大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・65『目付』

2022-12-26 06:25:11 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

65『目付』 

 

 


「……という訳で、ご両人がビデオを編集して理事会にかけ、貴崎先生のご決心が硬いと判断したわけなんです。理事の中に放送関係の方がおられましてな、編集の仕方が不自然だと申し出られ……むろん元のメモリーカードの情報は消去されておりましたが、パソコンにデータが残っておりました。このお二人がやったこととは言え、監督責任はわたしにあります。この通りです。この年寄りに免じて、許してやってもらえませんかな」

 理事長が頭を下げた。

「お二人には罪はありません。最初から罠……お考えは分かっていましたから」

「貴崎先生……」

 理事長は驚き、お祖父ちゃんは苦い顔。校長と教頭は鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。

「こうでもしなきゃ、責任をとることもできませんでしたから……理事長先生が祖父の名前を口にされたときに予感はしたんです。祖父が介入してくると」

「そりゃ違うぞ、マリ。ワシは確かに乃木高の運営に関わってはおる。それは親友の高山が困っておったからじゃ」

「いや、恥を申すようですが。学院の経営は、いささか厳しいところにきておりました。文科省の指導に乗らんものですからなあ」

「いや、そこが彦君の偉いところだ。今の文科省の方針で学校を経営すれば、品数だけが多いコンビニのようになる。なんでも揃うが、本物が何一つない空疎な学校にな」

「しかし、貧すれば鈍す。倉庫の修繕一つできずに火事まで出してしまった」

「あれは、わたしの責任です。他にも責任をとらなければならないことが……これは、わたしの考えでやったことです。校長、教頭先生は、いわば逆にわたしが利用したんです」

「マリ、ワシはおまえが責任をとって辞めることに反対などせん。その点、彦君とは見解が違うがの」

「え……じゃあ、なんであんな見え透いたお目付つけたりしたの!?」

 その時、当のお目付がお茶を運んでやってきた。

「失礼します」

「史郎、ここに顔を出しちゃいかんと……」

 お祖父ちゃんがウロタエるのがおもしろかった。

「旦那さまには、内緒にしてきましたが。お嬢さまは、とっくに気づいておいででした」

「マリ……(꒪ȏ꒪)」

 お祖父ちゃんは目を剥いた。校長とバーコードは訳が分かっていない。理事長は気づいたようだ。

「君は、演劇部の部長をやっていた……峰岸君だな」

「はい。本名は佐田と申します。入学に際しては母方の苗字を使いましたが」

「顔はお母さん似なんだろうけど、雰囲気はお父さんにそっくりなんだもん」

「入部して、三日で見抜かれてしまいました」

 峰崎クンのお父さんは、佐田さんといって、お祖父ちゃんの個人秘書。

 元警視庁の名刑事。ある事件で捜査の強引さをマスコミに叩かれて辞職。その人柄に惚れ込んで、お祖父ちゃんが頼み込んで個人秘書になってもらった。峰岸君は、そのジュニアだ。

 お祖父ちゃんの周囲は、こういう峰岸くんのお父さんのような変わり種が多い。

 あの運転手の西田さんも……ま、それは、これからのお楽しみということで。

「峰岸クンの前任者は、卒業まで分からなかったから。ちょっと警戒してたしね」

 ちなみに、前任者は運転手の西田さんのお孫さん。堂々と西田の苗字で入学、演劇部じゃ、いいバイプレイヤーだった。

 卒業式の前日に首都高を百キロの大人しいスピードで走っていたら、うしろからパッシングされてカーチェイス。レインボーブリッジの手前で、一般道に降りてご挨拶。

「あんた、なかなかやるわね……」

「あんたのほうこそ……」

 サイドウィンドウを降ろして、こっちを向いたその顔が彼女……西田和子だった。

「なあマリ、こうして彦君も、校長教頭も来てくださったんだ。そろそろ曲げたヘソを戻しちゃくれんかね」

「乃木高に戻れってことですか……それをやったら、『明朗闊達、自主独立』乃木高建学の精神に反します」

「ごもっとも。しかし……」

 理事長の言葉をさえぎって、わたしは続けた。お祖父ちゃんがもっとも嫌がる言い方。

「校長先生、式日の度におっしゃいますね。『明朗闊達』であるためには後ろめたくあってはならない。『自主独立』であるためには、責任の持てる人間でなくてはならない。生徒にさえ、そう要求されるんです。教師には言わずもがなであると思います」

 校長と教頭はうなだれた。理事長は、じっと見つめている。お祖父ちゃんは顔が赤くなってきた。

「わたしは、これでもイッパシの教師なんです……」

「イッパシの教師だとぉ。つけあがるなマリ!」

「なんだってのよ。お祖父ちゃんの知ったこっちゃないわよ!」

「今度の二乃丸高校も自分の才覚で入ったと思っとるだろ。この彦九郎が、八方手を尽くしてお膳立てをしてくれたからこそのことなんだぞ!」
 
 (꒪ȏ꒪)エッ?……心臓が停まりそうになった。

「淳ちゃん……」

 理事長が、間に入ろうとした。

「ワシは、マリを木崎産業の三代目にしようとは思わん。社長の世襲は二代で十分だ。しかしマリにはイッパシの何かにはなって欲しい。その為に付けた目付じゃ……しかし、今のマリはイッパシという冠を付けるのには、何かが足りん」

「お祖父ちゃん、わたしだってね……」

「二乃丸じゃ、演劇部員を半分にしちまったってな。今は……」

「五人です。そのうち三人が年明けには辞めます」

 峰崎クンが答えた……わたしにはコタエた。

 しばらく問答が続いた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・372『モデル!!』

2022-12-25 18:37:35 | ノベル

・372

『モデル!!』さくら    

 

 

 撮影の続き……

 

 日差しが合わない……と突っ込むのはソニー。

 登校風景を撮るんやけど、授業が終わってからの撮影なんで、お日様は、とっくに上がってます。

「これでは下校時の太陽高度だ、いくらプロパガンダ映像としてもずさん過ぎないか?」

「プ、プロパガンダ(;'∀')」

「もとい、広報映像としても」

「レフ版とか補助照明とかも使うから、ま、いいんじゃない(^_^;)?」

 留美ちゃんがフォロー。

 

「普段通りでいいからね」

 ディレクターのおっちゃん。

「校門入る時と、マリア様の前を通る時は、キチンとお辞儀!」

 長瀬先生は、うちが時々忘れてることを知ってる。

「じゃ、一回テスト。カメラ目線にならないでね。ライトやレフ版も直接見たら、しかめっ面になっちゃうから」

「「はい」」「了解」「Understood」

 で、テストをしてると、いつの間にか野次馬さんたちが集まって来る。

 なんちゅうても放課後すぐやしね。

 でも、たいていの生徒はええ子やから、邪魔をしたりはせえへん…………ねんけど、例外が数名。

 

「わあ! なにやってんの?」「ロケだ!」「リアル撮影!」「生徒会は聞いてないぞ!」「混ぜて欲しい!」

 

 頼子さんたちと、生徒会執行部と執行部のOGの人ら。そう言えば、生徒会の引継ぎが今日やったような(スマホでチェックした行事予定表にあった気がする)。

「長瀬先生、これ学校紹介の撮影ですよね?」

 真鈴会長、いや前会長が目をカマボコ型にして聞く。

「ああ、邪魔せんとってな」

「ねえ、先生、どうせだったら、わたしたちも入っちゃダメですか? 文化祭とかの企画で慣れてますから!」

 そう言えば、真鈴先輩は文化祭では大活躍やった、芝居の脚色・演出・主演、それに駅前パレードの企画も大当たりさせた!

「ああ、動画で観たけど、すごかったですね!」

「カメラワークも良かった!」

「演出ピカイチ!」

 撮影班もノッテきた。

「しかし、日程がなあ……」

 長瀬先生は、ちょっとしぶい。

「ちょっと、コンテ見せてもらえます!?」

 先生がウンという前に、ディレクターのコンテを覗き込むご一統様。

「会長、これなら、チョロいっすよ!」

「前会長だ、現会長は!?」

「このまま帰るのも寂しかったから、いいんじゃないですか」

「よし、では、新旧生徒会とファンクラブで、いっちょう行ってみよう!」

 

 おお!!

 

「乗っとちゃった……」

 留美ちゃん一人呆然として、さすがの長瀬先生も腕を組んで黙ってしまう。長瀬先生も文化祭の大成功は知ってるし、声優百武真鈴とヤマセンブルク王女のネームバリューは使えると思てる。

 それにね、ソフィーが領事館の用事で、この場を外してる。ソフィーも単に頼子さんのガードいう以外に領事館でも重要なポジションに就きつつあるとか。

 リアルにはクリスマスも過ぎてんねんけど、面白いから、もうちょっと続きます(^▽^)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・64『七年ぶりの我が家』

2022-12-25 07:43:33 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

64『七年ぶりの我が家』 

 

 


 七年ぶりの「我が家」が見えてきた。

 遠くから見ると林のように見える。


 やや近づくと、木の間隠れに地味な三州瓦の屋根が見えて、人の住み家だと知れる。


 側に寄ると、幅二十センチ、高さ三メートルぐらいのコンクリートの板が二センチ程の間隔を開けて並べられ、それが塀になっている。

 コンクリートといっても、長年の年月に苔むし、二センチの間隔が開いているので威圧感はない。
 二センチの隙間から見える「我が家」は適度に植えられた木々によって、二階の一部を除いて見えないようになっている。
 わたしが生まれる、ずっと前に建てられた「我が家」は、なるべく小さく、なるべく目立たないことをコンセプトに、ひっそりと周りの景観に溶け込んでいる。


 妹のサキが生まれたころに、関西から著名な歴史小説家が、出版社の企画でお祖父ちゃんと対談しにきたことがあった。

「まるで蹲踞(そんきょ=偉い人の前で、しゃがんでする礼)した古武士のようですなあ……」

 そう言われたことが、ひどく嬉しかったみたい。

 何にでも興味のある少女であったわたしは、偶然を装ってその人に挨拶をした。

「お孫さんですか?」

 一発で正体がバレてしまった。

「おちゃっぴいですわ」

 お祖父ちゃんは、一言で片づけようとした。でも、その人はわたしの顔を見てしみじみと、こう言った。

「おちゃっぴいでけっこう。いろんなことに興味をお持ちなさいな。お嬢ちゃんは、とても賢そうな目をしていらっしゃる。賢い人というのは一つのことに囚われすぎることが多い。せいぜい、お喋りしまくって、多少抜けた大人におなりなさい」

 その後ろで、お祖父ちゃんが大笑いしていた。

 おおよその意味は分かったけど、できたら、その人に会って、もう一度話してみたかった。

 でも、その人は十数年前に亡くなられた。

 そんな思いに耽っていると、入り口の前についた。


「我が家」は、その規模の割に門が無い。


 間口二メーターほどの入り口。その上に申し訳程度の屋根がついているところ門と言えなくもないけど。

 小学生十人ほどを集めて質問したとする。

「これは何ですか?」
「はーい、入り口でーす!」

 その程度のもの。

 車は別に専用の入り口がある。五メートルほどの塀が電動で動く仕掛けになっている。

 ここから家の中にも入れるが、「我が家」は、入り口から出入りすることがシキタリになっている。

「あ、まだこんなの掛けてんの!?」

「はい、無頓着なようにも思えますが、旦那さまのこだわりと心得ております」

 西田さんが、入り口を開けてくれた。

 こんなものとは、表札のこと。わたしが小学校の図工の時間に作った木彫りの表札。

 その表札は「貴崎」とはなっていない。

「木崎」……となっている。

 後にサキが作ったものは「貴崎」で「木崎」の横に掛けてある。

 当然サキの方が木地が若く、そのまま年齢差に見えて気に入らない(;`O´)o。


「やあ、お邪魔しております」

 教室二つ分ほどのリビングには意外な人たちが揃っていた。今の声が理事長。


「そ、その節は……」

「ま、ま、まことに申し訳なく……」

 最初のが、校長先生。

 後の方が、バー……教頭先生。むろん乃木坂学院のね。

「直立不動にならないでください。どうぞお掛けになって……」

「いえ、先生のお許しを得るまでは……」

「いやあ、このお二人がどうしてもと、おっしゃるんでご同道いただきました。ま、お二人ともお掛けになって」

「いえ、いえ、やはり貴崎先生の……ね、校長先生」

「そんな、目上の方を立たせたままじゃ、わたしが座れません」

「いや……しかし」

「度の過ぎた謙譲は追従と同じですよ。ご両人はまだ自分でなさった事の意味が分かっておられん!」

 珍しく、理事長が色をなした。

「まあ、落ち着けよ彦君」

「やあ、すまん。俺としたことが」

 そこで、わたしが座り、やっと二人も座ってくれた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・63『運転手の西田さん』

2022-12-24 07:18:58 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

63『運転手の西田さん』 

 

 


「せっかく雪だるまになりかけていたのに……!」

「ハハハ……お嬢さまのああいうお姿は、実に二十何年かぶりでございますなあ。降り始めた雪に大喜びされて、お庭で、おパンツ丸出しでクルクル旋回なさって、スカートひらりひらめかせられておられました。ハナさんが―― お嬢さま、せめて毛糸のおパンツをお召しなさいまし ―― モコモコするからやだ。マリはこれから雪の王女さまになるんだから! ――この西田、昨日のことのように思い出しますでございますよ」

「西田さん、運転中は運転に集中したほうがいいわよ。この大雪なんだし」

「いえいえ、この西田、ハンドル握って五十五年、無事故無違反。もっとも無違反のほうは、お巡りに見つかっていないという意味でありますがね。本日は、気象庁が発表する二時間前には、この大雪を予感いたしてスタッドレスタイヤに履きかえておきました(ここで急に黒のグラサンをかけて、マイクを握った)オラ! 前のポルシェ、なにチョロチョロ走ってやがんだ! 道空けろ、道を!」

 話しを少し巻き戻すわね。

 潤香のお見舞いの後、タクシーに乗って帰ろうとしたら、急にタヨリナ三人組の雪だるま姿を思い出し、ウサバラシにタクシー降りて自分も雪だるまになろうって思ったわけ。そしたらスマホが鳴って、うかつに出たら(なんたって、画面に出たアドレスはKETAYONAのマスター!)ニューヨークに居るはずの妹だ。

―― 黙って横を向きなさい ――

「ゲゲ! いつの間に日本に戻ってきたの!?」

―― いいから、横を向く! ―― 

 で、左を見たら、ショップのショ-ウィンドウに、雪だるまになりかけのハツラツ美人のわたしが映っていた。思わずニコッと微笑んだら、スマホが怒鳴った。

―― ばか、右よ、右! ――

 で、右の車道を見たら、黒塗りのセダンの運転席で西田さんがカワユクもオゾマシク、にこやかに右手を振って、左手で車載カメラを指さしていたってわけ。

 しばらくすると、さっきのポルシェがお尻を振りながら、猛スピ-ドでわたしたちの車を追い越し、前に回ったかと思うと二回スピンし、街路樹にノッシンって感じで当たって停車した。

 無視して行けばいいのに、西田さんは車を停めて降りていった。グラサンは外している。ひどく優しげな、人を食った顔になる。

 同時にポルシェから、革ジャンのアンちゃんと、フォックスファーのダウンジャケットのオネエチャンが、ガムを噛みながら降りてきた。

「オッサンよう……」

 アンちゃん、あとは言葉にならなかった。西田さんの左手で腕を捻り上げられ、右手で頬をつままれると、ポンと音がして、アンちゃんの口からガムが飛び出した。

「人と話をするときに、ガム噛んでちゃダメ。言っとくけどね、車線跨いで走ると迷惑なんだよ、分かるボクちゃん……アレレ、ポルシェのノーズ凹んじゃったね……アハハ、このポルシェ、オートなんだ。車はマニュアルでなくっちゃ、遊園地のゴ-カートじゃないんだからさ。二回転スピンしたのはテクニックじゃなくて、単に滑っただけなんだね。チュ-ンもハンチクだね。スタビライザーがノーマルのままじゃねぇ(片手でポルシェを左右に揺らした)グニャグニャ。いくらタイヤをスポーツに履きかえてもね。よし、これも何かの縁。オジサンが見本見せたげよう……お嬢さま、しっかり掴まっていてください」

 西田さんは車を五十メートルほどバックさせると、素早くシフトチェンジ。急発進させると、ポルシェの手前でハンドルを左にきって、サイドブレーキを引いた。

 キュンキュンキュン!

 見事に左回りにスピンさせると、ポルシェの手前一センチで停めた。

 同時に車の横腹は、道路脇に居たアンちゃんとオネエチャンの目の前三センチに位置していた。

「……かわいそうに、あのボクちゃん、チビってたわよ」

「女の子も気絶させるつもりもなかったんですけどね。ヤワになりましたなあ、今時の若者は……あ、お嬢さまは別でございますよ」

「西田さんから見たら、まだガキンチョなんでしょうね。マリは……」

「いいえ。とんでもはっぷん、歩いて十分。車で三分……間もなくでございます」

 その三分の間に、西田さんは車載カメラ(これで、歩道を歩いていたわたしを見ていたのよね。もちろんお祖父ちゃんのパソコンに直結)を調整。どうやら、さっきのカースタントの時はオフにしていたようだ。むろん、わたしに口止めしたのは言うまでもない。

 わたしに三輪車から、ナナハン、GTの扱いまで教えてくれた師匠なので、黙っていることにする。

「だって、急にポルシェが前に飛び込んできて急ブレーキ。マリ怖くって覚えてな~い」

「……そのブリッコは、いささかご無理が……」

「やっぱし……で、和子ちゃんお元気?」

「はあ、やっと高校演劇のクセが抜けて、寂しいような嬉しいような顔をしておりますよ」

「ハハ、貴崎カラーは強烈だもんね」

「では、KWTAYONA経由でお屋敷に参ります」

「ひょっとして、サキを迎えに行くついでだったの?」

「逆もまた真なり……というところでございましょうか(^皿^;)」

 老練なタヌキはどちらともとれる笑顔でごまかした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・371『モデル!』

2022-12-23 16:43:48 | ノベル

・371

『モデル!』さくら    

 

 

 一昨日の続き……

 

 掃除が終わって報告に行くと、長瀬先生はIDぶら下げたニイチャンらと振り返った……その目がこわい(; ゚゚)!

 こいつらや!

 という顔で睨んでくるやおまへんか!

 

 えと……なにやらかしたっけ(;'∀')?

 

 十六年の人生経験で、すぐに謝ることを考えてしまう。

 留美ちゃんは怖がって、あたしの袖を掴んで後ろに回るし、メグリンは自衛隊式の気を付けするし。

「なにか不備がありますか?」

 陸軍伍長のソニーは、手を後ろに組んで、上官に―― ことと次第では連隊長(校長)に申告 ――の姿勢。

「あんたたち、今日これからと明日の放課後空いてるか?」

 なんや、いよいよ軍法会議か(;'∀')!?

「空いてたら、頼みたいことあるんや」

 え?

 ちょっとズッコケる。

「実は、来年の学校案内作ってるねんけど、モデルやってくれる子がコ▢ナにかかってしもてな。日程は決まってるし、あんたらがやってくれると学校も、業者の人も助かるんや」

 もうコ▢ナになっても、どうっちゅうことはないねんけども、学校には出てこられへん。

「三人ともですか?」

 軍人らしく、状況確認するソニー。

「うん、二人は濃厚接触者やから、これも出席停止なんや。どうやろ?」

「しょ、承知しました!」

 三人の都合も聞かんと、さっさと承知するのは、やっぱりオッチョコチョイのあたしです。

「それで、どういうところを撮るんでしょうか?」

 これも軍人の娘、メグリンが作戦計画を確認する。

「じゃ、今の掃除してるところやってもらえるかなあ」

 カメラマンのオッチャンが提案。

 

 で、直したばっかりのホウキ持って、もっかい掃除してるとこから撮影。

 

 いまやったばっかりやったから、リアルに自然にやれた。

 ひょっとしたら、ハナから狙ってて、掃除終わるのん待ってたか?

「じゃあ、明日は……こんな感じで」

 オッチャンがタブレットで撮影計画を見せてくれる。

「送ってもらえますか?」

 ソニーが提案し、うちらはスマホにコピーさせてもらう。

 

「後ろからのカットもあるねえ……」

 コンテを見た留美ちゃんは、家に帰ってから、スカートにアイロンをかける。

「ちょっと前髪長いかなあ……」

 鏡を見ると、長いこと髪の手入れをしてないことに気付く。かと言って、美容院行ってる暇ないし。

 よし!

 鋏を出して鏡と睨めっこ。

「あ、止めた方がいいよ!」

 留美ちゃんに止められる。

「ちょっと切るだけやし」

「そう言って、ユイは失敗して恥をかいたんだよ」

「え、ユイて?」

「『けいおん!』の平沢ユイだよ」

 そう言って、留美ちゃんは動画サイトに出てるシーンを見せてくれる。

「さくらって、ちょっと似てるからね……」

 え、うそ!?

『けいおん!』は、うちも好きなアニメで、密やかに、秋山澪に似てると思てた(怖がるとこがメチャかわいい)。

「さくら、今回の22行目でも、自分のことオッチョコチョイって言ってるじゃな」

「え……あ、ほんまや(-_-;)」

 で、まあ、アニメみたいな失敗をすることもなく、二日目の撮影。

 それは、また次ね(^_^;)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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鳴かぬなら 信長転生記 99『指南街 滅びのロケーション』

2022-12-23 13:23:04 | ノベル2

ら 信長転生記

99『指南街 滅びのロケーション』織部 

 

 

 指南街は学問の町だ。

 

 周の文王が、この町に賢哲を見出して以来、この町の者が王や大臣の諮問に預かることが多く、いわば王たちの指南役たちの街ということで通称であった指南街が定着してしまった。

 くたびれてはいるが、街区や町の造りは風水に則って区画、配置され、家々も学者の家らしく南庭に面したところに書院が構えられているらしい。

 しかし、三国最大の魏は学問を権力の装飾程度にしか思っておらず、領地から離れた指南街には関心が無い。

 呉の孫策は大橋のパサージュに出させているように、商業には熱心だが、学問への関心は薄い。

 蜀は小国ながら、三国の中では最も好学の機運が高い国なのだが、酉盃や指南街に至るには函谷関を通らなければならず。また、諸葛茶孔明は、三国志の中では抜きんでた学才の持ち主で、他国から教えを乞う者が来ることはあっても、孔明自身が教えを乞うことは無い。

 

 その指南街の門を潜って唖然としてしまった。

 

 例えて言えば空の菓子箱。

 整然とした街区は偲ばれるのだが、それは残されてもなお清潔さを保たれている街路のみ。

 過半の家々は毀たれて礎石を残すのみ。あるいは取り壊し予告の立て札のみ真新しく、人の気配の消えた空き家。

 それでも、街の清潔を維持しているのは、僅かに残った住民たちの意地、あるいは心意気と賞賛すべきものだろう。

 我が家に帰って、名代の菓子店の箱を発見し、さては到来物と喜んで蓋を開けてると空っぽで、残った紙ナプキンや個包装のセロハンがきれいに畳まれているのを見出したのに似ている。

「再開発の波が迫っているんです」

 カメラ小僧の孫権が、愛機を構えることも無く、ポツリとこぼす。

 おそらくは、指南街再開発の噂を耳にして、すでに数百、数千枚の写真を撮っているのだろう。

 滅びの象徴としては、こんなにうってつけのロケーションは無いだろう。

「でも、あの築地の向こうに……」

 あとは自分の目で確かめろと言葉を濁す。

 

 その角を曲がると、その一角だけは元のままに残っていた。

 

「ここを整理したら、この指南街は完全に更地になってしまう」

「それは、いつなのかなあ?」

「この月末には……あとは『指南街』の名前はそのままにショッピングモールができるんだ」

「なるほど、お買い物の力強い指南役というわけね」

 パサージュをオープンさせたばかりで脅威だろうに、珍しもの好きの女学生のように目をクルクルさせる大橋。

 

 馬車の音を聞きつけたのか、奥まった家から二人の娘が出てきた。

 

「お待ち申し上げておりました」

「準備は整っておりますので、どちらでもお好きなところで撮影なさってください」

「お世話になります。撮影の準備をしてくれていた明花さんと静花さん、この家のお嬢さんだよ」

「この度は撮影のためとは言え、十二分なお世話を頂き言葉もございません」

「ああ、もう畏まったのは無し無し(^_^;)。えと、こちらは、義姉の大橋。義姉の商売仲間の越後屋さん。モデルの劉度さん」

「孫権、決めつけなくてもいいのよ、気が向いたら、わたしだってモデルになるからね(^▽^)」

「……という訳です(^_^;)」

 アハハハハ

「では、取りあえず中でお休みください」

「書院の方をご休憩と控室にお使いください」

「うん、よろしくね」

 さっそく庭の方から直接書院に向かう。

 書院に姉妹の母親、庭には助手らしい女性が控えていて、娘以上に慇懃に頭を下げた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・62『凧の行方』

2022-12-23 06:22:58 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

62『凧の行方』 

 

 

 振り返ると、右のホッペにグニっと指がめり込む。

 ガキンチョがよくやるあれ。

 で、この幼児的ご挨拶は……薮先生。

「もう、先生ったら子どもっぽいことを」

「俺は、小児科の医者なんでな」

「わたし、今月で十六です」

「俺の所見じゃ、四捨五入して、まだ小児科の対象だ。ほら、あいつみたいにな……」

 先生の指の方角には、今まさに鳥居をくぐって境内を出て行く忠クンの背中が見えた。

「忠クン来てたんだ」

「たった今までいっしょだった。なんせ、この人混みだ。まどかに気づいたのもたった今」

「メールしてくれたら、いっしょに来たのに」

 自分のことを棚に上げてぼやいた。

「あいつ、ひどく思い詰めっちまってなぁ」

「え、それって……」

「あいつ、あの日から、家に通い詰めでよ。毎日親父の話さ」

「え……」


 先生は、ため息一ついて空を見上げた。


 彼方の空に凧が舞っている。

 多分隅田川……ひょっとしたら荒川の河川敷かも。いずれにしても、ここから見えるんだ。   

 かなり大きな凧……それもかなりの高み。


「俺も、三日目からは閉口しちまってな。雰囲気に弱いってのは俺が言ったことだけどよ、ちと度が過ぎる。まどかの演劇部で自衛隊の出てくる芝居やったんだって?」

「あ、ええ。去年のコンクールで、落っこちゃいましたけど」

「あれで、主役の代役やったんだってな。あいつには衝撃だったみてえだよ」

「あれは、わたしの無鉄砲で……落っこっちゃいましたし」

「しかし、立派なもだったって、審査員の先生もべた誉めだったんだろう」

「さあ……よく覚えていません」

 あれは、今では、わたしのカテゴリーの中では『やりすぎ』の中に入っていて、あまり思い出したくない。

「その話しの中で、自衛隊の少年工科学校が出てくるんだって?」

「はい、もう一人の主役の男の子が、それで自衛隊に入ろうと思っちゃうんです」

「で、やっこさん、その主役になっちまった」

「え……?」

 ナサバサバサ!

 たむろしていた鳩たちが、なにに驚いたのか予感したのか、慌てて飛び立っていった。

「忠のやつ、その少年工科学校に入りたいって言い出しちゃってよ。もっともあれは平成二十二年に改編されちまって、高等少年工科学校って言うんだけどよ。本書いた先生のちょっとした認識不足なんだろうけど、芝居ってのは恐ろしいもんだ。その認識不足や反戦なんてカビの生えたテーマでも、反面教師になっちまって。やっこさんの頭に残っちまった」

 風向きが変わってきたのか、凧が大きく揺れている。

「あいつは、良い物をもってるよ。気長に良い風が吹いてくるのを待ってりゃ……ありゃりゃ……」

 凧の糸が切れちゃったんだろう。凧はクルクル回りながらあさっての方角に飛んでいってしまった。

 二人で口を開けて、それを見ていたら、やがて、その風がここまで吹いてきた。

 わたしはジーパンだったけど、前を歩いていたオネエサンのスカートが派手にひらめいた。

 すかさず薮先生はそれをご鑑賞になられました(^_^;)。

 日本のクタバリゾコナ……お年寄りはお元気なもんだ。

 その、クタバリゾ……お年寄りたちは、これからのわたしたちに少なからずの影響をもたらすことになる。

 風が止むと、ポカポカとした陽よりになってきた。

 まるで気まぐれなわたしたちの心のように。波瀾万丈な一年を予感させるように。


 とりあえず、元日は、四捨五入して、目出度く迎えることができました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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銀河太平記・137『氷室神社賑わいて四海波静か』

2022-12-22 09:53:17 | 小説4

・137

『氷室神社賑わいて四海波静か』お岩  

 

 

 シゲ爺の狙いは当たった。

 

 岬から戻ってきた者たちは、沖の漢明艦が居なくなったことに人智を超えた力を感じた。

 冷静に考えれば、何者かの国際政治学的な力が働き、その働きによって漢明政府が艦隊に退去を命じた。その命令によって、漢明艦隊各艦の艦長は機関を始動させ、航海長が舵輪を握って、物理的に粛々と退去しただけのこと。

 しかし、折よく太陽は南中して南の空に輝いて日輪という呼称が相応しく。あたかも、神の意思が働いて邪悪な漢明艦隊を蒸発させたように見える。

 ほら、大雨の後に虹が出たりすると『虹の彼方に』とかを口ずさんで、生きててよかったとか思うあれだよ。

 二百年前、令和天皇が御即位された時、前夜からの雨は止む気配もなく、御即位には欠かせない舞楽が中止になったが、その直後、御即位の儀に移ったとたん。俄かに雨が上がり、皇居の上に盛大な虹がかかった。

 あの故事を思い出させるように、日輪は西之島の未来を寿いだ!

 

 その喜びを噛み締めて、一杯やろうかと道を戻ると、氷室神社の大鳥居の下に、白木の香りも清々しく大振りの賽銭箱。

 冷静に考えれば、漢明艦隊退散に当て込んだシゲ爺の企みと知れるのだが。そのシゲ爺も神主服に身を固め、幣などを捧げ持って拝殿の前に畏まり、「銀行も出張してこい!」の電話を受けてやってきたイッパチ、ニッパチに巫女服を着せて侍らせる。

 チャリン チャリン チャリチャリン チャチャチャチャチャチャチャ ヂャヂャヂャチャヂャヂャヂャチャ!

 賽銭を投げ込む音は、二世紀前のパチンコ屋のようだ。

「福をお授けしまーーす!」

 社務所とも言えないシゲ爺の掘っ立て小屋で聞き知った声があがる。

「ハナ、お前もか!?」

「ニシシ(*^^)v」

 ハナもにわか巫女になって福笹を売り出している。

 

「大した賑わいだ」

「あら、市長!」

「定点観測の画像を見ていたら、大変な賑わいになっているので見に来たんです」

 及川市長の後ろには、ナバホ村のマヌエリト村長、フートン主席の周温雷がニヤニヤして立っている。

 岩陰に隠れて、顔を赤くしているのは、うちの社長。

「グッズを作れば当たりますねえ……」

 シマイルカンパニーの越萌メイもやってきている。

「メディアミックスだね」

 水を向けてやると、目をキラキラさせて即答。

「ええ、まずはアニメとフィギュアですね!」

「さっそく、氷室神社物語(仮称)製作委員会を立ち上げよう!」

「そうだ、お岩さんもキャラにしましょう!」

「え、あたし!?」

「シゲ爺を裏から支える世話女房!」

「ちょ、その設定はないよ!」

「じゃ、陰の女フィクサー!」

「それならいいかも」

「うん、カウンターキャラも……そうだ、ラボのメグミさんがいいですね! ああ、そうなればココちゃんも……」

 シゲ爺の神さまは、様々に島の人間の電圧を上げていく。

 

 なにごとのおはしますか知らねども かたじけなさに涙こぼるる

 

 西行法師の歌が思い出される。

 

 融通無碍な神道は西之島に似つかわしい。

 しかし、この賑わいは、西之島のみんなが、漢明の出現に恐怖していたことの裏返しだ。

 企んだわけではないが、無為無策の日本国への当てこすりにもなっている。

「ムム……宗教法人にしていなければ、税金が取れたのですが……」

 及川市長の歯ぎしりは、ちょっと気の毒なんだが面白い。

 

 何を隠そう、氷室神社をいち早く宗教法人にしたのは、このお岩なんだけどな。

 

 これで四海波静かになればいいんだが……取りあえず、お御籤とお守りを追加しよう。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・61『一人で初詣』

2022-12-22 06:19:13 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

61『一人で初詣』 

 

 

 考えこむのはヤバイ気がしてきて、年賀状の返事を書くことにした。


 半分以上は、あらかじめ出した人なんで、十人程への後出し年賀。後出しの分だけ、心をこめて書かなきゃ。

 はんぱなデジタル人間のわたしは、アナログな返事を書くのに昼前までかかってしまった。

 お昼は、はるかちゃんのマネをして関西風のお雑煮をこさえた……と言っても、お歳暮にもらった高級インスタントみそ汁の中に、チンしたお餅を入れただけ。

「なに食ってるんだ……まるで昔の犬のえさみてえだな」

「なに、それ?」

「昔の犬は、残り物にみそ汁のブッカケって決まったもんだ」

「ちがうよ、これは関西風のお雑煮。おいしいよ。おじいちゃんもこさえたげようか」

「よせやい。いくら戌年の生まれだからって、犬マンマは願い下げだぜ」

「おいしいのになあ……」

 わたしの強がりを屁とも思わずに、おじいちゃんは行ってしまった。


 昼から、年賀状を出すついでに初詣に行った。

 忠クンも誘おうかとも思って、スマホを手にしたんだけど……やっぱ止めた。


―― 厚かましいのにもほどがあるぞ! ――


 と、神さまに叱られそうなくらいのお願いをした。

 でも、お賽銭はピカピカの百円玉。使うのが惜しくて、ずっとひっそりと机の中にしまっておいたやつ。

 この百円玉は、去年の五月ごろ、気がついたらお財布の中に入っていた。

 なんだか不思議だった。前の日に食堂でおソバを食べようとして、お財布の中に一枚だけあった百円玉を券売機の中に入れた。確かに最後の百円玉だった。

 で、明くる日、コンビニで雑誌を買おうとしてお財布を開けたら、この百円玉が入っていた。

 造幣局でできたばかりみたいにピカピカの百円玉。でも、なんだか、とても懐かしい気持ちにさせてくれる百円玉だ。

 それを使ったんだから、わたし的にはとても大事な願い事。

 どんな願い事だって?……それは、この物語を最初から読んでいるあなたなら分かるわよね。

 おみくじを引いてみた。

 大吉だった!

 ―― 新しきことに挑みて吉。目上からの引き立てあり。波乱多きも末広。意外のことあるも臆する無かれ。努力と忍耐が肝要なり ――

 で、恋愛運は……

―― 気は未だ熟せずも、末吉。人の成長を気長に待たねば破綻の気配 ――

 正月のおみくじってたいがい大吉なんだけど、良く読むと、良いことは多いけど、なんだか半分脅かしみたい。波乱多きもとか、臆する事なかれとか、破綻の気配とか。

 要するに、努力し忍耐しなきゃ保証無しってことで、不幸になれば、おまえの努力と忍耐が足りないからだってこと。

 幸せになれなければ自己責任。なれたら、神さまのお陰ってこと。いい加減っちゃ、いい加減なんだけど、これも神さまのご託宣。ありがたく持ち帰ります。

 よく、境内の木の枝に結んで帰る人がいるけど、あれは悪いくじを引いたときにやるもんで、神さまのご託宣であるので、ありがたく持ち帰るのがセオリーだとおじいちゃんに教えてもらった。

 え?

 ありがたくお財布の中に収めると、ポンと肩を叩かれた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・370『玄関前の大掃除』

2022-12-21 16:53:23 | ノベル

・370

『玄関前の大掃除』さくら    

 

 

 学校のやることに無駄はおまへん。

 

 昨日のクリスマスツリーで―― せや、うちはミッションスクールやったんや! ――と感激して、スマホで学校の行事予定を確認。

 ちなみに、去年まではプリントした年次予定表とかが配られてたんやけど、エコとか資源節約とかで、学校のウェブページで確認してくださいとのこと。

 まあ、余計なプリントが無くなるのはええことです。

 中学の頃は、貰ってそのままカバンに突っ込んで忘れてしまって、学年の終りにカバンの中身全部出して「あ、行事予定表!」と叫んで、全部済んでしもたモミクチャの予定表が出てきたりした。

 そこで分かったということもあった(留美ちゃんがちゃんとやってるんで、ズボラかましてるとこもあるんやけどね(^_^;))んやけど、まあ、どっちにしても、テレビの番組表かっちゅうくらい、ごちゃごちゃしてる行事予定表を見よういう気にはなりません。

 で、スマホで確認したら、23日『クリスマスページェント』と書いてある。

「あれ、クリスマスって、24日やんなあ」

「24日は……」

 留美ちゃんがスクロールすると―― 終業式 クリスマスミサ その他 ――と出てる。

「その他ってなんだろう?」

 メグリンが覗き込む。

 さらにスクロールすると―― ここをクリック ――と出てくる。

 このクリックサインは、半分くらいの日程にあるんやけど、メンドイのでほとんど見ません。

 まあ、差し迫って大事なことは担任のペコちゃんが、HRとかで念押ししてくれるさかいにね。 

 で、開いてみると、やっぱり、年末の学校の事務的な(施設点検とか帳簿の提出とか)ことが書いてあって、いろいろムズイ。

「奨学金……留学希望締め切り……他にもいろいろあるんだねえ」

 

 おい、そこ、さっさといくぞ!

 

 熱中してたら、ソニーの怖い声が飛んできた。

 そう、今日の午後は授業は無いけど、大掃除。

 堺の中学校でノホホンと過ごしてきた感覚では、どうせやるんやったら前日の23日にやったらと思うんやけど。

「外回りの掃除もあるから……ほら、雨天順延と書いてある」

「それに、先生たちの会議もいろいろあるみたいだよ。これは、先生も責任をもって監督しますってことだね……うん、指揮官先頭の心得だね!」

 お父さんが幹部自衛官のメグリンは、こういうところで感心する。

 

 こら! 何をしとるかっ!!

 

 国に帰ったら現役陸軍伍長、気合いの入り方がちゃいます。

 

 うちらの担当は玄関前から正門までの通路というか広場というか……植え込みとか入れたら500坪ぐらいはありそうな、通称玄関前のとこ。

「ああ、あんたらか。そこに道具一式出したあるから、チャッチャとやんなさい。終わったら報告!」

 めちゃ簡単な指示をして、監督の長瀬先生は玄関ホールに行ってしまう。

「先生、忙しいみたいだね」

 留美ちゃんが目を向けた先、事務所の前でIDカードぶら下げた人らとお話しにかかってはる。

 なるほど、うちらへの指示がおざなりやったんは、そういうわけか。

 長瀬先生は体育科の古株で、学年はじめに校内探検に夢中になってて怒られた(297『校内探検・玄関から真理愛館へ』)。怖い先生やけど、きっちりしたとこはさすがやと思てます。

「では、わたしが指揮を執る」

 ソニーが箒を構えてうちらの前に立つ。

「「「はい!」」」

 思わず気を付けしたのは、長瀬先生の余熱か、現役陸軍伍長の迫力か。

 うちらは、シャキンとして玄関前の大掃除にかかったのでありました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・60『元日のマドハル放送』

2022-12-21 07:13:46 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

60『元日のマドハル放送』 

 

 

 

「ねえ、テレビに出たって、なんで言ってくれなかったのよ!?」

 そこから話しは再開されて、互いの近況やら、小規模演劇部の稽古の仕方などについてハッピートーキングは炸裂した!

 年明け早々、第二回目のマドハル放送。

 二人だけのビデオチャットを『ハルマド放送』『マドハル放送』どっちにしようってジャンケンしたら勝ったんだ(^▽^)!

 兄貴は、その後タキさんのアドバイスを元に、香里さんに連絡をとってイソイソと出かけていった。

 新宿にある名画座(料金が安いが選りすぐりの名作が観られる)で『結婚適齢期』を観たあと、同区内のあまり肩の凝らないフランス料理屋へ。コースも三種類ほど書かれている。あとは……十八禁の内容なので省略させていただきます。

 なんでこんなに詳しく分かっちゃったか言うと、兄貴は筆圧が高い(この時は、さらに気合いが入ってた)ので、メモ帳の下の紙にクッキリ残っちゃってんのよ。

 ジュディーガーランドが気になったので調べてみた。

 ライザミネリと親子だってことが分かった。『オズの魔法使い』の彼女、カワユイんだけど、一つ気になる……このツンとした鼻は、わたしの(数少ない)コンプレックスのひとつなのだ。

 ……で、思い出しちゃった。中学に入ったころ、髪をお下げにしてたら、はるかちゃんのお父さんが、こう言ったのよね。

「まどかちゃんて、ジュディー……いや、なんでもない」

 あれって、わたしのコンプレックスと知って、言い淀んだ……まあ、あまり深く考えないことにいたします。

 そして、はるかちゃんに最後にお願いした。

「女子三人、照明、道具に凝らないお芝居ないかしら?」

『すみれの花さくころ』を紹介してくれたけど、このお芝居は歌芝居なので歌がね……上手じゃないと。

 里沙も、夏鈴もね……だれよ、おまえも人のこと言えないって!

 大晦日は、シキタリ通りの年越し蕎麦をみんなで頂きました。香里さんもいっしょだったよ、タキさんのアドバイスはすごい!


 元日は大晦日ほどにはシキタリにはうるさくない。


 昔は、家族そろって、荒川区で一番の神社に初詣に行ったものだけど、兄貴やわたしが年寄りの時間に合わせられなくなってから(つまり朝寝坊)は、各自の時間に合わせて初詣。

 だれが一番早いと思う?

 おじいちゃん……いいえ兄貴なのよね。紅白歌合戦の最終組のころに出かけちゃった。むろん香里さんといっしょ。朝は、この兄貴の大鼾で目が覚めた。

 茶の間に降りて、兄貴を除く家族でアケオメ。

 ガキンチョのころは、振り袖なんか着たこともあったけど、今はジーパンにセーター。お雑煮をおかわりして二階の自分の部屋へ、


 パソコンを開くと、すでにはるかちゃんが待機してくれていた。


「ごめん、待たせた?」

「ううん、わたしも今落ち着いたとこ」

 元日のはるかちゃんはリビングに居た。

 ここから、お雑煮の実況中継。はるかちゃんちはタキさんに習ったレシピで関西風にチャレンジ。

「へえ、白みそに丸餅なんだ……お餅焼いてないんだね」

「へへ、では、はるかの関西風お雑煮の初体験……」

 実においしそうに食べる……こっちも負けずにおいしそうにいただく。

 ……視線を感じる。

「何やってんだ、おまえら」

 兄貴がパジャマの寝癖頭のまま覗き込んでいる。

「これが元日の現実の(韻を踏んでます)兄ちゃんで~す!」

「や、やめろって!」

 カメラで追いかけ回すと居なくなっちゃった。

 中継のあと、はるかちゃんは嬉しい約束をしてくれた。

 何かって? それは、まだナイショ。


『年賀状が来てるわよ!』

 お母さんの声で茶の間に降りる。


 わたしたちって、たいがいメールでアケオメしちゃうんだけど、二十通ほどはやってくる。

 アナログだけど、手書きの年賀状っていいものね。メールのアケオメで一見して一斉送信だったりすると、ダイレクトメールよりガックリくる。

 年賀状は、たとえパソコンでプリントしたのでも――今年もよろしく!――なんて手書きで書いてあったりっしてね、

「これは、この人が、わたしのためだけに書いてくれたんだ」

 と思えて、ホンワカするんだ。

 何通かは、演劇部を辞めてった人たちのがあった。

 ほら、テニス部に行ったA子からも来てた。覚えてる? 倉庫跡の更地で発声練習してたら、テニス部のボ-ルが飛んできて、投げ返したら、ムスっとして、態度わる~って感じの子。

―― クラブ逃げ出したみたいで、ごめんなさい。マリ先生のいないクラブが不安で……まどか達に押しつけたみたいだけど、陰ながら応援してます ――という内容。

 少し救われた気持ちになった。

 紀香さん、潤香先輩のお姉さんからも来ていた。

 先輩は相変わらずの様子……新学期が始まったら、またお見舞いに行こう。

 マリ先生は、あいかわらず正体不明。

―― クラブがんばってる? わたしは、わたしの道でがんばってます。乃木坂ダッシュの新記録はまだ? ――

 忠クンからも来ていた。最初から気づいていたんだけど、一番最後にまわした。

―― 謹賀新年。まどかに負けないよう頑張ります。大久保忠友 ――

 と、カナクギ流で書いてあった……よく見ると、下の方に虫が這ったような追伸。

―― 薮先生のところで感銘を受けて出しました。元日に間に合わなかったらごめん ――

 トキメキとガックリがいっぺんに来た……そして、しばらく眺めていたら心配になってきた。

 去年の忠クンは、あの火事の中からわたしを助けてくれたことも含めてなんだか突飛すぎるような気がする。

 なんだかアンバランス……気のせいかなあ?

―― まどかも人のこと言える? ――

 そんな声が、自分の中から聞こえてきて、うろたえた元日の朝でした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』

2022-12-20 12:05:09 | ノベル

・369

『留美ちゃんが立ち止まるわけ』さくら    

 

 

 あ

 

 駅前の横断歩道で、留美ちゃんが一瞬立ち止まる。

 品行方正な留美ちゃんが、横断途中に立ち止まるなんて、初めての事。

 でも、時間にしてコンマ5秒ほど。すぐに渡り終えて改札へ向かうエレベーターに飛び乗る。

 なんせ、朝の通学途中やさかいに、足は緩められません。

 せやさかい、事情を聞いたのは電車がホームにやって来るのを待ってる間ぁになる。

「なんやったん?」

「うん、あとでね」

 このご時世、人ごみの中では、むやみには喋られへんのを忘れてた。

 で、もっかい聞いたのは、学校最寄り駅に着いて改札を出たとこ。

「で、なんやったん?」

「え、なに?」

「なにて、横断歩道の真ん中で立ち止まったやんか!」

「あ、ああ……アハハハ」

「ちょ、なにが可笑しいん?」

「いや、さくらの好奇心て、大したものよね」

「え、そう?」

「だって、わたし、忘れてたから」

「え、せやさかいに、なんやったん?」

「あ、うん。いつも信号のとこに立ってる婦警さんいるでしょ」

「あ、ああ……小柄な?」

「うん、あの婦警さんがね、オシャレな私服ですれ違ったの。たぶん非番のお出かけだよ」

「せやったん?」

 うちの感動は、ちょっと薄い。

 せやかて、婦警さんは信号機と同じで、いわば風景の中のオブジェ。制服の中身まで考えたことあれへんので、顔までは憶えてへん。

 留美ちゃんいう子は、相手の興味が薄かったら、それ以上に話題を広げる子やないねんけど、うちには突っ込んでくれる。

「わたしたちより、ちょっとだけ年上の女性が、婦人警官になろうって決心するのはスゴイと思うのよ。それが、通学途中の高校生に顔を憶えられるほど信号のとこに立っていて、非番のお出かけ。ちょっとおしゃれしてね。感動するし、想像しちゃうわよ」

「そ、そうやね! デートやろか!?」

 留美ちゃんの解説で、うちの頭の中で婦警さんは人格を持ち始め、とたんにテンションが上がる。

「違うね」

「ちゃうのん?」

「所轄管内でデートなんかしないよ。それに、デートするには朝すぎる。横断歩道渡ったらロータリー、たぶん友だちの車とかが待ってて、いっしょに出かけるんだと思う。たぶん、ちょっと早めのクリスマスとかだよ。お巡りさんは、年末は歳末特別警戒で忙しいからね。きっと、年内最後の休みなんだ」

「でも、お友だち同士のクリスマスでオシャレする?」

「ちっ、ちっ、ちぃ」

 あたしの鼻先で人差し指を振る留美ちゃん。

「休みの日に衝動買いしたオシャレグッズ、そうそう着ていく時間も場所も無いのよ」

「しょ、衝動買いかあ……」

 うちの衝動買いは、せいぜいコンビニのスナック。

「そうかあ……」

 口では言わへんけど、ここ一年ほどは作家志望的な感じの留美ちゃん。目の付け所がちゃう。

 いっしょに暮して二年以上、同じような生活サイクルやのに、着実に進歩してる感じ(^_^;)。

 うちも、がんばらならあかんなあ。

 

 あ

 

 校門入ったとこで、また留美ちゃんが立ち止まった。

「あ」

 さすがに、うちも気ぃついた。

 正門入って左側の木ぃが、クリスマス仕様になってる!

 綿の雪と電飾が付けられて、天辺には大きなお星さまが付いてる。

 

 せや、うちはミッションスクールやったんや!

 

「この木って、もみの木だったんだ」

「四月には校内探検したのに気ぃつけへんかった」

 

 終業式まで、あと三日。

 もうちょっと、楽しんでみたいと思うさくらと留美でありました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・59『ビデオチャットの開局式!』

2022-12-20 07:07:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

59『ビデオチャットの開局式!』 

 

 

 ジャジャジャーン!

 て、感じで、はるかちゃんのドアップが、モニターに大写しになった!

「ウフフ……」

『アハハ……』

 て、感じで、なかなか言葉 にならない。

 今日は、パソコンを使ったビデオチャットの開局式!

 ビデオチャットは、クリスマスイブの夜に、はるかちゃんと約束した。

 だけど、これって、カメラ買ってきて付けたらすぐにできるというものではなかった。

 わたしには、訳分かんないダウンロードとかいろいろあって、結局昨日でバイトが終わった兄貴に二時間あまりかけてやってもらった。
 
 で、ウフフとアハハになったわけ。

「あー、あー、こちらJO MADOKA聞こえますかどうぞ」

『こちら、JO HARUKA感度良好です。どうぞ』

「なんだか、そっち賑やかそうじゃないのよ」

 はるかちゃんの周りに人の気配……まわりのロケーションも、なんだか違う。

『こっちはね……』

 ガサガサと音がして、カメラがロングになった。

 なんだか、こぢんまりしたレストランみたい。右側のカウンター席で手を振っているのは、はるかちゃんのお母さんだ。

 で、カウンターの中には、チョンマゲにオヒゲの怪しきオッサンがシェフのナリしてニヤついている。

『こっちがね、お母さん!』

『おひさぁ。元気してるまどかちゃん!?』

「はあい、絶好調でーす!」

「ばか、そんなデカイ声出さなくても聞こえてるって」

 兄貴が割り込んできた。

『あ、健一君?』

「あ、どうもご無沙汰してます。今ボリュ-ム落としますんで」

『いいわよ、このままで。賑やかなほうがいいわよ』

「そっすか、じゃあ、このまんまで……」

『ちょっと見ないうちにイケメンに磨きがかかったわね』

「どもっす」

 兄貴は、ボリュ-ムの出力をこっそり落とした。確かに、はるかちゃんのお母さんの声はデカイ。

『で、奥のオジサンが、このお店のオーナーシェフの滝川さん』

 チョンマゲが少しズームアップした。

『タキさんて呼んでくれてええからな。まどかちゃん……ちょっと横顔見せてくれる?』

「え、あ、はい……」

 わたしってば、素直に横を向いた。横顔にはあんまし自信が無い。

『……ううん……ライザミネリよりも、ジュディーガーランドやな』

――やっぱ、そうでしょ――はるかちゃんの声がした。

「だれですか、そのジュディーなんとかってのは?」

『ちょっともめてたの。まどかちゃんの写メ見せたら、タキさんがジュディーガーランドに似てるって。ああ、昔のアメリカの女優さん『オズの魔法使い』なんかに出てるって』

 映画……滝川……一瞬で、この二つの言葉が一つになった。

「滝川さんて、門土社のネットマガジンで『押しつけ映画評』……やってません?」

『よう知ってんなあ、マイナーなマガジンやのに』

 わたしは、はるかちゃんに――映画を観なさいよ――と、言われてから、ネットでいろいろ検索してて、この滝川さんの『押しつけ映画評』に出くわした。

 いまロードショーに掛かって大評判のアメリカ映画を、『冷めたハンバーガーをチンして、ベッピンさんのオケツでペッタンコにしたような』と小気味よくこき下ろしていたので、印象に残っていた。ちなみにネットで予告編を観ると、いや、予告編を観ただけでその通りだった。


「本業はレストランなんですか?」

『そや、映画評論なんか、ハイリスクローリターンやさかいなあ。いちおうパスタ屋やけど、和洋中なんでもありや』

「あ、あの、すみません。ぼく、まどかの兄で健一と言います!」

 兄貴が割り込んできた。

「あの、あのですね。お見かけしたところ、かなりのベテランのように……」

 お見うけして、兄貴は、恋人同士がヨリを戻すには、どのような店で、どんなシュチュェーションがいいか真剣に聞き出した。もっとも――友だちが悩んでるんで――と見栄を張っていたけど、タキさんどころか、はるかちゃんにも、お母さんにもお見通しのようだった。

 延々十五分、兄貴に占領されて、順番が回ってきた。

 はるかちゃんのパソコンには携帯型のルーターってのが付いていて、どこにでも持ち運んで使えるらしい。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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魔法少女マヂカ・301『戻った!』

2022-12-19 15:50:27 | 小説

魔法少女マヂカ・301

『戻った!語り手:マヂカ 

 

 

 あ、戻った!?

 

 クマさんが感動の声を上げたのは、まだ完全にタイムリープが完了する数秒前だ。

 来栖司令が回収したM資金の残り全てをかけて整備してくれた時空転送機。

 高機動車北斗の移送システムを流用しているので無理がきかず、無事に戻れるのは昭和二年(1926年)が限界。

 昭和と言っても関東大震災からは三年足らずなので問題はないだろうと思ったのだが、クマさんは「せめて大正時代に戻してください、心配を掛けたくありません」と強く希望するので、無下にもできず、ちょっと無理をしている。

 大正十三年一月、震災から三か月、富士山頂の戦いでファントムに連れ去られて二か月あまりの原宿。

 スペック不足のグラボを付けたゲームパソコンのように、実風景が戻って来るのが遅い。

 

 まず蘇ってきたのが、足を載せる地面だ。

 

 出発したニ十一世紀の原宿駅前は舗装道路だったが、昭和二年の原宿はことごとく未舗装。

 フワリと靴の裏に戻った感触が、高坂家に奉公に来て以来馴染んだ土の感触。

 だから、視界が戻るより前に戻った喜びがせき上げてきたんだ。

 

 右手に神宮の森がしずもり、左に後年に『竹下通り』として全国区になる若者の通りは、まだまだ田舎道。

 その道を一分も走れば、数年後に東郷神社が建つはずの高坂侯爵邸。

「分かっているね?」

 念を押す。

「はい、承知しています」

 昭和という年号は言っていないけど、十日余り前の年末に大正天皇が崩御されたことを伝えてある。

 崩御されて、昭和と改元されたけど、十二月も末の事であったので年が明けたと言っても、国を挙げて喪に服している。

 原宿の駅前も正月だというのに、それらしい飾りつけは無い。

 

 あ!?

 

 竹下通りの入り口には、まだ百メートルはあろうかと云うのに、双方が気が付いた。

 双方走り出したいのを堪えて、足早に接近していく。

「御心配をおかけしました、虎沢クマ。ただいま帰還いたしました」

 深々と頭を下げるクマさんは、まるでシベリア出兵から帰ってきた兵隊のような挨拶をする。

 同時に頭を下げた高坂侯爵家の令嬢も、出征兵士を出迎える愛国婦人会のように慇懃に礼をする。

 令和の時代に慣れてしまった女子高生の感覚ではじれったい限りだが、数百年を生きて日本を見てきた魔法少女としては、さもありなんだ。

「霧子お嬢様!」

「お帰り! お帰りクマさん! ちょうどクマさんの無事を神宮でお祈りしてきたところよ! よかった! ほんとうによかった!」

「はい、あちらでは真智香さんたちに大変お世話になって……お嬢様、あちらに真智香さんが」

「ま、真智香あああ!」

 今度は耐え切れずにクマさん共々、こちらに駆けてくる霧子。やっぱり、この年頃の女の子は――感動したら走り出す――のが似合ってる。

「ダメ、近づいたら、今度は霧子を巻き込んでしまう! 詳しくはクマさんに聞いて、とっても遠いところから戻ってきたんだから」

「ありがとう真智香!」

「うんうん、クマさんもそうだけど、霧子も元気で! これから大変な時代がやって来るけど、がんばって生きて!」

「うん、真智香も!」

「じゃ、離れて、もう行くから!」

「真智香さーん!」

 クマさんも手を振ってくれる。その向こう、令和の時代には牛丼屋ができているあたりから、背の高い巡査が腰のサーベルを押えて走って来る。

 箕作巡査だ。

 箕作巡査も、クマさんの横に並ぶなり、イギリスの騎兵将校のように敬礼を決める。

 バカ、はやく自分の彼女を抱きしめてやりなさいよ!

 一言言おうと思ったら、目の前をプラズマが走り出した。

 時間切れだ。

 

「さようならあああ!」

 

 いつの時代でも通じるお別れと信愛の気持ちを精一杯叫んで、手を振りながら令和の時代に戻っていく。

 

 原宿~原宿でございます。

 

 きれいなアナウンスと共に雨だれに似た陽気な着メロ……タイミングよく、一番線に列車が来たところだ。

 アナウンスの方向に五六歩歩けば改札だ。

 このまま電車に乗って日暮里に帰るか。大塚台公園の司令部に報告にいくか。

 数秒迷って、そのまま竹下通りに向かう。

 昭和二年でも、クマさんや霧子が、そしてその後ろを見守るように箕作巡査が屋敷に向かっているはずだ。

 時空を隔て、せめて、一緒に歩いていると感じて。

 それでも『東郷神社⇒』の標識は横目に殺して明治通りに抜ける。

 敵はまだまだ多い。

 ポチョムキンは倒したが、ファントムは健在。クマさんから分離された神もジッとしては居ないだろう。

 しかし、ここしばらくは仕掛けてくる力は無い。

 

 そもそも、わたしは休むつもりで令和の東京に来たんだからな。

 

 明治通りを千駄ヶ谷の方向に歩く。

 魔法少女マヂカは渡辺真智香に戻りながら、東京の雑踏の中に紛れていった。

 

 魔法少女マヂカ   第一期 完

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

  

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・58『大波乱の予兆』

2022-12-19 07:01:59 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

58『大波乱の予兆』 

 

 

―― 理由は、その両方だと思いますよ ――

「で、おまえ達は、どこまで進んでるんだ?」

「え……」

「その……」

「適当に返事しときゃいいわよ。どうせこの先生の暇つぶしなんだから」

「失礼なババアだな。わしゃ、若者の健全な育成のためにだな……」

「はいはい。ババアはこれで退散いたしますよ。また機械の操作が分からなくなったら声かけてくださいな」  

 奥さんは意外なくらい新しい鼻歌と共に行ってしまった。


「おばちゃん、なかなかいけてますね」


「少年よ、人も物ごとも正確に見なくちゃいけない。あれは、おばちゃんではない。礼節をもって呼ぶとしても、お婆さんが限界だ」

「でも、あの鼻歌、オリコンで十週連続でトップですよ」

「ただの、オチャッピーのなれの果てさ。ただ、女子挺身隊で電機工場に行っとたせいか、いまだに家電には強いけどな。有り体に言えばクタバリぞこない」

「アハハ、家じゃ、おばあちゃんが、おじいちゃんのことをそう呼んでます」

「あれでも心臓が弱くてな。二度ほど俺が蘇生させてやった。時々後悔するけど、あいつが居らんとテレビも満足に点けられん」

「夫婦愛ですね……」

 忠クンがしみじみ言った。とたんに先生がハデにむせかえった。

「ゲホゲホ! ゲホホホ! 忠友少年。そう言う言葉は、少年の少の字が中になってから言いたまえ……で、どこまで話したっけ?」

「あのう……ね」

 思わず二人は目を合わせた。

「うん、分かった!」

 先生は膝を叩き、メガネをずらしてわたし達を見つめ直して断言した。

「せいぜいキスの段階だな」

「「あの……」」

 同時に声が出た。

「どうだ、大当たりだろう!?」

 当たってはいるんだけど、状況が違う。あれは賞状が風に飛ばされて不可抗力だったんだ(詳しくは7『スマホ片手に悶々』を読んで)

「二人とも、純で真っ直ぐで曇りのない目をしている。今時珍しいと誉めてやる」

「ありがとうございます」

 忠クンは、照れて頭を下げた。

「しかし、二人とも、雰囲気と行きがかりに弱い……ま、それで、火事場の馬鹿力。まどかの命を助けることもできたんだろうけどな。でも、どうだ、俺のおまじない、あらかわ遊園じゃ役にたっただろう。な、まどか」

 やっぱ薮先生は狸だ、こんなことまで知ってるなんて。

 実際火事の件は近所でも少し評判になった。でも、あらかわ遊園のことはね……よく考えたら、あらかわ遊園以来だ。二人で会うのは……って、狸が一匹オジャマ虫。

「物事には、裏と表があってな。こうやって狸じじいが、出会いの場を作ってやることもあるし、オジャマ虫になることもある」

 先生は、最後のヨウカンを口に放り込んだ。意外においしそうに食べている。

「忠友少年……真っ直ぐで曇りのない目だが、焦りを感じる。まどかに対して、その焦りは禁物だ。何事にもな」

「先生……」

「話は最後まで聞きなさい。俺の親父は海軍の軍医だった……」

 先生は、わたしの背後の長押(なげし=襖の上の水平な細い梁みたいなの)に目をやった。

 体をひねっても見えないんで、忠クンの横に行った。忠クンの体温を間近に感じて、少しトキメイタ。それを知ってか知らでか、先生は演説を続けた。

「軍人というと十把一絡げに悪く言うやつもいるけどな、気持ちのいいヤツも多かった。親父は航空母艦の軍医長を長くやっていてな。おれがガキンチョの頃、よく家に若いパイロットを連れてきた。みんな真っ直ぐで曇りの無い目……しかし視点は爽やかなほど彼方にあった。まだ戦争は本格的にはなっていなかったけどな。國を護るということは、こんなに人の心を綺麗にするものかと思って聞いてみたことがある」

 気がつくと、先生は湯飲み茶碗にお酒を注いで飲んでいた。いま飲み始めたのか、さっきからそうしていたのか分からない。顔色を見ても、お酒に強い人なので分からない。

 やっぱ、薮先生は狸だ。

「その人は、こう言ったよ――そんな大げさなもんじゃないよ。航空母艦の飛行機に乗っているとね、潮風と空の風に吹きっさらされて、見えるものは遙かな水平線。で一見爽やかそうなバカッツラができあがるんだよ。秘訣って言えば、曜日を忘れないように、毎金曜日にカレー食うことぐらいかな――ってな」

 長押に掛かった写真は、少し帽子を斜めに被った先生と似ても似つかないイケメン。

 そのイケメンは――どうした若いの、どうしようってんだね――と、挑発している。

 それをわたしといっしょに眺めている忠クンの顔は……ね。

 マクベスの首を獲ったマクダフのようでした(分かんない人は『マクベス』読んでください)

 で、このときの忠クンの顔……というか、想いは、来年に起こる大波乱の予兆だった。ガキンチョのまどかが、それに気づくにはもう少しの時間が必要だった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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