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飯田線にとって天竜川は、車窓の主役とも言える存在である。
長篠辺りまでは豊川が、その先はその支流である宇連川を従え北上し、
それと分かれた後、佐久間ダム辺りで天竜川に出会うと、その後はほぼ
この川の流れに沿ってきた。
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「あばれ天竜」と言われ、蛇行する流れや、天竜峡の景観は、日本を
代表するアルプスに挟まれた地の山塊と相まって車窓を楽しませてくれた。
嘗ては筏流しが盛んに行われた川は、水量が豊富で、急峻な地形を流れる
ことから、水力発電用のダムが盛んに造られ、そのダム湖を幾つも目にす
ることも出来た。
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豊橋駅前で8m余りであった標高は、岡谷の駅前では700mを遙かに
超えている。
飯田線を来た列車の終着駅岡谷は、「東洋のスイス」と言われる精密機
械工業が盛んな町で、諏訪湖畔に開けている。
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実は天竜川はこの琵琶湖から流出する唯一の一級河川で、この地にあ
る釜口水門が起点である。
標高759mの地点に有り、ここから延々と213㎞を流れ下り、長野県から
愛知県を経て静岡県の遠州灘で太平洋に注いでいて、その流路は国内第9
位の長さを誇っている。
言わば飯田線の旅は、この源流を訪ねる旅でもあった。
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沿線の90を越す駅で律儀に発停をくり返し、時に長時間の停車を何度
も繰り返す。7時間半に渡る飯田線普通列車の旅は、平均速度は30㎞程
で、正に鈍行列車の旅であった。
降り立った岡谷のホームで、今晩の宿を予約した松本行きの列車を待
っている。
駅の東前には天竜川の源である諏訪湖が広がっているはずだが、既に夕
闇に包まれ望むことは出来ない。(続)
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(上諏訪から諏訪湖を望む)
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