映画と本の『たんぽぽ館』

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真夜中のゆりかご

2015年06月27日 | 映画(ま行)
人の心の奥底の裂け目



* * * * * * * * * *

敏腕刑事であるアンドレアスは、
美しい妻とまだ乳児の息子と、それなりに満ち足りた生活をしていました。
ある時、通報を受けて駆けつけた一室で、
薬物依存の男女による育児放棄の現場に遭遇します。
糞尿にまみれて凍えている哀れな赤ん坊は、
ちょうど自分の息子と同じくらい。
それでアンドレアスは通常よりもこの子のことが気にかかってしまうのです。
一方アンドレアスの息子は夜泣きはするものの、
両親の愛を一身に受けて穏やかで満ち足りた毎日・・・
と、アンドレアスは思っていました。
しかし、ある夜事件が起こります・・・。



子を思う強い母の愛の物語かと思いました。
・・・しかしこれが、衝撃の展開を見せます。
普通は母の愛は絶対的なもの・・・そのように描く物語は多いですよね。
けれども現実は、昨今育児放棄の話は後を絶たないし、
育児ノイローゼなどというものもある。
母親になれば必ず我が子を愛せるとは限らない。
いえ、愛していなくはないのですが、
時には子供が自分の平穏な生活を脅かす重荷のように思えてしまうことが、
誰にもあるのかもしれない。
本作中では、アンドレアスの妻・アナの両親もまた、
我が子を無条件に愛せない親のようでした。
自分の娘ばかりではなく、孫に会いにすら来ないのです。
アナの悲劇の根っこは、多分こんなところにもあるのでしょう。
人の心の奥底の暗い裂け目をすくい取る、
なるほど、「未来を生きる君たちへ」のスサンネ・ビア監督の手腕ですねえ・・・。



また、アンドレアスは、ある思い込みから罪を犯す事になるのですが、
この場合、これを犯罪と呼ぶには少し抵抗を感じるのです。
何が犯罪で、何が正義なのか・・・
そんなことも考えさせられます。

しかし、このどうにもこうにも抜き差しならない、心境と状況に落ち込んでしまったアンドレアスを、
わかってくれる人がいてよかった・・・! 
そう思わずにいられません。
それはアンドレアスの先輩であり同僚のシモンなのですが、
始めは妻と離婚した痛手のために飲んだくれて暴れるとんでもない奴。
しかし、アンドレアスの苦境を見るうちに、生活を立て直していくんですよ。
この人の存在が救いでしたねえ・・・。
アンドレアスは、隠し通そうとか逃げ切ろうとは思っていなかった。
誰かに自分の罪を暴いて欲しかった。
そんな気持ちが明らかに見て取れました。



ミーハー的見地から、
アンドレアス役のニコライ・コスター=ワルドウ、モロに好みなんですけど~!!!



「真夜中のゆりかご」
2014年/デンマーク/102分
監督:スサンネ・ビア
脚本:アナス・ソーマス・イェンセン
出演:ニコライ・コスター=ワルドウ、ウルリッヒ・トムセン、マリア・ボネビー、ニコライ・リー・カース、リッケ・メイ・アンデルセン
衝撃の展開度★★★★☆
現代の問題をえぐる度★★★★☆
満足度★★★★★