本日はジャズ界の誇るインテリ2人、ジジ・グライスとドナルド・バードの双頭リーダー作をご紹介します。ジジについては過去に当ブログでも取り上げましたが(「セイイング・サムシン」)、ボストン音楽院卒でパリに留学経験もあるエリート。一方のバードもマンハッタン音楽院で修士号を取得した秀才です。50年代と言えばまだまだ人種差別が残っていた時代ですから、その時代に黒人でありながら高等教育を修めた2人は同世代のバップミュージシャンの中でもかなり特異な経歴の持ち主と言えるでしょう。そんな2人が1957年に結成したのが“ジャズ・ラブ”です。ラブはLoveではなく、Lab(実験室)ですね。いかにもインテリが考えそうなネーミングですが、音楽そのものは実験的でも何でもなく、ごく普通のハードバップなので余計な心配は御無用です。
ジャズ・ラブは全部で6枚の作品を残しましたが、どれもCDでの入手が困難で私が持っているのもリヴァーサイド盤「ジジ・グライス・アンド・ザ・ジャズ・ラブ・クインテット」とジュビリー盤「ジャズ・ラブ」のみです。今回待望のコロンビア盤が発売になりましたが、時系列的には本作が一番最初の作品のようで、1957年2月の録音となっています。純粋なスモールコンボ編成の上記2作と異なり、7曲中3曲のみがクインテット編成で、残りの4曲はトロンボーン、フレンチホルン、チューバ、バリトンサックスを加えたミニオーケストラによる演奏です。リズムセクションはピアノがトミー・フラナガンまたはウェイド・レギー、ベースがウェンデル・マーシャル、ドラムがアート・テイラーとなっています。管楽器アンサンブルを加えるあたりがアレンジャーとしても鳴らしたジジ・グライスの腕の見せ所でしょうが、個人的に好きなのはどっちかと言うとクインテットの方。いずれもジジのペンによる“Blue Concept”“Sans Souci”の2曲が最高です。どちらの曲もアート・ファーマーとの双頭クインテットでも録音していますが、バードと組んだ本作のバージョンもまさに名演と言って良い出来です。この頃のバードはクリフォード・ブラウンの後継者と目され、ノリにノッていた頃だけあって、切れ味鋭いラッパが最高ですね。ミニオーケストラの方はランディ・ウェストン作“Little Niles”等やや前衛的なアプローチも見られますが、基本はハードバップですね。これもジジ作の“Nica's Tempo”が秀逸です。
本場アメリカと日本のジャズファンの間でジャズメンの評価が異なることはよくありますが、その代表格が本日ご紹介するジーン・アモンズではないでしょうか?名門プレスティッジに40枚を超えるリーダー作を録音し、ミュージシャン仲間から“ザ・ボス”の称号を贈られたほどの実力者でありながら、日本ではほんの一部しかCD化されず、不当な低評価に甘んじています。似たような存在として同じテナー奏者であるエディ・ロックジョー・デイヴィスが挙げられますが、彼らに共通して言えるのはR&Bに根ざした豪快なブロウが持ち味ということでしょうか。ジャズも広い意味では黒人音楽の一種ですから、彼らのスタイルは本国では何の違和感もなく受け入れられたのでしょうが、ジャズを一種高等な芸術として崇める日本のジャズファンの間では「泥臭い」として敬遠されたのかもしれません。かく言う私もコルトレーン、ゲッツとアモンズ、ロックジョーを比較すれば迷いなく前者を選びますが、後者も正当に評価すべきと思います。
本作「ハッピー・ブルース」は50年代半ばにアモンズをリーダーとして企画された一連のジャムセッションの1枚で1956年4月23日の録音。この頃のアモンズ作品には他に「ジャミン・ウィズ・ジーン」「ファンキー」「ジャミン・イン・ハイファイ」等がありますが、どれもプレスティッジが誇るハードバップの俊英達が一堂に会しており、このことからしてアモンズの当時のステイタスの高さがうかがえます。本盤もアモンズを囲むのは、アート・ファーマー(トランペット)、ジャッキー・マクリーン(アルト)、デューク・ジョーダン(ピアノ)、アディソン・ファーマー(ベース)、アート・テイラー(ドラム)、キャンディド(コンガ)という豪華な顔ぶれ。特にファーマーとマクリーンはこの頃のアモンズ作品のほとんどに参加しており、“ボスの舎弟”的な存在だったのかもしれません。
曲は全4曲しかありませんが、ジャムセッション形式で各自が長尺のソロを取るため合計で40分超のボリュームです。細かなアレンジもせず、アドリブ一発勝負で各自に好き放題演奏させるというプレスティッジお得意のやっつけ仕事ですが、オールスターメンバーのアドリブが存分に堪能できるので聴き応えは十分です。アモンズのブリブリと吹くソロは人によっては野暮ったいと敬遠されるかもしれませんが、若き日のマクリーンやファーマーのイキのいいソロが楽しめるのも本盤の魅力です。特に“Madhouse”での3管のチェイスはなかなかスリリングです。マル・ウォルドロンの代役で急遽レコーディングに参加したと言うデューク・ジョーダンも随所に光るソロを披露してくれます。

メンバーはトランペット5名(ジム・ボッシー、ランディ・ブレッカー、バート・コリンズ、ジョー・シェプリー、マーヴィン・スタム)、トロンボーン4名(ガーネット・ブラウン、ジミー・クリーヴランド、ベニー・パウエル、ケニー・ラップ)、サックス5名(ジェリー・ドジオン、アル・ギボンズ、フランク・フォスター、ルー・タバキン、ペッパー・アダムス)。リズムセクションはピアノがリーダーのピアソン、ベースがボブ・クランショー、ドラムがミッキー・ローカーの合計17名から成ります。フランク・フォスター、ペッパー・アダムスらベテランもいますが、大半はポスト・バップ世代のミュージシャンですね。曲もベイシーやエリントン風の古き良きビッグバンドサウンドではなく、60年代後半らしいモーダルな曲が中心です。特に“Amanda”“Minor League”“Make It Good”等ピアソンの自作曲が秀逸で、シャープなアレンジに乗って各メンバーがソロを繰り広げる様が圧巻です。一転、スタンダード曲“Here's That Rainy Day”“The Days Of Wine And Roses”はしっとりしたバラードに仕上げられており、メリハリも利いています。ブルーノートも4300番台になると再発売がほとんどなく、これまで取り上げらることがありませんでしたが、なかなかの隠れ名盤と思います。