ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジミー・ヒース/ザ・サンパー

2024-12-07 11:48:45 | ジャズ(ハードバップ)

本日は過小評価されたジャズマン、ジミー・ヒースを取り上げたいと思います。テナー奏者としても一流で、なおかつ作曲・編曲にも能力を発揮するマルチタレントでありながら、いわゆる”ジャズ・ジャイアンツ”の括りに入れられることはありません。彼のキャリアについては以前「ザ・クオータ」でも説明しましたが、やはり50年代の大半を麻薬禍で不在にしていたことが評価の低い一因でしょう。60年代以降はリヴァーサイドを中心に精力的に作品を発表するのですが、この頃にはモダンジャズの黄金期は終わりを迎えつつありました。

ただ、よく考えればデクスター・ゴードンも似たような活動遍歴ですが、その後彼はビッグネームの仲間入りを果たしています。差は何かと考えると、ゴードンが一聴して彼とわかるような個性的な演奏をするのに対し、ジミー・ヒースのテナーは良くも悪くも正統派なんですよね。演奏技術は申し分ないですし、アドリブも淀みなくこなすのですが、どこかで聴いたことがあるテナーと言いましょうか・・・作曲もアレンジャーもこなす才人でありながら、どこか器用貧乏で終わってしまった感が拭えません。

さて、今日取り上げる「ザ・サンパー」はそんなヒースの記念すべき初リーダー作。録音は1959年9月、ヒースは32歳でした。早くも40年代後半にデビューし、チャーリー・パーカーにちなんで”リトル・バード”と称されるほどの早熟の天才だったことを考えると、随分回り道をしたなあという印象が強いですね。ただ、ヒースにはやはり期待するところが大きかったのか、リヴァーサイドが用意したサイドマンも超豪華。3管編成のセクステットでフロントラインにナット・アダレイ(コルネット)とカーティス・フラー(トロンボーン)、リズムセクションがウィントン・ケリー(ピアノ)、ポール・チェ゙ンバース(ベース)、そして弟のアルバート・ヒース(ドラム)と言う豪華布陣です。

全9曲。うちヒースのオリジナルが5曲、ウィントン・ケリーが1曲、残りはスタンダードと言う構成です。オープニングトラックはヒースの自作曲”For Minors Only”です。この曲は本作の3年前にチェット・ベイカーの「ピクチャー・オヴ・ヒース」のためにヒースが書き下ろした曲ですね。タイトル通りマイナーキーの熱いハードバップで、オリジナル盤のチェット・ベイカー&アート・ペッパーの演奏も素晴らしいですが、3管の分厚いアンサンブルによる本作のバージョンの方がより黒っぽくカッコいいですね。何よりリヴァーサイドが誇るオールスターメンバーの演奏が最高で、ケリー→フラー→ヒース→ナット→フィリー・ジョーと目の覚めるようなソロを展開して行きます。ヒース作の残りの4曲”Two Tees””The Thumper””New Keep””Nice People”も3管のアンサンブルを意識しながらヒースが書いたであろう快適なハードバップチューン。中では軽快な"New Keep"と"Nice People"がおススメです。

一方、スタンダード3曲はどちらかと言うとヒースのテナー奏者としての側面にスポットライトを当た選曲。とりわけエリントン・ナンバーの”Don’t You Know I Care”ではウィントン・ケリーのロマンチックなピアノをバックにヒースがワンホーンでダンディズム溢れるバラードプレイを聴かせてくれます。"For All We Know"もバラードで、こちらはトランペットとトロンボーン入りながらアンサンブル要員で実質はヒースの独壇場。"I Can Make You Love Me"も再びワンホーンでウィントン・ケリー・トリオをバックにヒースがドライブ感たっぷりのソロを聴かせます。以上、ヒースの作編曲能力だけでなくテナー奏者としての実力も味わえる傑作です。

 

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ドン・スリート/オール・メンバーズ

2024-12-04 18:50:36 | ジャズ(ハードバップ)

本日は幻の白人トランぺッター、ドン・スリートをご紹介します。生涯にリーダー作はたった1枚のみ、サイドマンもたった3枚しかない超寡作のジャズマンです。もともとインディアナ生まれで、西海岸のサンディエゴでトランぺッターとして腕を磨いたようですが、50年代のウェストコーストジャズ全盛期にはサイドマン含めて全く名前を見つけることはできません。50年代末に黒人ドラマーのレニー・マクブラウンのバンドに加わり、パシフィック・ジャズとリヴァーサイドに1枚ずつ作品を残しますが、ここでのプレイがリヴァーサイド社長オリン・キープニューズの目に留まったのか、翌1961年3月にリヴァーサイド傍系のジャズランドに吹き込んだのが本作「オール・メンバーズ」です。

ただ、このセッションのメンバーがなかなか凄いですよ。2管編成でフロントラインを組むのがテナーのジミー・ヒース、リズムセクションはウィントン・ケリー(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)とさすがはリヴァーサイドと唸りたくなるようなメンバーです。ジャケ写のスリートはちょっとジェイムズ・ディーンを思わせるような白人イケメンですが、内容的には上記のメンバーから想像できるようにかなり黒っぽいハードバップです。

全7曲、歌モノスタンダードが3曲、オリジナルが4曲という構成ですが、個人的にはオリジナルの方を推しますね。演奏自体には参加していませんがテナーのクリフ・ジョーダンが2曲を提供しており、うちオープニングトラックの"The Brooklyn Bridge"が出色の出来です。ファンキーなテーマ演奏の後、まずスリートがブリリアントなトランペットを響かせ、ヒース→ケリー→カーターのアルコ(弓弾き)ソロと続きます。スリートの自作曲"Fast Company"、ヒース作のタイトルトラック"All Members"も同じような熱血ハードバップ。ラストのジョーダン作"The Hearing"だけ少しモーダルな感じです。

一方、歌モノですがドリス・デイがヒットさせた"Secret Love"はミディアムテンポの小粋な演奏。スリート→ヒース→ケリーとメロディアスなソロをリレーしますが、後半に再度登場するスリートのソロはなかなかに奔放です。続く”Softly, As In A Morning Sunrise"も力強い硬派の演奏で、白人だからと言ってヤワな演奏はしないぞ!と言う決意のようなものが感じられます。唯一のバラード”But Beuatiful"で見せる端正なバラードプレイもなかなかのものです。

スリートのトランペットは技術的に申し分ない上にアドリブも力強く、ジャズトランペッターとして必要な全てを兼ね備えているように思えますが、結局スリート自身のドラッグ依存やジャズシーンの変化もあり、その後も活躍の機会は巡って来ませんでした。この後に残された録音は当ブログでも紹介したシェリー・マンの「マイ・フェア・レディ」のみです。何とももったいない話ですね・・・

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ハンク・モブレー/モブレーズ・メッセージ

2024-12-03 19:28:47 | ジャズ(ハードバップ)

本日はハンク・モブレーのプレスティッジ盤です。ハンク・モブレーと言えばキャリアを通じてブルーノートを中心に活動し、同レーベルに25枚ものリーダー作を残すまさに"顔"的存在でしたが、1956年の短期間だけプレスティッジに在籍し、本作を含め3枚のリーダー作(うち1枚はコルトレーンやアル&ズートとの共同名義による「テナー・コンクレイヴ」)を残しています。

さて、モブレーの初期のブルーノート作品は同じようなタイトルばかりと言うことは以前に「ハンク」のところで述べましたが、プレスティッジも似たようなもので本作は「モブレーズ・メッセージ」でその次の作品が「モブレーズ・セカンド・メッセージ」です。同じ年にサヴォイにも「ザ・ジャズ・メッセージ・オヴ・ハンク・モブレーVol.1」「ザ・ジャズ・メッセージ・オヴ・ハンク・モブレーVol.2」を吹き込んでいますので、もう何が何だかと言う感じです。本作はジャケットも意味不明(なぜに高圧電線?)ですし、もう少しタイトルやジャケットに工夫しろ!と当時のモブレーに説教したくなりますね。

ただ、内容は折り紙付きです。何せメンバーが素晴らしいです。2管のクインテット編成でフロントラインを組むのがドナルド・バード(トランペット)、リズムセクションがバリー・ハリス(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)、さらに1曲だけジャッキー・マクリーンが加わるという豪華さ。ただ、今振り返れば凄いメンツでも録音時点(1956年7月)は全員が20代で若手主体のジャムセッション的なノリだったのでしょうね。

全6曲、うち3曲は偉大なバップの先人達に経緯を表した選曲です。1曲目がバド・パウエルの”Bouncin’ With Bud"、2曲目がセロニアス・モンクの"52nd Street Theme"、4曲目がチャーリー・パーカーの”Au Privave"。これらのバップの古典を題材に若き俊英達が生き生きとしたフレイを聴かせてくれます。いつもながら良く歌うモブレーのテナー、溌溂としたトランペットを響かせるバード、コロコロと玉を転がすようなタッチのバリー・ハリス、そして堅実にリズムを刻むワトキンス&テイラー。皆最高ですね。”Au Privave"では短いながらもマクリーンのアルトソロも聴くことができます。

モブレーのオリジナルによる2曲も悪くないです。3曲目”Minor Disturbance"はタイトル通りのマイナーキーのハードバップ、ラストの”Alternating Current"はアート・テイラーのドラミングに乗せられてバード→モブレー→ハリスの順でエネルギッシュなソロをリレーします。歌モノスタンダードは”Little Girl Blue"1曲のみですが、これがまた素晴らしいバラード演奏で、ここではモブレーがワンホーンで美しいテナーソロをじっくり聴かせてくれます。ブルーノートの諸作品の影に隠れがちですが、ハードバップ好きなら100%気に入ること間違いなしの名盤です。

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レッド・ガーランド/レッズ・グッド・グルーヴ

2024-12-02 18:41:15 | ジャズ(ハードバップ)

本日はレッド・ガーランドです。ガーランドについては本ブログでもたびたび取り上げてきました。黄金期のマイルス・デイヴィス・クインテットの一員としてかの有名なマラソン・セッションに参加し、ソロ名義でも名門プレスティッジに50年代だけで20枚を超えるリーダー作を吹き込むなど同レーベルの看板ピアニストとして君臨していまいた。ジョン・コルトレーンやドナルド・バードを脇に従えた「ソウル・ジャンクション」「オール・モーニン・ロング」は"もう一つのマラソン・セッション"と呼んでいい名盤ですよね。

ただ、そんなガーランドも60年代に入ると徐々に活動が低調になって行きます。理由はジャズシーンの変化でしょう。この頃はかつての盟友だったマイルスやコルトレーンはモードジャズ、さらにその先のフリージャズを見据えた音楽を追求して行きますが、ガーランドはどうもそれらポストバップ系のジャズとは相容れないものがあったらしく、スタイルを変えることはありませんでした。60年代前半のガーランドはプレスティッジやリヴァーサイド傍系のジャズランドにリーダー作を何枚か残した後、60年代中盤には一旦活動を停止してしまいます。(その後70年代に復活)

ではこの頃のガーランド作品がクオリティが低かったのかと言うと決してそんなことはありません。特に今日取り上げる1962年3月録音のジャズランド盤「レッズ・グッド・グルーヴ」はブルー・ミッチェル(トランペット)とペッパー・アダムス(バリトン)をフロントラインに据え、50年代の「ソウル・ジャンクション」等を思い起こさせる2管入りのクインテット編成でストレートなハードバップを聴かせてくれます。リズムセクションにはリヴァーサイドの看板であるサム・ジョーンズ(ベース)とフィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)。このメンツで悪い作品になるわけがないですよね。

アルバムはタイトルトラックの"Red's Good Groove"で幕を開けます。ガーランド自作のスローブルースで、まずガーランドがブルースフィーリングたっぷりのピアノソロを披露し、ミッチェル→サム・ジョーンズ→アダムスの順でソロを取ります。まさにタイトル通りの良質なグルーヴがたっぷり味わえます。続くスタンダードの”Love Is Here To Stay"も同じような感じで、ガーランドがお得意のブロックコードを使った独特の奏法でバラードを演奏します。3曲目”This Time The Dream's On Me"もおなじみのスタンダードですが、こちらアップテンポでスインギーに料理されています。ソロはガーランド→アダムス→ミッチェル→サム・ジョーンズの順です。

4曲目”Take Me In Your Arms"はドゥービー・ブラザーズで同名の曲がありますが、こちらはフレッド・マーカシュと言う人の書いたスタンダード曲。ユタ・ヒップの「ヒッコリー・ハウス」のオープニングと同曲です。やや哀調を帯びた歌謡曲風のメロディでミッチェル→ガーランド→アダムスと快調にソロをリレーします。続くペッパー・アダムス作の”Excellent"ではアダムスがブリブリと吹く重低音バリトン、ラストのスタンダード”Falling In Love With Love"ではサム・ジョーンズのベースがソロ1番手で大きくフィーチャーされ、ガーランドとミッチェルが華を添えます。結局、ガーランドはこの後プレスティッジに「ホエン・ゼア・アー・グレイ・スカイズ」を残し、活動を休止します。おそらく当時のジャズシーンでは時代遅れとみなされた故でしょうが、今聴いてみるとそんな一時の流行とは一線を画した実に良質なハードバップ作品と思います。

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ジョン・コルトレーン/コルトレーン

2024-11-27 19:05:13 | ジャズ(ハードバップ)

モダンジャズの歴史に輝かしい足跡を残したジョン・コルトレーンですが、彼のキャリアはどちらかと言うと遅咲きでした。彼が飛躍へのきっかけを摑んだのは1955年のマイルス・デイヴィス・クインテットへの抜擢ですが、その時点で28歳。18歳でデビューしたリー・モーガンは特別にしても、マイルスやクリフォード・ブラウン、ソニー・ロリンズらが皆20代前半で頭角を現しているのと比べると決して若いとは言えません。

その後も順調にスターダムを上ったかと言うとそうでもなく、プレスティッジを中心に多くのセッションに呼ばれる等仕事の依頼は多かったものの、リーダー作の機会はなかなか回ってきませんでした。彼が記念すべき最初の単独リーダー作「コルトレーン」をプレスティッジに吹き込んだのは1957年5月、30歳の時です。

ソロデビュー作のメンバーも意外と地味です。ピアノは前半3曲がマイルス・クインテットでも一緒だったレッド・ガーランド、後半3曲がプレスティッジのハウス・ピアニストだったマル・ウォルドロン、ベースがポール・チェンバース、ドラムがアルバート・ヒースとリズムセクションについてはそこそこ豪華なラインナップですが、フロントラインが地味です。まずはバリトンサックスにサヒブ・シハブ。後にヨーロッパに渡ってそこそこ活躍しますが(過去ブログ参照)、お世辞にもメジャーとは言えませんよね。何よりトランぺッターのジョニー・スプローンが謎です。彼については本当にこのアルバムでしか名前を見たことがなく、ペンシルヴァニア州ハリスバーグ出身と言うことぐらいしかわかりません。おそらくコルトレーンとはフィラデルフィア時代の知り合いだったのでしょうね。ちなみにサヒブにしろスプローンにしろ、ソロを取る機会は限定的でどちらかと言うとアンサンブルを充実させるための起用のようです。

アルバムはカル・マッセイ作の"Bakai"で幕を開けます。マッセイもフィラデルフィア出身で、同郷のコルトレーンやリー・モーガンに多くの曲を提供しています。サヒブ・シハブのバリトンが印象的なエキゾチックなオープニングの後、まずガーランドが2分半にも及ぶ長尺のソロを披露した後、満を持してコルトレーンが登場。得意のシーツ・オヴ・サウンドで吹きまくり、サヒブのバリトンソロへと繋げます。続く"Violets For Your Furs"は一転して珠玉のバラード演奏。歌手としても有名なマット・デニス作の名曲で、「ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ」と並んでこの曲の決定的名演です。バラードの名手コルトレーンの絶品のテナーソロに続き、ガーランドが得意のブロックコードを駆使したピアノソロでロマンチックな雰囲気を演出します。3曲目”Time Was”はあまり聞いたことのない曲ですが、原曲は”Duerme"と言う名のメキシコのポップソングらしいです。ミディアムテンポの軽快なナンバーで、コルトレーン→ガーランド→チェンバースとソロをリレーします。

後半の最初はコルトレーンのオリジナル”Straight Street"。コルトレーンに続き、ジョニー・スプローンがようやくトランペットソロを披露しますが、腕前的には可もなく不可もなくと言ったところでしょうか?ピアノはこの曲からマル・ウォルドロンに代わっています。5曲目”While My Lady Sleeps”は再びスタンダードのバラード。そんなにメジャーな曲ではないですが、チェット・ベイカーが「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」で歌っていました。ソロはコルトレーンのみでじっくりとバラードを歌い上げます。ラストはコルトレーン自作の”Chronic Blues"。サヒブ→コルトレーン→スプローン→マルとソロを展開しますが、実は3管がソロを取るのはこの曲だけだったりします。以上、コルトレーンのその後の傑作群に比べるとまだまだ発展途上感は否めませんが、それでも内容的には十分傾聴に値する作品だと思います。

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