ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

グノー/聖チェチーリア荘厳ミサ曲

2019-07-31 23:13:02 | クラシック(声楽)
前々回でシャルル・グノーの交響曲2曲を紹介しましたが、今回は彼の残した代表的な宗教曲である「聖チェチーリア荘厳ミサ曲」をご紹介します。荘厳ミサ曲はラテン語でミサ・ソレムニスとも言い、本ブログでも過去に紹介したベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」やロッシーニの「小荘厳ミサ曲」等が有名です。グノーの作品に冠されている聖チェチーリアとはローマ時代の3世紀に殉教した聖女で、音楽の守護聖人としてキリスト教世界で古来から崇拝されてきました。彼女の名を関したローマにあるサンタ・チェチーリア国立アカデミーは世界的に有名な音楽学校ですね。

さて、オペラ作曲家として大成功を収めたグノーですが、宗教曲も多く手掛けておりオラトリオを9曲、ミサ曲も10曲以上残しています。ただ、それら宗教曲が演奏される機会はほぼなく、辛うじてこの「聖チェチーリア荘厳ミサ曲」だけが一部で愛好されているぐらいです。ディスクの数もそんなになく、出回っているのはジャン=クロード・アルトマン指揮パリ音楽院管弦楽団による本CDぐらいですね。1963年収録なのでもう50年以上前の演奏ですが、未だにこの曲の決定盤となっています。



内容については素晴らしいの一言。さすがにベートーヴェンのミサ・ソレムニスと比べるとスケール感には劣りますが、メロディの親しみやすさと美しさでは引けをとりません。曲は敬虔な雰囲気に満ちた「キリエ」で静かに幕を開け、続く第2曲「グローリア」と第3曲「クレド」で最初のクライマックスを迎えます。とりわけ「グローリア」の美しいソプラノ独唱の後に現れる大合唱、思わず一緒に口ずざんでしまうほど歌心にあふれた「クレド」冒頭の合唱が感動的です。「クレド」に続く第4曲「オッフェルトリウム」は歌はなくインストゥルメンタルのみですが、静謐な美しさが胸に沁みる珠玉の名旋律です。続いて、終盤に向けて静かに盛り上がる第5曲「サンクトゥス」、敬虔な雰囲気に満ち溢れた第6曲「ベネディクトゥス」と第7曲「アニュス・デイ」、そして最終曲「ドミネ・サルヴム」の感動的なフィナーレへとつながっていきます。45分弱と宗教曲にしてはコンパクトですが、ギュッと魅力が詰まった名曲中の名曲だと思います。

なお、このCDには同じグノーの「小交響曲」という作品も収録されており、こちらはジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団の演奏です。題名からすると短めの交響曲かと思いますが、実際は9つの管楽器による室内楽作品です。古楽的な雰囲気が魅力なのかもしれませんが、感動的な「聖チェリーリア」のあとに聞くと地味過ぎて印象に残りません。
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ウォルトン/ベルシャザールの饗宴

2018-08-07 12:31:48 | クラシック(声楽)
本日は久々にオラトリオを取り上げたいと思います。3年ほど前にオラトリオの魅力に目覚めて、ハイドンの「天地創造」やメンデルスゾーンの「エリヤ」等の古典的名作をいくつか取り上げましたが、今日ご紹介するのはイギリスの作曲家ウィリアム・ウォルトンが1931年に発表した作品です。ウォルトンについては以前にヴァイオリン協奏曲のエントリーでも書きましたが、20世紀の作曲家でありながら前衛的な要素はほぼなく、わかりやすい曲想が持ち味です。このオラトリオも難解な旋律はほぼない上に、時間的に30分強とコンパクトにまとまっているので、むしろ2時間前後の大作が多い古典の名作よりオラトリオ初心者には取っ付きやすいかもしれません。物語は旧約聖書の「ダニエル書」から取られていて、古代バビロニアの王ベルシャザールが異教の神々を崇拝して神を冒涜したところ、天罰が下って死に、バビロンに捕らえられていたユダヤ人達が解放されたというお話です。とは言え、内容はともかく、音楽的には宗教色はそれほど感じず、大規模な合唱とオーケストラサウンドで作り上げる一大スペクタクルと言った感じです。



作品は全9曲に分かれていますが、通しで演奏されるため実際は1曲です。盛り上がる場面は2カ所。まずは3曲目から4曲目にかけてベルシャザール王が酒宴を開き、異教の神々を称賛する場面。そして、フィナーレの神の栄光を讃える場面。どちらも迫力ある合唱とフルオーケストラが奏でるゴージャスなサウンドが一体となった壮大な音世界で、聴く者を陶酔させてくれます。20世紀の合唱音楽と言えばオルフの「カルミナ・ブラーナ」ばかりが有名ですが、個人的には本作もそれに負けない傑作だと思います。その割に人気は高いとは言えず、本国イギリスを除けば演奏機会も多くないのが残念でなりませんが、幸いCDだと私の買ったポール・ダニエル指揮イングリッシュ・ノーザン・フィルハーモニアによるナクソス盤が国内版でも入手可能ですし、youtubeだと尾高忠明がBBCプロムスを指揮した映像が視聴可能です。どちらも本当に素晴らしい演奏ですので、未聴の方々にはおススメです。
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ハイドン/戦時のミサ

2018-03-20 12:25:42 | クラシック(声楽)
1ヶ月ぶりの更新です。本日はハイドンのミサ曲を取り上げたいと思います。ハイドンは生涯に100を超える交響曲を作曲し、「交響曲の父」として知られていますが、一方で宗教曲もたくさん残しています。本ブログでも過去にオラトリオの代表作である「天地創造」「四季」をご紹介しましたが、ミサ曲も12曲残しており、そのうち今日ご紹介する「戦時のミサ」は第7番に当たります。「戦時のミサ」と言っても、特に戦争をテーマにしたわけではなく、単に作曲中にオーストリアがナポレオン軍と戦争の真っ最中だったため、ハイドンが楽譜にメモ書きを残したというだけだそうです。ハイドンは交響曲にもそれぞれニックネームが付いていますが、なにせ作品数が膨大なので、覚えやすくするために付けたのでしょうね。



曲の内容ですが、あくまで教会で演奏されるミサ曲ですので、構成はカトリックの典礼に則っています。全体的には荘厳な雰囲気ですが、その中でもハイドンらしい魅力的な旋律がそこかしこに散りばめられており、宗教音楽だからと言って肩肘張らずに楽しめる内容です。特に「グロリア」冒頭の爆発的な盛り上がり、「クレド」終盤の壮麗な合唱、「サンクトゥス」の静謐な美しさ、そして「アニュス・デイ」で感動的なフィナーレを迎えます。CDですが、タワーレコード限定版で発売されているレナード・バーンスタイン指揮バイエルン放送交響楽団&合唱団のものを買いました。ハイドンのミサ曲自体は録音も少ないですが、それだけに20世紀を代表する巨匠が残した本盤は貴重です。曲の長さも45分強で、オラトリオほど長くないのが良いですね。
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ロッシーニ/小荘厳ミサ曲

2015-08-29 23:11:43 | クラシック(声楽)

本日はオラトリオから離れてロッシーニの宗教曲を取り上げたいと思います。ロッシーニと言えば「セビリアの理髪師」「ウィリアム・テル」等のオペラで知られていますが、実はオペラ作曲家として活躍したのは30代までで、その後は76歳で亡くなるまでの40年近くは悠々自適の隠居生活を送っていたようです。もっともそれでは退屈したのかたまに宗教曲を書いたりしたようで、50歳の時に宗教曲の傑作「スターバト・マーテル」を書き残しています。この「小荘厳ミサ曲」はさらにその20年以上後、ロッシーニが76歳で亡くなる5年前に書かれた曲です。「スターバト・マーテル」ほど有名ではありませんが、ロッシーニらしい歌心あふれる旋律が随所に散りばめられた魅力的な作品となっています。



荘厳ミサ曲とはラテン語で言うミサ・ソレニムスのことで、頭に“小”が付いている分、規模が小さいのかと思いきやそうでもなく、演奏時間80分以上もあります。下手したらベートーヴェンの「ミサ・ソレニムス」より長いかもしれません。私の買ったアントニオ・パッパーノ指揮サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団のCDも2枚組のボリュームです。曲は冒頭の「キリエ」こそ厳かな雰囲気で始まりますが、続く「グロリア」と「クレド」はオペラ作曲家ロッシーニらしく魅惑的な旋律のオンパレードです。特にオペラのアリアを思わせるテノール独唱「神なる主」、ドラマチックな合唱「聖霊とともに」、清らかなソプラノ独唱「我らのために十字架につけられ」、壮麗な合唱「来世の生命とを待ち望む」が必聴です。晩年のロッシーニは長年の美食が祟ってか極度に肥満し、さまざまな病気にもかかっていたそうですが、そんな中でこの曲を書いたのはさすがですね。

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ハイドン/四季

2015-08-13 23:24:54 | クラシック(声楽)
オラトリオ・シリーズ第6弾はハイドンの「四季」です。3大オラトリオの「天地創造」に比べるとそこまでメジャーではありませんが、本作もオラトリオ史上に残る傑作として有名です。タイトル通り春夏秋冬の四季を描いたもので、シモン、ハンネ、ルーカスという3人の農夫が語り部となり各季節の情景を歌い上げていきます。一応、自然の恵みを神に感謝するという形式を取っていますが、宗教色はあまり強くなく、むしろ四季の自然現象と当時の農民の生活が生き生きと描かれていきます。特に秋から冬にかけては、農作物の収穫、結婚、狩り、葡萄酒による宴、農民達の団欒の様子など生活描写がメインですね。当時はオラトリオにしろ、オペラにしろ、聖書や歴史物語を題材にした作品が普通でしたので、庶民の生活を歌った作品というのは珍しいですね。



全44曲、2時間を超える大作ですが、お薦めはバロック的重厚さを感じさせる序曲、春の到来を歌う第2曲の合唱「来い、のどかな春よ」、農民3人の三重唱による第6曲「慈悲深い天よ、恵みを与えてください」、太陽を讃える第12曲「太陽が昇る」、ルーカスとハンネが愛を語らう第25曲「町から来た美しい人」、狩りの場面を歌うエネルギッシュな第29曲「聞け、この大きなざわめきを」、暗い冬の到来をオーケストラで描写する第32曲「冬の序奏」、村人たちのユーモラスな恋話をオペラのアリア風に歌う第40曲「ある時、名誉を重んずる娘が」、フィナーレを飾る第44曲「それから大いなる朝がやってきた」等ですね。CDは「天地創造」と比べるとディスクが少ないですが、ゲオルク・ショルティ指揮シカゴ交響楽団のものが国内盤で歌詞対訳付きなのでお薦めです。ハイドンと言えば“交響曲の父”として有名ですが、創作活動の頂点に位置するのは「天地創造」「四季」の2つのオラトリオにある、というのが評論家の意見のようです。私もその意見に異論はありません。いずれも甲乙つけがたい名作と思います。
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