大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・31『潜入・3・爆ぜる』

2022-12-18 15:26:54 | 小説3

くノ一その一今のうち

31『潜入・3・爆ぜる』 

 

 

『申し訳ございません、竈(かまど)に松ぼっくりが入ってしまいました』『人騒がせな!』『気をつけよ!』

 

 食堂(じきどう)の役僧と警備の僧のやり取りが聞こえたのは、嫁持ちさんに続いて経堂の破風から忍び込もうとしている時だ。

―― 社長も古い手を使う ――

 たしかに、松ぼっくりを爆ぜさせて人の注意を引くのは超古い。お祖母ちゃんも「役小角(えんのおづね)の前からあった」と言っていた。しかし、爆ぜるタイミングを操るのが難しく、ご先祖の風魔小太郎も、めったにやらなかったという。凄い、さすがは百地流総帥。

 ムギュ

―― わたしに化けるのはいいですけど、そんなにお尻大きくないです ――

 破風から潜り込む、一瞬、わたしに化けた嫁持ちさんのお尻がつかえた。

 それには応えずに、先を進む嫁持ちさん。

 ウ(⊙ꇴ⊙)?

 自分のお尻もつかえたが、黙って嫁持ちさんの後に続く。

 

 梁から下を覗くと、王子の前には……まずい、警備の僧が蹲踞している。

―― あれは社長だよ ――

―― え、いつの間に? ――

―― 早い うまい 安くない……社長のモットーだよ ――

 なんだか、某牛丼屋のようなことを言う。

―― まだ行かないんですか? ――

―― 王子が怪しんでいる ――

「……待ってくれよ、今の今まで怖い顔をして僕を閉じ込めておいて、松ぼっくりがパンパン鳴ったと思ったら『お助けします』って。外に出たとたんに脱走を図ったとかで殺されたんじゃたまらない」

「いえ、けして怪しいものでは……」

「怪しいよ、しっかり怪しいよ! この国は、昔から権謀術数が絶えない。うちのご初代様も、前王朝を『お助けします』って言って城門を開かせて皆殺しにして滅ぼしたんだからね!」

「それは、前の王朝が悪逆非道であったので、ご初代様が謀をめぐらされたのでございます」

「黙れ、もともと城から誘拐したのは、お前たちの親分の大僧正じゃないか。その手下の坊主が、今の今まで経蔵の前で見張っていた人相の悪い坊主が『助けてやる』と言って、誰が信じる!」

「これはしたり、変装を解くのを忘れておりました(;'∀')」

 

 クルリ

 

 エフェクトを付けたら、まさにクルリという感じで、社長は僧の変装を解いた。

 ウ……(*゚O゚*)

 変装を解いて一つ前のわたしの姿。それはいいんだけど、どうして三秒間の素っ裸!?

―― 社長ズボラだから、変態術の更新が遅れてるんだ ――

「我らは日本の忍者です、さる筋のお方から殿下を救出するように仰せつかってまいりました」

「日本の忍者!?」

 王子の声が弾んだ。

―― 日本製は信用が高い ――

「身に寸鉄も帯びておらぬことは、たった今、お見せした通りでございます」

―― よく言うよ、更新してないからフリーズしただけじゃん! ――

「あ、ああ。確かに、若い女子が全裸になってまでの身の証、感動したぞ……待て、いま『我ら』と申したな? 他にも仲間が居るのか?」

「いかにも」

 

 スタン

 

「わ!?」

 嫁持ちさんと揃って梁から飛び降りる。無音でも下りられるんだけど、これ以上王子さまを驚かせてはいけないので、子ネコが下りてきたほどの音を、わざとたてる。

 パン パパパパーン

―― え、なに!? ――

「また松ぼっくりか?」

「いえ、あれは門の蝶番に仕掛けておいた爆薬が爆ぜたのでございます。いくぞ!」

「「おお!」」

 嫁持ちさんが王子の手を引き、その前と後ろを社長とわたしで固めて走る。

 ドン

 門は、一見なんともないんだけど、社長が体当たりをかけると、あっさり外側に倒れた。

 また松ぼっくりかと思ったのはわたしと王子様だけではなく、警備の者たちも出足が遅れている。

 でも、街を出るには、もうちょっと時間を稼がなくっちゃ。

 

 ドドオオオオン!

 

 お寺を挟んだ反対側で大きな爆発音。

 街中の関心がそこに集まる。

 数秒間だけ路地裏に隠れ、警備兵たちが爆発地点に走るのをやり過ごして、易々と街を抜けだした。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・57『今朝のNOZOMIスタジオでした』

2022-12-18 06:50:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

57『今朝のNOZOMIスタジオでした』 

 

 


「はるか先輩、テレビに出てたんですか……!」

 忠クンが、やっと声をあげた。

「ハーーもともと綺麗な子だったけど、こんなになっちゃったのね……」

 奥さんが、ため息ついた。

「ほんとにキレイだ……」

 忠クンも正直にため息。チラっと顔を見てやる。

「で、でも、スタジオで撮るとこんな感じになっちゃうんですよね」

 と、自分で自分をフォロー。いいのよ気をつかわなくっても。だれが見ても、このはるかちゃんはイケテルもん。

「はるかのやつ、大阪に行っていろいろあったんだろうなあ……これは、スタジオの小細工なんかで出るもんじゃないよ」

 そこでサプライズ。スタジオにスモップのメンバーが現れた。

―― うそ…… ――

 はるかちゃんは口を押さえて、立ちすくんでいる。

 それから、二三分スモップに取り囲まれて会話。

―― 今日のNOZOMIスタジオでした ――

 ナレーションが入り、熟女のアイドルと言われる司会のオジサンの顔になって録画が切れた。

「二人とも、冬休みになって朝寝坊だろうから見てないだろう」

「うちは、朝はラジオだから……」

 と、我が家の習慣を持ちだして生返事。

「うちは婆さんが、毎朝観てるもんでなあ」

「いつもは、ノゾミプロの役者の出てる映画とかドラマ紹介のコーナーなんだけどね、昨日は『ノゾミのお客さん』て、タイトルで、特別だったの。最初は、どこかで見た子だなあって思ってたんだけど、『坂東はるかさん』て、テロップが出て、わたし魂げて録画したの。ね、あなたも歯ブラシくわえて見てたもんね」

「ああ、最初プロデュサーのおっさんと二人だけの対談だったんだけどな。頬笑み絶やさずホンワカと包み込むような受け答え。それで目の底には、しっかりした自我が感じられた。あれはいい女優になるよ」

―― 本人にその気があればね ――

 わたしは、クリスマスイブのはるかちゃんとの会話を思い出した。

 はるかちゃんは高校演劇が楽しくなってきたところ。プロの道へ行くことにはためらいがあった。

 ただ、白羽さんてプロデュ-サーが、とてもいい人で。この人の期待をありがたく感じながらも持て余している。

 で、一度里帰りを兼ねてプロダクションを訪れたら、いきなりスタジオ見学……かと思ったら、しっかりカメラに撮られている。

 そして、クリスマスの夜、工場でみかん剥きながらの女子会。

 あの時のスマホの電話。

 きっとこの収録をオンエアーするための確認だったに違いない。

 どうしようかなあ……というのが、はるかちゃんの話しのテーマだった。

 でも、オンエアーのことも、スモップに会ったことも、はるかちゃんは言わなかった。そこが、はるかちゃんのオクユカシイとこでもあるんだけど、幼なじみのまどかとしては、チョッチ寂しい……それにスモップに会うんだったら、サインとかも欲しかったしね(^_^;)。

 ヨウカンを一ついただいて、お茶を一口飲んだところで思い出した。

「なんで、忠クンここに居るのよ!?」

「それは、こっちが聞きたいよ。まどかのお兄さんから電話があって、ここに来てくれって」

「二人でいるの嫌か?」

 先生が、右のお尻を上げながら言った。で、一発カマされました。

「そう言うわけじゃ……」

 言いよどんで、お茶に手を伸ばす。

 アチ

 いつの間にか奥さんが淹れ替えてくれている。

「ほんとは、まどかの兄貴を彼女ごと呼ぶつもりだったんだけどな、なんかこじれとるのか、鬱陶しいのか、二人を代理に指名してきよった」

 なるほどねぇ……分かった(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 98『馬車に乗って酉盃へ』

2022-12-17 11:02:07 | ノベル2

ら 信長転生記

98『馬車に乗って酉盃へ』織部 

 

 

 殺気は無いが怪しいやつだ。

 

 アーケードの屋根から下りてきた劉度(リュドミラ)の目はまだ三角だ。

「アハハ、カメラ構えると、つい夢中になってしまって。ぼく、コウちゃん……あ、大橋義姉さんの義弟の孫権です。さっきは、いい写真が撮れました、ありがとうございます(^▽^)」

「写真を見せろ」

「あ、いいですけど、消さないでくださいね」

 それには返事せずに、モニターの写真をスクロールさせる劉度ことリュドミラ。

「どの写真も虚を突かれている……カメラをアサルトライフルに持ち替えたらいいスナイパーになるぞ」

「ああ、ダメダメですよ。お祭りの射的でも満足に景品取れたことないのに(^_^;)」

「そうか、惜しいな」

 警戒してるのか親近感を持ったのか分からん奴だ。

「孫権、そろそろ目的を言いなさい。写真を撮りに来ただけじゃないでしょ。今日のイベントは予定していたのがキャンセルが入って臨時に入れたものよ。あらかじめ知ってるわけがない」

「面白い店員さんが入ったと聞いたのはほんとだよ。それで、いい被写体になりそうだったら写真撮らせてもらおうと思ってた」

「それで?」

「実は、酉盃(ゆうはい)に、いいロケーションを見つけたんです。そこで撮影とかできないかなって」

「撮影なら、自分で行けばいいでしょ、わたしにも付き合えってこと?」

「うん、このパサージュのコンセプトにも合ってるし、それに……魏の不動産屋が目を付けてるみたいで、放っておくと再開発されそうなんだ」

「孫権、いくらわたしが呉王の妃でも、そうおいそれと不動産は買えないわよ。皆虎に家を建てたし、このパサージュだって造ったところなんだから」

「まあ、騙されたと思って来てよ。ロケーションの一画を三月ほど借りてくれるだけでいいんだから」

「もう、言い出したら聞かない人なんだからあ」

 

 フフフフ

 つい微笑んでしまう。血の通わない義姉弟なんだろうが、呼吸の合い方が小気味いい。

「サザエさんとカツオくん……」

 リュドミラが方頬で笑った。

 

 酉盃は、豊盃や卯盃、皆虎と並んで扶桑(転生国)との国境線に並ぶ街だ。

 豊盃ほどの賑わいも規模も無いが、卯盃よりは大きい。信長と市の二人が最初に潜入した街でもある。

 豊盃羽沙壽のロゴの入った馬車は、わたしたち四人を乗せて酉盃(ゆうはい)の東門を潜った。

 

 街の勢いが違う……

 

 思わず呟いてしまう。

 我ながら古田織部という人間は、新しいもの、珍しいものには目が無い。取りあえずは見てしまう。

 見ることに臆したりはしない。遠慮なく正面から見る。

 見ること自身が喜びなので、ついつい笑顔になってしまう。

 この笑顔に、もう少し可愛さや美しさはあれば、世間の男は放っておかないだろう。

 扶桑の国に転生して、一応の美少女には生まれかわっている。女に生まれ変わっているのは、来世では再び男として生まれて、バージョンアップした古田織部として生きるためだ。

 そういう奴は、洩れなく学院(転生学院)に通っている。

 武田信玄、上杉謙信、織田信長……懇意にしている者はいずれも錚々たるメンツだ。

 こいつらは、ひとかどの審美眼を持っている(わたしほどではないけど)が、それ以上に天下をとりたい、作り変えたいという、次元の違う欲を持っている。

 どうも、天下に関わる欲を持っている奴は……まあいい、わたしは古田織部なんだからな。

「ふふ、越後屋さん、ちょっと興奮気味かしら?」

 う……大橋に見られてしまっていた。

 三国志を動かしているベクトルは、よく分からないが、大橋の美しさは学院の猛者たちの上を行くかもしれない。

「酉盃は、豊盃と卯盃の間くらいの規模ですが、元来の街として持っている力は卯盃や皆虎の方に勢いが感じられます」

「さすがは越後屋さん。わたしも酉盃にパサージュを作ろうとは思いませんね」

「写真に撮るには良い街ですよ。街としての年輪は、豊盃よりも厚みがあります。それに、ここに置くと、いっそう引き立つ被写体もあるんです」

「フフ、孫権は、すっかり芸術家ね。あ、後光がさしているようで眩しいわ」

「もう、からかわないでよ、コウちゃん。本命は、ここからなんだから」

「そう言えば、街の中心を通り過ぎてしまいましたね」

 馬車は、とっくに酉盃の大路を過ぎて、西の外れに向かっているようだ。

 

 やがて、くたびれた築地に囲まれたブロックにさしかかった。

 

 屋根の傾いた門には『指南街』の額が掛かっていた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・56『……忠クンがいた』

2022-12-17 06:50:54 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

56『……忠クンがいた』 

 

 

「いつまで、つっ立ってんだ」

 先生にそう言われて、わたしは座卓の長い方の端っこに座った。つまり、床の間を背にした先生からは右、三時の方向。
 で、先生の正面、十二時の方向に座卓を挟んで……忠クンがいる。

「……うっす」

「ども……」

 たがいにぎこちない挨拶をする。

「ハハ……青春とは照れくさいもんだな」

 そう言いながら、先生は右のお尻を上げた。カマされてはたまらないので、思わずのけ反った。

「あのなあ、まどか。人を、屁こき大王みたいに見るんじゃねえよ。俺はリモコン取ろうと思っただけなんだから」

 忠クンが笑いをこらえている。

「あのなあ、忠友。こういう状況で笑いをこらえるのは、かえって失礼だぞ」

 で、忠クンが笑い出し、先生もわたしもいっしょになって爆笑になった。

「あ、これ、父から預かってきました。どうぞお納めください、本年もいろいろお世話になりました、来年もどうぞ宜しく。とのことでした。また、今日は兄が伺うことになっていましたが、折悪しく……」

「いいって、いいって、そんな裃(かみしも)着たみたいな挨拶。それより、せっかくの剣菱の角樽なんだ、三人でぐっと。おい、婆さん……!」

「あの……わたしたち未成年ですから」

「あ……そうだっけ。惜しいなあ……剣菱って、赤穂浪士が討ち入りの前にも飲んだって縁起のいい……」

「あと五年待っていただければ。ね、忠クン」

「オレは、あと四年だよ」

「あ、ごめん。今年の誕生日忘れてた……」

「いいよ、こないだのコンクールまでは疎遠だったし、まどかも、そのころ忙しかっただろうし」

「ハハ、そうやって、誕生日の祝いっこしてるうちが華なんだぜ。この歳になっちまうと、カミサンの歳も怪しくなっちまう」

「女の歳なんて、六十超えたら怪しいままでいいんですよ。いらっしゃい、お二人さん」

 奥さんが、お茶とヨウカンを持ってきてくださった。

「なんだい、羊羹かい。この子たち若いんだからさ、ポテチにコーラとかさ」

「忠君もまどかちゃんも甘い物好きなんですよ。まどかちゃんは炭酸だめだし。ね」

「よく覚えてますね」

「二人とも赤ちゃんのころから、うちがかかりつけだから……あなた、なにしようってんですか?」

「いや、この二人に昨日録画したの見せてやろうと思ってさ……」

「もう、昨日あんなに教えたじゃありませんか……」

「ひとの体ってのは変わらないけど、こういうのは、どうしてこうも買い換えのたんびに……」

 医者らしく愚痴りながら、先生はリモコンをいじるが、ラチがあかない。

「もう……こうやるんですよ」

 奥さんは、リモコンをひったくり、チョイチョイと操作した。

「……なんだ、なんにも映らないじゃないか」

「レコーダーは立ち上がるのに時間がかかるんですよ」

 先生はつまらなさそうに、ヨウカンを口に運んだ。

 それが合図だったかのように、大画面テレビに……はるかちゃんが映った!


 スタジオの中を物珍しげに歩くはるかちゃん。

 急にライトが点いて驚く。その一瞬の姿がアップになる。画面の端にレフ板、上の方には大きな毛虫みたいなマイクがチラリと映った。

 その度に、はるかちゃんは小さな歓声をあげる。わたしが知っているはるかちゃんなんだけど、そうじゃなかった……って、分かんないよね。

 はるかちゃんは、どちらかというと大人しい感じの子だったのよね。

 それが、控えめではあるけども、こんな表情で驚くはるかちゃんを見るのは初めてだ。

――はるかちゃん、ちょっとその本抱えてくれる?

――はい……これでいいですか?

――はるかちゃん、カメラの方向いてくれる?

――はい……やだ、ほんとに撮ってるんですか!?

 はるかちゃんが驚いて、持っていた本で顔を隠す。すぐにカメラがロングになり、はるかちゃんの全身像。そして、別のカメラの横からバストアップに切り替わる。

 カワユイ……だけじゃない。なんての……せいそ(清楚……こんな字だっけ?)。


 こんなはるかちゃんを見るのは初めてだ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・100『しっこくのブリュンヒルデ』

2022-12-16 11:53:59 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

100『しっこくのブリュンヒルデ』   

 

 

 さっきまで玉ちゃんが居たところで高杉晋作が寛いでいる。

 

「なんだ、あんたか」

「あんたはないじゃろ」

「『しっこく』と言ったか?」

「ああ、しっこくじゃ」

「漆黒なら、わたしの看板だ。何物にも左右されず、何色にも染まらない不退転の決意を示す色だ」

「そのしっこくじゃない、桎梏の方じゃ」

「……難しい字だな」

 晋作が空中に書いた字は初めて見る。

 この異世界に来るについてインストールされた辞書の中には無い言葉だ。

「桎は足枷、梏は手枷を現す。つまり、くだらんことでがんじがらめになっとるちゅう意味じゃ」

「そうなのか?」

「ああ、がんじがらめじゃ。救済するつもりで戦死者を選んじょったろ。『これが最後の戦いだ。この戦いで死ぬることになるが、これで楽になる。長かった戦いもこれまでだ。やっと、やっと、天国に行けるんじゃぞ』って人にも自分にも言い聞かせてな……ところが、そりゃラグナロクちゅう最終戦争を戦う兵隊を選ぶことじゃった。救済のつもりが、さらなる苦行を与えることになっちょった」

「知っていたのか?」

「ああ、あんたも言うていたじゃろう、野村の尼さんが、いちど松陰神社に顔を出せって」

「ああ、行ってくれたのか!?」

「嬉しそうな顔をするなあ」

「ああ、人が約束を守るのはいいことだからな」

「寅次郎さんは勉強家じゃけぇ、北欧神話のことも調べちょられた。そんで、ブリュンヒルデたぁ桎梏の人なんじゃのぉとため息をついちょられた」

「そうか……」

「おいおい、そこで収まらんでくれ。あんたの桎梏は、もう一段深いんじゃぞ」

「どういうことだ?」

「ブリュンヒルデは、こっちの世界に来て、片っ端から亡者に名前を付けとるじゃろ」

「ああ、付けるというか、思い出させてやるというか……この世界には、戦争で名前まで焼かれた者やら、いろんな事情で名前を失った者が大勢いる」

「名前は大事じゃ」

「神さまが救うにしても『おい、そこのおまえ、助けてやるぞ』では情が薄い。救われる方も『そこのおまえ』では心底からは救われんだろ……戦死者を選ぶときも、わたしはフルネームで呼びかけたものだ」

「そうじゃのう……じゃが……まあ、それはええ。いずれは戻るんじゃろ、オーディンの世界へ。ほんで、またラグナロクで戦わせるために戦死者を選ぶ。その苦労に耐えるための休み。これは、もう相克、二律背反じゃ」

「そうか……そうだな……」

「ほんとうは、分かっちょるんじゃろ。決めるさあブリュンヒルデ自身じゃ……さあ、これで寅次郎さんの言伝は済ました。どうじゃ、アンナミラーズいう雰囲気のええ茶店が品川にあるそうじゃ、ちいと付き合わんか?」

「プ( ´艸`)、天下の高杉晋作がアンナミラーズか!?」

「別にええじゃろが、お仕着せがぶち可愛いんじゃ。提灯袖のブラウスに腰高のスカートが乳の下まで迫っちょってな。健康なお色気に、客足も引きも切らずで、むろん味も天下一品らしいぞ(^▽^)」

「アンナミラーズなら、この秋で閉店したぞ」

「え! 閉店してしもうたか!?」

「ああ、繫盛はしていたが、再開発の為とかでな」

「いやあ、高杉晋作としたことが、烏退治に精出し過ぎてしもうた!」

「そ、そんなに朝寝に忙しいのか(#'∀'#)!?」

「あん……ヒルデ、なにか勘違いしとるで」

「か、勘違い?」

「ああ、儂がやっつけとる烏は、女郎の烏ばっかりやないで」

「ち、違うのか?」

 玉ちゃんは、そう言ってたぞ。

「今はな、国定忠治の烏を片付けとる」

「忠治の!?」

「あいつの本性は……まあええけど、とにかく烏もしぶとうて数が多い」

「そうだろうな」

「烏を片付けたら、ちいと時間を巻き戻してアンナミラーズに行かせてもらう。その時にゃあ、また声を掛けるけぇ、付き合え」

 そう言うと、後姿で手を挙げ、懐手して消えてしまった。

 

 眼下のグラウンドでは、今日も玉ちゃんが勝ったようで、下級生たちの悔しそうな歓声があがって、昼休の終了を告げるチャイムが鳴った。

 

 漆黒のブリュンヒルデ 第一期 完

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • 高杉晋作              さすらいの烏退治
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・55『マクベスの首・2』

2022-12-16 07:00:57 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

55『マクベスの首・2』 

 

 

『ハムレット』もすごかった。

 

 どこがって……やたらに人が死んじゃうんだもんね。ただね、ホレーショっておじさんが都合良く生き延びちゃうのには、若干の抵抗。

 あれだけの波瀾万丈のドラマの中で、親友のハムレットがメチャクチャやって、一族死に絶えちゃって、なんだか自分一人だけ語り部みたく生き延びて……残りの人生虚しくないの? って、わたしがひねくれてんのかなあ。


『ロミオとジュリエット』は、なんだか我が身と引き比べちゃったりして、興味津々。

 ストーリーや登場人物は、よく分かんないけど、発見が二つあった。

 忘れもしない、第二幕第一場「キャピュレット家の庭」チョ-有名な愛の語らいの場!

 なにがすごいって、一回読んでみるといいわよ。

 ロミオが庭、ジュリエットがバルコニー……すごいと思わない? 

 並の作家なら、同じ平場で愛を語らせちゃうんだろうけど、これを互いに見えるけど手の届かないところに持ってきて、キスどころか、指一本触れさせないんだもんね。ミザンセーヌが最高! おそらく世界最高のラブシーンだと思う。

 それに、もっとすごいのは、あれだけのラブシーンで「I love you!」が一言も無い。

 気になって、ここだけ二回読んだんだけど、無い……「do you love me?」「Love me!」はあるんだけどね「I love you!」は無い!

「愛は勝ち取るものなんだ!」って、スタンスがすごいと思うのよ。

 この場面は、互いに「愛してる! んでもって結婚しよう!」ってことだけなんだけど、字数にして六千字も使ってんのよね。このわたしのことを書いてる作者なら、章一つでそんくらい。才能が違う……なんて言ったら、どこで仕返しされるか分からない。なんたって、第五章じゃ主役のわたしを焼き殺しかけた人だもんね。

 それから、タマゲタのは、ジュリエットに出会ったとき、ロミオにはすでに恋人が居たんだ!……知らなかったでしょ? ロザラインって子で、二回ほど台詞の中にしか出てこないんだけどね。

 明らかに、ロミオは二股かけてんのよね!!

 わたしはロザラインに同情したわ。シェークスピアってオッサンもたいがいよ!

 ……なんて妄想してるうちに薮医院が近くなってきた。
 

 説明するわね。


 わたしが生まれる一年ほど前に、お父さんとお母さんは大げんかをした。

 バブルの後、工場の経営が今イチだったってこともあるんだけど、どうやらお父さん浮気もしてたみたい。

 で、お母さんは、ほんのガキンチョの兄貴連れて、家をおん出ちゃったわけ。

 そこを間に入って、元の鞘に収めたのが薮先生。

 お陰でわたしは一応無事に生まれることができたわけ。

 兄貴のアンニュイなとこもこのへんの幼児体験に原因あり……と見てるんだけど、まあ、それは置いといて。恩義に感じたじいちゃんが、盆暮れのつけとどけをお父さんにやらせてたんだ。

 でも十七年もたっちゃうと、もう時候の挨拶ってか年中行事。

 薮先生も、お父さんの顔見てもつまんないんで、今年は兄貴をご指名。どうやらクリスマスの香里さんへのフライングが耳に入ったみたい(このへんが、下町のいいとこでも、怖いとこでもある)なんだ。

 で、恋人同士来いってことらしいんだけど、兄貴嫌がっちゃって……兄貴は香里さんが嫌がってるって言ってた。ただ目的語が抜けてるんで、兄貴が、まだ嫌われてんのか、薮先生とこへ行くのを嫌がってるのかは分からない。

 で、わたしが代理ってわけ。むろん三千円のギャラ付き。

「こんちは……」

―― 二十八日~新年三日まで休診 ――の張り紙をしたドアを開ける。

「まどかか? そのまんま上がってきな~」

 と、奥で先生の声。まあ一時間程度の「お話」は覚悟していた。ギャラもらってんだもんね。

「失礼しま~す」

 殊勝げに、待合室を抜けて、奥の座敷へ。

 あ……!?

 しばらく、声が出なかった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・136『氷室神社の賽銭箱』

2022-12-15 18:06:04 | 小説4

・136

『氷室神社の賽銭箱』お岩  

 

 

「こら、しっかり持たんかい!」

「ちょ、二人じゃ無理だって!」

「いい若いもんが情けねえぞ」

「ああ……やっぱりダメだ!」

 ドサ!

「この、バチアタリめ!」

「なんで、他の奴らにも手伝わせねーんだ!」

「『任しとけ』って、腕まくりしたのはおめえのほうだろが」

「とにかく、ちょっと休憩させろ」

「これで三回目だぞ」

「さっきのはノーカンだ、ジジイだって、足止めて見てたじゃねえか」

「じゃ、五分だけだ。ぐずぐずしてっと、みんな戻ってきちまう」

「ああ、了解……」

 

 手伝ってやろうと思ったけど、面白いので黙って見ている。

 

 氷室神社の神主に収まったシゲ爺が、鉱山技師時代の助手のサブを使って新しい賽銭箱を運んでいるところだ。

 神社を作ったのは、シゲ爺としては、いいところに目を付けたと思った。

 日本人は、やっぱり、みんなが手を合わせて、祈ったりお願いしたり感謝を捧げる場所が必要なんだ。

 そして、それは、西之島の他の島民たちからも尊崇されるようなものが望ましい。

 南の海を臨む岩の上にお地蔵様ほどの祠を載せて(シゲ爺は建てたというが)拝殿として、その前に拝殿と比べて全然不釣り合いなLサイズの鳥居が立っている。

「バランス悪くないか?」と聞いたら「いや、本殿は、この海と空だからいいんだ!」とうそぶいた。

 御祭神は、うちの社長のご先祖『秋宮空子内親王殿下』らしい。

 大仰なことや晴れがましいことが苦手な社長は「勘弁してください(^_^;)」だったらしいが「本殿は海と空じゃ」とかごまかした。

 じっさい、営業を始めると(「営業なんていうな!」と怒られたけどね)鳥居というのは、二百年前には世界的に認知されたホーリーシンボルだからね。関帝廟やトーテムポールなんかよりは、うんと集客力がある。

 最初はミカン箱ほどの賽銭箱だったけど、それでは間に合わないくらいの参拝客がありそうで、急きょ大きいのを作って、サブといっしょに運んでいるというわけさ。

 

 で、その集客、いや参拝客というのは、神社の先の岬の方に集まっている。

 

 この一か月、島を包囲していた漢明の艦隊が、故障艦の洛陽を残して消えてしまった。

 小型艦や輸送船も引き上げてしまったのだから、全面戦争を覚悟していた島のみんなは驚いた。

 市役所の及川市長からは「上陸していた陸戦隊も引き上げました!」と喜びの電話があった。

 島の食堂と銀行を預かる身としては、島の安寧が第一だ。

 状況を確認するには、自分の目に限る。食堂をハナ、銀行をパチパチの二人に任せ、こうやって電波塔の上から見ているわけさ。

 岬の野次馬は、納得するのに、もう少し時間がいるだろう。

 日本政府の救援は望み薄で、明日にでも全面戦争になりそうだったんだから無理もない。

 ほとんどの者が、望遠鏡を覗いたり視力そのものをズームして洛陽と、その周辺を窺っている。

 探査能力のあるロボットたちは海に半身を漬けてソナーで海の中まで探っている。

 納得したら、ほとんどの者は、この氷室神社の前を通る。鳥居が目に入れば、お礼参りに、けっこうな人数が押し寄せるだろう。

 

「お岩! そんなとこに居るなら、ちょっと手伝え!」

 

 やっと気が付いた。

 まあ、お賽銭は回りまわって銀行にやってくる、そろそろ手伝ってやるか。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・54『マクベスの首』

2022-12-15 06:37:56 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

54『マクベスの首』  

 


 マクベスの首が、旗竿の先に括りつけられて現れたところだった。

「薮さんのとこまで行ってきてくれないか?」

 頭の上から声が降ってきた……仰向けになって本を読んでいたわたしは、そのまま上目遣いに、十センチほど開けられた襖の隙間に目をやった。

 そこには、サンドイッチのパンみたく、端っこをちょん切った兄貴の顔が見えた。

 アンニュイも、端っこをちょん切って逆さになると、ひどく間が抜けて見えるもんだなあ……と思った。

「入れば……」

 間抜けの逆さ顔にそう言った。

 逆さのまま、その顔が大きくなった。

 つまり兄貴が部屋に入ってきて、しゃがみ込んで、わたしの顔を逆さに覗き込んだのよね……恋人同士なら、このシュチュエーション、フラグの一つも立つんだろうけど、兄貴じゃね。

「だからさ、薮さんのとこにさ……」

 薮……バーナムの森なら、なんて妄想が頭に浮かぶ

「なんだ、まどか、シェ-クスピアなんか読んでんのか。大雪が降るわけだ」

「兄ちゃん……鼻毛伸びてるよ」

 わたしの逆襲に、兄貴は素直に鼻毛を抜いた……と、思ったら。

「……ハーックション!」

 盛大なクシャミで反撃された。かろうじて身をかわして、鼻水とヨダレの実弾攻撃から逃れた。楯がわりになったシェークスピアに多少の被害。

 起きあがって、まっすぐ見た兄貴の顔は、やっぱ間抜け……というよりタソガレていた。


 事情を聞いたわたしは、兄貴への多少の同情と、我が家のシキタリのため角樽のお酒をぶら下げて、薮医院を目指した。

 いつもなら、自転車で行くんだけど、わたしの頭の中にはシェークスピアの四大悲劇の断片が、ポワポワ浮かんで、なかば夢遊病。

 危ないことと、この夢遊病状態でいたいため、あえて歩いて行くことにした。

 なんでシェ-クスピアなんか読んでるかと言うと、はるかちゃんのアドバイス。


 観ること、読むことから始めてみれば。ということだったので、とりあえず千住の図書館に行って、シェ-クスピアの四大悲劇を借りてきた。

『ハムレット』から始め『リア王』『オセロー』そして、夕べからトドメの『マクベス』になったわけ。

 マクベスの首が出てくるのは、最後のページ。

 わたしは四日間で四大悲劇を読破したわけ。

 しかしシェークスピアというのは、どの作品も、やたらに長くて、登場人物が多い。きちんと読もうと思ったら、登場人物の一覧片手に三回ぐらい読まなきゃ分からない。

 ラノベに毛の生えた程度のものしか読まないわたしには、至難の業……で、とりあえず読み飛ばしたわけ。

 だから、まとまったストーリーとしては頭に入ってなくて、断片だけがポワポワ浮かんでいるというわけ。

 しかし、さすがはシェークスピア。断片といっても、その煌めきが違う。

 こうやって素直にお使いに出たというのは、ちょっぴり兄貴に同情したからばかりじゃないんだ。

 悪逆非道なマクベスは、魔女たちからこう言われる。

「バーナムの森が攻め寄せぬかぎり、そなたは死なぬ。女の腹から産み落とされた人間に、そなたを殺すことはできない!」

 で、薮を森に見たててのお出かけ。

 そんでもって、マクベスを討ち果たしたのは、月足らずで母親の腹から引きずり出されたマクダフ。
 わたしも未熟児で、八ヶ月ちょっとで帝王切開でお母さんのお腹から引きずり出された。これには、当時の我が家の状況が影響してんだけど、それは後ほどってことで……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・368『歳末特別警戒本部やぞ!』

2022-12-14 20:08:03 | ノベル

・368

『歳末特別警戒本部やぞ!』さくら    

 

 

 おお…………!

 

 うちの山門を眺めて、四年ぶりに感動した。

 一回目は……感動ちごて、動揺かな。

 ほら、四年前の三月三十一日、お母さんに連れられて、この山門の前に立った。

 あの時は、この門のことを山門て呼ぶことも知らんかった。

 ジッカの門と呼んでた。

 ジッカとは実家で、実家て書くのは四年生まで知らんかった。お母さんがジッカ、ジッカて呼んでた。

 ジッカはお寺で、お寺の門を山門て呼ぶのを、それまでは知らんかった。

 それまで、夏休みとかに来るだけやったから――今日から、ここがさくらの家や――言われて、めっちゃ意識した。

 なんや、いかつうて、テレビで見た『忠臣蔵』の討ち入りいう感じ。

 大石内蔵助が、四十七士を引き連れて吉良上野介の屋敷の門の前に立った、あの感じ。

 いや、うちは扶養家族やさかい、息子の大石力っちゅうとこやなあ。

 忠臣蔵言うと、今日は、播州の赤穂城で三年ぶりの赤穂義士のパレードをやってた。

「ああ、やっぱり中村雅俊の大石内蔵助いいわねえ(^▽^)」

 おばちゃんが感動してた。

「ああ、太陽にほえろやなあ」「われら青春も良かったなあ」

 お祖父ちゃんとおっちゃんも感動。

 うちらは、なんかオジンのコスプレいう感じやねんけど、せっかくの感動に水を差すようなことは言いません(^_^;)

 そこへ、檀家周りから帰ってきたテイ兄ちゃんが、町会長さんから言づかってきよった。

「集会所、雨漏りして使えへんから、歳末特別警戒の詰所にお寺貸してくれへんかて」

「ああ、それは難儀やなあ」

「そら、使てもらい」

「ほな、電話するで」

 テイ兄ちゃんが衣のまま電話して、急きょ、うちは歳末特別警戒の本部(ほんまは詰所やけど、本部の方がかっこええ)になった。

 

 で、すぐに町会長さんが軽トラで本部の道具一式を持ってきはった。

 

 その道具で、いちばんかっこええのが提灯。

 白地の胴に二本の赤線が引いたって、黒々と『歳末特別警戒』の文字が入ってる。

「納戸に、古い提灯立てがあるで」

 お祖父ちゃんが思い出して、時代劇に出てきそうな木製のスタンドが出される。

「これは対にせんとあかんなあ」

 おっちゃんの発案で、例年やったら一個で済ます提灯を二つにした。

 ほんで、セッティングを終わったら、気の早いお日さんが西の空に傾いてきたんで、提灯に灯りを入れる。

 それで「おお…………!」と女子三人で感動したわけ。

 三人いうのは、うちと留美ちゃんと詩(ことは)ちゃん。

「なんか、堺奉行所って感じね!」

「殿馬場のあたりにあったっていいますね!」

 二人の感動はレベルが高い。

「せや、写真に撮って送ったろ!」

 イチビリのうちは、提灯の灯りで雰囲気の写真を撮って、散策部のみんなに送る。

 

 一分で頼子さんから返事が返ってきた。

 

―― 今から観に行く! ――

 

 で、四十分後には、散策部全員で山門の前で記念写真(^_^;)

「おお」

 メグリンは、うちらと同じ反応。

「新選組の屯所って感じ!」

 想像力の翼を広げたんはソニー。

「歳末特別警戒って、夜回りするんだよね!?」

 ソフィーにも火が付いた。

「よし、わたしたちも参加しよう!」

 頼子さんが手を挙げて、急きょ歳末の部活が決まってしもた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・53『なり損ないの雪だるま』

2022-12-14 07:35:09 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

53『なり損ないの雪だるま』  

 

 

「演劇部の三人が来てくれたところなんですよ。ほら、このクリスマスロ-ズ。あの子たちが持ってきてくれたんです」

 お見舞いに持ってきたオルゴール(潤香とわたしが共に好きなポップスが入ってる)のネジを巻きながら姉の紀香さんが花瓶の花を紹介。大振りな花が陽気におしくらまんじゅうをしている。

「あ……!」

「え?」

「わたし、ここにタクシーで来たんですけど。地下鉄の入り口のところでキャーキャー言ってる雪だるま三人組……を見かけた」

「それですよ。まどかちゃん! 里沙ちゃん! 夏鈴ちゃん!」

 モグラ叩きを思わせるテンションで紀香さんが言った。無性に、あの三バカが愛おしくなってきた。

 気がついたら、紀香さんと二人オルゴールに合わせて唄っていた。

「フフフ……」

 どちらともなく、笑いがこみ上げてきた。

「わたしも、いつの間にか覚えちゃって……いい曲ですね、これ」

「ええ、ゆったりした曲なんですけど、元気が出てくるんです」

「ですね……」


 自然に目が窓に向いた。


 音もなく降りしきる雪。窓辺に立てば、向かいのビルはおろか、道行く人の姿もおぼろにしか見えないだろう。
 上から下に向かって雪が降るものだから、フと、この病室がエレベーターのように静かに昇っていくような錯覚におちいる。


「先生、コーヒー飲みません?」

「え、ええ」

「買ってきます。病院のすぐ横にテイクアウトのコーヒーショップがありますから、微糖でいいですね?」

「あ、すみません」

「いいえ、わたしも、ちょっと外の空気吸いたいですから。その間潤香のことお願いします」

「はい、ごゆっくり」

「じゃあ(⌒▽⌒)」

 少女のような笑顔になって、紀香さんはドアを閉めた……遠ざかる足音は小鳥のように軽やかだ。

 あらためて潤香の顔を見る……色白になっちゃって……でも、こんな意識不明になっても、どこか引き締まった女優の顔になっている。
 

  去年の春、初めて演劇部にやってきたとき……覚えてる、潤香?


 小生意気で、挑戦的で、向こう見ず。心の底じゃビビってるけど、もう一人の自分が尻を叩いてる……その、もう一人の潤香がこの顔なんだよね。いや、成長した「この顔」なんだよね。

 最初はコテンパンにやっつけてやった。でも、潤香はそれに応えてくれた。そして学園祭では主役に抜擢。華のある女優になった……ミス乃木坂になって、中央発表会じゃ主演女優賞……潤香との三年近い思い出が、まき散らした写真のように頭の中でキラキラしている。

「お待たせしました」

 紀香さんがコーヒーのカップを持って戻ってきた。一瞬表情を取り繕うのに戸惑った。

「先生も、いろいろ思い出していたんでしょ?」

「え、ええ、まあ」

「入院してからの潤香って不思議なんです。気持ちをホッコリさせて、昔のことを思い出させてくれるんです……どんなに辛い思い出でもホッコリと……」

 二人いっしょに、コーヒーカップのプラスチックの蓋を開けたものだから、病室いっぱいにコーヒーの香りが満ちた。空気がコーヒーに染まって琥珀色になったような錯覚……きっと、外が雪の白一色だから。


「あの日も……雪が降りしきっていました」

「え……?」

「去年のいまごろ……」

「ああ、終業式の明くる日でしたね。電車とか遅れて出勤するのが大変でしたね」

「あの日も、こんな風に窓から降ってくる雪を見ていたんです……なんだか、自分の部屋が、エレベーターみたく穏やかに遙かな高みへ連れて行ってくれそうな気になって……」

「フフ、わたしも、さっきそんな気がしたとこ」

「その高みにあるのは……天国です」

「え……?」

「これを見てください……」

 紀香さんは、左の袖をたくし上げた……危うくむせかえるところだった。

 リストカット……

「その日が初めて。深く切りすぎて……でも、これで楽になれるって開放感の方が大きくて」

「紀香さん……」

「でも、潤香が……この子が腕を縛り上げて、救急車を呼んじゃって……病院じゃ、ずっとこの子に見張られてました。そのころ、この曲が耳について覚えちゃったんです」

「そうだったんですか……」

「それからは、潤香、いろんなとこへ連れて行ってくれて。春休みのスキーがトドメでした」

「あ、あの足を折ったの!?」

「わたしの気を引き立てようとして、雪が庇みたくなってるとこで、大ジャンプ」

「それで……潤香ったら、わたしには何も言わないもんで」

「約束しましたから、誰にも言わないって……でも、その約束、自分から破っちゃいました!」

 ひとしきり二人で笑った。

「潤香の手首も見てやってください」

「え……!?」


 即物的なわたしは、雪だるまになることもなく、病院の車寄せに見舞客を乗せてきたタクシーにそのまま乗って家路についた。


 紀香さんには驚いた。しかし考えてみると、クリスマスイブに二十歳の(わたしが見ても)美人が、どこにも行かず、一人で妹の看病をしているのは少し頭を働かせれば分かることではあった。

 そして、いい意味で驚いたのは、潤香の左手首。

 ゴールドのラメ入りのミサンガ。

 夏鈴が、部員全員のを編んだそうだ。潤香を入れて四人分を……そして、枕許の写真。

 演劇部一同の集合写真の横に、それはあった。

 タヨリナ三人組の……その上に掛けられた三枚の『幸せの黄色いハンカチ』

 ちょうど赤信号でタクシーは停まっていた。

「ここでいい。降ろしてちょうだい」

「すみませんね、この雪でノロノロしか走れないもんで」

「ううん、そうじゃないの。はい料金」

 恐縮しきりの運ちゃんを尻目に、わたしはドアが開くのももどかしく飛び出した。

 わたしだって、雪だるまになりたい時があるんだ!

 誰かさんが言ってたわよね。

「まだまだ使い分けのできる歳だ」

 今日ぐらい使い分けたっていいじゃんね!

 その直後、お祖父ちゃんから、ひどく即物的な電話がかかってくるとは夢にも思わない、なり損ないの雪だるまでありました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女マヂカ・300『クマさんの名前の秘密』

2022-12-13 10:55:18 | 小説

魔法少女マヂカ・300

『クマさんの名前の秘密語り手:マヂカ 

 

 

 御維新までは美濃の国っていったんですよね。いかにも実り豊かなお国という響きで素敵です。

 

 眼下の濃尾平野を愛でながら、クマさんは地理の先生のような感想を言う。

「ああ、戦国の昔は、ここを扼すれば、天下が取れると言われたものだ」

「斎藤道三が主家の土岐を追い、織田信長が奪い……信長は、周の文王が岐山に拠って天下を窺った故事にちなんで岐阜と改め、それをもって岐阜県とされましたが、美濃の方が似合います」

「クマさん、なんだか学者のような感想だな」

「祖父の代までは、奥多摩の村で神主をやりながら本草学の学者をやっていました」

「そうなのか」

「村の山には悪い神さまがいると言われて、それを祀って封じるのが家代々の役目でした」

「過去形だな……ひょっとして、明治になって離散した?」

「はい、水害があったり、地租改正で苦しくなったりで、おまつりもろくにできないほど寂れてしまって。父の代になってうちも村を離れたんです。山の神さまは『村をたたむなら儂も連れていけ』と父に迫りました」

「寂しがりの神さまなのだなあ」

「父は、別の神社にお祀りするからと言ったんですが、神さまは聞きません」

「わがままな奴だなあ」

「交渉の末に、神さまは父に言いました『お前たち夫婦に子を授ける。その生まれてくる子の魂に間借りする。構えて悪さはせんから、それで手をうて』と。父は、母と寝たきりになっていた祖父と相談しました……」

 ウワア! キャ!

 ちょっと面白くなってきたと思ったら、オートマルタがグラッと揺れて高度が下がった。

「ああ、すみません。ボクも聞きいっちゃって(^_^;)」

「聞いていてもいいが、ちゃんと真っ直ぐ飛べ」

「ハーイ!」

「で……どこまで話しましたっけ?」

「えと……」

「お母さんと寝たきりのお祖父さんに相談するとこです!」

「あ、そうそう……それで、祖父はご先祖さまにもお伺いをたてて、生まれてくる子に強い名前を付けて神さまを封じることにしたんです」

「クマさん、兄妹がいるのか?」

「いえ、一人っ子です」

「「え!?」」

「はい、わたしのクマという名前は神さま封じの名前なんです」

「そうだったのか……テディ、また高度が落ちてるぞ」

「すみませ~ん」

「ファントムが目を付けたのは、クマさんの、そういうところを見抜いてのことだったのかもしれないなあ」

「はい、おそらくは……」

 明治大正のころは、まだまだ江戸時代の風を残していて、女の子の名前に『クマ』『トラ』『カメ』『ツル』とかの動物の名前を付けることが多かった。

 それは、子どもが強く長生きできることを託して付けられた名前だ。

 身のうちの悪鬼を封じるためという例は聞いたことが無い。

「まあ、名前はともかく、無事に戻れてなにより……ほら、海が見えてきたよ、トラさん」

「うわあ…………日本海と違ってキラキラと明るいですね!」

 目を細めて、海の輝きを愛でるトラさんは可愛い……早く箕作巡査の待つ大正時代に戻してやらなければな……

 

 その気持ちが通じたのか、オートマルタは駿河湾の上空で速度を増した。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・52『繋ぎの仕事』

2022-12-13 06:34:08 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

52『繋ぎの仕事』  

 

 


 折良く繋ぎの仕事が見つかった。

 二乃丸学園高校の先生が急病になり、二学期末の今になって常勤講師が必要になった。小田さんのプロダクションが、新聞社を相手にさらなる訂正記事と謝罪を要求。訴訟も辞さない意気を見せ。新聞社も一面で、謝罪記事を載せ、編集長も更迭。

 そこへわたしが(匿名ではあるけども)学校をいさぎよく辞めたことも世間の知ることとなり、二乃丸学園は即決でわたしを常勤講師に雇ってくれた。

 一応学年末までの契約であるけども、来年度から正規職員として勤めて欲しいと非公式な打診があった。

 しかし、やっぱ乃木坂の貴崎マリの名前はダテじゃない……と自惚れてもいた。

 着任したその日に、実質的な演劇部の顧問になった。

 二乃丸学園は、城南地区の所属であり、乃木坂とぶつからないのも気が楽だった。コンクールで、乃木坂と争うのはさすがに気が引ける……ってことは、自分が指導すれば、この欠点も無ければ、取り柄もない平凡な部員十名の二乃丸学園高校演劇部をイッチョマエの演劇部にする自信はあったのよ。

 

 初日から、わたしの指導は厳しかった。

 

 まず、発声練習をやらせてみた。満足に声が出る者が一人もいない。エロキューション(発声に関わるすべての技能)がまるでなっていない。鼻濁音ができないくらいは仕方がないとしても、腹式呼吸ができていないことは許せなかった。

 聞けば、都の連盟の講習会にも出ているとのこと。わたしは、その講習会でエロキューションの担当だった。

「講習会で、何を聞いてたのよ!?」

 つい乃木坂のノリになってしまう。

「まずは腹式呼吸だけども、あんたたち腹筋と横隔膜弱すぎ!」

 ちなみに、呼吸法は三通りある。

 一番ダメなのが肩式呼吸(俗に、肩で息をするというもので。息が浅く、発声器官である声帯にも影響を与えやすく。また、呼吸が観ている者に丸見えで、エキストラを演っても死体の役ができない……って、分かるわよね。息をしている死体なんてないでしょうが)

 次に、胃底部呼吸。これを腹式呼吸と間違えている者は、プロの役者の中にもいる。腹筋が弱く、横隔膜だけに負担をかけ、長時間やっていると胃が痛くなる(だからイテー部呼吸というものでもないけどね)。これも、息が浅く。長丁場な芝居や、長台詞には耐えられない。

 三番目が、大正解の腹式呼吸。横隔膜と腹筋の両方を使い、イメージとしてはお腹に空気が入ってくる感じ。目安としては、おへその指三本分下(古い言葉で丹田と言います)がペコペコする呼吸法。吸い込める空気の量が多く、また声帯からも遠く影響を与えにくい。

 まず、できていないことを自覚させる。

 廊下の窓に向かって一列に並ばせ、窓ガラスにティッシュペーパーをあてがわせる。そして、口を尖らせ「フー」って感じでティッシュに息を吹きかけガラスに貼り付けさせる。最低十秒……できる子は一人もいなかった。

 で、腹筋の訓練。初心者なので五十回にしてやるが、これもできたのは二人だけ。

「あんたたち、体力無さすぎ!」

 で、グラウンドを十周させたところで時間切れ。

 クタクタになって、着替えている部員たちに宣告した。

「演劇部を文化部だと思ってる子は気持ち入れ替えて、演劇部は体育会系なんだからね」

 そして、集合時間の厳守(五分前集合)を言い渡し、こう命じた。

「明日は、トンカチとノコギリを持ってくること。いいね!」

 そして、解散するときにする挨拶を教えた。

「貴崎先生ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした!」

 ヤケクソで十人が合唱した。

 明くる日は、一通りの腹式呼吸の練習を終えたあと、三六(さぶろく=三尺、六尺……つまりベニヤ板一枚分)の平台作りをやらせた。芝居の基本道具で、なにかと便利なのだ。

 案の定、まともにノコも引けなければ、釘も打てない。

「いい、ノコギリは体の正中線のとこに持ってきて……」

 各自一本ずつの木を切らせ、釘を一本打たせたところでおしまい。

「貴崎先生ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした!」

 これを一週間続けたところで、期末テスト一週間前。部活はテスト終了まで休止期間に入る。

 期末テストは、前任者に教えてもらっていた生徒のノートをざっとみて見当をつけて問題をつくり、内規通りの平均点(五十五点~六十五点)にピタリと収め、無事完了。


 テスト後の短縮授業になった。


「さあ、クラブがんばるぞ!」

 と、意気軒昂……だったのは、わたし一人だった。

 十人の部員の半分がほかのクラブとの兼業だった。乃木坂では許されないことだ。

「どっちかにしなさい!」

 言ったとたんに、三人が辞めていった。

 なんとか、腹式呼吸のなんたるかが分かり、平台一枚ができあがった時には、部員は半分の五人に減って、終業式兼クリスマスイブである十二月二十四日がやってきた。

 この日ばかりは、部活は休み。

 平台一枚の完成を祝し、五人の結束を高めるため、身銭をきって宅配ピザをサービスして、忘年会をしてやった。

 一人空回りした忘年会が終わったあと、わたしは降りしきる雪の中、潤香の見舞いに行ったのだった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

くノ一その一今のうち・30『潜入・3・鏡』

2022-12-12 16:01:26 | 小説3

くノ一その一今のうち

30『潜入・3・鏡』 

 

 

 一分近くたっただろう、屋根裏の闇に慣れてきて、柱や梁の木目まで分かるようになってきた。

 南北の破風に風通しの桟があって、そこからホンノリと外の光が入って来る。

 月夜でもなかったので、篝火や常夜灯の類の照り返しだろう。二つ三つの壁や屋根に反射したあとの、ごく弱い光だから、常人では暗視スコープでも無ければ見えないだろう。

 あ…………鏡だ。

 駆け出しの忍者なら、そこに人が居たと思うだろう。

 薄明かりの中に、自分と同じく蹲踞の姿勢で気配を消している人影が見えたのだ。

 駆け出しなら、狼狽えて呼吸を乱す。甚だしい場合は、物音をたててしまって気取られてしまうだろう。

 いちど崩れてしまうと、忍者も人の子、簡単に追い詰められて虫けらのように殺されてしまう。

 そういう忍者対策の簡単な道具が鏡なのだ。古い鏡台などの鏡を置いておくだけでいい。

 念のために周囲を見渡すと、斜め後ろにも鏡。斜め後姿のわたしのお尻が映っている。

―― 闇の中なら、わたしも少しは可愛いか ――

 女子の可愛さ、美しさは、造作の問題だけではない。第一にフォルムだ、普通に言えばプロポーション。

 その点、わたしは悪くない。まあやの代役が務まっているいるんだからな、悪いはずはない。

 中三の夏、電車で痴漢に遭った。尻をもむ手が前にまわってきたので、勢いよく顔を向けてやった。

 至近距離で顔を向けられ、痴漢は「ヒッ!」と、猿のような悲鳴をあげてのけぞって、後ろの手すりに思い切り頭をぶつけて悶絶した。

 目いっぱい白目をむいて、口には吸血鬼の八重歯のブス顔、それも死後三時間ぐらいの真っ青だったからゾンビに見えたかもしれない。

「そりゃあ、大人しく被害者になっときゃ、慰謝料が取れたのに」

 お祖母ちゃんは残念がって、アハハと笑ってごまかしたけど、被害者を演ずるんだったら、もう少し可愛い子でなくっちゃと尻込みする自分が居たのかもしれない。

 まあやに出会った後なら、多分被害者を演じていたと思う。

 フフフ フフフフ

 

 え?

 

 鏡の中のわたしが笑った。

 しまった!

 思った時には、左右を二人のわたしに挟まれた!

「ソノッチの妄想はすごいなあ」

 わたしに化けた社長が好色そうな目をして言う。

「こんな顔だったのかなあ」

「も、もう!」

 嫁持ちさんは、白目むいて吸血鬼の八重歯付けてるし。

「てっきり鏡だと思ってましたよ(`_´)」

 鏡だと思ってしまったのは、呼吸や気配までわたしに化けていたからだ。一本やられてしまった。

「じゃあ、かかるぞ。王子がパニクルようなら、当身を食らわせ静かにさせたところで運び出す」

「社長、これを使いましょう」

 嫁持ちさんが懐から出したのはお線香だ。

「それなら、儂も持ってる。寺だから、あちこちに線香があるからな」

 なるほど、これでニオイからも誤魔化されたわけか。

「じゃあ、屋根伝いに忍び込みますか?」

「西側の破風から行け」

「社長は?」

「表の見張りを対策してから入る」

「表から、堂々とですか?」

「ああ、バッチリだ」

 

 パパン パン パパン

 

 銃声!? 

 

 方角は、この寺院の食堂(じきどう)の方角だ。

 これが開始の合図なのは、社長の目の色で分かる。

 

 わたし達は次の行動に移った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・51『 了 』

2022-12-12 07:12:23 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

51『 了 』  

 

 

 

 案の定、明くる日には電話があった。

 バーコードではなく、校長直々の電話だった。

『先生の責任感と硬い御決意には感服いたしました……』

 以下、延々十分にわたり言語明瞭意味不明の、とても言い訳とは思えない「喜び」のこもった『送る言葉』を聞かされた。送別会は丁重に断り、退職に関わる書類などの遣り取りも郵送で済ませてもらえるように、電話を代わった事務長と話しをつけた。

 峰岸クンに電話をした。

 クラブの後始末を頼み、ちょびっと、わたしの裏事情に関わることを聞いたが、とぼけられた。

 代わりに一呼吸おいて、バーコードとの会話を録音していたことを告げられた。

『これを公表させてください。全てが解決します』

「罠だってことは分かっていたの。こうでもしなきゃ、責任もとらせてもらえないもの」

『先生の責任じゃ……』

「小田先輩とのことは濡れ衣。でもね、潤香とまどかを命の危険に晒したことはわたしの落ち度。火事のこともね」

 その後、峰崎クンは一言二言ねばったけれど、わたしの決心が硬いことを知ると、飲み込んでくれた。

 ただ、わたしの退職が決まったその日のうちに、替わりの講師がやってきたことをトドメに言われた時は、一瞬血圧が上がった。

 さすが峰崎クン、ツボは心得ている。

 しかし、わたしの心の凝りは、それで解れるほど生やさしいものではなかった。

 これでも、まだ、どうしてわたしが易々と罠にかかりにいったか。不思議に思う人がいるかもしれない。

 それには、こう答えておくわ。

―― こうでもしないと、わたしは責任を取ることさえさせてもらえなかった ――

 ……なぜ、そうなのか。それは言えません。

 結果的には、命の次に……いいえ、命以上に大切な乃木高演劇部を捨てたか分からないという人がいるかもしれない。

 好きだからこそ捨てた。乃木高演劇部は私の所有物じゃない。気障な言い方だけど、乃木高演劇部は神の居ます神殿のようなもの。わたしは、それを預かる神官に過ぎない。六年前わたしは山阪先生という神官から、それを預かった。

 もし、乃木高演劇部という神殿に神が居ますなら、たとえ神官が代わろうとも、いつか必ず復活する。貴崎マリという神官がいる間は、前任の山阪先生の時とは全く異なる色に染め上げた。しかし、どんな色に染まろうと、神が居ます限り、それは乃木高演劇部であるはず。


 その神官は、わたしの予想を遙かに超えて早く現れた。神殿を閉じたその時に。


 その後継者を峰岸クンから知らされ、正直わたしは……ズッコケた。

 なんと、その神官……という自覚も無い後継者は、一年生の仲まどかと二人の部員。

 唖然、呆然、わたしが密かに名付け、本人たちもそう自覚してはばからない憚らないタヨリナ三人組……。

 しかし、ズッコケながらも感じていた。

 仲まどかという神官は案外ホンモノかもしれない。

 だから、この新生乃木高演劇部に手を貸すべきかという峰岸クンの当然すぎる申し出に、こう答えておいた。

「否(いな)」

 ただ、わたしの中には、まだ迷いがあった。

 本当の神官は芹沢潤香かもしれない。しかし潤香は意識不明の闇を彷徨っている。とりあえずは見守っているしかない。わたしはすでに神官ではない……それだけははっきりしていたから。

 昨日、理事長からスマホに写真が送られてきた。

―― この子たちは、こんなに大きな『幸せの黄色いハンカチ』を掲げて待っております ――

 泣かせるコメントが付いていた。

―― この子たちが待っているのは「神」です。この子たちは神官です。そして、わたしは神殿を出てしまった元神官にすぎません ――

 わたしは、そう返事しておいた。

 折り返しご返事が返ってきた。

―― 了 ――

 電信文には、この一文字だけが書かれていた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 97『今日の胡旋舞には角が無い』

2022-12-11 16:09:50 | ノベル2

ら 信長転生記

97『今日の胡旋舞には角が無い』織部 

 

 

 ルンルルル ルンルルル ルルルル  ルンルルル ルンルルル ルルルル……

 

 今日の胡旋舞には角が無い。

 皆虎の広場で踊っている時は、せわしく激しいステップで、リュドミラ自身がスティックになってドラムを叩くような感じになる。

 じっさい、演奏の太鼓は、そういう音をさせているので、タンタタタ タンタタタ タタタタと、いっそう激しい感じになる。

 それが、今日のリュドミラは、赤十字募金の赤い羽根が風に舞っているように軽やかで、優しい。

 

「今日はお年寄りのお客様が多いせいかもしれませんねえ……」

 

 客足が一段落して、広場に出てきた大橋(だいきょう)が静かに感心する。

「そうですね……不思議ですね、演奏はいつもの南楽坊なのに……いや、演奏も優しくなっている」

「南楽坊は宮廷楽士の子弟の子たちです。宮廷楽士は、その場の空気に合わせて音を変えますから、劉度(リュドミラ)さんの変化にも巧みについていくのでしょう」

 パサージュの広場だから、人は自由に行き来していて、全ての客が足を止めて聴いているわけではない。

 立ち見を入れて二百ほどの客は買い物するのも忘れて、胡旋舞に見入っている。

 

 パシャパシャ パシャパシャパシャ……あちこちでスマホやカメラのシャッターを切る音がする。

 

 最初は、シャッターチャンスを心得た客が多いと思ったが……ちょっと違う。

「越後屋さんも気づいたみたいね」

「ええ、シャッターが切られるのを予感して、視線を変えている」

 リュドミラは本来スナイパーだ。標的の動きや息遣いに合わせて最適なタイミングで引き金を引く。最適なタイミング……おそらくは、数秒先の標的の動きを読んで、そこに照準を定めている。引き金を引いて、弾が飛び出し、標的に命中するまでには微妙なタイムラグがある。そのスナイパーとしての感性が役に立っているんだ。

「天性の踊子ね劉度さんは……見込んだだけのことはあります……あら、あの子は?」

 年配の客が多い中に混じって写真を撮っている少年がいる。

 お客たちの合間を縫って、犬ころのように走り回って、せわしくシャッターを切っている。

 

 やがて、イベントタイムが終わると、犬ころは流れ始めた買い物客を躱しながら、こちらにやってきた。

 

「コウちゃん、すごい踊り子さんを見つけてきたね!」

「ああ、やっぱり孫権だ!」

 え、孫権!?

「踊り子さん撮るのはいいけど、オッサンたちに混じって、あやしいアングルとかで撮っちゃダメだからね」

「そんなことはしないよ」

「どうだかぁ、こないだは長江の畔で隠し撮りをしていでしょうが?」

「え、近衛の誰かがしゃべった!?」

「ううん、わたしの侍女が小耳にはさんできたのよ」

「アハハ、コウちゃんも地獄耳だね(^_^;)。ま、それは置いておいて、僕にも紹介してよ。こちら、踊り子さんのマネージャーさんなんでしょ?」

「また、半端な情報仕入れてきてぇ。こちらは、扶桑の商人で越後屋さん」

「初めまして、コウちゃん……いえ、大橋姉さんの義弟の孫権です。よろしく(^▽^)/」

「ということは……呉王孫策さまの?」

「はい、でも、お気楽にチュウボウと呼んでください、じっさい中学生ですしね。越後屋さんは……スキモノですよね(ー_ー)」

「孫権、失礼ですよ!」

「もう、コウちゃんもしらばっくれてぇ、こちらは数寄者で有名な、扶桑は転生学院高校の古田織部さま」

「あ、ちょ!?」

 とっさに孫権を庇って、アーケードのガラス天井を見上げる。

 案の定、リュドミラがガラス天井に腹ばいになってモーゼルミリタリー・カービンを構えていた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする