想い出、つまり、この画の時空はすでに過去だということである。石化し果てるほどの時間は想像を超えるが、更にそれを遡る時間がここに在る。
膨大な時間、計り得ることの困難な時間の想定。
彼の衣服、リンゴの食、壁・テーブルにみる住空間…衣食住という生活の基本設定、わたし達がずっと続くと信じている時空である。しかし、それが膠着状態はおろか変質し、時間を止めている。石化であれば、次の動きは無く、日常そのものの墓標である。美醜、善悪もなく、善という精神的余地も残されていない。
空虚、存在しているが、無空と感じるのは物語の進展が断絶されているからである。ここからの未来は崩壊を待つのみであって、幸福でも不幸でもない《精神の欠如》があるばかりである。
マグリットは何故このような場面を想定したのだろう。現今の世界に望みを抱けないためだろうか、小さな平和の温存だろうか。百獣の王であるライオンを侍らせている男は、世界への静かなる反逆心を抱いているのだろうか。不滅の告発は死してもなお強い信念として縷々続くという意味だろうか。
語ることなく語るマグリットの論である。
長すぎる旅ではあるが、鑑賞者に答えを強いるものではない。
写真は『マグリット』展・図録より
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