『雲のある自画像』
萬鉄五郎という画家を初めて知ったが、卓越した技巧は本質を衝いている。
『雲のある自画像』などは、顔を正面から描いているにもかかわらず、肩(身体)の線を耳の辺りから落としている。
首を描かないことで顔を前面に出し、俯いているかの印象である。肩を極端に下げ、肉体の存在を打ち消しているので、まるで幽霊のような希薄さである。
この差異ある描写が奇妙かつ不思議な情念を漂わせ、消極的な薄い身体が真正面を見据えた眼差しを隠している。
心象・・・身体(白いシャツ)部分を被い顔だけを見ると、実に精悍で神経質そうな繊細な表情が浮かび上がる。額から上を大きく描き、あたかも上からの描写のように惑わせ微妙にバランスを取っているので、全体から見ると脆弱な印象を鑑賞者に与えているが、実は非常に鋭利で不気味なまでの観察眼でこちらを見ている。
頭上の雲は、その都度変化していく生命体としての現象を、身体から切り離して具現化したものだと思う。バックを無(黒)にせざるを得なかった心理的自画像である。
(神奈川県立近代美術館/葉山『萬鉄五郎』展より)
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