個人名が鉄道の駅名になっている事は、全国的に見ても珍しい事である。
岡山県下には智頭急行線に「宮本武蔵」と言う駅があり、JR伯備線には
山田方谷から取った「方谷」駅がある。
そしてこの井原鉄道線にも、個人の名前が付けられた駅が有る。
それが川辺宿の次の駅である「吉備真備」駅である。
「吉備真備」は奈良時代に活躍した政治家・学者だ。
この地方では有力な豪族である吉備族に連なる下道氏の出で現在の真備町
で生まれたとされている。
最初は23歳の頃に唐に渡り18年間も滞在し、儒教、法律、算術、天文、兵法、
暦法など学び、帰国後は聖武天皇から重用され国の制度改革や文化の発展に
尽くし、更に囲碁の伝来やカタカナの発明にもかかわったと言われている。
50歳を過ぎ吉備姓を名乗るようになるが、地方豪族の出身でありながら異例
の出世に中央貴族の反発も強く、筑前守として九州に左遷されることもあった。
57歳の頃には遣唐副使として2回目の渡唐を遂げているが、70歳で再び都に呼
び戻され、道鏡の乱では、兵法の知識を生かし、鎮圧した。その後称徳天皇の
時代にも出世を重ね、右大臣まで上り詰めた人物である。
駅前には広々としたバスターミナルを兼ねたロータリーがあり、その一角が
公園風に整備されている。何やら中華っぽい模様が入れられている煉瓦タイル
の歩道があり、並木代わりに特産の竹を植えた道を行くと、黒瓦葺き二層屋根
赤い柱の中華風の建物が建っている。
四方がガラス窓の建物で、どうやらバスの待合室らしい。
周りには公が広めたと言う囲碁に因んで、碁盤を模した石のテーブルも置かれ
ている。このように地元では公の遺徳を偲んで、こうした施設を整備し、吉備
公祭や弾琴祭、囲碁大会などを開催している。(続)
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