バディ・リッチ、レイ・ブラウンに続き今日もビッグバンドと言うことで、オリヴァー・ネルソンを取り上げたいと思います。オリヴァー・ネルソンと言えばサックス奏者としても有名でプレスティッジに数々のリーダー作を残しています。本ブログでも過去に「ミート・オリヴァー・ネルソン」「テイキング・ケア・オヴ・ビジネス」と言った作品をご紹介しました。ただ、彼の真骨頂は何と言ってもアレンジャーとしての卓越した手腕ですよね。スタンリー・タレンタイン「ジョイライド」、リー・モーガン「デライトフリー」、ジミー・スミス&ウェス・モンゴメリー「ザ・ダイナミック・デュオ」等でシャープでモダンなビッグバンドサウンドを聴かせてくれます。
上記の作品は他人名義ですが、自身名義でのビッグバンド作品もいくつかあり、今日ご紹介する「フル・ネルソン」はその代表作です。1962年11月から1963年2月にかけてヴァーヴ・レコードに吹き込まれたもので、3回のセッションで全て合わせて30名を超すジャズマンが参加しています。さすがに全員列挙はしませんが、主要メンバーだとトランペットにクラーク・テリー、ジョー・ニューマン、サックスにアル・コーン、ジェローム・リチャードソン、フィル・ウッズ、トロンボーンにジミー・クリーヴランドらが名を連ねています。ベースは曲によってジョージ・デュヴィヴィエまたはミルト・ヒントン、ドラムはエド・ショーネシーまたはオシー・ジョンソンです。ちなみにタイトルの「フル・ネルソン」とはプロレスの技の一種らしいです(同じくハーフ・ネルソンと言う技もあり、こちらはマイルス・デイヴィスの曲名になっています)。
全12曲。ネルソンの自作曲が7曲、それ以外が5曲です。アルバムはまずタイトルトラックの"Full Nelson"で始まります。ネルソン自作のブルースで分厚いホーンアンサンブルをバックにネルソン本人がアルトソロを披露します。2曲目”Skokiaan"は陽気な歓声で始まるパーティ風のナンバー。なんでも元々はアフリカのジンバブウェの曲らしいです。この曲もネルソンのアルトソロをフィーチャーしています。3曲目”Miss Fine"はネルソンが妹に捧げたと言う魅力的なミディアム・チューン。後にインパルス盤「ライヴ・フロム・ロサンゼルス」でも再演されているのでお気に入りの曲だったのでしょう。ここではベイシー楽団のジョー・ニューマンが素晴らしいトランペットソロを聴かせてくれます。バックで盛り上げるオシー・ジョンソンのドラムも良い働きですね。5曲目”Majorca"は地中海の島の名前で、ボレロのリズムを使ったスペイン風の曲です。オーボエやフルートを効果的に使ったアレンジで、ジャズというよりクラシック風ですね。続く”Cool"はレナード・バーンスタインの大ヒットミュージカル「ウェスト・サイド・ストーリー」から。こちらもアレンジ自体はジャスっぽくないですが、中盤でネルソンのアルトソロが大きくフィーチャーされます。6曲目”Back Woods"はフィル・ウッズのアルトにスポットライトを当てた曲で、ゴージャスなホーン陣をバックにウッズが吹きまくります。
以上がレコードで言うA面ですが、個人的にはB面の方がおススメです。まずは"Lila's Theme"。映画音楽作曲家のジェリー・ゴールドスミスが「七月の女(The Stripper)」とか言う良く知らない映画のために書いた曲らしいですが、これがなかなかの名曲で、ドラマチックなアレンジに乗ってネルソンとジョー・ニューマンがソロを取ります。8曲目”Ballad For Benny"はベニー・グッドマンに捧げたオリジナル曲で、ここでグッドマン風のクラリネットソロを披露するのはなんとフィル・ウッズです。クラリネットも吹けるんですね。9曲目"Hoe Down"はインパルス盤「ブルースの真実」でも演奏されていた曲。賑やかな曲でクラーク・テリーのトランペットとジミー・レイニーのギターソロが挟まれます。10曲目"Paris Blues"はエリントン・ナンバーですが、スイング時代の曲ではなく、前年に公開された「パリの旅愁」と言う映画のためにエリントンが書き下ろした新曲です。これがまた素晴らしい曲で、ネルソンのドラマチックなアレンジも相まって名演に仕上がっています。フリューゲルホルンで伸びやかなソロを聴かせるのはクラーク・テリーです。ラスト2曲はバラードで、前者は同年にサミー・デイヴィス・ジュニアがヒットさせた”What Kind Of Fool Am I?"、後者はネルソン次作の”You Love But Once"です。どちらもネルソンが美しいアルトソロを聴かせます。以上、あまり知られていない作品ですが、ネルソンの洗練されたビッグバンドサウンドが堪能できる名作です。とりわけ後半が素晴らしく、中でも”Lila's Theme"と”Paris Blues"は必聴の名演です。