マイノリティにやさしく寄り添う
* * * * * * * *
この本は御手洗潔シリーズなのですが、少し時代をさかのぼります。
御手洗が世界一周放浪の旅から帰って、
京都大学医学部に在学している時。
つまり、石岡君ともまだ出会っていない頃です。
ここで彼の話し相手となり、また、この本の語り手となるのは予備校生のサトル。
二人はよく京大そばの珈琲店「進々堂」で顔を合わせるので、
話をするようになったのです。
サトルは御手洗が様々な国で見聞きした話に魅了されます。
この本ではそんな中から、サトル自身の話が一つ、御手洗が語るストーリーが3つ
紹介されるという趣向です。
私が一番好きだったのは「戻り橋と悲願花」の一篇。
「悲願花」・・・すなわち「彼岸花」なのですが、
なぜ「悲願花」なのか、
そこには大変奥深いストーリーが眠っています。
この花はもともと中国や朝鮮半島が原産のようなのですね。
御手洗がこの花を見て思い出したストーリーです。
戦時中、朝鮮が日本の支配下にあった頃。
朝鮮の学校で優秀だったソニョンは、
志願して女子挺身隊員となり日本にやって来ます。
挺身隊員になるのは名誉あることで、
お国(日本)のために、軍需工場で働くわけですが・・・。
特別に弟ビョンホンも連れて行くことを許され、
希望に燃えて二人は日本に来たのです。
でも、そこでもう想像はつきますが、
同じ工場に日本人もいて、ソニョンたちはいわれない差別を受けるわけです。
そしてきつい労働。
なんとそこでは風船爆弾を製造していたのです。
太平洋を越え、実際アメリカ西海岸に幾ばくかの被害を与えたという。
この姉弟の厳しい運命をたどっていくと
最後に、まるで奇跡の様な出来事がまっています。
ああ・・・。
切なさの中に、ほんの少しの救いがあります。
これぞ、島田荘司。
障害者、被差別民、少数民族・・・。
御手洗は(いえ、島田荘司氏は、というべきでしょうか)、
いつもマイノリティにやさしく寄り添います。
考えてみると、この本ばかりでなく、
ほとんどのストーリーはそういう風になっていますね。
「追憶のカシュガル」もすばらしい物語です。
カシュガルというのは現在の中国西域、
ウイグル自治区といわれるあたりの砂漠の街です。
長い歴史の中で、様々な民族・国に入れ替わり支配され続けてきた街、民族。
なかなか日本人には想像しがたいですね。
そういう話にも引き込まれるのですが・・・
この中の桜の話には驚かされました。
私たちがよく知っている「ソメイヨシノ」。
この桜は、元をたどれば江戸時代のたった一本の木だというのです。
突然変異で、葉が出るより早く花がびっしりとできて、狂ったように咲く木があった。
それが挿し木でどんどん増やされて
日本中に広がったのだとか。
つまりこれはすべてコピーというかクローンなんですね。
だから、すべて「自分」なので、受粉して実を結ぶことができない。
何とも、豪華で悲しい花なんですね・・・。
これからは、花を見る目が変わってしまいそうです。
過去と現在、世界の片隅・・・、
この本で、私たちは時空を超えて様々な人生と奇跡を見るでしょう。
著者の本の中でも最も好きな部類に入りそうです。
「追憶のカシュガル」島田荘司 新潮社
満足度★★★★★
進々堂世界一周 追憶のカシュガル | |
島田 荘司 | |
新潮社 |
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この本は御手洗潔シリーズなのですが、少し時代をさかのぼります。
御手洗が世界一周放浪の旅から帰って、
京都大学医学部に在学している時。
つまり、石岡君ともまだ出会っていない頃です。
ここで彼の話し相手となり、また、この本の語り手となるのは予備校生のサトル。
二人はよく京大そばの珈琲店「進々堂」で顔を合わせるので、
話をするようになったのです。
サトルは御手洗が様々な国で見聞きした話に魅了されます。
この本ではそんな中から、サトル自身の話が一つ、御手洗が語るストーリーが3つ
紹介されるという趣向です。
私が一番好きだったのは「戻り橋と悲願花」の一篇。
「悲願花」・・・すなわち「彼岸花」なのですが、
なぜ「悲願花」なのか、
そこには大変奥深いストーリーが眠っています。
この花はもともと中国や朝鮮半島が原産のようなのですね。
御手洗がこの花を見て思い出したストーリーです。
戦時中、朝鮮が日本の支配下にあった頃。
朝鮮の学校で優秀だったソニョンは、
志願して女子挺身隊員となり日本にやって来ます。
挺身隊員になるのは名誉あることで、
お国(日本)のために、軍需工場で働くわけですが・・・。
特別に弟ビョンホンも連れて行くことを許され、
希望に燃えて二人は日本に来たのです。
でも、そこでもう想像はつきますが、
同じ工場に日本人もいて、ソニョンたちはいわれない差別を受けるわけです。
そしてきつい労働。
なんとそこでは風船爆弾を製造していたのです。
太平洋を越え、実際アメリカ西海岸に幾ばくかの被害を与えたという。
この姉弟の厳しい運命をたどっていくと
最後に、まるで奇跡の様な出来事がまっています。
ああ・・・。
切なさの中に、ほんの少しの救いがあります。
これぞ、島田荘司。
障害者、被差別民、少数民族・・・。
御手洗は(いえ、島田荘司氏は、というべきでしょうか)、
いつもマイノリティにやさしく寄り添います。
考えてみると、この本ばかりでなく、
ほとんどのストーリーはそういう風になっていますね。
「追憶のカシュガル」もすばらしい物語です。
カシュガルというのは現在の中国西域、
ウイグル自治区といわれるあたりの砂漠の街です。
長い歴史の中で、様々な民族・国に入れ替わり支配され続けてきた街、民族。
なかなか日本人には想像しがたいですね。
そういう話にも引き込まれるのですが・・・
この中の桜の話には驚かされました。
私たちがよく知っている「ソメイヨシノ」。
この桜は、元をたどれば江戸時代のたった一本の木だというのです。
突然変異で、葉が出るより早く花がびっしりとできて、狂ったように咲く木があった。
それが挿し木でどんどん増やされて
日本中に広がったのだとか。
つまりこれはすべてコピーというかクローンなんですね。
だから、すべて「自分」なので、受粉して実を結ぶことができない。
何とも、豪華で悲しい花なんですね・・・。
これからは、花を見る目が変わってしまいそうです。
過去と現在、世界の片隅・・・、
この本で、私たちは時空を超えて様々な人生と奇跡を見るでしょう。
著者の本の中でも最も好きな部類に入りそうです。
「追憶のカシュガル」島田荘司 新潮社
満足度★★★★★