今朝の朝日新聞秋田版に、「70歳以上バス100円/秋田市10月にも/社会参加促す」という記事が出た(asahi.comサイトにも掲載)。
新聞記事中にもあったが、現在、秋田市では「高齢者バス優遇助成事業」を実施している。
これは満70歳以上の市民向けの1セット1000円分の回数券「ゆうゆう乗車券」を、1セット600円で月7冊まで購入できる制度。回数券は市内の一般バス路線や郊外地域の市で運行する路線(マイタウン・バス)で使用できる。
これに代わって、この「高齢者コインバス事業」が設けられるのだが、対象者は非常に安くバスに乗れることになる。
しかも新しい制度は、乗車回数制限はなく、1度証明書をもらうだけで済むそうだ。(バス利用時に証明書を提示して100円を支払うのだろう)
現在の高齢者用回数券を使っている人はかなり見かけるから、この制度導入によって、バス利用者は増えるだろう。
なお、行政とは関係ないが、65歳以上の運転免許証自主返納者を対象に、秋田県中央部のバス会社の一般バス路線全線が利用できる「高齢者運転免許証返納専用定期乗車券(らくらくパス)」というのもあり、1か月1万円、3か月2万1千円、6か月3万6千円。
これと比べても、かなり割安。月に60回~100回以上バスに乗る人以外は必要がなくなる。(もちろん、秋田市外の人や市内の65歳~69歳の人には必要な定期)
大都市などでは、高齢者が無料でバスに乗れるところもあるらしいが、地方都市ではあまり聞かない。
それに、現在、東京都では無料でない(住民税額に応じて価格の異なる年間パスを購入する形態)など、一定の“受益者負担”をするのが一般的のようだ。
秋田市が言う、高齢者に外に出てもらってうんぬんというのも分かるし、永年に渡って社会に尽くされてきた方々を優遇することは当然。市の負担が年1億円で済むのなら、高くはないと思う。
だから反対ではない。
でも、秋田市の公共交通事情や交通政策と併せて考えると、表面的で整合性のないことをやろうとしているように思えてしまう。
●コインバス?
まずはどうでもいいけど、事業の名称。「高齢者コインバス事業」だそうだ。
「コインバス」? それを言うなら「ワンコインバス」じゃない?
また、「コイン」というからには、回数券(高齢者用は廃止されるけど、一般向けの普通券・買物券)で支払うことはできないのだろう。回数券を使うと二重の割引になってしまうし、他の都市の事例からしても妥当でしょう。
●秋田市オリジナルではないのね
この事業とそっくりなことが既によそで行われていた。
それは、長野県長野市の「おでかけパスポート」と松本市の「福祉100円パス」。
大分市にも「高齢者ワンコインバス事業」というほぼ同じ名称のものもある。こちらは利用者負担額が100円~300円の間の3段階で幅がある。(かつては100円均一だったそうで、再び100円に戻す計画もあるようだ)
秋田市はそれらを真似したということか。
●秋田市は広いけど
新聞に詳細は書かれていないし、市でも決まっていないのかもしれないが、どんなに長距離であっても(秋田市内なら)100円なんだろうか? すごい割引率だ。
(現行の高齢者用回数券は4割引。初乗りの160円区間では96円分になるので、100円になるとごくわずかな値上げになるが)
秋田駅西口から普通運賃400円の新屋駅前(西部市民サービスセンター)まででも、530円の御所野(新都市交通広場)でも、550円の飯島北でも、680円の仁別(クアドーム・ザ・ブーン)でも、全部100円ということになる。400円区間だと75%引き、680円だと85%引き。あまりにも割引率が高すぎないだろうか。
一方で、別路線や郊外路線に乗り継ぐ人は、おそらくその都度100円を支払わなければならず、200円とはいえ「2倍」の負担を強いられる。
例えば、外旭川、割山、茨島・旭南辺りに住む人が、市役所や秋田市文化会館・中央公民館などに出向く場合、昼間は直通バスがないので乗り換えが必要になり、200円かかるのに、それよりずっと距離のある御所野や仁別から市街地までなら100円で済む(しかも昼間も市役所方面の直通バスがあるので乗り換え不要)。
人生経験の長い方々は、この程度でとやかくおっしゃらないかもしれないが、制度対象者間でも不公平感が生じるのではないだろうか。
計算や確認が面倒になるかもしれないが、負担額を何段階かに分けるとかした方がいいようにも感じる。
●70歳以上じゃない人は?
僕の周りには、「70歳以下だけどバスを主要な足としている人」が何人かいる。多くは年金生活者。
69歳と70歳の間で、バス料金に著しい格差が生じてしまうが、そうした人には何にもしてくれないのだろうか。
「70歳になるまでは自分で何とかしなさい」っていうことか。
●100円にすればいいってもんだろうか
以前から何度か書いているが、秋田市、特に中心部のバス路線網は、昔とあまり変わっていない。
その結果、新しい道路や住宅地ができても、バスが通らない“空白域”が生じている。
例えば、中通総合病院に行くのに1キロバスに乗って1キロ歩くという方がいるそうだし、ドン・キホーテの黄色い袋を下げて新国道を歩いているお年寄りも見かける。バス停から少し離れた住宅地に点在する医院に通う人もいるはず。
こうしたケースは、100円になっても変わらない。いくらバス料金が安くなっても、バス路線がない、自宅や目的地がバス停から遠いというのでは意味がない。
他の都市では、小型バスを使用した循環バスを運行しているところが多いが、秋田市でも必要だと思う。
既存全路線100円も結構だが、その前に、路線網を見直してほしい。
●公共交通政策ビジョンとの兼ね合いは?
秋田市の公共交通の将来構想を描いた「秋田市公共交通政策ビジョン」に、「ゾーン制料金等の導入によるバス運賃支払いの単純化」という項目がある。
市中心部など一定範囲内において、100円とか150円とか定額の運賃にするもののようだ。当然、高齢者でなくても誰でも同じ料金になるはず。
ビジョンによれば、今年度まで「検討」を行い、来年度「実証実験・効果検証」し、その結果を踏まえて以降の実施を判断することになっている。
しかし、「高齢者コインバス事業」が実施されれば、高齢者に限ってはビジョンの構想が無意味なものになってしまう。
この点で“お茶を濁され”、ゾーン料金制構想がなくなってしまったりしないだろうか。
それに、鉄道への影響があるかもしれない。
現在はバスよりJRの方が運賃が安いため、秋田駅と土崎~追分、羽後牛島・新屋間などにおいて、JRを利用する人も少なくない。
しかし、バスが100円になれば高齢者はバスへ流れるだろう。それによって鉄道利用者が減るかもしれない。
ビジョンでもいちおう盛り込まれているし、秋田市長の公約でもある、奥羽本線秋田-土崎間の泉・外旭川地区への新しい駅の設置構想がますます遠のいてしまったりしませんか?
「高齢者コインバス事業」は、秋田市の福祉保健部の管轄。「秋田市公共交通政策ビジョン」は都市整備部。
両者で連携を取っているのでしょうか?
秋田市内の住宅地
上の写真は秋田市中心部の外れにある住宅地の歩道のない道。除雪はしっかりされているが、ツルツルで滑りやすくなった道をお年寄りが歩いていた。
この狭さの道だが、対面通行で比較的通行量があり、時々脇を車がすり抜けていく。歩行者もドライバーも充分注意して通行してはいたが、いつ転倒したり接触したりしてもおかしくない。
この近くまで小型バスの路線バスが来ているが、運行頻度は1時間に1本あるかないか。
「高齢者コインバス事業」が実施されても、路線バスが何も変わらなければ、結局はこの状態が続くことになる。
※事業開始後の関連記事
「70歳以上の市民を対象に、秋田市は新年度から、100円でバスに乗車できる「高齢者コインバス事業」を始める方針を決めた。10月にも開始する。安価な運賃にすることで、高齢者の外出や多様な活動への参加を促すことが狙い。市は年間1億円程度の事業費を見込んでいる。」
「理由として、市は高齢者が暮らしやすい街づくり進める狙いで、個人に現金を支給するのではなく、様々な福祉サービスに重点を移していくためなどとしているという。」
とのこと。「理由として、市は高齢者が暮らしやすい街づくり進める狙いで、個人に現金を支給するのではなく、様々な福祉サービスに重点を移していくためなどとしているという。」
新聞記事中にもあったが、現在、秋田市では「高齢者バス優遇助成事業」を実施している。
これは満70歳以上の市民向けの1セット1000円分の回数券「ゆうゆう乗車券」を、1セット600円で月7冊まで購入できる制度。回数券は市内の一般バス路線や郊外地域の市で運行する路線(マイタウン・バス)で使用できる。
これに代わって、この「高齢者コインバス事業」が設けられるのだが、対象者は非常に安くバスに乗れることになる。
しかも新しい制度は、乗車回数制限はなく、1度証明書をもらうだけで済むそうだ。(バス利用時に証明書を提示して100円を支払うのだろう)
現在の高齢者用回数券を使っている人はかなり見かけるから、この制度導入によって、バス利用者は増えるだろう。
なお、行政とは関係ないが、65歳以上の運転免許証自主返納者を対象に、秋田県中央部のバス会社の一般バス路線全線が利用できる「高齢者運転免許証返納専用定期乗車券(らくらくパス)」というのもあり、1か月1万円、3か月2万1千円、6か月3万6千円。
これと比べても、かなり割安。月に60回~100回以上バスに乗る人以外は必要がなくなる。(もちろん、秋田市外の人や市内の65歳~69歳の人には必要な定期)
大都市などでは、高齢者が無料でバスに乗れるところもあるらしいが、地方都市ではあまり聞かない。
それに、現在、東京都では無料でない(住民税額に応じて価格の異なる年間パスを購入する形態)など、一定の“受益者負担”をするのが一般的のようだ。
秋田市が言う、高齢者に外に出てもらってうんぬんというのも分かるし、永年に渡って社会に尽くされてきた方々を優遇することは当然。市の負担が年1億円で済むのなら、高くはないと思う。
だから反対ではない。
でも、秋田市の公共交通事情や交通政策と併せて考えると、表面的で整合性のないことをやろうとしているように思えてしまう。
●コインバス?
まずはどうでもいいけど、事業の名称。「高齢者コインバス事業」だそうだ。
「コインバス」? それを言うなら「ワンコインバス」じゃない?
また、「コイン」というからには、回数券(高齢者用は廃止されるけど、一般向けの普通券・買物券)で支払うことはできないのだろう。回数券を使うと二重の割引になってしまうし、他の都市の事例からしても妥当でしょう。
●秋田市オリジナルではないのね
この事業とそっくりなことが既によそで行われていた。
それは、長野県長野市の「おでかけパスポート」と松本市の「福祉100円パス」。
大分市にも「高齢者ワンコインバス事業」というほぼ同じ名称のものもある。こちらは利用者負担額が100円~300円の間の3段階で幅がある。(かつては100円均一だったそうで、再び100円に戻す計画もあるようだ)
秋田市はそれらを真似したということか。
●秋田市は広いけど
新聞に詳細は書かれていないし、市でも決まっていないのかもしれないが、どんなに長距離であっても(秋田市内なら)100円なんだろうか? すごい割引率だ。
(現行の高齢者用回数券は4割引。初乗りの160円区間では96円分になるので、100円になるとごくわずかな値上げになるが)
秋田駅西口から普通運賃400円の新屋駅前(西部市民サービスセンター)まででも、530円の御所野(新都市交通広場)でも、550円の飯島北でも、680円の仁別(クアドーム・ザ・ブーン)でも、全部100円ということになる。400円区間だと75%引き、680円だと85%引き。あまりにも割引率が高すぎないだろうか。
一方で、別路線や郊外路線に乗り継ぐ人は、おそらくその都度100円を支払わなければならず、200円とはいえ「2倍」の負担を強いられる。
例えば、外旭川、割山、茨島・旭南辺りに住む人が、市役所や秋田市文化会館・中央公民館などに出向く場合、昼間は直通バスがないので乗り換えが必要になり、200円かかるのに、それよりずっと距離のある御所野や仁別から市街地までなら100円で済む(しかも昼間も市役所方面の直通バスがあるので乗り換え不要)。
人生経験の長い方々は、この程度でとやかくおっしゃらないかもしれないが、制度対象者間でも不公平感が生じるのではないだろうか。
計算や確認が面倒になるかもしれないが、負担額を何段階かに分けるとかした方がいいようにも感じる。
●70歳以上じゃない人は?
僕の周りには、「70歳以下だけどバスを主要な足としている人」が何人かいる。多くは年金生活者。
69歳と70歳の間で、バス料金に著しい格差が生じてしまうが、そうした人には何にもしてくれないのだろうか。
「70歳になるまでは自分で何とかしなさい」っていうことか。
●100円にすればいいってもんだろうか
以前から何度か書いているが、秋田市、特に中心部のバス路線網は、昔とあまり変わっていない。
その結果、新しい道路や住宅地ができても、バスが通らない“空白域”が生じている。
例えば、中通総合病院に行くのに1キロバスに乗って1キロ歩くという方がいるそうだし、ドン・キホーテの黄色い袋を下げて新国道を歩いているお年寄りも見かける。バス停から少し離れた住宅地に点在する医院に通う人もいるはず。
こうしたケースは、100円になっても変わらない。いくらバス料金が安くなっても、バス路線がない、自宅や目的地がバス停から遠いというのでは意味がない。
他の都市では、小型バスを使用した循環バスを運行しているところが多いが、秋田市でも必要だと思う。
既存全路線100円も結構だが、その前に、路線網を見直してほしい。
●公共交通政策ビジョンとの兼ね合いは?
秋田市の公共交通の将来構想を描いた「秋田市公共交通政策ビジョン」に、「ゾーン制料金等の導入によるバス運賃支払いの単純化」という項目がある。
市中心部など一定範囲内において、100円とか150円とか定額の運賃にするもののようだ。当然、高齢者でなくても誰でも同じ料金になるはず。
ビジョンによれば、今年度まで「検討」を行い、来年度「実証実験・効果検証」し、その結果を踏まえて以降の実施を判断することになっている。
しかし、「高齢者コインバス事業」が実施されれば、高齢者に限ってはビジョンの構想が無意味なものになってしまう。
この点で“お茶を濁され”、ゾーン料金制構想がなくなってしまったりしないだろうか。
それに、鉄道への影響があるかもしれない。
現在はバスよりJRの方が運賃が安いため、秋田駅と土崎~追分、羽後牛島・新屋間などにおいて、JRを利用する人も少なくない。
しかし、バスが100円になれば高齢者はバスへ流れるだろう。それによって鉄道利用者が減るかもしれない。
ビジョンでもいちおう盛り込まれているし、秋田市長の公約でもある、奥羽本線秋田-土崎間の泉・外旭川地区への新しい駅の設置構想がますます遠のいてしまったりしませんか?
「高齢者コインバス事業」は、秋田市の福祉保健部の管轄。「秋田市公共交通政策ビジョン」は都市整備部。
両者で連携を取っているのでしょうか?

上の写真は秋田市中心部の外れにある住宅地の歩道のない道。除雪はしっかりされているが、ツルツルで滑りやすくなった道をお年寄りが歩いていた。
この狭さの道だが、対面通行で比較的通行量があり、時々脇を車がすり抜けていく。歩行者もドライバーも充分注意して通行してはいたが、いつ転倒したり接触したりしてもおかしくない。
この近くまで小型バスの路線バスが来ているが、運行頻度は1時間に1本あるかないか。
「高齢者コインバス事業」が実施されても、路線バスが何も変わらなければ、結局はこの状態が続くことになる。
※事業開始後の関連記事