『傑作あるいは地平線の神秘』
三人の男の頭上にはそれぞれ月が描かれている。一つの時空に三つの月が出現、並ぶことがあり得ない。
光景はどうやら夕刻のようで、景色は仄暗く残照の景である。にもかかわらず三日月は南中しているのには矛盾がある。地平線の近くに見えることが自然であり太陽の光を受けているのであれば更に傾くはずである。
夕刻に真昼にあるべき月が頭上にあるのはおかしい。
三人の男はそれぞれ(南・東・西)を向いている。すなわち《朝・昼・夕》であり、陽のある一日の時間帯を示唆/暗示している。
地平線に対して直立している三人はそれぞれ地平線に対して十字を切っている。
頭上の月は太陽の光を受けて見えるものである。
存在への大いなる感謝ではないか。
地平線という一本の線条に垂直に立つ男は月(太陽の光)を抱ている。これは大地に生きる者の《大いなる祈りの形》である。
物理における否定あるいは矛盾から導き出された精神的な肯定には《大いなる神秘への崇高なる祈り》が隠れている。
マグリットの自然崇拝、信奉の要である。
(写真は国立新美術館『マグリッㇳ』展/図より)