本日はソニー・スティットの「スティット・プレイズ・バード」です。バードとはもちろんチャーリー・パーカーのことで、全曲パーカー絡みの曲を集めたカバー集です。スティットとパーカーは40年代のビバップ期には同じアルトサックス奏者のライバル同士で、巷間伝えられる話としてはパーカーのそっくりさんと呼ばれることを嫌ったスティットが楽器をテナーに持ち替えたと言われています。個人的にはスティットとパーカーはそんなに似ているとは思わないのですが、私が知っているのは主に50年代以降のスティットなので若い頃は本当に似ていたのかもしれません。
ただ、1955年にパーカーが早世するとスティットもパーカーのことを意識する必要もなくなったのか、再びアルトを主楽器とするようになります(作品によってはテナーも吹きますが)。そして、パーカー没後7年以上たった1963年1月にはついにパーカーのトリビュート作品を出すに至ったというわけです。ちなみに本作はアトランティック・レコードから発売されたのですが、同レーベルから同じ時期に出されたジョン・コルトレーン「コルトレーン・サウンド」も全く同じようなジャケットで、マーヴィン・イスラエルと言う現代画家のデザインだそうです。(他にミルト・ジャクソン「ヴァイブレーショインズ」、チャールズ・ミンガス「トゥナイト・アット・ヌーン」も彼のデザイン)
メンバーはなかなかユニークで、リズムセクションがジョン・ルイス(ピアノ)、リチャード・デイヴィス(ベース)、コニー・ケイ(ドラム)。ベースがパーシー・ヒースなら完全MJQですね。さらにそこに白人ギタリストのジム・ホールが加わります。意表を突く人選で面白い組み合わせだと思います。
曲はレコードが全9曲、CDにはボーナストラック2曲が加わります。うち10曲がパーカーの有名曲です。オープニングから"Ornithology""Scrapple From The Apple""My Little Suede Shoes""Parker's Mood""Au Privave""Ko-Ko""Confirmation""Constellation"、そしてボーナストラックの"Now's The Time""Yardbird Suite"とジャズファンなら誰もが知る定番の名曲をスティットがアルトで吹きまくります。いつもなら曲ごとの解説をするのですが、本作については必要ないですね。何せスティットがこれらの曲を演奏して悪くなりようがないですから。どの曲も安定のクオリティですし、ある意味同じような演奏とも言えます。共演陣ではジョン・ルイスが独特の訥々とした語り口のピアノソロを随所で披露します。ジム・ホールはどちらかと言うとリズムを刻む役割が多いですが"Ornithology"や"Au Privave""Constellation"では短いながらもキラリと光るギターソロを聴かせてくれます。
1曲だけ毛色が違うのが8曲目の"Hootie's Blues"でこちらはジェイ・マクシャンの曲。彼はカンザスシティを拠点に活躍したピアニストでまだ10代だったパーカーを自身のバンドに抜擢したことで知られています。この曲も若き日のパーカーが演奏したマクシャン楽団の曲で、内容はコテコテのブルースです。実はこの曲は本作で一番長く6分半もあり(他の曲は全て3〜4分)、スティットがお得意の音数の多いテロテロフレーズを存分に聴かせてくれます。ジョン・ルイス、ジム・ホール、リチャード・デイヴィスもそれぞれソロを披露します。さすがのメンバー達もパーカーのバップ曲ばかりで飽きたのか、この曲が一番演奏に興が乗っているかもしれません