映画と本の『たんぽぽ館』

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「雨上がり月霞む夜」西條奈加

2021年03月20日 | 本(その他)

祟りとは、この世の人間が生み出したもの

 

 

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大坂堂島の紙問屋・嶋屋を営んでいた秋成は、
町一帯を襲った火事によって店を失い
幼なじみの雨月が結ぶ香具波志庵に居候することに。
ところがその雨月、飄々とした性格ながら妖しを引き寄せる体質で、
しだいに彼らの周りには、憎まれ口をたたく兎やら、成仏できぬ人の怨念やらが溢れ出す。
さらにその先で待ち受けていたのは、世界の成り立ちを根本から変える驚くべき真実だった―
江戸怪異譚の傑作『雨月物語』に大胆な現代的解釈を試みた、珠玉の連作短篇集。

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「江戸怪異譚の傑作『雨月物語』に大胆な現代的解釈を試みた、珠玉の連作短編集」
ということになっていまして、
私がこれまで読んだ西條奈加さんの時代小説とはやや趣が異なります。

雨月物語の作者として知られる上田秋成その人が、
どのようにして「雨月物語」を描くに至ったのかという物語で、
秋成が商家を継ごうとするも火事で挫折し、
医師の修行を積みながら物語を書き進めるという設定は、
史実に基づいています。

独自なところは、このとき、秋成は幼なじみである雨月のところに居候するところ。
この雨月は「妖し」を引きつける体質で、
そのためか、秋成は数々の怪異な体験を積むことになるのです。
その連作短編、一話一話が「雨月物語の」一話ずつに対応しているという心憎い構成。

しかも、読み進む内に、どうもこの「雨月」という存在が疑問に思えてくる・・・。
実はここにも、大きな秘密が隠されているのでした。

 

「祟りとは、この世の人間が生み出したものだ。
不安、悔悟、恐れ、そして妄執。
そういう生者の念が、世にあり得べからざる、さまざまな不思議を引き起こす。」

こんなことばが何度か出てきます。

幽霊とか、祟りとか、それは生きている人こそが生み出すものだと・・・、
なるほど納得です。

そして、真に人の心を映し出す「物語」を描くために、
どれだけの覚悟が必要なのかという、
これは著者自身の思いなのかもしれませんが、実に深い話だと思います。

 

図書館蔵書にて

「雨上がり月霞む夜」西條奈加 中央公論新社

満足度★★★★.5