黒衣の人物らしきの肩は《男》に見える。しかし、女盗賊とあるから《女》なのだと納得してしまう。
言葉と景、観念と視覚(目に見えるもの)には差異がある。言葉による洗脳は打ち消しがたく残る。見えたものは錯覚かもしれない・・・言葉と景の優位性は主観によるもので正否の決定は曖昧である。この曖昧な異空間がこの作品の時空である。
盗まれたものは失ったものであり、現今存在を消失しているものである。
この盗賊らしきものが開けることを拒むように手で抑えつけた箱、箱の中身への言及はなく、鑑賞者に委ねている。
マグリットにとって大切な存在、喪失感にさいなまれ希求してやまない亡母への思いを察することは容易かもしれないが、それを拒む作家の意思も垣間見える。
大いなる喪失、それは大いなる定め(女盗賊)によるものだった。これがマグリットが導き出した自身を納得させる答だったのかもしれない。
写真は『マグリット』展・図録より
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