画家が絵を手放すように春は暮れ林のなかの坂をのぼりぬ
画家が絵を手放す、譲渡…わたくしの手元から離れた、ゆえに再びわが物として眺める機会はない。
もちろん加筆や修正は許されぬこと。大きな喪失感、わたくしから離れたことであの絵(作品)はどんな運命をたどるだろう。あずかり知らぬあの絵の未来、未練、執着、責任は計り知れない。見えないことへの不安と期待、たしかに絵(作品)はわたくしの視界から消えてしまった。
費やした時間、完成までの思い入れの重さはすでに幻と帰した。
見えない未来、華やぎの朧は曖昧模糊と霞んでいく。暮れなずむ林の混沌、大きな虚脱を繕うように一歩一歩坂を上って行く。
わたくしは失ったのだろうか、あるいは確信を得たのだろうか。
正負の均衡はつねに危惧されるべきものである。沈思黙考、絵(作品)は《恋・熱愛》だっかもしれない。春の慕情を打ち消すように未練を背中に残し、ゆるやかな坂を振り向かず上って行ったわたくしである。
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