ハリックの診断即治療&虹彩と、Kenさんの経済学&スケッチ

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「花のもとにて春死なむ」:辻原登atよみうり読書 芦屋サロン(スケッチ&コメント)

2019-04-22 19:06:38 | スケッチ



辻原登atよみうり読書 芦屋サロン

江嵜企画代表・Ken



第45回「よみうり読書 芦屋サロン」が4月21日(日)午後2時からルナホールに作家、辻原登さんを迎えて開かれ、楽しみにして出かけた。会場の様子をいつものようにスケッチした。読売朝刊に原稿用紙9枚に書いた掌編小説「花の元にて春死なむ」について辻原登さんの話を会場350人が堪能した。

満開の桜のもと東京・千鳥ヶ淵のボート中で事件は起きる。物語はあたかも読み上げられているかのような基本調書と共に展開する。60代の夫婦が服毒心中を図る。夫が口に含んだ青酸カリで妻は死ぬが夫は生き残る。掌編小説は結末を語らず終っている。聞き手は読売文化部の今井道子さん。「辻原登さん(73)は、和歌山県出身、1990年「村の名前」で芥川賞、2000年「遊動亭円木」で谷崎潤一郎賞、06年に「花はさくら木」で大佛次郎賞、2012年に紫綬褒章受章されたなどなどと冒頭紹介のあと質疑応答が始まった。

「1995年の阪神淡路大震災のとき高速道路が倒れた芦屋市平田町に住んでいました。大変ショックでした。その時の地震の様子は2004年に書いた小説「ジャスミン」に紹介しています。芦屋は2000年に谷崎潤一郎賞を谷崎潤一郎記念館でもらった時以来18年ぶりです。その時から芦屋の街の様子が変わりました。驚いています。」と話を始めた。「今井さんから掌編小説のお話を伺ったあと考えました。初めての経験です。何を話すか。4月21日に話をすると決まった時「春にちなんだ話にしょう」と決めました。掌編小説は400字原稿用紙9枚、短い。次に何かドラマチックな中身にしよう。心中を選んだ。死ぬなら花の下。西行の歌があります。心中は日本の文化です。西洋にはありません。中国にもほとんどありません。」と話を続けた。

「もう一つ基本調書の形を使いました。捜査官が被疑者からとるあれです。本人がハンコを押して出来上がります。言いたくないことは言いません。黙秘権は認められていますがウソをつくと判決に不利に働きます。被疑者が喋っていない箇所が生まれます。身代わりになって読者が探っていく。これは一つの手です。」と話を進めた。

聞き手の今井さんは「いくつかの謎があります。青酸カリです。被疑者は本当のことを言っているのですか?」と水を向けた。「光文書文庫に実際に昭和28年にあった青酸カリ口うつし事件が出ています。参考にしました。青酸カリは胃に入れば助かりません。口に含む程度であれば0.002mg程度では問題ありません。妻は死ぬ覚悟でしたから必死に舌をからませてきました。夫は憶えていないと供述しています」と生々しく応じた。

参加者との質疑応答である婦人が手を挙げた。「主人が余命半月と医師から宣告を受けました。物語の男性は何故後追い心中しなかったのでしょうか。」と聞いた。「毒薬を飲んで死ぬのは苦しいと医者の息子からも聞いています。被疑者の奥さんがしがみついてくる。余りに切ないので書けなかった。テンテンテンで残しました。」と答えた。

ある男性は「自分は家内をがんで亡くした。妻はががんだと言われた後パニックになった。辻原さんは奥さんを実際がんでなくす経験をしたことがないから小説に平気で書けたのでないか。答えてほしい。」と聞いた。しばらく下を向いて答えなかった辻原さんは「その通りだと思います。死ぬということは生きるということです。死ぬには力が要ります。」と答えた。

ある女性が「主人をがんで亡くしました。主人からあの世で一緒になろうと言われました。辻原さんはあの世はあると思われますか」と聞いた。「難しい質問ですねえ。毎日、朝と寝る前に、妻の両親と自分の両親とにお祈りをしています。南無阿弥陀仏を唱えます。その時だけは信じられるのです。おっしゃること、こういうことは人間だけです。魂といえば言霊ということばがあります。宇宙全体に魂が宿っており、新しい命が生まれるとアインシュタインは話しています。」と答えた。

今井さんが「止まりませんね。予定の時間が参りました。この辺で終わらせていただきます。質問が途切れなかったのは今回初めてです。辻原登さんに大きな拍手をお願いします。」と話してお開きとなった。

この日はいつもある作家のサイン会はなかった。その分質問の時間が多く取られた。時計を見たら午後3時40分をまわっていた。貴重な時間を用意いただいた関係者にひたすら感謝である。(了)

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