ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アート・ペッパー/ゲッティン・トゥゲザー

2024-06-01 21:01:03 | ジャズ(ウェストコースト)

チェット・ベイカーとともにウェストコーストジャズの雄として君臨していたアート・ペッパーですが、東海岸の黒人バッパーと共演した作品が2つあります。1つは1957年の「アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション」。当時のマイルス・デイヴィス・クインテットのリズムセクションであるレッド・ガーランド、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズと共演した作品です。ジャズ名盤特集にも必ず取り上げられるほどの有名盤で、私も20代半ばのジャズ初心者の頃には既に持っていました。一方、今日ご紹介する「ゲッティン・トゥゲザー」はそれに比べると地味な扱いを受けています。ただ、こちらも録音当時(1960年2月)のマイルス・デイヴィス・クインテットのリズムセクションが加わっており、メンバー的には十分豪華です。ただし、3年経ってメンバーも代わっており、ベースのチェンバースは同じですがピアノはウィントン・ケリー、ドラムはジミー・コブです。さらに、7曲中3曲でトランペットのコンテ・カンドリが参加しています。

この作品で変わっているのが2曲目”Bijou The Poodle”と7曲目”Gettin’ Together””でペッパーがアルトではなくテナーサックスを吹いていること。どちらもペッパーの自作曲で前者は当時流行し始めたフリージャズを意識したのか変テコなメロディの曲ですが、後者はブルースでペッパーの渋いテナーソロを聴くことができます。とは言え、やはりペッパーはアルトの方がいいですね。1曲目”Whims Of Chambers”はポール・チェンバースのオリジナル曲(「ウィムズ・オヴ・チェンバース」収録)で、チェンバースのズンズンと刻むリズムをバックにペッパー→ケリー→コンテと快調にソロを取ります。4曲目”Softly As In A Morning Sunrise”(朝日のようにさわやかに)も定番スタンダードで選曲自体はベタですが、ペッパーの奔放なアドリブで新たな命を吹き込んでいます。セロニアス・モンクの”Rhythm-a-Ning”も意外な選曲ですが、ペッパーはじめ全員楽しそうに演奏しています。バラード2曲も素晴らしいです。1曲は当時ジャズピアニストとして活躍していたアンドレ・プレヴィンの曲”Why Are We Afraid”。プレヴィンが音楽監督をした「地下街の住人」という映画の曲らしいですが、なかなかの名曲です。もう1曲はペッパー自作の”Diane”。妻ダイアンに捧げた名バラードで、ペッパーも何度も演奏している愛奏曲です。優しく美しい旋律でペッパーのソロもため息の出る美しさです。ケリーのピアノソロも絶品ですね。以上、聴けば聴くほど味が出る作品で、個人的には「ミーツ・ザ・リズム・セクション」よりも内容は上ではないかと思いますがどうでしょうか?

 

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ペッパー・アダムス・クインテット

2024-05-29 18:11:53 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はバリトン奏者ペッパー・アダムスの初リーダー作を取り上げたいと思います。アダムスについては以前「アウト・オヴ・ジス・ワールド」で述べたようにデトロイト出身で同郷のドナルド・バードとのコンビでよく知られています。基本は東海岸のハードバップシーンで活躍していましたが、1956年から57年にかけては一時的に西海岸で活動していたようです。本作は1957年7月にLAで吹き込まれたもので、先日のエディ・コスタと同じくモード・レーベルから発売されました。例の水彩画のジャケットが採用されていますが、手前がリーダーのアダムスで、奥がトランペットのステュ・ウィリアムソンでしょう。ちなみに残りのメンバーはカール・パーキンス(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、メル・ルイス(ドラム)です。

1曲目はナット・キング・コールのヒット曲"Unforgettable"。後に娘のナタリー・コールがカバーしてグラミー賞も取った名曲ですが、インストゥルメンタルのバージョンは珍しいですね。ミディアムテンポでリラックスした雰囲気の演奏です。2曲目は"Baubles, Bangles & Beads"。「キスメット」と言うミュージカルの曲ですが、ロシアの作曲家ボロディンの弦楽四重奏曲第2番からメロディを借用したそうです。演奏自体はバリバリのハードバップで、序盤からアダムスがブリブリとソロを吹き鳴らします。後を受けるパーキンス、ウィリアムソンのソロも快調ですね。続く"Freddie Froo"はアダムスのオリジナルとなっていますが、ほぼパーカーの”Moose The Mooche"です。4曲目は定番スタンダードの”My One And Only Love"。この曲はアダムスのワンホーンによるバラードです。5曲目は再びアダムスのオリジナルでマイナーキーのバップ”Muezzin'"です。全体的にハードバップ色強めですが、アダムスはデトロイト時代からバード、ケニー・バレル、トミー・フラナガンら黒人バッパーの中でプレイしてきましたのでそれも納得です。クロード・ウィリアムソンの弟ステュ(彼については以前のブログ参照)やカール・パーキンスのプレイもなかなか良いですよ。

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コンテ・カンドリ/ウェスト・コースト・ウェイラーズ

2024-05-21 20:54:17 | ジャズ(ウェストコースト)

西海岸の白人トランぺッターと言えば一にも二にもチェット・ベイカーを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?逆に言えば一般的に知名度が高いのはチェットぐらいしかいないかもしれません。ただ、他にもショーティ・ロジャース、ステュ・ウィリアムソン、ジャック・シェルドン、ドン・ファガーキストら隠れた名手はたくさんいますし、何より忘れてはいけないのが今日取り上げるコンテ・カンドリです(以前にも当ブログではクラウン盤を取り上げました)。もともとはインディアナ出身ですが、西海岸を拠点とするスタン・ケントン楽団に加入し、以降はウェストコーストのジャズシーンで活躍しました。お兄さんのピートもトランぺッターですが、こちらは主にビッグバンド要員で、ソロキャリアでは弟の方が名を上げたようです(一応、兄弟で組んだカンドリ・ブラザーズ名義のレコードも何枚かあるようですが、CD化はされていません)。本作「ウェスト・コースト・ウェイラーズ」はピアニストのルー・レヴィとの共同名義で1955年8月にアトランティックに吹き込まれたコンテの代表作です。メンバーはコンテ、レヴィに加え、ビル・ホルマン(テナー)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)という顔ぶれです。ちなみにジャケットは左がレヴィで右がコンテです。

アルバムはスタンダードの”Lover, Come Back To Me"で始まります。多くのジャズミュージシャンによってカバーされた定番曲ですが、本作のバージョンは代表的名演と言ってよいでしょう。冒頭の1分はレヴィのソロピアノで始まる静かな出だしですが、そこからコンテのパワフルなトランペットで一気にテンポアップし、ホルマン→コンテ→レヴィの順で目の覚めるようなソロをリレーしていきます。西海岸の白人ジャズと言えばついアレンジ重視という印象がありますが、ストレートで力強いハードバップ風の演奏はそのイメージを覆してくれます。コンテのハードバップ志向は前年にブラウン=ローチ・クインテットが名演を残したデューク・ジョーダンの”Jordu”を取り上げていることからもわかります。他ではラストトラックのコンテの自作曲”Marcia Lee"もなかなかの名曲・名演です。一方、兄ピート作の”Pete’s Alibi"やビル・ホルマンのオリジナル”Cheremoya”はいかにもウェストコーストと言った軽快な演奏。スタンダードのバラードも”Lover Man””Flamingo”と2曲あり、ドラマチックなアレンジの施された後者がおススメです。以上、ハードバップとウェストコーストの良さがうまく融合した名盤だと思います。

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チェット・ベイカー&クルー

2024-05-13 18:41:46 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はチェット・ベイカーのパシフィック・ジャズ盤をご紹介します。チェットは以前に「チェット・ベイカー・シングス・アンド・プレイズ」を取り上げましたが、50年代半ばはその甘いマスクと中性的なヴォーカルでアイドル的人気を博していました。その人気ぶりゆえにハリウッドから映画俳優のオファーもあったりしたようですが、チェット自身はあくまで自分をトランペッターとして位置付けていたようで、1956年7月に吹き込まれた本作では得意のヴォーカルも封印し、純粋なインストゥルメンタル作品で勝負しています。当時のバンドのメンバーがジャケットに写っていますが、ヨットのマストに摑まってラッパを吹いているのはもちろんリーダーのチェット。下の4人はおそらく右からフィル・アーソ(テナー)、ボビー・ティモンズ(ピアノ)、ピーター・リットマン(ドラム)、ジミー・ボンド(ベース)の順でしょう。ジャズファン的にはソウルフルなピアニストの代表格であるティモンズの参加が意外ですよね。ソニー・クラークやケニー・ドリューが西海岸でプレイしていたことはそれなりに知られていますが、ティモンズも1956年から翌年にかけて西海岸に移住し、チェットのバンドに在籍していたようです。

全8曲。いわゆるスタンダード曲は1つもなく、全曲ジャズ・オリジナルですが、チェット自身ではなく全て他の作曲家が書いたものです。おススメはオープニングトラックの”To Mickey's Memory"。ハーヴィー・レナードというピアニストの曲らしいですが、いかにもウェストコーストらしい明るい曲調ながらハードバップ的な力強さも兼ね備えた名曲です。この曲だけビル・ラフボローという人のクロマティック・ティンパニという謎の打楽器も参加して曲を盛り上げています。後はフィル・アーソ作の優しいバラード”Halema"、アル・コーン作曲でコンテ・カンドリも演奏していた”Something For Liza"、ミフ・モールというトロンボーン奏者が書いたバラード”Worryin' The Life Out Of Me”も良いです。演奏面ではチェットの溌溂としたトランペットが最大の聴きどころなのは間違いないですが、フィル・アーソのコクのあるテナーも良いです。この人、なかなかの実力者だと思うのですが、チェット絡みでしか名前を聞きませんね。なぜでしょう?注目のボビー・ティモンズのピアノは後年のようなファンキーさはまだ前面に出ていませんが、アップテンポの曲では力強いブロックコード奏法を披露しており、やはりラス・フリーマンら他のチェット作品のピアニストにはない黒っぽさが感じられます。

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クリフォード・ブラウン/ジャズ・イモータル

2024-04-08 20:54:16 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はクリフォード・ブラウンのパシフィック・ジャズ盤をご紹介します。パシフィック・ジャズと言えばチェット・ベイカー、ジェリー・マリガン、バド・シャンクらを擁し、当時全盛期だったウェストコーストジャズを牽引していたレーベルです。そこにブラウンの録音が残されているのは意外な気もしますが、収録当時(1954年7月)のブラウン&ローチ・クインテットはロサンゼルスを本拠地としていたので、ふらりとレコーディングに参加したのでしょう。名義上はブラウンがリーダーとなっていますが、実際にはアレンジャーを務めるジャック・モントローズ(よく似た名前ですがJ・R・モンテローズとは全くの別人です。念のため)が中心人物と思われます。メンバーはブラウンに加え、ズート・シムズ(テナー)、ボブ・ゴードン(バリトン)、ステュ・ウィリアムソン(トロンボーン)、ラス・フリーマン(ピアノ)、シェリー・マン(ドラム)、ベースは曲によってカーソン・スミスとジョー・モンドラゴンが交代します。ブラウン以外全員が白人で、演奏される音楽も典型的なウェストコースト・サウンドです。余談ですがボブ・ゴードンはこの録音の2週間後に自動車事故で死んだそうです。享年27歳。まるで翌年のブラウンの運命を予感させるようです。

さて、白人ばかりのウェストコースト・サウンドの中でブラウンがどういったプレイをするかが注目ですが、評価は正直微妙なところ。もちろんブラウンのトランペットの音色自体はいつもと変わらず素晴らしいです。ただ、ジャック・モントローズの編曲が微妙。せっかくブラウンとズート、シェリー・マンという稀代の名手達を揃えているのだから、彼らのアドリブに任せていれば良いものを、変に4管のアンサンブルとかアレンジにこだわるんですよね。ただ、それでもマニア的には楽しむポイントがいくつかあります。まず、ブラウンの代表的名曲である"Joy Spring"と"Daahoud"は解説書によると本作が初演だそうです。翌8月にかの名盤「クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ」に収録され、知名度も内容もそちらの方が上ですが、西海岸風の本作も悪くはないです。特に”Daahoud”はなかなかの熱演です。他では1曲目の”Tiny Capers”や6曲目”Bones For Jones”もブラウンの自作曲で、どちらも彼らしい明るくハッピーな楽曲です。3曲目モントローズ作の”Finders Keepers”もなかなか魅力的な旋律。ただ、スタンダード”Gone With The Wind”はストレートに演奏すれば良いのに、編曲に凝り過ぎて何だか変な曲になっています。7曲目”Bones For Zoot”はブラウンは関係なく、ズート・シムズのワンホーン・カルテット。明らかに関係のないセッションの曲で、なぜ本作に収録されているのかは謎ですが、演奏自体は良いです。

 

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