飯田線の列車は、やがて唐笠駅に到着する。
駅の前の空き地に、二台のマイクロバスが停まっている。
車体を見ると「天竜ライン下り」の赤い文字で書かれていた。

これはこの駅の直ぐ横には、天竜川船下りの船着き場・唐笠港があり、
川下りをした観光客を出発地に送り届けるバスのようだ。
駅近くには、観光客向けと思われる食堂のような建物も見えている。

駅には川下り用に立派な待合室が見受けられるが、他には小さな駅舎
らしいものが有るだけで、ホームには何の施設もない。
有名なライン下り観光の拠点駅なのに、意外なほどに賑わいの感じられ
ない寂れた駅のようである。

どうやら多くの客は、マイカーや観光バスで訪れるかららしい。
ライン下りを楽しみ、ここに上陸するとすぐにマイクロバスで、出発地
まで戻るようで、オンシーズンでも鉄道の利用者は極めて少ないと言う。
列車の本数が少なく、ライン下りの出発や到着には接続もなく、時間的
にも合わないので効率も悪いのであろう。

左手には幾分川幅の狭まったライン下りの天竜川を眺め、相変わらず
トンネルを幾つも抜け、その先の金野、千代と停まりながら先に進む。
周辺に人の住む気配が感じられない場所で、これらの駅は、何れも一部
の普通列車さえ通過する秘境駅である。

このように時刻表には忠実に、また律義に発・停車を繰り返す列車で
はあるが、いつの間にか駅での人の乗り降りはほぼなくなっている。
停車時間も極めて短く、扉が開いたかと思うと直ぐに閉まり、発車する。
気が付けば車内の乗客も数えられるほどで、多くはカメラやビデオを
抱え、絶好のアングルを求め車内を行き来する、鉄道ファンらしき人達
ばかりが目立っている。(続)


