五本松で国道と別れ、その先で東海道線を踏切で越え、川原ケ谷の今井坂に
やってきた。どうやらこれが箱根西坂では最後の坂のようで、その勾配は緩く
もはや大した坂ではない。

坂を下りきり、大場川に架かる新町橋を渡る。三島宿の入り口にあたる橋だ。
ここは安藤広重の「東海道五十三次三島狂歌入り」に、雪景色の富士山として
描かれた場所で、昔から富士山を望む絶景のビュースポットである。

そう言えば箱根を下る西坂には途中に富士見平と言う地が有り、初音が原
近くには富士見ヶ丘と言うバス停が有るほどだから、ここら当りではどこか
らも雄大な富士の姿が望まれたのであろう。
芭蕉はこの地で、「霧しぐれ 富士を見ぬ日ぞ 面白き」の句を残している
ので、富士が見えることは当たり前の日常的な風景であったようだ。

このように箱根八里は、いたるところから遠望する富士を友として歩く道
でもある。多くの旅人は、苦しい上り坂でも辛い下り道でも、何時も見え隠
れする霊峰・富士の姿に心和ませ、それを糧としてパワーをもらい、力を振
り絞って歩いてきたが、それは今も昔も変わらぬ旅人の姿である。

しかし今日は雨の心配こそ無かったが、残念ながら生憎と雲の多い天気で、
どこからも富士の姿を望むことは叶わなかったのが心残りだ。

旧東海道は、三島の町並みの喧騒の中にすっかり入り込んできた。
新町橋を渡るとそこは三島宿の東見附跡、そこからさらに町中を500mほど歩
くと、右手前方に緑豊かな森が見えてくる。
三嶋大社の大鳥居はもうすぐそこである。(続)


