ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

シューマン/ゲーテの「ファウスト」からの情景

2015-08-06 01:09:21 | クラシック(声楽)
オラトリオ・シリーズは第5弾は先日アップした「楽園とペリ」に引き続き、シューマンの作品です。こちらも聖書とは全く関係なく、有名なゲーテの「ファウスト」をモチーフにしたスケールの大きな声楽曲です。文学的素養のない私は恥ずかしながら読んだことないのですが、「ファウスト」は文学史上に残る名作として昔から多くの作曲家にインスピレーションを与えたようで、本作以外にもベルリオーズの「ファウストの劫罰」、グノーのオペラ「ファウスト」、リストの「ファウスト交響曲」などが有名です。一般的にはベルリオーズのものが有名でディスクも多く出回っていますが、個人的にはシューマンの作品の方が完成度が高いと思います。




全21曲、2時間近い大作だけあって、一聴しただけでは良さがわかりませんが、何度も聴いているうちに味わいが出てきます。お薦めはまずは「序曲」。声楽パートはなくオーケストラだけですが、ドイツ・ロマン派の王道を行く力強い作品で、8分半近いボリュームと言い、これだけで単品の管弦楽作品として成立します。2曲目以降は声楽入りで、歌手陣の歌唱も素晴らしいのですが、それを盛り上げる壮麗なオーケストレーションが見事です。お薦めは4曲目の「グレートヒェン、おまえはなんと変わってしまったことか」、6曲目「谷はみどり色を取り戻し、岡の輪郭も浮かび上がり」、続く7曲目「生命の鼓動が新たに生きいきと打ちはじめ」、17曲目「霊界の気高い方が」、そしてフィナーレの「この世の被造物はすべて神の似姿にほかならない」です。CDは残念ながらほとんど出回っておりません。以前国内盤でアバド&ベルリンフィル盤が出たようですが、今では入手困難で輸入盤に頼るしかないでしょう。私が買ったのも輸入盤でダニエル・ハーディングがバイエルン放送交響楽団を指揮したものです。輸入盤だけに歌詞の対訳が付いてないので話の内容がいまいちわからないのが残念ですが、演奏そのものはとても素晴らしいと思います。「楽園のペリ」と言い、本作と言い、シューマンにオラトリオ作曲家としての一面があったとは知りませんでした。クラシックの世界は奥が深いなあ・・・
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メンデルスゾーン/聖パウロ

2015-07-17 13:00:34 | クラシック(声楽)

オラトリオ・シリーズも第4弾まで来ました。オラトリオというジャンルに対しては最初は敷居の高さを感じていたのですが、いざ聴いてみるとなかなか味わい深い作品が多いですね。今日取り上げる「聖パウロ」はメンデルスゾーンが27歳の時に完成させたオラトリオです。円熟期の傑作とされる「エリヤ」に比べると、知名度も低く地味な存在ですが、それでも繰り返し聴くうちに徐々に魅力がわかっていきます。話は初期キリスト教の伝道者として有名な聖パウロの話です。パウロはもともとの名をサウロといい、熱心なユダヤ教徒として当時は異端だったキリスト教徒を迫害していたのですが、ある日イエス・キリストのお告げを聞いてそこから熱心な伝道者となったという話です。実はメンデルスゾーンももともとはユダヤ系の家柄で父親の代にプロテスタントに改宗したという経緯があり、自分自身をパウロに投影していたのではないかとも言われています。



全41曲。第1部は異教徒だったパウロが改宗するまで、第2部はパウロの伝道の場面が描かれていますが、音楽的には第1部の方が圧倒的にドラマチックで聴き応えありますね。お薦めは重厚な序曲、第5曲の迫力ある合唱「この人は、モーゼと神とに逆らう」、第7曲の美しいソプラノ独唱「エルサレムよ」、静謐な合唱の第11曲「見よ、私たちは耐え忍んだ人たちを心から賛美する」、感動的な第15曲の合唱「立ち上がり、光となれ」、フィナーレを飾る第22曲の合唱「おお、なんと深く豊かな神の英知とご洞察だろう」等です。それに比べて第2部は盛り上がりに欠け、あえて挙げるなら第26曲の合唱「そのお知らせのなんと好ましいこと」とフィナーレの合唱「されど彼のみならず、すべての人に」が印象に残るぐらいでしょうか?CDはディスク自体は少ないですが、クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のものが数年前にデッカから再発されているので、比較的入手しやすいです。ゲバントハウスはメンデルスゾーン自身が生前に楽長を務めたという縁もあり、メンデルスゾーン作品の録音は豊富ですね。先日のサヴァリッシュ盤「エリヤ」もそうでしたし。メンデルスゾーンは他にもう1作「キリスト」というオラトリオを作曲していましたが、38歳の若さで世を去ったため未完のままで終わっています。メンデルスゾーンは宗教音楽家として語られることはあまりありませんが、「エリヤ」といい本作と言い、彼の代表作と言ってもいい充実の出来だと思います。

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シューマン/楽園とペリ

2015-07-05 22:10:58 | クラシック(声楽)
オラトリオ・シリーズ第3弾はロベルト・シューマンの「楽園とペリ」です。シューマンと言えば4曲ある交響曲とピアノ協奏曲、あとは「トロイメライ」などのピアノ曲と歌曲が有名ですが、このオラトリオについては取り上げられる機会はほとんどありません。やはりオラトリオと言うジャンル自体がやたら演奏時間が長い(本作も1時間40分あります)上に、オペラのような娯楽的要素があるわけでもないので上演機会が限られるというのが大きいのでしょう。ただ、シューマン自身は出来栄えにかなり自信を持っていたようですし、また妻で最大の理解者であったクララも本作をシューマンの最高傑作と評価しているようです。曲はアイルランドの詩人トマス・モアの詩集を題材にしており、ペルシャ神話の妖精ペリが天国に入るための捧げ物を探してインド、エジプト、シリアを飛び回るという筋立てです。本来オラトリオと言えば聖書を題材にした宗教的な声楽曲のことを指すのですが、本作は全然関係ないですね。だったらオペラにすればいいじゃん、と思うのですが、シューマンがなぜオラトリオ形式にこだわったのかはわかりません。



全26曲、どれもシューマンならではのドイツ・ロマン派らしい旋律に彩られていますが、中でも聴きどころは第4曲のペリのソプラノ独唱「それをどこで見つけよう?」、第6曲のインドの戦いの場面での勇壮な合唱「しかし、今やその国の流れは」、第1部のクライマックスである第9曲の合唱「ペリはその深い傷痕を見た」、ペリが歌う第17曲の美しい「今は眠れ、香り高い夢に包まれて憩え」、そして物語の最後を飾る感動的なフィナーレ「喜び、永遠の喜び、私の仕事は成し遂げられた」などでしょうか?。CDですが、マイナー作品だけあってラインナップが少なく、特に国内盤はほとんどありません。私が買ったCDはニコラウス・アーノンクール指揮バイエルン放送交響楽団によるものですが、他にシノーポリのグラモフォン盤ぐらいしかないと思います。長尺の作品だけあって、最初はやや取っつきにくいですが、何度か聴くうちに魅力がわかってきます。特に上に挙げた曲達はシューマンの書き残した作品でも上位にランクされるのではないでしょうか?
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ハイドン/天地創造

2015-06-27 22:43:02 | クラシック(声楽)
1ヶ月以上間が空きましたが、前回に引き続き今回もオラトリオを取り上げます。この「天地創造」は、いわゆる3大オラトリオの一つに数えられ、古今のこのジャンルの中でも最も有名な作品と言われています。物語の内容は旧約聖書の一番最初の部分で、神が7日間でこの世界を造り上げ、最初の人類であるアダムとイブを生み出したところまでが描かれています。聖書の中でも有名な部分なので、話の内容もわかりやすく、前回の「エリヤ」のように宗教的知識は特に必要ありません。音楽も古典派の巨匠であるハイドンだけあって、旋律も歌心にあふれており、場面によって劇的な効果も十分になされています。そのせいか、トータルで約1時間40分のボリュームながら決して重たくはならず、比較的取っつきやすい作品と言えます。曲は独唱によるアリアやレチタティーボと合唱とで構成されており、最初の天地創造の場面はガブリエル(ソプラノ)、ウリエル(テノール)、ラファエル(バス)という3人の天使がそれぞれ語り部となって、神の偉業を讃えます。アダムとイブ誕生後は、2人がそれぞれバスとソプラノで互いへの愛と神への感謝を歌いあげます。(なお、聖書ではイブが禁断のリンゴを口にして、2人は楽園を追われるのですが、このオラトリオではその部分は描かれません。)



CDはヘルムート・コッホ指揮ベルリン放送交響楽団のものです。全34曲、どの場面も聴き応えありますが、特にお薦めは重厚な序曲から天地創造が始まる瞬間、8曲目のガブリエルのアリア「草は地にもえ」、12曲目のウリエルのレチタティーボ「燦然と太陽は輝き」と続く「天は神の栄光を語り」の合唱、18曲目の天使の三重唱「緑の若草がもえ」と続く「神の力は限りなく」の大合唱、29曲目のウリエルのレチタティーボ「ばら色の雲から」と続くアダムとイブの二重唱「神よ、恵みは天地に満ちて」、32曲目のアダムとイブの愛の二重唱「優しい妻よ、あなたのそばにいれば」、そしてフィナーレの「神をたたえて歌え、すべての声よ」等でしょうか。アリアなどはまるでオペラを思わせるメロディアスな曲ばかりで、宗教曲にありがちな堅苦しさはなく、万人が楽しめる傑作だと思います。
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メンデルスゾーン/エリヤ

2015-05-21 22:13:26 | クラシック(声楽)
本日のエントリーは私にとっても初挑戦のオラトリオを取り上げてみたいと思います。オラトリオは主に聖書のエピソードを題材にしたストーリー仕立ての宗教音楽で、舞台演出こそないものの、大規模なオーケストラ付き声楽曲という点ではオペラと似ています。ただ、オペラは色恋や歴史ドラマが題材で娯楽要素が強いのに対し、オラトリオの方は物語形式とは言えあくまで神を讃美する内容。それゆえかキリスト教のバックグラウンドのない日本のクラシックファンの間では敬遠されがちです。このメンデルスゾーンの「エリヤ」もヨーロッパでは“3大オラトリオ”の一つと言われ、親しまれているそうですが(あと2つはヘンデルの「メサイア」とハイドンの「天地創造」らしい)、日本ではお世辞にもメジャーとは言えませんよね。ただ、先日私が読んだとある名盤紹介によると、メンデルスゾーンの最高傑作はかの有名なヴァイオリン協奏曲でも「真夏の夜の夢」でもなく、この「エリヤ」だそうな。そこまで言うなら聴いてみようじゃないのと言うわけで、CDを買ってみた次第です。



CDはヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団のものです。2枚組2時間を超えるボリュームに聴く前はそれなりの覚悟が必要ですが、メンデルスゾーンなので特に難解な旋律もなく、何度か聴いていくうちに耳に馴染んできます。物語の舞台は古代イスラエルで、異教の神を信じるアハブという王様に対し、預言者エリヤが立ち向かうという話です。CDのブックレットに歌詞も全て載っているので、読みながら聴くと話の理解がより進むかもしれませんが、私は一度試しただけでやめました。あらすじだけざっくり押さえて後は純粋に音楽を楽しむというスタンスでいいと思います。全42曲、アリアなど歌手陣による独唱パートも充実していますが、何と言っても胸を打つのは美しい合唱の数々でしょう。特にお薦めは第5曲「しかし主は見たまわず」、第10曲「わたしの仕える」、第20曲「神に感謝を」、第22曲「主なる神は言いたもう」、第34曲「見よ、主なる神は過ぎゆきたまい」、第41曲「だが主は北からひとりのものを目覚めさせ」などでしょうか。第33曲あたりからはどの曲も名旋律のオンパレードで、フィナーレへ向けて感動を盛り上げていきます。初挑戦のオラトリオなので多少身構えてはいたのですが、美しいコーラスの数々にすっかり魅了されてしまいました。メンデルスゾーンにはもう一つ「聖パウロ」というオラトリオもあるので、機会があればそれにも挑戦してみたいと思います。
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