本日は久々にピアノ協奏曲です。と言ってもラフマニノフ、グリーグ、チャイコフスキーのような王道ロマン派ではなく、やや変化球でガーシュウィンとラヴェルの作品をご紹介します。それぞれ1920年代と30年代に発表されただけあって、伝統的なピアノ協奏曲とは一線を画し、メロディやリズムにジャズをはじめとした当時の大衆音楽の影響を感じさせます。かと言ってクラシックの範疇を飛び出ることは決してなく、華麗なオーケストラサウンドも十分に堪能できる内容となっています。この20世紀の名ピアノ協奏曲が1枚で楽しめるのがエレーヌ・グリモーのピアノ、デイヴィッド・ジンマン指揮ボルチモア交響楽団のCDです。ジャケットからもわかるように美人ピアニストとして有名な彼女ですが、演奏の方も折り紙付きです。
まず、ガーシュウィンの作品から。曲調は同時期に発表された「ラプソディ・イン・ブルー」に似ていますが、コンチェルトと題されるだけあってこちらの方がピアノ独奏も多く、構成も伝統的な3楽章形式に則っています。第1楽章、出だしはリズミカルですが、その後に現れるメランコリックな主題が素晴らしいですね。第2楽章はややユーモラスな曲調。ここではピアノが打楽器的な使われ方をしています。第3楽章はそれまでに現れた主題が再構築され、エネルギッシュなピアノ独奏とゴージャスなオーケストレーションで盛大にフィナーレを迎えます。どうも評論家からはポピュラー音楽の要素が強すぎるとして高く評価されていないようですが、個人的にはとても魅力的な作品だと思います。
一方のラヴェルの作品は20世紀を代表するピアノ協奏曲として評価も確立されていますね。ラヴェル最晩年の作品で、“管弦楽の魔術師”と呼ばれる彼の卓越したオーケストレーションとヴィルトゥオーゾ的なピアノ演奏が絶妙に融合した名曲です。前述したジャズの要素だけでなく、ラヴェルの故郷であるバスク地方の民謡からも着想を得ているようです。とりわけピシャリ!と言う鞭の一閃から始まる第1楽章はまさしく音の万華鏡とでも言うべききらびやかな音世界が広がります。一転して静謐な美しさをたたえた第2楽章、再び賑わいに満ちた第3楽章も魅力的ですね。私は既にマルタ・アルゲリッチ&クラウディオ・アバド盤も持っていましたが、ここでのグリモー&ジンマンの演奏も十分に素晴らしいと思います。