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「おはぐろとんぼ 江戸人情掘物語」 宇江佐真理

2011年06月14日 | 本(その他)
人の心の温かさがうれしい、それぞれの物語

おはぐろとんぼ (実業之日本社文庫)
宇江佐 真理
実業之日本社


              * * * * * * * *

宇江佐真理さんの江戸人情物語。
短編集ですが、今作はどれも江戸のさまざまな「掘」の界隈を舞台としています。
かつて掘や水路が張り巡らされ、
人々の生活の場となっていた水の町、江戸。
私は「○○堀」と、その名前を見ても、
ぜんぜんどの辺なのか見当もつかないのがちょっと残念です。
東京にお住まいの方なら、今も地名として残っていたりして、
おぼろげながら場所の想像がつくのでしょうか? 
この中の一つだけは架空の掘だそうですが。
そうそう、「八丁堀」だけは名前を知っていました! 
やはり、この物語の主人公も奉行所の同心なんですね。
そういうお役人の住む地域ということなのでしょう。
・・・などと考えると、江戸時代の地図を見てみたくなります。
こういう好奇心から学びは始まるのですが、
いつも思うばかりでちっとも前進しない私。
反省・・・。


さてさて、では冒頭の「ため息はつかない」をご紹介しましょう。
豊吉は幼い頃に両親を亡くし、
おばのおますに育てられました。
おますは女手一つで細々と花屋を営み、豊吉を育てたのです。
でも、まだ子供の豊吉は、ひっきりなしに店の用事を言いつけられるし、
おますの口うるささには閉口。
時折、お堀にたたずんでは、ため息をつく日々。
しかし、豊吉はおますに
「子供のくせに、ため息なんかつくもんじゃない」
と、またしかられてしまう。
そんな豊吉もちょっと色男の18歳に成長。
薬種屋に奉公しています。
そこへ、この店の娘、おふみとの縁談が持ち上がる。
これはいい話ですよね。
奉公先の娘と結婚できれば将来安泰。
・・・しかし問題は、おふみはかなりのおデブさんということ。
もう二十歳も過ぎているのに行き遅れているのは、やはりその容姿のせいらしい。
そこで、豊吉は悩んでしまうのです。
おふみと結婚すれば、いかにも店の跡取りを狙ったようだし、
これでは物笑いの種だ。
でも、断ればもうこの店には居づらくなってしまう。
ついまた、ため息が出てしまう・・・。

さて、この絶体絶命のピンチ! 
豊吉はどう乗り越えるのでしょう。
このストーリーの良さはなんといっても、
このおふみさんの人柄なんですよ。
彼女は朗らかで、いつも彼女の周りには笑いがあふれている。
彼女がこんなに太ってしまったわけなども語られ、
この縁談は受けるしかないっしょ!!・・・と、
読者の私たちはやきもきさせられるわけです。


人の心の温かさがうれしい、それぞれのストーリー。
やはり、時々故郷に帰るような思いで読みたくなる、
宇江佐真理さんでした。

「おはぐろとんぼ 江戸人情掘物語」宇江佐真理 実業之日本社文庫
満足度★★★★☆