本日は過小評価されたジャズマン、ジミー・ヒースを取り上げたいと思います。テナー奏者としても一流で、なおかつ作曲・編曲にも能力を発揮するマルチタレントでありながら、いわゆる”ジャズ・ジャイアンツ”の括りに入れられることはありません。彼のキャリアについては以前「ザ・クオータ」でも説明しましたが、やはり50年代の大半を麻薬禍で不在にしていたことが評価の低い一因でしょう。60年代以降はリヴァーサイドを中心に精力的に作品を発表するのですが、この頃にはモダンジャズの黄金期は終わりを迎えつつありました。
ただ、よく考えればデクスター・ゴードンも似たような活動遍歴ですが、その後彼はビッグネームの仲間入りを果たしています。差は何かと考えると、ゴードンが一聴して彼とわかるような個性的な演奏をするのに対し、ジミー・ヒースのテナーは良くも悪くも正統派なんですよね。演奏技術は申し分ないですし、アドリブも淀みなくこなすのですが、どこかで聴いたことがあるテナーと言いましょうか・・・作曲もアレンジャーもこなす才人でありながら、どこか器用貧乏で終わってしまった感が拭えません。
さて、今日取り上げる「ザ・サンパー」はそんなヒースの記念すべき初リーダー作。録音は1959年9月、ヒースは32歳でした。早くも40年代後半にデビューし、チャーリー・パーカーにちなんで”リトル・バード”と称されるほどの早熟の天才だったことを考えると、随分回り道をしたなあという印象が強いですね。ただ、ヒースにはやはり期待するところが大きかったのか、リヴァーサイドが用意したサイドマンも超豪華。3管編成のセクステットでフロントラインにナット・アダレイ(コルネット)とカーティス・フラー(トロンボーン)、リズムセクションがウィントン・ケリー(ピアノ)、ポール・チェ゙ンバース(ベース)、そして弟のアルバート・ヒース(ドラム)と言う豪華布陣です。
全9曲。うちヒースのオリジナルが5曲、ウィントン・ケリーが1曲、残りはスタンダードと言う構成です。オープニングトラックはヒースの自作曲”For Minors Only”です。この曲は本作の3年前にチェット・ベイカーの「ピクチャー・オヴ・ヒース」のためにヒースが書き下ろした曲ですね。タイトル通りマイナーキーの熱いハードバップで、オリジナル盤のチェット・ベイカー&アート・ペッパーの演奏も素晴らしいですが、3管の分厚いアンサンブルによる本作のバージョンの方がより黒っぽくカッコいいですね。何よりリヴァーサイドが誇るオールスターメンバーの演奏が最高で、ケリー→フラー→ヒース→ナット→フィリー・ジョーと目の覚めるようなソロを展開して行きます。ヒース作の残りの4曲”Two Tees””The Thumper””New Keep””Nice People”も3管のアンサンブルを意識しながらヒースが書いたであろう快適なハードバップチューン。中では軽快な"New Keep"と"Nice People"がおススメです。
一方、スタンダード3曲はどちらかと言うとヒースのテナー奏者としての側面にスポットライトを当た選曲。とりわけエリントン・ナンバーの”Don’t You Know I Care”ではウィントン・ケリーのロマンチックなピアノをバックにヒースがワンホーンでダンディズム溢れるバラードプレイを聴かせてくれます。"For All We Know"もバラードで、こちらはトランペットとトロンボーン入りながらアンサンブル要員で実質はヒースの独壇場。"I Can Make You Love Me"も再びワンホーンでウィントン・ケリー・トリオをバックにヒースがドライブ感たっぷりのソロを聴かせます。以上、ヒースの作編曲能力だけでなくテナー奏者としての実力も味わえる傑作です。