人類の生み出した最高のピアノ曲・ベートーヴェンの「ディアベッリの主題による変奏曲」、これを自家薬籠中のものとしているフリスの名演に感動しました。派手さや見栄とは無縁の内的充実の極みで、50分を超える大曲があっという間でした。
前半の二曲、とりわけ6つのパガテル(作品126・最後のピアノ曲)も聴きごたえ十分の名演、ディアベッリを含めすべて暗譜でした。
フリスは曲に没入し、実に楽しそうにピアノを弾き、音楽の表情が豊かです。62歳の充実期の来日なのに聴衆が少なかったのは残念でしたが、NHKが5台のテレビカメラで完全収録していましたので、後日に、見、聴くことができます(放映日は未定)。
それにしても「ディアベッリ変奏曲」の独白と対話、リアルとロマンが一体の恐るべき曲のもつ面白さを自在に演奏したフリスの実力は素晴らしいの一言。この曲は、あるゆる既成観念を超えて自由そのもの、強烈なまでのファンタジーを持ちます。それが目の前で現実の音になって鳴り響いたのですから、ただ感動あるのみ! ディアベッリの知名度が上がったのは、まださほど昔ではありません。ベートーヴェンはとんでもない曲を創ったもの、と改めて感じ入りました。
10月1日には、同じイギリスのピアニストで、現代最高のベートーヴェン弾き(少なくともその一人)のポール・ルイスによるディアベッリの演奏会もあり、とても楽しみです。銀座王子ホールです。
武田康弘