ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

スタンリー・タレンタイン/ディアリー・ビラヴド

2016-02-19 23:27:58 | ジャズ(ソウルジャズ)

本日UPするのはスタンリー・タレンタインが1961年にブルーノートに吹き込んだ「ディアリー・ビラヴド」です。“愛する君へ”というタイトルに、バラの花束を持つタレンタインのカラージャケットが印象的ですが、花束をプレゼントする相手は前年に結婚したばかりで本作でも共演しているシャーリー・スコットでしょうね。スコットは女流オルガン奏者として50年代後半に颯爽とシーンに登場。この時点で名門プレスティッジに10枚を超えるリーダー作を録音していた売れっ子です。一方のタレンタインも前年に「ルック・アウト!」でブルーノートにデビューするや、立て続けに4枚ものリーダー作を発表するなど当時ブルーノートが会社を挙げて猛プッシュしていた存在です。そんな公私ともにホットだった2人による共演とあって、アルバムの方も充実した内容です。メンバーはタレンタイン(テナー)&スコット(オルガン)の新婚カップルに加え、ドラムのロイ・ブルックスが加わったトリオ編成です。オルガン入りの編成にベースが加わっていないことはよくありますが(ハモンド・オルガンにはフットベースの機能があるため)、そういう場合はギターが加わっていることがほとんどですので、テナー+オルガン+ドラムのトリオは珍しいですね。にもかかわらず、生み出されるサウンドは豊潤で奥行きのあるもので、たった3人で演奏しているとはとても思えません。



全7曲。うちタレンタイン自作のブルース“Wee Hour Theme”と古い黒人霊歌の“Troubles Of The World”の2曲を除いて、後は歌モノのスタンダード曲です。オルガン入りのジャズはソウルジャズと呼ばれ、どうしてもR&B寄りのギトギトした演奏になりがちですが、本作はポップな選曲とタレンタインの歌心あふれるテナーのおかげで非常に聞きやすい作品に仕上がっています。1曲目“Bahia”はアリ・バローゾというブラジル人作曲家の作品で、コルトレーンのカバーでも知られています。冒頭、タレンタインのアーシーなブロウで幕を開けますが、その後は彼の真骨頂とも言えるメロディアスなアドリブでサンバの名曲を鮮やかにソウルジャズに料理しています。“My Shining Hour”もコルトレーンが「コルトレーン・ジャズ」で取り上げていましたが、個人的にはこちらの方が上と思います。タレンタインの目の覚めるような素晴らしいテナーソロの後に続く、スコットのグルーヴィなオルガンが最高です。アルバムタイトルにもなった“Dearly Beloved”はジェローム・カーン作曲でフレッド・アステアが歌ったスタンダードですが、トリオのホットな演奏によりパワフルなソウルジャズに生まれ変わっています。お薦めはこの3曲ですが、けだるいブルース風の“Yesterdays”やティナ・ブルックスの名演でも知られるバラード“Nothing Ever Change My Love For You”も捨てがたい魅力を放っています。

結局、タレンタインとスコットはジャズ界きってのおしどり夫婦として60年代だけで10枚を超えるアルバムで共演。ブルーノート盤「ハスリン」やインパルス盤「レット・イット・ゴー」等多くの名盤を残しましたが、70年代に入るとあっさり離婚してしまいます。夫婦間に何があったのかわかりませんが、伝えられている理由は音楽上の志向の違いとか。ちょうどこの頃、タレンタインがフュージョン路線に転向したのと関係があるのかもしれませんね。もちろん、本作の時点でそんな未来のことはわかるはずもなく、幸せの絶頂にあった2人が生み出した最高にハッピーなジャズが味わえる珠玉の一枚です。

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