ハードバピッシュ&アレグロな日々

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カウント・ベイシー/ストレート・アヘッド

2025-02-27 18:34:37 | ジャズ(ビッグバンド)

半世紀近くに渡ってビッグバンドジャズをリードし続けたカウント・ベイシー楽団ですが、その割にマンネリに陥ることがなかったのは定期的にメンバーを入れ替えていたからだと言われています。不動のメンバーはボスのベイシーとリズムギターのフレディ・グリーンだけで、後は時代とともに顔ぶれが変わっています。ざっと代表的な名前を挙げただけでも、30年代はレスター・ヤング、ハリー・エディソン、バック・クレイトン、50年代はサド・ジョーンズ、ジョー・ニューマン、フランク・フォスター、フランク・ウェス、そして60年代はアル・アーロンズ、エリック・ディクソンとそれぞれの世代で一流のジャズメンを起用し、常に新陳代謝を図ってきました。アレンジャーもさまざまな人材を起用しており、作品によってアーニー・ウィルキンス、ニール・ヘフティ、ベニー・カーター、クインシー・ジョーンズらが作曲・編曲を手掛け、それぞれが持ち味を発揮して緻密なベイシー・サウンドを作り上げています。

今日ご紹介する「ストレート・アヘッド」は1968年9月にドット・レコードに吹き込まれた作品で、本作でアレンジを手掛けるのは後に数々のベイシー作品を手掛けることになるサミー・ネスティコです。実はこのネスティコと言う人はいわゆる叩き上げのジャズマンではなく、20代の頃にアメリカ空軍に入隊し、その後はずっと軍関係のバンドで働いていたという一風変わった経歴の持ち主です。いわゆる商業的なジャズ作品のアレンジは本作が初めてで、いきなりビッグバンドの最高峰ベイシー楽団の作編曲を担当することになったのだから異例の大抜擢と言えます。

メンバーは総勢17名。全員列挙はしませんが、トランペットにアル・アーロンズ、ソニー・コーンら4名、トロンボーンにグローヴァ―・ミッチェル、ビル・ヒューズら4名、テナーにエディ・ロックジョー・デイヴィス&エリック・ディクソン、アルトにマーシャル・ロイヤル&ボビー・プレイター、バリトンにチャーリー・フォークス、リズムセクションが御大ベイシー(ピアノ)にフレディ・グリーン(リズムギター)、ノーマン・キーナン(ベース)、ハロルド・ジョーンズ(ドラム)です。

全9曲、全てネスティコが本作のために書き下ろしたオリジナル曲です。新任アレンジャーとして腕が鳴るところですが、これまでのバンドの方向性をガラリと変えるような内容ではなく、30年以上にわたって築き上げてきたベイシー・サウンドの伝統を踏襲しつつ、それでいてバンドの音に新たな風を吹き込んでいます。オープニングはタイトルトラックの"Basie Straight Ahead"。ベイシーのピアノのイントロとフレディ・グリーンのズンズン刻むリズムギターをバックに華やかなホーンアンサンブルが繰り広げられる典型的なベイシーサウンドです。テナーソロを披露するのはエリック・ディクソンです。2曲目”It's Oh So Nice"と続く”Lonely Street"はムードたっぷりのスローナンバー。特に後者のマーシャル・ロイヤルのアルトソロが美しいです。4曲目"Fun Time"もベイシー楽団の王道とも癒えるミディアムスイング調の曲で、エリック・ディクソンがここではフルートでソロを取ります。5曲目”Magic Flea"は疾走感溢れるアップテンポの曲で、爆発するホーンセクションをバックにエディ・ロックジョー・デイヴィスがファンキーなテナーソロを聴かせます。ハロルド・ジョーンズのドラミングも圧巻です。

後半最初の”Switch In Time"はポップス曲のようなキャッチーなメロディの曲でアル・アーロンズのカップミュートとディクソンのテナーソロが挟まれます。続く”Hay Burner"はミディアムスインガーで、特定のソリストはなく全体のアンサンブルでじっくり聴かせる曲。8曲目”That Warm Feeling"は「アトミック・ベイシー」の"Li'l Darlin'"を思わせるバラードで、ベイシーがオルガンを弾いています。ピアノの音も聞こえますがこれはネスティコが弾いているとのこと。ラストの”The Queen Bee"もミディアム調のハートウォーミングな曲。エリック・ディクソンのまろやかなテナーソロが華を添えます。この作品が大変評判が良かったため、ネスティコとベイシーはこの後も蜜月関係を続け、70年代には後期ベイシーの大名盤「ベイシー・ビッグ・バンド」を発表します。その他にも2人が共演した作品は何枚かあるようですが、70年代以降の作品と言うことでこれまで聴く機会がなかったのでまた発掘してみようと思います!

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