本日は久々にヴォーカルものです。ただし、いわゆる本職の歌手ではなく、トランペッターのチェット・ベイカーが1958年にリヴァーサイドに録音した作品「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」です。ご存じのとおりチェットはアート・ペッパーらと並ぶウェストコースト・ジャズの中心的存在であり、その甘いマスクもあって50年代はアイドル的人気を博していました。とは言え、トランペットの腕前は決してダテではなく、かのチャーリー・パーカーに共演者に抜擢されたエピソードからも実力の程がうかがえます。一方のヴォーカルはと言うと、こちらはある意味見た目を裏切らないというか、いかにも優男風の中性的な声で、歌い方も熱唱型ではなくつぶやくようなスタイルです。歌唱力の方も音程を外したりこそしないものの、特に声量があるわけでもなく、アドリブも原曲を軽くフェイクさせる程度。はっきり言って歌がうまいとはお世辞にも言えません。にもかかわらず、チェットのボーカルには何とも形容しがたい不思議な魅力があるのです。私は最近毎朝通勤の車内でこのCDをかけていますが、スピーカーからチェットのけだるげな声が聞こえて来た途端、周囲の空間が一瞬にしてジャジーな雰囲気に包まれます。上手い下手を超越した何か独特の世界観があるんですよね。私は男ですが、当時多くの女性ファンが虜になったのがわかりますよ。

さて、チェットのヴォーカルと言えば、もう1枚パシフィックジャズにその名も「チェット・ベイカー・シングス」というアルバムがあり、一般的にはそちらの方が有名かもしれませんが、個人的にはこのリヴァーサイド盤の方を強く推したいですね。理由はバックの共演陣。パシフィックジャズ盤はピアノのラス・フリーマンをはじめ西海岸のミュージシャン達で彼らの演奏も決して悪くはないのですが、ニューヨーク録音の本作はリヴァーサイドが誇るリズムセクション陣が脇を固めており、チェットを強力にサポートしています。曲によってメンバーは変わりますが、ピアノがケニー・ドリュー、ベースがサム・ジョーンズまたはジョージ・モロウ、ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズまたはダニー・リッチモンド。全員が黒人で心なしかグルーブ感が違うような気がしますね。特にケニー・ドリューが素晴らしく、彼のピアノが作品の価値を倍増させていると言っても過言ではないでしょう。決して長々とソロを取る訳ではなく平均すれば30秒程度なのですが、その間に魅力的なフレーズを散りばめ、見事にアクセントを付けています。伴奏に回った時も的確なバッキングでチェットを盛り立てています。チェットはと言うと、歌だけでなく本職のトランペットも披露しますが12曲中5曲だけで、他4曲ではスキャットを聴かせてくれます。これがまたトランペットソロをそのままなぞったかのようなユニークなもので、本職の歌手のスキャットとは違った魅力があります。
ボーナストラック2曲を含め全12曲。どれも捨てがたいですが、個人的に特に気に入っているのはドリューのスインギーなピアノとチェットのスキャットが印象的なオープニングトラック“Do It The Hard Way”、ドリューの1分に及ぶピアノソロが美しいバラード“I'm Old Fashioned”、チェットのマイルスばりのミュート・トランペットが聴ける“My Heart Stood Still”、ささやくような甘いボーカルが魅惑的なバラード“Everything Happens To Me”等でしょうか?ボーナストラック2曲もなぜ当時ボツになったのかわからないぐらいの出来で、チェットとドリューのデュオで聴かせる幻想的なバラード“While My Lady Sleeps”、ハッピーな雰囲気に包まれた快適なミディアムチューン“You Make Me Feel So Young”で締めくくります。以上、選曲も演奏も良く、チェットの独特の魅力あるボーカルが楽しめる大名盤と言っていいでしょう。

さて、チェットのヴォーカルと言えば、もう1枚パシフィックジャズにその名も「チェット・ベイカー・シングス」というアルバムがあり、一般的にはそちらの方が有名かもしれませんが、個人的にはこのリヴァーサイド盤の方を強く推したいですね。理由はバックの共演陣。パシフィックジャズ盤はピアノのラス・フリーマンをはじめ西海岸のミュージシャン達で彼らの演奏も決して悪くはないのですが、ニューヨーク録音の本作はリヴァーサイドが誇るリズムセクション陣が脇を固めており、チェットを強力にサポートしています。曲によってメンバーは変わりますが、ピアノがケニー・ドリュー、ベースがサム・ジョーンズまたはジョージ・モロウ、ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズまたはダニー・リッチモンド。全員が黒人で心なしかグルーブ感が違うような気がしますね。特にケニー・ドリューが素晴らしく、彼のピアノが作品の価値を倍増させていると言っても過言ではないでしょう。決して長々とソロを取る訳ではなく平均すれば30秒程度なのですが、その間に魅力的なフレーズを散りばめ、見事にアクセントを付けています。伴奏に回った時も的確なバッキングでチェットを盛り立てています。チェットはと言うと、歌だけでなく本職のトランペットも披露しますが12曲中5曲だけで、他4曲ではスキャットを聴かせてくれます。これがまたトランペットソロをそのままなぞったかのようなユニークなもので、本職の歌手のスキャットとは違った魅力があります。
ボーナストラック2曲を含め全12曲。どれも捨てがたいですが、個人的に特に気に入っているのはドリューのスインギーなピアノとチェットのスキャットが印象的なオープニングトラック“Do It The Hard Way”、ドリューの1分に及ぶピアノソロが美しいバラード“I'm Old Fashioned”、チェットのマイルスばりのミュート・トランペットが聴ける“My Heart Stood Still”、ささやくような甘いボーカルが魅惑的なバラード“Everything Happens To Me”等でしょうか?ボーナストラック2曲もなぜ当時ボツになったのかわからないぐらいの出来で、チェットとドリューのデュオで聴かせる幻想的なバラード“While My Lady Sleeps”、ハッピーな雰囲気に包まれた快適なミディアムチューン“You Make Me Feel So Young”で締めくくります。以上、選曲も演奏も良く、チェットの独特の魅力あるボーカルが楽しめる大名盤と言っていいでしょう。