に勉強している気配が幸子の部屋からした。
 その分、俺への憎たらしい態度は、少しひどくなり、一日会話の無い日もあった。それでも、俺がリビングでテレビを見ていたりして気配を感じ、振り返ると、幸子が無表情で立っていたり……でも、根っからの事なかれ人間の俺は、こんなこともあるだろうと、タカをくくっていた。

 そして、入試も終わって合格発表の日がやってきた。

 まあ、偏差値56の平凡校。幸子にしてみれば合格して当然。
「あーーーーーー!! 受かってるよ、佳子ちゃん!!」
 今や親友になってしまった佳子ちゃんの合格のほうが、よほど嬉しかったようだ。佳子ちゃんは人柄は良い子なんだけど、勉強、特に理数が弱く、この数週間、幸子といっしょに勉強したことが功を奏したようだ。

 幸子のことで驚いたのは、その後なんだ。

 合格発表の午後、合格者説明会が体育館で行われる。

 校門から、体育館までは部活勧誘の生徒達が並ぶ。ケイオンは祐介を筆頭に一クラス分ぐらいの人数で勧誘のビラを配っていたが、幸子を見つけると、みんなが幸子を取り巻いた。
「ねえ、サッチャン。もう部員登録してもええよね。君は期待の新人なんやから。こないだ、学校見学にきたとき……」
「ごめんなさい。わたし、演劇部に決めちゃったから」


 え!?


 ケイオンの一同が凍り付いた。

「え、演劇部て、もう廃部寸前の……」
「部員、二人しかおらへんよ……」
「わたしが入ったから三人で~す!(^0~)!」

 明るく言ってのけた幸子に部員は言葉もなかった。
 幸子は涼しい顔で、お母さんと体育館に向かった。その後、俺が部員のみんなから、どんな言葉を投げかけられたかは……伏せ字としておく。


 ほんとうに驚いたのは帰宅してからだった。


「なんだか、新入生代表の宣誓することになったわよ、幸子」
 お母さんが気楽に言う。
「それって、入学試験のトップがやることになってるんだよ!」
 祐介からもメールが入っていた。
――サッチャン首席。それも過去最高の成績らしい。この意味わかるやろ!?――
 吉田先生が常々言っていた。「三十年前に、府立高校の入試で最高点出した奴がおった。そいつは、国語で一カ所間違えただけで、ほぼ満点やった。そいつは……いや、その方は、いま国会議員をしておられる」

 だから、過去最高というのは、入試問題全問正解……たぶん、大阪府下でも最高だろう。

「あ、そ」

 佳子ちゃんの合格祝いから帰ってきた幸子はニクソイほどに淡泊だった。一時間ほどは……。
 幸子の部屋から、聞き覚えのある歌声が聞こえてきた。
「またアップロードされてる……」
 幸子のパソコンのモニターからは、あの駅前路上ライブの動画が、再編集されて流れていた。音声も映像もいっそうクリアになっている。


 そして、それを見ている幸子の目は潤み、発作のようにガタガタ震えだした……。
 

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やくもあやかし物語・36『建国記念の日』

2020-12-22 06:03:16 | ライトノベルセレクト

物語・36

『建国記念の日』     

 

 

 

 三連休最終日、思い立って部屋のお片づけをした。

 

 取り立てて片づけをしなきゃならないほど散らかってるわけじゃない。荷物が多いわけでもない。

 朝刊読んでるお爺ちゃんを覗き込んだら『建国記念の日』という文字が目に飛び込んできたからだ。

 なんか、お片づけして清々しい気持ちになるにはピッタリの日だと感じた。

 

 わたしの部屋のアレコレはゴツクて重い。

 

 ベッドも机も本棚ももともとこの部屋にあったもので、どう見ても昭和……どころか、ひょっとしたら明治大正のものかもしれない。

 少しづつズラして移動させようと思ったんだけど、ゴゴゴ……ズズズズ……すごい音がする。

 音を聞きつけて、お爺ちゃんもお婆ちゃんもやってきた。

「あら、片づけ?」

「一人じゃ無理だよ」

 ということになって、ジジババの協力を得ることになる。

 さぞかし捗るかと思ったけど、二人ともギックリ腰の前科があるので恐るおそる。

 けっきょく机を壁際にピッタリ寄せて、あとは拭き掃除しておしまい。

「おや、電話のコンセントがある」

 机で隠れていた壁に電話の引き込みが見つかった。古い家なのでお爺ちゃんお婆ちゃんも忘れていたんだ。

「じゃ、例の黒電話繋いでみたらどう?」

 お婆ちゃんの発案で黒電話を繋いでみる。

 

 ツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「変な音がするよ」

 お爺ちゃんに受話器を渡す。

「ああ、繋がってる証拠だよ。古い電話は、こういう音がするんだ」

「そうなんだ」

「どれどれ……」

 お婆ちゃんも面白がって受話器を持つ。

「……ウンともスンとも言いませんよ」

「試しに天気予報でもかけてみろよ」

「そうですね……だめ、繋がりません」

 お婆ちゃんに代わってもらうと、受話器は無言で、ツーーーーーーの音もしない。

 

 その夜、夢を見た。

 

 オブジェに逆戻りした電話をせめてキレイにしてやろうと、聞くところと話すところを外した。ねじ式だろうと見当を付けたら、その通りだったので、ちょっと嬉しい。

 あ!

 手が滑って、受話器を落としてしまう。

 コードが付いているので、床から五センチくらいのところで受話器はブラブラしている。

 拾おうとすると、なにかが出てきた。

 え?

 それは身の丈一センチほどの女の子。それが真岡電信局で見た電話交換手のようなナリをしている。

「あ、あなた!?」

キャ

 その子は、あっという間に本箱の裏に隠れてしまった。

 

 目が覚めてから、受話器の送話口を外しておく。

 あの交換手さんが戻ってきたら、すぐに入れるようにね……。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

 

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かの世界この世界:163『ミョルニルハンマーの小型版』

2020-12-21 15:07:27 | 小説5

かの世界のこの世界:163

ミョルニルハンマーの小型版語り手:ポチ    

 

 

 ちょっと予定が狂った。

 

 オーナーのオジサンがうつむいたまま呟いたよ。

 あんまり密やかな声なんで、どこかに人が隠れていて、思わず漏らした声かと思ったくらい。

 でも、すぐに顔を上げて、あたしとダグ(フェンリル二世)の顔を見たんで、オーナーだと分かる。

「仕方がありません、ここで処理しましょう」

 オバサンもゆっくりと顔を上げたよ。

 ダグはどうしているのかとチラ見したよ。

「え……ダグ?」

 ダグは「ところで、オーナーさんたちは半神族じゃありませんね……」の、最後の「ね……」の顔のまま固まってしまっている。

「いやはや、おどかしてごめんね、ポチ」

「ポ、ポチ!?」

 いきなり真名で呼ばれてしまったんで、思わず両手で頬っぺを挟んで、ムンクの『叫び』みたいに驚いてしまったよ。

「あなた、この子の今の名前はポナですよ」

「ああ、そうだったな。ポナ……」

「いえ、わたしはルポライターのエリザベス……」

「もういいのよ、あなたは素直な子だから、フェンの言うままに、ここまで来てしまったのよ」

「フェンは悪い奴じゃないんだけど、思い込みがきつくて、自分の目的の為に人を巻き込んでしまう」

「もう、フェンの力だけで立て直せるほどユグドラシルは簡単じゃないのよ」

「フェンには、少し眠ってもらって、ポナは姫のところに戻ってもらう」

「でも……いえ、いったい、お二人は?」

「主神オーディンに仕える者だよ、もともとはトール元帥の部隊に居たんだけどね」

「あなた、それは……」

 オバサンがオジサンの手を握った。なんだか、あたしが聞いてはいけない話のようだよ。

「時の女神は、もうユグドラシルには居ないわ」

「え!?」

「姫が、このままブァルハラに進まれても何も解決しない。オーディンから姫の進むべき道を示すように命じられてきたんだけどね、わたしたちの姿は、もう姫には見えないんだ。それで、こちらの世界にやってきたポチ(ポナだって(^_^;))に頼もうと思ったんだけどね、フェンが先に……」

「それで、ここに宿を作って、ね……」

「今夜、眠っている間にケリをつけるつもりだったんだがね」

「フェンが余計なことを言うから」

「まだまだ、フェンは子どもだからな」

「じゃ、あなた」

 オバサンがカウンターからトンカチのようなものを取り出した。

「釘でも打つんですか?」

「まあ、釘をさすってとこかな」

 オジサンが釘を出して、オバサンに差し出した……そのトンカチ、見覚えがあるよ。

「ミョルニルハンマーの小型版」

「トール元帥の部下だったって言ったでしょ」

 釘はオバサン、ハンマーはオジサンに持ち替えられた。ちょっと儀式めいている。

「これから起こること、しっかり見ておくんだよ。ポチが人形になって、そして、原寸大になったのは意味のある事なんだから」

「う、うん」

「じゃ……」

 オバサンが目の高さに持ち上げた釘をオジサンがハンマーで打ち付けた。

 ガシッ!

「え!?」

 息をのんだ。

 釘を打つ音は、ごく小さい『カツン』という音なんだけど、『ガシ』って音は、となりで固まってるフェンの頭からしたんだよ。

「え、ええええ!」

 直接釘が撃ち込まれたわけでもないのに、フェンの額にヒビが入って、みるみる全身に広がって行ったかと思うと。

 パリン

 儚い音を立てて、フェンは無数のポリゴンになって崩れていってしまった。

「さあ、こんどはポチの番だ」

「え?」

「大丈夫、死ぬわけじゃないから」

 オジサンがハンマーを一振り……目の前が真っ白になった……。

 

  •  ☆ ステータス
  •  HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
  •  持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
  •  装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
  •  技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
  •  白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
  •  オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾
  • ☆ 主な登場人物
  • ―― かの世界 ――
  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  • ―― この世界 ――
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長  

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・6『過剰適応』

2020-12-21 05:55:49 | 小説3

たらしいのにはがある・
『過剰適応』
          

 

  


 見てはいけないものを見た気がした。

 幸子は、たった十五分でアコギをマスターし、いきものがかりのヒットソングを、ケイオンの女ボス加藤先輩よりも、はるかに上手く唄っている。
 加藤先輩はおおらかな人柄で、自分よりうまい幸子に嫉妬などせずに、素直にその上手さに感心して、バックでベースギターを弾いて合わせた。他のメンバーも加わり、まるで視聴覚教室はライブのようになってしまった。

 いたたまれなくなって、そっと視聴覚教室を出て、そのまま下足室に向かった。
「おい、なんかケイオンが、ライブやってるらしいで!」
「ほんまや、チーコがメール送ってきよった」
「なんや、すごい子が……」
「行ってみよか!」
 そんな言葉を背中で聞きながら、俺は靴に履きかえ、家に帰った。

「「おかえり」」

 親父と、お袋の声がハモって出迎える。
「早いんだね」
「ああ、今日は出張だったんで、出先から直帰してきた」
「幸子といっしょに帰ってくるかと思ったのに」
「幸子なら、学校で人気者になっちゃって、ケイオンのみんなに掴まってるってか……掴まえてるってか」
 俺は、学校でのあらましを話した。
「そう、あの子は熱中すると、のめり込んでしまうからね」
「いや、そんなレベルじゃないよ」
「幸子、わたし達が別れてから、お兄ちゃんに会いたいって、ファイナルファンタジーにのめり込んで、一月で、コンプリートしたのよ」
 俺は、再会した日のメモリーカードを思い出した。

――コンプリートして、ハッピーエンド出したよ!――

「それから、いろんなものに熱中するようになったわ。ゲームから始まって勉強まで。それで成績トップクラス。だから、まだ三学期が残ってるのに引っ越しもできたんだけどね」
「部活は?」
「最初は、書道部やってたんだけど、中一で辞めちゃった……」
 そう言って、お袋は、一枚の作品を持ってきた。
「これが、一枚だけ残ってる作品。あとは、幸子、みんなシュレッダーにかけちゃった」
「すごいよ、これ……」
 素人の俺が見てもスゴイできだった。
「都の書道展で、金賞とったのよ」
「どうして……」
「上手いけど、個性が無いって。投げ出しちゃった」
「幸子は個性にひどくこだわるんだ……」
 俺たち親子は、幸子の「天衣無縫」と書かれた作品をしばらく見続けた。

 どのくらい見続けていたんだろう。自転車の急ブレ-キとインタホンの音で我に返った。

――向かいの佳子です。幸子ちゃんが駅前で!――

「どうしたの、幸子が!?」
 すぐにお母さんが、ドアを開ける。佳子ちゃんが、転がり込んできた。
「実は、幸子ちゃん……!」
「過剰適応だ……太一は自転車で駅前に行け、その方が早い。母さんとオレは車で行く!」
「あたしも、行きます!」

 佳子ちゃんと二人、自転車で駅前に急いだ。

 駅前は、佳子ちゃんが言ったように黒山の人だかりだった。人だかりの真ん中で、幸子の歌声が聞こえた。それは、視聴覚教室で聞いたときよりもさらに磨きがかかっていた。これだけの人がいるというのに、怖ろしく声が通り、ハートフルでもあった。
 俺は、なんとか聴衆をかき分け、幸子が見えるところまで来た。幸子はクラブで貸してもらったんだろう。練習用のアコギをかき鳴らし、完全に歌の世界に入り込み、涙さえ流しながらいきものがかりの歌を唄っていた。
「幸子、もう止せ、もういい!」
 幸子を止めさせようと思ったけど、オーディエンスのみんなが寄せ付けてくれない。いら立っていると、聴衆をかき分けかき分けしてお父さんがやってきて、幸子の耳元で何かささやいた。すると、幸子は、残りを静かに唄いきって終わった。


「どうもみなさん、ありがとうございます。もう夕方で、交通の妨げにもなりますので、これで終わります。ごめんなさいお巡りさん。じゃ、またいつか……分かってますお巡りさん。ここじゃないとこで」


 警戒に立っていたお巡りさんが苦笑いをした。

 人が散り始めるのを待って、親父は幸子をお袋の車に乗せようとした。

「最後の曲分かった?」
 いつもの歪んだ笑顔で聞いてきた。
「ああ、いきものがかりの『ふたり』だろ」
「そう、なんかのドラマの主題曲……」
 さらに冷たい声を残して、車は走り出した。
「…………あ」
「どないかした?」
 ペダルに足をかけながら、佳子ちゃんが聞いてきた。

 あの歌は『ぼくの妹』の主題歌だ……

 

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やくもあやかし物語・35『A君』

2020-12-21 05:44:32 | ライトノベルセレクト

物語・35

『A君』       

 

 

 A君が転校しました。

 

 担任の先生が言う。

 クラスのみんなは無言だけど――ああ、やっぱりな――という空気が流れる。

 次の休み時間には、クラス委員二人でA君の机を運び出していった。この三か月、A君の机はみんなの物置同然だった。

 季節が寒い時期に差しかかるところだったので、机の横や、後ろの棚に置ききれない防寒着やいろいろを置くようになったんだ。

 クラスの何人かは――A君はイジメられていた――と噂していた。クラスのXやYやZやらがイジメていたと言うけど、わたしには分からない。みんなも無関心、ひょっとしたら無関心を装っているのかもしれないけど、シレっとしている。

 そして、なにより、わたしはA君を思い出せない。

 わたしも学年の途中で転校してきた人だし、A君は休みがちだったし。

 ま、仕方がないと思う。

 

 もうちょっとで三学期も終わる。ほんのちょっとの春休みが終われば新学年。

 ま、やり直せばいいさ。

 

 学校というのは横の連絡が悪い。

 美術の時間で、こんなことがあった。

「今から二三学期の作品を返しま~す」

 のどかな声で言って、先生が名前を読んで作品を返す。

「A君……A君……A、休みかあ?」

「先生、A君は転校しました」

 委員長が答える。

「え、あ、そうか」

 思い当たったのかとりつくろったのか分からない声をあげて、先生は分かりやすく当惑した。

 分かるんだけどね、年度末に向けて準備室とか整理したのに、ハンパにものが残るのはね……。

 でも、無いと思いますよ、そういう反応は。

 先生は、一度準備室に戻って、九十秒ほどで戻ってきた。

「小泉さん、あなたA君ちの近所だから持ってってくれないかなあ」

 今の九十秒で、先生は学校のCPにアクセスして、A君最寄りの生徒を検索してたんだ。

 こういう場合「無理ッ!」とか「えーーーなんでわたしい!?」とか言えば逃れられるのかもしれないけど、そういうのを何度も見聞きしていると、そんなささくれだった言い方はできない。

 は……はい。

 大人しく引き受けてしまう。

 作品の中に自画像が入っていた。

 なんかエヴァンゲリオンの碇シンジみたいな思い詰めた顔が画用紙の1/2くらいの面積で描かれている。

 めんどくさそうなヤツ……思ったけど、顔には出さない。

 

 帰り道、崖道を通る。

 

 A君のこと考えたくないから、あちこち景色を見ながら歩く。

 あれ?

 ペコリお化けが居ない。

 それどころか工事も終了していて、今風のポリゴンを節約しまくったCGのように素っ気ない家が建っている。

 わたしってば、こんなに無関心に歩いていたんだ。

 一度帰ってしまうと、きっと億劫になる。だから、先生に書いてもらった地図を頼りにA君の家を探す。

 ……あった。

 もう引っ越していない確率50%できたんだけど、ピンポンを押すと本人が出てきた。

 先生が「Aは一人っ子だから、男の子が出てきたらAだから」と、念を押した。わたしが「会えませんでした」とか言って持って帰ることを恐れていたから。

 リアルA君は、自画像ほどにはひどくなかった。

 でも、やっぱ、こんな人いたっけ?

「ありがとう、小泉さん」

 とても嬉しそうに受け取ってくれた。碇シンジは訂正、碇シンジはこんな風には笑わない。

 なんか、一言二言言って別れた。

 

 いっけない、お風呂掃除!

 

 慌てて家に帰る。お爺ちゃんは出かけていて、結果オーライ。

 お茶の間で一息ついていると、お隣りさんが回覧板を持ってきた。

 緊急連絡が入っている。

 え…………ええ!?

 A君が夕べ病院で亡くなって、葬儀のダンドリとかが書いてある。

 さっき……作品を手渡ししたA君は何者なんだ?

 ゾゾ……

 ここのところ居座っている寒波のせいではない寒気が背筋を伝わった。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

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