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「アルカトラズ幻想 上・下」島田荘司

2015年06月18日 | 本(ミステリ)
科学であり、冒険であり、ファンタジーなミステリ!!

アルカトラズ幻想 上 (文春文庫)
島田 荘司
文藝春秋
 
アルカトラズ幻想 下 (文春文庫)
島田 荘司
文藝春秋


* * * * * * * * * *

1939年、ワシントンDC近郊で娼婦の死体が発見された。
時をおかず第二の事件も発生。
凄惨な猟奇殺人に世間が沸く中、
恐竜の謎について独自の解釈を示した「重力論文」が発見される。
思いがけない点と点が結ばれたときに浮かびあがる動機
―先端科学の知見と奔放な想像力で、
現代ミステリーの最前線を走る著者渾身の一作!
(上)

猟奇殺人の犯人が捕まった。
陪審員の理解は得られず、
男は凶悪犯の巣窟・孤島の牢獄アルカトラズへと送られる。
折しも第二次世界大戦の暗雲が垂れ込め始めたその時期、
囚人たちの焦燥は募り、やがて脱獄劇に巻き込まれた男は信じられない世界に迷い込む。
島田荘司にしか紡げない、天衣無縫のタペストリー。
(下)


* * * * * * * * * *

島田荘司作品だけは文庫化を待たずに読むことが多いのですが、
本作は見逃していました。
というのも、本作は御手洗潔シリーズではないのですね。
それでちょっぴり興味半減ということだったかと思うのですが、
いやいや、バカでした。
こんな面白いものを見逃していたなんて!

冒頭、1939年、ワシントンで猟奇事件発生。
・・・これが実は「猟奇殺人」ではなく、
どうもたまたま病気や事故で亡くなったあとの遺体に、
猟奇的な行為が行われていた事がわかります。
一体、誰が何のために???
と思っていると、突如「重力論文」などというものが出てくる。
一見、何の関係もないようでいながら、
これが存外に面白いのです。

太古、巨大な恐竜たちが地球を支配していたのは周知の事実ですが、
論者はこれはありえないことだというのです。
あの巨体を支えるのに骨格があまりにも貧弱だと。
象でさえあの体を支えるのにあの太い足が必要で、そう素早くも動けない。
なのにあの恐竜の足の細さは何だ? 
ティラノサウルスはあの強靭なアゴを持つために
頭部が巨大であるにもかかわらず、脚部が貧弱。
あんなもので草食恐竜たちを素早く捕まえられるわけがない。
・・・映画などの中ではあの巨大な恐竜が
実に素早く走り回っていますが・・・。
ここの部分だけネタばらししますが、
当時は地球の自転速度が今よりも早かったのではないかと論者はいいます。
自転速度が早いと遠心力が強く働くので、
地球の持つ引力と相殺した「重力」は小さくなる。
だから恐竜たちは少ない重力の中で、身軽に行動できたのだろうと。
しかし、巨大な隕石と地球が衝突し、
そのせいで地球の自転速度が変わってしまった。
以前から隕石の落下のために恐竜が絶滅したという説はありますが、
重力のことに触れているのは私は初めてみました。
実際に認められている説なのかどうかはわかりませんが、
何やら壮大なロマンがありますねえ・・・。
私はこういう話、大好きなんですよ~。

・・・とか何とかで、興奮しているうちに上巻が終わってしまいまして、
さて肝心のアルカトラズはどうした??と、我に返るわけですが、
下巻が、いよいよそのアルカトラズの監獄です。


猟奇事件の犯人バーナードは
実際に殺人を犯したわけでもないのに陪審員の心証が悪く、
アルカトラズの監獄に送られてしまいます。
そこで彼は優秀で真面目(といっていいのか?)な学生にも関わらず、
脱走計画に巻き込まれてしまうのです。
この辺りは結構リアルなお話。
ところが、そこからまた私達は、不可思議な幻想世界に放り出されてしまいます。


曰く、「パンプキン王国」。
どう見ても「日本」が舞台に思えますが、
アルカトラズがなぜ突然日本になる・・・??
そして見え隠れする「原子爆弾」の恐怖。
原爆だから、日本なのか。
もしかすると、このアルカトラズというのは「軍艦島」?
その辺りまでは見当がついたのですけれどね。
どこまでがリアルでどこまでが幻想なのかよくわからない。
この辺りが、島田荘司氏の真骨頂であります。
最後の最後の真相が明かされる部分には
本当に驚かされます!!


この本の解説で伊坂幸太郎さんが
「誤解を恐れず言うならば、章ごとのつながりはかなり無茶です(笑)」
と述べていますが、確かに・・・。
だけどその無茶な展開が本作の醍醐味でもありまして、
島田荘司ファンはそこが好きなわけですよね!!


科学であり冒険であり、ファンタジーであり、歴史である。
そして、何よりもミステリでエンタテイメント!! 

好きです!!

「アルカトラズ幻想 上・下」島田荘司 文春文庫

満足度★★★★★