人生の裏側

人生は思われた通りでは無い。
人生の裏側の扉が開かれた時、貴方の知らない自分、世界が見えてくる・・・

ネコ人間の生態(後)

2018-04-15 11:00:40 | 創作
依頼人の人からの情報によれば、この男下照氏...つまりネコ人間は、とてもミステリアスで常人離れしていて、掴み所が無いとのことだが、私には、俗物にしか思えないし、とても分かりやすい人間にしか映らない。
さっき、エサを取り損ねたのか、すごーく不機嫌な様子でスタスタと街中を歩いている。普段からブラブラとは歩かないようだ。
人と接触しそうになると、僅かなサイドステップでかわしている。"あ、アブナイ、自転車が横切るゾi" これもしなやかな瞬時のバックステップでかわす...けっしてドタドタとしないのだ。
全然ムダな動きが無いように見える。やはりネコ的な動きと言うべきか...
動きにムダが...いや...パタッと止まった...何だかムダに寄り道か...路の隅っこの方をじっと見つめている...わ、笑ったi...抜き足、差し足でその一方に近づいてゆく...ネコだ...ご本尊樣とご対面しているのだ。何とかスキンシップを試みようとするが、このツンデレなご本尊樣は音を立てずにどっかへ消えてしまった。
それでもこの見習い?のネコ人間は、ご満悦の様子だ。さっきまでとは表情が一変してしまった。なるほど...ツンデレである。
一見、ムダの無い動き、これはムダそうに見える余興に向けてエネルギーを蓄えているのだろうか?
そして、この余興と思えることに何と生き生きと映ることだろう...
で、私のこの仕事の本来の目的、怪しい"マタタビ"の所在、出所のことである。
すると、又脇目も振らず歩き出し、喫茶店に入っていった。すぐ近くの"ドタール"でなく、離れの"ベロンチョ"である。(どうでもいいが、あそこのアイスコーヒーは、あっちよりマイルドで氷が細かすぎなくてちょうどいい)
当然のことながら、ずっと奥の方の穴蔵みたいなところがお気に入りのようだ。
すると、カバンからタブレットを取りだし、動画か何かを観始めた。わ、笑ってる...これがいつもの日課らしい。私の憶測では、あれはネコ動画だろう...柴犬かオウムとのコラボか、トルコ在住の「あーにゃん」とかではないだろうか?
しかし、ご満悦そう...しばらくして、何かを打ち込み始めた。人生の裏側の、ちとヤバイ世界についての怪文書か何かだろうか?
時々、何か遠くの方を見つめている..."姿なき要人"でも居るのだろうか?
それとも、そいつはここで"マタタビ"を携えて姿を現すのだろうか?
いや、書き込みながら既に恍惚境に入っているようにも見える。不敵な笑いも浮かべているゾ...これはヤバそうだ。いつの間にかマタタビをコーヒーに混ぜたのか?
う~む、確かにミステリアスである。彼自身はやはり俗物にしか見えないのだが...その見てる先とか背景とかが、そういう感じなのだ。
何とかして、その秘密めいたものの正体を突き止めねばなるまい。
一時間くらい経っただろうか...私のこの秘密の任務は、唐突に中断されてしまったのである。
ネコ人間は、突然予想外の行動に出るのだ。私がトイレに入った間に姿をくらましたかと思ったら、いきなり音も立てずに背後から声をかけられたのである。
「あ、あのう...もし、もし...失礼ですが、さっきどっかでお目にかかりましたかな?」
ギクッi これはマズイ...尾行がバレてしまったのだろうか? 私が彼を観察していたと思ったのが、どっかで見られていたのだろうか? 全く抜け目のないネコ人間...油断も隙もない。
「い、イヤあ...気のせいじゃないですかねえ...ま、奇遇で行動が重なるってこともあるかもしれませんしねえ...」
「そうですか...最近、どうも何かに見られている、見透かされているような気がしてならないもので...」(ギクッi もう、固まりそう...すべてバラすしかないか...と思ったら...)
「いや、別にどっかのヒマな人間(な、なぬっi)に見られているとか、そういうことじゃあなくてね...ほら、よく言うでしょう..."お天道樣が見ている"とか...これにはどうも逆らえないようで...どんなに僕がバカなことになってようと、見られていることでバカなりに生きてられるってもんで...あなたもそういうの感じたことないですか?」
「そ、そうですねえ...こっちが見ているつもりで、何かに見られていたとか、捉えようとしたら、捉えられてしまったとかそういうことはあるかもしれませんねえ...」
「そうでしょう、そうでしょうよ...実は、僕は今ね...」

という訳で、何の因果か私は謎の怪文書を読まされるハメになってしまったのである。
捉えようとして、捉えられない...そして、いつの間にかこっちが捉えられてしまう...恐るべしi ネコ人間の魔力...
依頼人には、"マタタビの正体は結局分からなかった...しかし、そのニオイは確かにあるようだ。しかし、うっかり近づくとそのトリコになってしまうことになる...ネコにマタタビでなくて、ネコこそが、いやそれを取り巻くすべてがマタタビである" と伝えておこう。





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