麒麟琳記〜敏腕Pの日々のつぶやき改題

還暦手前の身の回りのこまごま。
スポーツや映画演劇など。

守備範囲

2025年01月17日 | 身辺雑記

競技場のいかめしい時計を確認し、

グランドコートの両ポケットに

手を突っ込んだまま小峰は、

首だけをベンチに向けて

「タケ行くぞ」と声を掛けた。

 

高校サッカーの監督になって16年、

悲願の全国大会出場を

歴代2番目に強いチームで勝ち得た

その初戦。

 

前半37分にあげた先取点。

下馬評では格上の相手は当然、

そのあと前掛かりになり、

自陣で耐える時間が長い闘いに。

その後半も25分が過ぎた。

 

背番号19の武田は監督の

「タ」でもう立ち上がり、

袖を通さず羽織っていたコートを

脱ぎ捨て、2回腿上げジャンプ。

この時間に合わせて

体は充分に温めてある。

 

野球でいうクローザー的な

センターバックの武田は

狭い範囲の守備に長けていたが、

その分ワイドに守らせると弱かった。

なのでなかなかベンチ入りならず。

最終学年になり、リードした試合の

逃げ切りにようやく活路を見い出す。

 

ダブルボランチの主将佐久間を

一枚にして、相棒の2年磯川を下げ

3-5-2から4-4-2に。

センターバックが2枚。

この時、中盤の両サイドには

高い位置をキープするように

強く指示している。

が、まだ高校生には難しい。

そこをコントロールするのが、

普段は無口だが試合では饒舌な

10番の佐久間。

まさにボランチ、舵取りだ。

 

※※※

 

世の中には様々な人がいる。

自分まわりに圧倒的な力を注ぎ、

周辺には関心がない人。

眉をしかめていたけれど、

齢をとり、それはそれであり?

と少し考えが「ゆるんだ」。

 

彼らの思想はそれなりに正しく、

何より幸せそうだ。

 

そんな心境の変化を感じながら、

サッカーをテレビで見ていたら、

架空のチームが脳内に出現した。

 

※※※

 

ピッチに向かう武田の背を見つめ、

小峰は史上最強チームのことを

思い出せずにはいられなかった。

就任7年目の県大会決勝!

 

監督業に慣れてきた5年目に

蹴球に熱心な新入生が数人入った。

その中に、武田の兄もいた。

うまくはなかったが「熱心」で

向上心も高い者が4分の3いた。

3年続いたのがその面々で、

下級生の頃から積極的に使い、

手塩にかけ「良いチーム」に仕上げた。

 

強くはなかったが、負けないチームで

OB達からも歴代最高と言われた。

県大会も競り合いを制して、

全国常連の第1シードと決勝戦。

 

つづく

コメント
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