ほろ酔いの女性が「あー」と小さく叫びながら
池袋駅の地下改札に向かう階段を滑り落ちた。
仕事帰りの僕の視線に、その男女の姿はあった。
21時を過ぎていた。
男性が彼女を支え、彼女は少しおぼつかない足取りで
下りの階段を降り始めた。その中段よりやや上で
冒頭シーンが起きた。
彼女は5段ほど滑って、彼はそれを捕まえた。
僕はエスカレータを上りつつ、目撃したのだった。
COVID-19禍、ほろ酔いの人々に遭遇します。
そのことを、今回問いたいのではなく。
「あー」の場面から、突然昔の記憶が甦った話。
大学時代、観劇にはまっていた僕は、
かなりの数を見ていた。それは事実だ。
ただ、これから書き進める「階段落ち」は、
その瞬間のみ明確であとは類推が多く含まれる
と、先に断っておきます。
通学の電車のなかで、たまたまカジと会って、
僕が芝居をよく見るという流れから、
私も○○みたことあるよ的な展開で
「じゃ面白そうなのあったら教える」と。
カジは中三のクラスメートで、バスケ部だった。
12歳から13歳(誕生日により差異はある)、
ランドセルを背負わなくなって、
かわりに学ランを着た途端ぺーぺーになる。
僅か二歳違いの三年生は矢鱈おとなである。
一年坊はひたすら走らされて、あとは声出し
・・・このペースだと大河小説になるから
ザックリと、はしょるけれど。
そんな新入生同士でも上手い下手は明確。
けれど期待されながら消えてゆく者、
目立たなかったのに努力によりレギュラー、
と僅か三年の間にドラマがあって、カジは後者。
そして吹奏楽部のカー子と仲が良かった。
そうそう、のちに美容師になったカー子は
鋏を握る時間は短く、かなり早く結婚したのだが、
それはまた別の話になる。
で、何本か一緒に芝居を観て、既に働いていたカジから
社会人の話を聞き、大いに勉強になったりもした。
シアタートップスが多かったか。
なので新宿東口の店で、茶をしばくこともあった。
その何度目かで、店を出て階段を下りて数段、
カジはバランスを崩し、僕はその体を捕まえ損ね、
「あ~あ~あ~」と数メートル階段落ちをした。
冒頭の彼女は、足からお尻をつく格好でこけたが、
カジは反転して頭から仰向けに滑って行った。
バスケで鍛えた身体能力のお陰か、奇跡的に無傷。
後頭部を打ったりもしなかった。
「いって~っ」と、コートで交錯したあと立ち上がる、
そんな感じで彼女は踊り場にすっくと立った。
その絵を「あー」は思い出させた。
それから暫くしてカジも結婚した。
ミイラ取りがミイラになって、今僕が
演劇界の片隅にいることを知っているのだっけ?
突然に意味不明な写真。
今は母が一人で住む集合住宅の管理人室の隣の
ちっちゃな公園にある土管からの、ブランコ。
母が倒れて、どうやらもう此処には戻れないので
部屋の片付けに訪れた。……と言っても大方は、
父の土建業を継いだ弟の差配で、
トラックから人から揃っているので、
僕は黙々と自分の部屋を整理した。
それこそ中学の卒業アルバムやら文集やら
お宝がザックザクである。つづく。
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