最近、ユニバーサルミュージックジャパンから「ジャズの100枚」というシリーズが出ています。ブルーノート、プレスティッジ、リヴァーサイド、ヴァーヴ、インパルス、エマーシー、キャピトル、パシフィックジャズ等レーベルに関係なく、モダンジャズの名盤が1000円の廉価版で買えるというこれまでにない大盤振る舞いのシリーズで、第3弾まで300枚がリリースされています。特にジャズ初心者で何を買ったらよいかわからないという人には定番の作品が多く、懐にも優しいのでとても良い企画ではないでしょうか?私はと言えば、かれこれ20年もジャズを聴いているので有名盤など全て持ってるわい!と豪語したいところですが、数えて見ると購入済み作品は300枚中220枚ほどでした。未所有盤が80枚近くあり、思ったよりたくさん聴いてないのがあるなあと言う印象です。まあ有名盤と言ってもジャンル的に興味のない(フュージョン系etc)のもありますし、全部聴く必要はないのですが、せっかくなので何枚か買ってみました。
今日ご紹介するのは「サラ・ヴォーン・アット・ミスター・ケリーズ」です。サラ・ヴォーンと言えばビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルドと並ぶ女性ヴォーカルの御三家の1人ですよね。(ちなみに白人の御三家と言うのもあって、こちらはアニタ・オデイ、ジューン・クリスティ、クリス・コナーらしいです。)私もエマーシー盤の「ウィズ・クリフォード・ブラウン」「イン・ザ・ランド・オヴ・ハイファイ」「ノー・カウント・サラ」、ルーレット盤のベイシー楽団との共演作等は既に所有していましたが、マーキュリー盤の本作についてはなぜかスルーしていました。1957年8月にシカゴのミスター・ケリーズというジャズクラブで行われたライブを録音したもので、ジミー・ジョーンズ(ピアノ)、リチャード・デイヴィス(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラム)のトリオをバックにリラックスした雰囲気でスタンダード曲を歌うサラの様子が記録されています。サラの特長と言えば、何と言っても歌の上手さですね。ジャズシンガーなのだから上手いのは当たり前と思われるかもしれませんが、その中でも特に上手いと思います。エラ・フィッツジェラルドもそうなんですが、彼女達はむやみやたらに声を張り上げたり、アドリブで原曲を崩しまくったりはしません。あくまで軽いテンポで歌い、メロディも少しひねりを加える程度なのですが、低音から高音まで易々と歌い切る声域の広さと言い、バラードにおける情感豊かな表現力と言い、本当に上手いなあと感心させられます。
CDには全部で20曲も収録されていますが、もともとのLPにあったのは最初の9曲だけで残りはボーナストラックだそうです。比較するとやはり前半部分の方が良いですね。冒頭のMCに続いて始まる“September In Rain”、途中で歌詞を変えて客の笑いを取る“Willow Weep For Me”、美しいバラード“Stairway To The Stars”等名唱揃いです。ただ、個人的ベストトラックは“Be Anything But Darling Be Mine”と“Just A Gigolo”の2曲。前者は他ではあまり聴いたことのない曲ですが、恋する人への想いを切々と歌い挙げた情熱的なバラードです。後者もルイ・プリマのヒット曲で有名ですが、ここではしっとりしたバラードに歌いあげられています。アップテンポでのパンチの効いたヴォーカルも魅力ですが、やはりバラードの上手さが抜きん出ていますね。ボーナストラックも切ないバラード“Alone”等聴きどころもありますが、さすがに11曲あるとやや冗長に感じます。LP収録の9曲のみの方がコンパクトでやはり良かったのでは?と思います。